陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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5話 親友じゃなくて腐れ縁だ

 

 

 

 

 

 我らのアホリーダーがアレクシア王女誘拐の容疑者になり、騎士団に拘束されてから五日。

 俺はこの期間中、どうにかシドを穏便に釈放してもらおうと努力したが、結論だけ言えば無駄な努力に終わった。

 

 アレクシア王女誘拐事件を担当している騎士団に掛け合ったり、アレクシア王女の姉である『ミドガル王国』の第一王女、アイリス・ミドガルに事情を説明したりもしたが、突っぱねられてしまった。

 俺は期待の特待生ということでアイリス王女とも面識があり、話をする機会は貰えたが願いは聞き入れてもらえなかった。妹であるアレクシア王女が誘拐されたのだから、まあ無理もないことだが。

 

 出来ることがなくなってから三日、シドが仮釈放されることになった。学園に属する生徒全員に外出禁止令が出されているが、俺はシドの友人ということで迎えに行くために特例の外出が認められた。アイリス王女が俺に向けた僅かばかりの温情と言ったところか。

 

(……優しいんだよなぁ。あの人)

 

 アイリス王女に感謝しながら、腕を組んで騎士団の本拠地を囲む塀にもたれかかる。夕暮れの空を見上げて待っていると、重々しい音が響いて門が開いた。そこから荒く放り投げられた男こそ、俺が迎えに来た男だった。

 

「オラよッ!」

「ヘヘッ、ささっと行け!!」

 

 騎士とは思えないゲスな顔でシドを捨てた騎士団の二人。俺は戻って行くソイツらの背中を横目で見ながら、パンツ一丁で放り出されたリーダーに声を掛けた。

 

「良い格好だな。シド」

「だよね。まさに王道のモブ」

「……ん。頭は異常だな。健康そうで安心した」

 

 縄でキツく縛られ、警棒で殴られ、挙げ句の果てには刃物に刺されていたというのに元気なことだ。コイツのアホっぷりはあの程度の拷問ではビクともしないらしい。

 

「ほら、剣は持っててやるから服を着ろ。帰るぞ」

「そうだねー。少し待ってて」

 

 シドと一緒に放り投げられた荷物と剣を拾い上げ、荷物の中から服を取り出して渡す。

 早く服を着てくれないとほぼ全裸の男と一緒に居る不審者扱いされるだろ。今だって通り過ぎて行く人達に視線を向けられてるんだから。てか何見てんだ? 見せ物じゃねぇぞ。

 

(……これが騎士団ね。盗賊と変わらねぇな)

 

 羞恥心を捨てているシドは良いが、俺は普通の人間。恥ずかしいものは恥ずかしいし、ムカつくものはムカつく。乱暴に放り出すだけならまだしも、パンツ一丁で外に出すことないだろ。

 

「ライ〜? 着替えたよ。帰ろっか」

「……ああ。そうだな」

「なに怖い顔してんの? 嫌なことでもあったのかい?」

「別に。とっとと帰るぞ。駅まで送ってやるから」

「悪いねぇ。迎えに来てもらったのに」

「思ってもないことは口にしない方が良いぞ」

 

 あれだけ好き放題されたのに、コイツは怒らない。どうせモブっぽいなぁとしか思っていないんだろう。なんなら拷問を担当した騎士達に感謝すらしているかもしれない。

 

「……お前って本当にうざいよな」

「突然の罵倒だ〜」

 

 やっぱり、俺はコイツが嫌いだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……はぁ。疲れた」

 

 シドを駅まで送り届け、学園の寮に戻って来た。王族や上位貴族の生徒達も住んでいるということで、学園の寮は国の中でも最高峰の高級感。特待生になって良かったと思えるポイントの一つだ。

 上着をハンガーに掛け、ふかふかのベッドへ背中からダイブ。身体全体が柔らかさに包まれ、一仕事終えた安心感から息が溢れた。

 

「……シドの奴。夜に部屋へ来いじゃねぇよ。この数日間、俺が誰のために頭を下げてたと思ってんだ。クソボケリーダー」

 

 列車に乗る直前に言われた言葉を思い出し、俺はイラついた。モブっぽくないからと傷を治すこともせず、笑顔でこき使われれば腹も立つ。別にアイツが怪我していようがどうでも良い。元々アイツの頭は怪我しているんだから。

 

「命を懸けるとこが……ズレてんだよなぁ」

 

 目を閉じてそう呟くと、なにやら言葉にし難いとても良い匂いが鼻をくすぐった。俺は身体を起こすこともせず、ゆっくりと目を開ける。

 

 そこには──。

 

「めっちゃ可愛い」

 

 天使が居た。

 

 雪のように白い肌を包むのはこれまた白い制服。金色に輝く髪とよく合っており、何時間でも見ていられる美しさを放っている。

 スカートが短いので足は太ももまで見えており、思わず視線を向けてしまう圧倒的な引力がある。これは男として健全な反応であって、決して俺だけが不純な訳ではない。ベッドに寝転がるすぐ上にこんな美少女が現れて冷静で居られる奴が居たら、それはもう男ではない。

 

「どうして制服を着てるんだ? アルファ」

 

 俺の言葉が恥ずかしいのか、少し頬を赤らめたアルファ。俺のことを揶揄おうとでもしていたんだろうけど、俺だってやられっぱなしじゃない。入学してから告白されまくったお陰で、少しは耐性が付いた。今までドキドキさせられてきた分をやり返させてもらおう。

 

「よく似合ってる。綺麗だよ、アルファ」

「なっ……その、お、降りるわ」

 

 俺の身体に跨っていたアルファだが、耳まで真っ赤にして俺から降りようとする。どうやら俺の攻撃は効いているらしい。畳み掛けるなら今だ。

 

「ダメだ。降りるな」

「──ッ! ……そ、その! 少し悪ふざけで……ごめんなさい」

 

 身体を起こしてアルファの腰に手を回す。これで俺から離れることは出来なくなった。肌が白いから赤くなったのがすぐに分かる。アルファが俺以上に恥ずかしがってくれてるからなんとか精神を保てるな。

 

「どうして制服着てるんだ? 教えてくれよ」

 

 顔を近付け、耳元で囁く。エルフは耳が弱点、男なら知っていて当然だ。

 こちらの世界に居るエルフにも効果抜群だったようで、俺の腕にすっぽりと入るアルファの身体はビクッと震えた。俺は確かな手応えを感じ、更なる追撃に入る。

 

「ほら、早く教えて」

「ちょっ、ちょっと……それやめ」

「教えないとやめないぞ」

 

 別に女子をイジメて楽しむ趣味は持っていないんだけど、こうなってくると話は別だ。昔からよく言うしな、好きな子には意地悪をしたくなるって。……俺は小学生か。

 

「わ、分かった! 分かったから耳は……んっ」

 

 押し殺すような声がアルファから溢れる。何その声、めちゃくちゃ色っぽいんですけど。普段澄まし顔の美人がここまで動揺すると虐めたくなるよな。そんなことを考えながら、俺はアルファの口から語られるであろう制服を着ている理由に耳を傾けた。

 

「……貴方が。……女子生徒に告白されていたから」

「えっ?」

「…………二度は言わないわよ」

 

 つまりは……嫉妬? 俺が女子生徒達に告白されたのを知り、嫉妬して制服姿で部屋に来たと。可愛過ぎませんかねこの子。恥ずかしそうに手で顔を隠してるのもギャップ萌えだし、なによりちゃんと理由を話してくれるのが可愛い。

 

「──……はぁ」

「……ライ? ……あっ」

 

 これ以上やると俺の理性がぶっ壊れそうなので、おふざけはここまでにする。アルファを身体の上から動かし、ベッドへと座らせる。短いスカートの女の子座りって破壊力ヤバいな。なんか息が荒いし、ちゃんと自分でストップ出来て偉いぞ俺。

 

「よ、予想外の反撃だったわ」

「これに懲りたら、俺を揶揄うのはやめるんだな」

「……昔は顔を赤くしてくれたのに」

 

 少し拗ねたように呟くアルファ。小さい頃からたまに見せるその顔の可愛さは何も変わらない。そして子供のような顔を見せてくれるのは俺が信頼されている証拠だ。普通に嬉しいし誇らしい。

 アルファの頭を撫でながら、俺の口元は緩みに緩む。

 

「……子供扱いしないで」

「拗ねた顔も可愛いな」

「──ッ! ……はぁ。もう降参よ。私の負け」

 

 観念したように手を上げるアルファ。完全勝利に満足したので、俺はアルファの頭を撫でる手を止めた。

 アルファさん、撫でるのをやめた時に少しだけ寂しそうな顔をするのは反則だと思うんです。

 

「ん、んん!! ……それで? 何の用だ?」

 

 咳払いした後の俺の言葉にアルファが表情を切り替える。この辺は流石アルファだ。【シャドウガーデン】の実質的なリーダーは伊達じゃない。

 

「アレクシア王女誘拐の件で、貴方に話をしておこうと思って」

「そうか、ありがとう。シドの方は?」

「ベータが行っているわ。彼のサポート当番、今はベータだから。横取りしたら後が怖いもの」

「ベータはシド大好きだからな」

「あら? 嫉妬かしら?」

「いや全然。俺はアルファが好きだから」

「……そ、そう。……ありがとう」

 

 くっそめっちゃ可愛い。

 

「実はシドから呼び出されてる。夜にアイツの部屋に集合だ」

「……流石ね。昔と同じで、貴方達は私達のずっと先を見てる。……いつも遠くに感じるわ」

 

 いや、呼び出し食らっただけなんだけど。

 

「買い被りだ。アルファ達【七陰】が頑張ってくれているから、【シャドウガーデン】はここまで大きくなったんだ」

「……ふふっ、ありがとう。嬉しいわ」

 

 多分半分はお世辞とでも思ってるんだろうな。全部丸ごと本音なのに。

 

「今回の事件は『教団』絡みか」

「ええ。アレクシア王女、つまり王族を誘拐した奴等の狙いは……濃度の高い『英雄の血』よ」

「なるほど。じゃあ殺されてはないか」

「そうね。死んだらそれ以上血を抜けないから」

 

 そうなると王女は監禁されているってことだ。誘拐目的から言って殺される可能性はかなり低い。別にアレクシア王女を助ける義理もないが、姉であるアイリス王女には借りがある。その借りを返すためなら、俺も動く気になるってもんだ。

 

「行くのか? アルファ」

「ええ。説明の必要もなさそうだし……貴方のせいで余計な時間を取られたもの」

 

 着崩れた制服を直し、アルファがベッドから降りる。ムスッとした表情も可愛い。口に出したら怒られそうなので言わないけど。

 

「お前に言う必要はないと思うけど、気を付けろよ」

「分かったわ。貴方とシャドウは……大丈夫よね」

「……まあな。お前達のリーダーと副リーダーはそんな柔じゃないさ」

「貴方が珍しく怒ってるみたいだから。やり過ぎないようにね」

 

 ……ん? 今、アルファはなんて言った? 

 

()()()()……? 俺がか?」

「ええ。かなりね」

 

 怒る、か。全くそんな意識はないんだけど、アルファが断言するならそうなのかもしれない。……怒る、ねぇ。

 

「親友が拷問にあったからかしらね」

「……おい待て、親友って誰のことだ?」

「さあ? 誰かしら」

 

 クスクスと見惚れそうな笑みを浮かべながら、アルファが制服から黒スーツへと服装を変化させる。

 

「この事件が終わったら、マグロナルドをご馳走してね。久しぶりに貴方と食事がしたいわ」

「……もちろん良いけど」

「ありがとう。じゃあね」

 

 断る筈がないデートの約束をし、アルファは窓から出て行った。厳重な警戒網が張られている学園内だが、アルファを見つけられるとは思えない。俺も日が落ちたら出て行くつもりだし、準備はしておかないとな。

 

「……ったく、誰が親友だっての」

 

 アルファが誰をその枠に当て嵌めていたのかは分かる。だからこそ、俺はそれに異議を唱えなければならない。あの死んでも治らない筋金入りの厨二病が親友だって? 冗談だろ。

 

 ──親友じゃなくて腐れ縁だ。

 

 

 

 




 アルファ推し歓喜!(自給自足)。
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