陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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46話 ……え゛っ???

 

 

 

 

 

 眩しさを感じてしまうような白い雪が降る寒空の下。俺はコートを着込み、淡々と単純作業に取り組んでいた。

 何メートル積もっているのかも分からない柔らかい雪をスコップで掘り続けるという──単純作業(地獄)を。

 

「いやー、中々出ないねぇ」

「……そうだな」

 

 俺の隣で同じようにスコップを動かしている一人の男。言うまでもなく、シドだ。

 ジョン・スミスに変装していた名残りか、格好は高そうなスーツを着用している。モブ顔となっている今じゃ、全く似合ってはいないのだが。

 

 時間にして約二時間。俺はシドと共に、穴を掘り続けている。目的は単純、大判小判の金銀財宝……ではなく、シドが信用崩壊を利用して集めた大量の金貨だ。そう、ベータに回収してもらった──()()()()()()()()

 

 だからこそ、この作業は地獄。埋まっているはずのない金貨を探して寒い中スコップを動かす。囚人だってこんな無駄なことしないぞ。

 

「ここら辺に埋めたって言ったんだけどなぁ。ゲッタンくん」

「……ゲッタンくん、ねぇ」

「僕の金貨を盗んだ奴さ。拳で語り合った結果、彼は僕に金貨を返してくれた……はずなんだけどねぇ」

 

 シドが言ったゲッタンという人物こそ、今回出てきた『教団』関係者だ。『ミツゴシ商会』を目の敵にしていた『大商会連合』の黒幕だったようで、一人負けした可哀想な人物でもある。

 ベータから聞いた話だと、シドと同じく偽札による信用崩壊を狙っていたらしい。二重の意味で厨二の前に敗北したという訳だ。

 

「……はぁ。猫がこたつで丸くなるなら、犬は喜び庭駆け回るか」

 

 腰が痛くなった訳ではないが、虚しい作業に辛くなったので一旦中止。俺は雪の上を元気に爆走するデルタを見ながら、前世の言葉を思い出していた。ゼータがここに居たら、あのワンコの行動にドン引きしていたことだろう。

 シドの匂いを追ってここまで来たは良いが、俺が居ると分かった途端、穴掘りを手伝うこともなく雪で遊び始めてしまった。可愛いアホの子だ。

 

「デルタかぁ。お願いを聞いてくれってしつこいんだよね。ライ、何か誤魔化す言い訳ない?」

「なんで俺に聞くんだよ」

「ライってそういうの得意じゃん」

「誰のせいだ、誰の」

 

 俺が予想した通り、シドはジョン・スミスとしてデルタと出会った際に匂いで速攻正体がバレた。このままでは計画が失敗してしまうと、シドはデルタを『無法都市』へ向かわせたらしい。クレアを殺しかけたジャガ……なんとかを狩ってくるように命令したのだ。今回被害者多すぎるな。

 

「それで? 言うことを聞いたから、自分のお願い事を聞けってことだろ? デルタにしちゃ真っ当な言い分じゃねぇか。大人しく言うこと聞けよ」

「いやぁ、何でもは無理だよって言ってるんだけどね。その辺りを頑なに認めてくれなくて」

「何でもするって言ったのか?」

「僕が言うと思うかい?」

「いや、全く」

 

 金貨にがめつく、出費は必要最低限以上で済ませようとする奴だぞ。そんな都合の良い言葉を言うはずがない。

 

「あーあ、そもそもどうしてこうなったかなぁ。金貨は僕の手元を離れるし、『ミツゴシ商会』は何故だか無事だし、よく分からないことだらけだよ。……まあ、一つだけ分かるとしたら、僕が予定していた〝全ては『ミツゴシ商会』を救うためだったんだ〟計画が破綻したってことぐらいかな」

「うっせーな。だからこうしてお前と穴掘ってんだろ」

「ん? どういうこと?」

 

 心底理解が追いつかないといった様子でシドが首を傾げる。そりゃそうだ。コイツの立場からすれば、俺の言葉の意味なんて分かるはずもない。てか分からなくて良い。お前の計画を潰したの、実質俺だから。

 

「……あー、疲れた」

 

 罪滅ぼしも兼ねて付き合っている穴掘りだが、流石に心の限界が近づいて来た。白一色の大地を見た時はデルタのようにはしゃぎたくなったが、二時間以上も同じ場所に立っていると感動なんて残るはずもない。

 

「本当に出ないなぁ。彼は間違いなくこの辺りを指差してたんだけど」

「ゲッタン……だっけ? 本当に金貨を埋めたなんて言ってたのか? どうせお前の聞き間違いだろ」

 

 確定でな、とは言えなかった。

 

「そんな訳ないよ。彼は確かに言ったんだ。指差しながら『ユキ……くした』って。雪の下に隠したってことでしょ? ユキメが立ってたから場所を間違える訳ないよ」

「ああ、そう」

「なにが? なにがわかったの? どうしてスコップを捨てるの?」

 

 シドに協力した獣人の女、ユキメ。またまたベータから聞いた話にはなるが、ユキメとゲッタンは親しい関係にあったらしい。つまり、死に際にユキメの方を指差しながら『ユキ……くした』と言った真意はシドの理解とは全く違うものとなる可能性が高い。恐らく、『ユキメのことは(たく)した』とでも言いたかったのだろう。ゲッタンくんは悪くない。ただ、言う相手が悪かった。

 

「……仕方ないね。人間、諦めが肝心だ。次のやりたいことリストのために意識を切り替えよう」

「お前を人間と定義するのは人間に対する冒涜だろ」

「あははっ、またまた」

「いや、本気で言ってるんだが?」

 

 俺と同じようにスコップを手放したシド。どこか清々しい顔をしているのは思い通りにならなかった現実に対するせめてもの抵抗といったところか。

 

「……まあ、あれだ。俺の用事が終わったら、またごっこ遊びに付き合ってやるよ」

「珍しいね。ライがそんなこと言うなんて」

 

 今回の件に関しては俺にも責任がある。お互い不干渉と提案した俺自身がコイツの邪魔をしてしまったのだ。穴掘り以外にも、その内なにかに付き合ってやらないとな。

 

「そういえば、ライの用事ってなに?」

「別に、大したことじゃない。ただもう少し時間がかかる。それまではまだお前に付き合ってやれない」

「ふーん、そっか。今回みたいのも面白いけど、やっぱりライが隣に居た方が面白いんだけどな」

「いい迷惑だ。クソ厨二」

 

 俺の言葉にケラケラと軽い笑いを返した後、シドは掘り続けた穴に背を向けて歩き出した。デルタに気付かれないためか、慎重な足取りで。

 

「どこ行くつもりだ?」

 

 一応これからの行き先を確かめるため声をかける。シドは背を向けたまま足を止め、顔だけ振り向かせて言葉を返した。

 

「アルファたちも怒ってるだろうし、冷却期間が必要でしょ? しばらく旅に出るよ」

 

 シド曰く、人間関係に於ける最強の戦術は──〝相手に呆れさせる〟こと。

 コイツには何を言っても無駄だと思わせるのがポイント、赤ん坊相手に本気で怒る奴は居ないと自慢気に話していたあの顔を俺は忘れない。

 勝利であると同時に敗北でもあるけどね、という言葉にも呆れさせられたが。

 

「シド」

「なに?」

「行くんなら『オリアナ王国』に行けよ。何か起こるかもしれないぞ」

「ローズ先輩の国? どうして?」

「右腕からの助言だぞ。素直に従っとけ」

「……それもそうだね。じゃ、またライの用事が終わった頃に」

 

 特に不満もなかったのか、シドは割とあっさり頷いた。

 

「暴れ過ぎて国を滅ぼしたりすんなよ」

「君は僕を何だと思ってるんだい?」

「歩く核兵器」

「失礼な。こんな典型的なモブを捕まえて」

「モブは周りの迷惑を考えるもんだ」

「つまり?」

「お前が俺に対して気を遣ったことがあるか?」

「あははっ、ないね」

「ぶん殴るぞ」

 

 雪の寒さで冷えた手をポケットに入れながら、俺の表情は渋いものへと変わる。ただ会話しているだけなのに、どうしてこうも疲れるのか。楽しそうな声を上げるコイツがムカつくんだろう。きっと。

 

「──ライ。約束通り、そっちの用事が終わったら僕に付き合ってもらうからね」

「ああ、約束は守る。……じゃあな」

「うん。またね」

 

 プラプラと手を振りながら去っていくシドの背中を見送る。多分もう一度会うまでに、アイツはまた何かやらかすんだろう。その場に俺は居ないと思うが、変な確信がある。

 

「……()()()、か。……はっ、念押ししてんじゃねぇよ。バーカ」

 

 アイツはアイツなりに、俺がしようとしてることの大きさを察してるのかもしれないな。不干渉を直接言い渡した以上、アイツが俺に関わってくることはない。だからこその、またね。

 

 短く、そして重い。何の効力も持たない、ただの口約束だ。

 

「……さて、帰るかな。おーい! デルタ! そろそろ帰るぞっ!」

「はーいなのですっ! ……あれっ!? ボスが居ない!? ライト! ボスが居ないのですっ!!」

 

 雪に夢中になり過ぎて、シドが居なくなったことにすら気付かないアホの子に声をかける。一応No.2として認められているからか、デルタは俺の言うことを素直に聞いてくれる。流石に、アルファほどではないけど。

 

(……アルファか。ちゃんと起きたかな。起きてたら土下座して謝ろう。誤解させるような伝言届けてごめんって)

 

 今日は『ミツゴシ商会』に泊めてもらおう。用事を片付ける前の、最後の休養ってとこだな。

 

「ライト! ボスはっ!? ボス!」

「はいはい〜、早く帰るよ〜」

「ボスがデルタのお願い聞くって言ったのっ!」

「はいはい〜、今度一緒に説得してやるからな〜」

 

 その後一時間駄々をこね続けたデルタを引きずり、俺はようやく『ミツゴシ商会』まで帰ることが出来た。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……流石に、夜は冷えるか」

 

 風呂を済ませ、用意してもらった部屋に戻る。帰って来てからまだ三時間ほどしか経っていないにも関わらず、もてなされ過ぎて逆に疲れた。一晩泊めてくれて言っただけなのに、出るわ出るわのサービス放題。

 豪華な飯に豪華な風呂、豪華な服に豪華な部屋……金貨に換算したらどれだけになるんだろう。考えるのも怖い。

 

 時刻は既に二十三時。外は暗闇に包まれ、月明かりのみが照らす世界となっている。シドが居れば興奮しながら高い建物の屋上に登っていたことだろう。

 

「……アルファ、大丈夫かな」

 

 そんな贅沢に囲まれていながらも、気がかりなのはアルファのことだった。帰って来てから様子を見に行ったが目覚めてはおらず、悪夢でも見ているかのようにうなされていた。本当に心が痛い。

 明日は流石に起きているだろうし、朝一番で土下座しにいこう。そのためにも夜更かしは出来んな。

 

「……ふわぁ。……寝るか」

 

 歯磨きも済ませたので、残るは就寝のみ。俺の身体が十人ぐらい入りそうなデカいベッドで横になり、ふわふわの毛布を被る。肌触りは言うまでもなく最高であり、身体を優しい温もりがゆっくりと包んできた。

 

 最高級品揃いの部屋にて、幸せ過ぎる時間。こんなにも快適に眠ることなど、前世を含めたとしても記憶にはない。ガンマ、恐ろしい子。

 

(……ん? 誰だ?)

 

 どこぞの丸メガネをかけた小学生のように一秒以下とはいかないが、数分で眠りに落ちるという確信。

 俺はそんな幸せに浸りながら目を閉じようとしたのだが、ふと人の気配を感じ取った。魔力感知で誰かを探るまでもなく、訪問者は俺が居る部屋の扉をコンコンッと軽くノックしたのだった。

 

「……ガンマかな」

 

 正直、身体がベッドにベストな状態で埋もれているため出たくはなかった。こんな完璧な密着度にもう一度出会える気がしないほどだ。

 しかし、いくら建物の中と言っても廊下は冷えるはず。可愛いうちの子をそんな状態で待たせる訳にもいかず、俺は幸せに別れを告げてベッドから出た。

 

「はーい。誰だ? ……えっ」

 

 扉を開けた先に立っていた人物。俺が思わず情けない声を出してしまうほどに予想していなかった人物であり、一番可能性が無いと思い込んでいた人物だった。

 

「……アルファ。起きてたのか」

「……ええ」

 

 白色のパジャマ……と言っていいのか分からないが、めちゃくちゃ可愛い格好で現れたアルファ。施された銀色の装飾は目を引くほどに見事で、アルファの金色の髪と合わせて美しい以外の感想が出てこない。

 胸元が出ているような露出がないにも関わらず、身体のラインが一目で分かるようなデザインをしてるので目のやり場に非常に困る。

 

「と、取り敢えず入れよ。寒いだろ?」

「……」

 

 俺の言葉にこくりと頷き、アルファが部屋に入る。扉を閉めると冷気も幾分かマシになり、少しだけ暖かさを感じた。

 

「起きてたんだな。良かった」

 

 後は寝るだけだと思っていたところに、金髪美少女エルフと同じ部屋で二人きり。この状況、男で動揺しない奴なんて居ないはずだ。いや、一人だけ居たわ。

 

「……ねぇ、ライト」

 

 パニックになりそうな頭をどうにかしようとしていると、アルファから声をかけられる。艶のある、どこか色気を感じてしまう声だった。

 

「は、はい」

 

 そして同時に距離を詰めてきたアルファ。ピタッと俺の胸元に身体を密着させ、上目遣いを向けてくる。あれ? 女神? 

 

(身体の柔らかさが……布の滑らかさが……アルファの、体温が)

 

 冷静さを取り戻そうとしていたところにこの仕打ち。アルファさん、魔性の女説。こんなんされて惚れない男居ないだろ。あっ、とっくの昔に惚れてたわ。

 

 情けない顔と声の俺に対しても、アルファの様子は変わらない。ただ俺の顔を少しばかり潤んだ瞳で見つめ、身体を寄せてくるだけだ。

 

 そして、隕石(メテオ)すら凌駕する威力の一言を落とした。

 

 

「朝まで、一緒に居させて……?」

 

 

 保護欲を掻き立てる弱々しい声。

 男の本能を刺激する女性としての魅力。

 アルファという少女に、俺は釘付けになっていた。

 

 ()()()()()()()()()()()この状況。

 

 俺が返せた言葉は──これだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………え゛っ???」

 

 

 

 




 新年、あけましておめでとうございます。

 年明け一発目の投稿ですね。
 去年の一発目が何だったかと見返してみると、右腕やめてぇぇぇでした。温度差で草。
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