陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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50話 そういうタイプのラスボスか

 

 

 

 

 

(──……胸糞悪いな)

 

 二本の剣を振るいながら、ライトは静かに苛ついていた。

 目の前に広がる光景は赤一色の平穏とは程遠いもの。それを生み出しているのが他ならぬ自分であることに、嫌悪感を抱いていたのだ。

 

 開戦の一撃として放った隕石(メテオ)。大地を焼き焦がす威力のそれは対峙していた教団員たちを容易く消し炭にし、戦況を一瞬で大きく変化させた。

 ライトが現在行っているのは、ただの後処理である。

 

「うわぁぁぁあ!!」

「やめてくれぇぇええっ!!」

「く、来るなぁぁぁぁああっ!!」

 

 最早立ち向かうこともせず、ライトから逃げ惑う教団員たち。完全に戦意喪失しており、奪う側から奪われる側へ移っていた。

 まるで弱い者イジメだ。そんな感想を持ちながら、ライトは無情に剣を振るっていく。

 

 一人、一人、また一人。

 白く光る二本の剣が動くたび、名前も知らない人間の命が消える。切り裂いている部位に多少の違いはあれど、狙っているのは首や胴体といった即死させられる場所のみ。殺意という感情すらライトの中にはない。ただ虫を潰しているだけといった様子だった。

 

「あの世で反省して、来世で頑張れ」

 

 イータに頼んで開発してもらったライト専用の『スライムソード』。名付けるならば『ホワイトスライムソード』とでも言うべき剣がムチのように伸びる。

 回避不能な変幻自在の斬撃は五分にも満たない時間が経過した後、千人ほど残っていた教団員を全て斬り殺してしまった。

 

「……はぁ。鬱陶しいな」

 

 不機嫌そうに立つライトへ、血の雨が降る。

 辺りに転がっているのは少し前まで自身と同じ人間だった肉塊。幼少期の最も荒れていた頃に行っていた盗賊狩りを思い出し、ライトは目を細めた。

 

「……な、なんなんだ。……お前は」

 

 嫌な記憶を呼び起こしたライトに、一人の男が声をかける。

 上品な話し方をする余裕もない第二席だった。

 

「……い、一万だぞッ! 組織の主戦力である『チルドレン・1st』に加え薬物投与で強化した増強兵ッ! あれだけの数が……全滅?」

 

 膝から崩れ落ち、信じられないといった表情で絶望に染まる第二席。そんな醜態を晒しても、馬鹿にしてくる第三席も居なければ失望する部下も居ない。全員、死んだのだから。

 

「しぶといな。まだ生きてたのか」

「ヒッ!」

 

 黄色に輝く双眼に貫かれ、第二席が腰を抜かす。『ディアボロス教団』のNo.2と【シャドウガーデン】のNo.2による戦いは──始まる前に終わった。

 

「こ、こんなはずじゃ……ありえない。こんなことが許されていいはずがない!!」

 

 涙と鼻水を撒き散らしながら、第二席が吠える。負け犬の遠吠えにしても、随分と醜い。

 

「許されていいはずがない? これはお前たちが……()()()()()()()()()()()()()()()()

「なっ……!」

「理不尽に奪い、理不尽に虐げ、理不尽に支配する。どうだ? 自分がされる側になった気分は?」

 

 ライトの問いに、第二席は返答出来なかった。ただ小動物のように身体を震わせ、ガチガチと恐怖で歯を慣らしていた。

 

「お、お前は……悪魔だ」

「なんとでも言え。俺は俺の大切な存在が幸せに生きていける世界を作る。そのためにはお前らが邪魔なんだよ。だから殺す、殺し尽くす。それが……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 冷たい眼のまま、ライトが一閃。

 たったそれだけのことで、第二席の首は呆気なく地面に落ちた。

 

 

 約一万対一人の決戦は──僅か二時間で終わりを迎えた。

 

 

「……さて、前座は終わりか」

 

 

 軽く息を吐いたライト。全滅させた教団員たちを前座扱いしながら、『本命』となる相手へ視線を向けた。

 重力の存在を嘲笑うかのようにふわふわと宙へ浮き、ライトの目の前にゆっくりと降り立った()()()()()()

 

 

『「──初めまして。【シャドウガーデン】」』

 

 

 向かい合うライトと比べ、背丈は頭三つ分ほど小さい。

 子供と表現する他ない幼い容姿だが、放っているプレッシャーは異質。どこか耳に届き辛いような声を発し、小さな手を合わせながらパチパチと拍手を繰り返した。

 

『「見事見事。僕の部下たちがこうも簡単にやられてしまうなんてね。せっかく育ててきた組織だけど、今日までの命だったようだ」』

「随分余裕だな。次はお前を殺す予定なんだが?」

 

 右手に持った剣を真っ直ぐに向け、殺意の波動を浴びせかける。命の重さを忘れたその瞳は、あまりにも冷たい。

 しかし、そんな絶対零度の視線に貫かれているにも関わらず、少年に動揺は見られない。むしろその逆、高揚感を抑えられないように笑っている。

 

「何がおかしい? 自慢の組織を壊滅させられて気でも狂ったか?」

『「いや、嬉しいんだ。君と出会えたことがね。そのための犠牲と考えれば、死んだ子たちも本望だろうさ」』

「……そうかい。ならさっさと、同じ場所へ行け」

 

 ──地獄にな。

 

 そんな言葉と共に、ライトが二刀流を振るった。

 ギチギチとスライムが悲鳴を上げそうになるほどに魔力が込められた斬撃。教団員たちに放っていたものとは比べ物にならないほどの威力であり、掠っただけでも消し飛ぶのは間違いなかった。

 

 巨大な斬撃に呑まれ、少年の姿が消える。つまらなそうにそれを見ていたライトだったが、すぐに魔力を整え直した。

 

『「いやぁ、怖い怖い。いきなりご挨拶だね。少しは会話を楽しもうとかないのかい? お互い、まだ名乗ってもいないのに」』

「ある訳ないだろ。馬鹿組織の親玉はやっぱり馬鹿なんだな。後、ゴミに名乗る名前はねぇよ」

 

 無傷、とは言えないが特にダメージを食らった様子はない。全力に近い斬撃を耐えられた。剣士として狼狽えるべき場面だが、ライトの冷静は崩れない。

 

「防ぐのに全力だったか。魔力がほとんど残ってないぞ。拍子抜けだな」

 

 元々多いとは感じていなかった魔力が大幅に減少。言い表すなら〝雀の涙ほど〟と言ったところか。

 

『「ふっ、ふふっ……あははっ」』

 

 絶体絶命の危機だというのに、少年の口からは狂気を感じさせる笑い声が溢れた。自分がどういう状況か分かっていない、訳ではなかった。

 

『「本当に素晴らしいよ。ああ、君のような人間を求めていたんだ。ずっとね。幸せだ、幸せだ、幸せだ」』

「…………イカれてんのか」

 

 幼い顔立ちを禍々しく歪ませ、少年は天を仰ぐ。まるで神からの祝福を全身で受け止めているかのように。

 

『「長かった。ようやく、ようやくだ。僕の願いが叶う。ありがとう」』

 

 裏のあるような言葉に不気味な態度。すぐに剣を振って仕留めるべきだと頭では理解している。しかし、ライトはそれを行動に移すことが出来なかった。

 少年は警戒するライトに笑いかけながら、口端を大きく吊り上げた。

 

『「ああ、我が神よ。貴方様に相応しき『器』が現れました。どうか私めの命を糧に……この世界へ」』

 

 声を震わせながら、少年の身体より魔力が放出される。ドス黒い、暗黒を凝縮したような魔力だった。渦を巻き、少年の周りに集まっていく。

 

『「貴方様に使って頂き、私は……幸せでした」』

 

 その言葉を最後に、少年の身体が灰へと変わる。

 風に飛ばされる寸前まで、少年の顔から恍惚の笑みが消えることはなかった。

 

「自爆……だったら楽なんだけどな」

 

 冗談めかすようなライトの前に、少年の身体から飛び出した魔力が集結し始める。辺りには身体を芯から凍らせるような冷気が漂い、〝何かの存在〟を感じさせるプレッシャーが強まった。

 

「……やっと出て来たか」

 

 二本の剣を改めて握り直し、ライトが真剣な表情で構える。これから始まるのは文字通りの最終決戦。ここへ殴り込みに来た最大の目的だ。

 

 

()()()()()()()()()? ──『魔神』ディアボロス

 

 

 決して形とは呼べない煙のような存在に、ライトは静かに語りかけた。この世界の闇そのものといっても過言ではない、魔神の名前と共に。

 

 

『 ──……ククッ。()()()()()()()()()()()()。やはり気に入ったぞ、人間

 

 

 全体を紫色に変色したそれは目の位置を赤色に光らせ、まるで地獄から響く悪魔のような声を出した。魔力などが付与されていないにも関わらず、聞いたものを心の底から恐怖させる力が宿っていた。圧倒的な存在感、まさに『格の違い』というものだった。

 

「さっきのガキに取り憑いてた訳だ。魔神なんていう割に寄生虫と同等なんだな、お前」

 

あれは十分に器としての役割を果たした、もう我には必要ない。……奪い取った魔力が少量だったな。魂だけとはいえ、醜い姿よ

 

「そうか。ならさっさと……死ね」

 

 次の瞬間、ディアボロスへ殺意のみで固められた斬撃が放たれる。先程繰り出した斬撃よりも威力は更に上がっており、ここで必ず殺すというライトの意志が強く表れていた。

 地面を激しく抉り取りながら進む斬撃。範囲も広大であり、回避は不可能。間違いなく決着の一撃に相応しいもの──()()()

 

フッフッフ、素晴らしい威力だ。この世界でこれほどの剣技は見たことがない

 

「……」

 

驚くことはない。言ったであろう? 今の我は()()()()()。物理的に干渉することなど出来はせん

 

 こちらからも攻撃は出来んがな、とディアボロスがどこか愉快そうに続ける。ライトはそんな言葉に眉を顰めると、珍しく舌打ちをした。

 

「……なるほど。──そういうタイプのラスボスか」

 

 面倒だという感情を隠しもせず、ライトが静かに呟いた。魔力が扱えるとは言え、基本的に魔剣士の武器は剣。つまりは物理攻撃だ。それが効かない相手など、面倒以外の何者でもない。

 魔法が存在しないこの世界に於いて、防御性能だけで言えば最強──いや、最凶だろう。

 

そこまで驚きはせんか。思ったより冷静だな

 

「『教団』の狙いが()()()()()()()()()()()()()なのは調べがついていた。気色悪い右腕を大事そうに保管してたしな。やたらと『悪魔憑き』に執着してたのも、その研究のためだった訳だ」

 

 攻撃しても無駄だと分かったからか、ライトが『ホワイトスライムソード』を剣の状態からスライムの状態へと戻した。

 

どうした? 諦めたか? 

 

「んな訳ねぇだろ。むしろ逆だ。お前が何も出来ないってことが分かった。後は仲間と協力して、お前を封印でもしてやるさ」

 

 組織の主力教団員はほとんど殺し尽くしたので『ディアボロス教団』は壊滅させたも同然。更にラスボスは魂のみの存在であり、自らの力で何かを起こすことは不可能。ライトが勝ちを確信するのも当然だった。

 

何も出来ない? 本当にそう思うか? 

 

「……何が言いたい?」

 

 含みのある言い方にライトが反応。ディアボロスはそれに笑みを深めると、目を禍々しい赤色に染め上げた。

 

目の前で見たばかりだろう。我が人間の身体を支配していたところを。お前に対しても同じことが出来ぬと思うか? 

 

「舐められたもんだな。──お前程度じゃ無理だ」

 

 ライトの身体から吹き出した莫大な魔力を見て、ディアボロスが感情を昂らせる。実体化する程の密度をもつそれは、魔神という存在からしても異常と言わざるを得なかった。

 

確かに、これ程の魔力密度ともなると身体を奪い取るのは不可能だな。……だが、知っているか? 魔力を扱う上で重要なのは〝安定した精神〟だということを

 

 不利な状況だというのに、ディアボロスの声から余裕は失われない。まるで自身が望む未来は必ず手の内に入ると確信しているかのように。

 

「……基本だろ。何を今更」

 

その通り、基本だ。だからこそ、崩れれば致命的な隙となる。そうだろう? 

 

 

 

『── 〝アイミツ・ユウスケ〟

 

 

 

 告げられたのは、名前。この世界からすれば珍しく、異端な名前と言える。

 しかし、ライトにとってそれは思考が止まるのに十分過ぎるものだった。

 

 

 ──()()()相光佑助(あいみつゆうすけ)にとっては。

 

 

「……お前、なんでそれを」

 

 自分以外でその名前を知る者はこの世界にたった一人のみ。会ったばかりの魔神が知るはずがないのだ。

 

初めて動揺を見せたな。悪くない顔だ

 

 低めに発せられたライトの声に、ディアボロスが満足そうな反応を見せる。

 

『 ──我の魔眼は()()()()()()()()()()。ククッ、我は〝魔神〟だ。神の如き力を扱えても、可笑しくはなかろう? それにしても異世界の人間だったとはな……どこまでも面白い

 

 〝過去を見通す〟。

 その言葉通り、ディアボロスはライトの過去を次々に言い当てていった。生い立ち、家族関係、友人関係。そして極め付けに──彼がどのようにして死んだかを。

 

フッ、フフフッ、フハハハハハッ!! 

 

「……何を笑ってる」

 

 突如、高笑いを上げ始めたディアボロス。

 ライトはとてつもなく不快な表情で理由を訊ねた。

 

貴様、どうやら真っ当に死んだ訳ではないようだな

 

 その言葉に、ライトはとある存在を思い浮かべた。

 自身を死に追いやった、細かく言えばトラックの前へ悪質タックルで弾き出した──妖怪・魔力男の存在を。

 

さぞ悔しかっただろう。お前にはまだ、未来があった。幸せな人生が待っていたというのに

 

「いい加減にしろ。揺さぶりをかけてるつもりか? 魔神様ってのは意外と陰湿なんだな」

 

 そんな挑発めいた発言をするライトだが、表情には確かな怒りが見えた。これまでされたことがない前世を絡めた発言には、流石に余裕を崩されていた。

 

「もう終わったことだ。……関係ない」

 

本当にそうか? 

 

 魂だけとなり、非力な存在となった魔神。故に力に頼るだけでなく、知恵を使った戦い方を覚えてしまった。

 この魔神は、相手の心に隙間を作り出す。

 

貴様には主人が居るようだな。黒い髪に赤い瞳を持つ男。ほう? 実力は貴様以上か

 

 ライトにとっては認めたくない事実だが、シド・カゲノーを示しているのは確定だった。どうやら前世のことだけでなく、二度目の人生も見通せる〝過去〟に含まれるらしい。魔眼と言うだけあり、厄介な能力だった。

 

貴様はこの男と行動を共にし、我らと争ってきた。まるで〝右腕〟のようだな。さぞかし信頼されているのだろう

 

「…………?」

 

 ライトの中に、僅かな疑問が生まれた。

 過去を見通せると言う割に、見通せていない部分があったからだ。『右腕』など、ライトは数えたくもないほどに言われ続けている言葉。過去を見通せるならば、〝まるで〟などという曖昧な表現はしないはずだ。

 

「……そうか。お前は過去を……()()()()()()()()()()()()()

 

 確信したようにライトが断言。そしてそれは、正解だった。

 

流石に勘がいいな。そうだ、我に見えるのは光景のみ。声や音までは拾えん

 

「それで神の如き力か、拍子抜けだな」

 

そうでもないさ。貴様はこの魔眼の力で、我に身体を奪われることになるのだからな

 

 どこまでも揺るぎない自信。

 ディアボロスは仕上げと言わんばかりに、言葉を続けた。

 

知りたくはないか? ()()()()()()()()()

 

「……なんだと?」

 

 初めてライトの意思がディアボロスの言葉に反応。魔神はそれを見逃すこともなく、邪悪な笑みを深めた。

 

ククッ、哀れな男だ。まるで道化だな。信じていた相手が……自分を殺した張本人だったとは。それにしても、同じ世界から転生とは、運命とはやはり残酷よ

 

「いい加減にしろッ! さっきから何が言いたいッ!?」

 

 ついには叫び声を上げたライト。眼光はこれ以上ないほどに鋭く、視線だけで相手を殺せるほどだ。しかし、ディアボロスにとってそれはただの勝機でしかなかった。

 

もう気付いているだろう? それが事実だ。見て見ぬふりは、もう出来んなァ

 

 ディアボロスの魂が黒い霧となり、ライトの近くへ寄ってくる。触れることはせず、周りを取り囲み囁いた。

 

その者は貴様を殺した

 

その者は貴様の近くにいた

 

その者はお前が最も信頼する人間だった

 

 徐々にディアボロスがライトとの距離を詰めていく。だがライトがそれを振り払うことはなかった。口を開いて言い返すこともせず、俯いたまま放たれる言葉に耳を傾けていた。

 

憎いだろう。殺したいだろう。貴様は何も悪くなかったのになァ

 

 甘い蜜を与えるように、ディアボロスがライトの身体に入り込む。それにすら、ライトは抵抗を見せなかった。

 

力をやろう。我と貴様の力が合わされば、この世に敵はない。さあ、復讐を始めるとしよう

 

 興奮を隠しきれない声音のディアボロス。長年待ち望んでいた完全復活というだけではない、これ以上考えられないほどの完璧な器が手に入るのだ。感情が昂っても当然であった。

 

 

貴様を殺した──()()()()()()()

 

 

 黄色に輝いていた双眼が、闇に消えた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「んーっ、帰って来たねぇ」

 

 ぐいっと伸びをしながら瓦礫に立つ少年、シド・カゲノー。

 まさに今異世界から帰還したところであり、少々の疲労感に襲われていた。

 

「ありがと、ベータ。助かったよ」

「いえっ! シャドウ様のお役に立てて、ベータは嬉しいですっ! 色々と『にっぽん』から持ち帰りたいものもあったのですが、それだけが残念です」

「い、いやいや。異世界のものを簡単に持ち込めないよ。その辺は慎重にしないとね」

「流石はシャドウ様っ! 私の考えが浅かったですっ!」

 

 共に異世界へ行っていたベータを労い、シドは周りの状況を確認する。

 現在地は『オリアナ王国』。行きと帰りが同じ場所なので、どれぐらいの時間が経過していたか以外は理解しやすい。

 

「んーっ、それにしても人がいないねぇ」

「私たちが『にっぽん』に行っている間、どれほどの時間が経ったのでしょう。アルファ様たちと早く合流しなくては」

「あっ、迎えが来たみたいだよ」

 

 一瞬ポカンとするベータも、すぐにシドの言葉の意味を理解する。魔力探知で自分たち以外の魔力を探知したのだ。正体を考える暇もなく、その人物はすぐに目の前へと現れた。

 

「──ニューッ!? どうしたのその怪我ッ!?」

 

 ベータが真っ先に声を上げる。

 二人の前に現れたのは有能な部下であるニュー。しかしベータの叫び通り、その姿は正常とは言えなかった。スライムスーツには多くの傷が付いており、痛々しい姿となっていた。

 

「ベ、ベータ様……シャドウ様。……ご無事でなによりです」

「無理に喋らなくていいよ。はいっ」

 

 見かねたシドがニューを一瞬で治療。ニューは丁寧に頭を下げた後、慌てた様子で口を開いた。

 

「大変です……! 三時間程前、『アレクサンドリア』が襲撃を受けました!」

「なんですってっ!?」

「へーっ」

 

 組織の本拠地を知っているか知らないか、テンションに差がある原因はそこだけだ。

 

「私はすぐに戦線を離脱し、お二人に会える可能性に賭けて全力を尽くしてここへ来ました。……それほどの緊急事態です」

「『教団』によるものなのっ!?」

「い、いえ……違います。……違うんです」

 

 涙を流し始めたニューに、ベータだけでなくシドも戸惑いを見せる。彼女が泣くところなど初めて見たのだ。

 ニューは顔に手を当てながら、襲撃者の名前を苦しそうに告げた。

 

「……ライト様です。私たちを攻撃したのは……ライト様なのです」

 

 ニューの言葉へ最初に反応を見せたのは、やはりベータだった。

 

「バカ言わないで! そんなはずが……」

 

 ない、と断言したかった。しなければならなかった。

 しかし、ニューがそんなつまらない嘘をつくとも思えない。ベータの思考は一瞬で固まってしまった。

 

「ライト様は……秘密裏に『教団』本部を襲撃していたのです。その際、魔神・ディアボロスと接触。身体を乗っ取られたものと思われます」

「そんな……! シャ、シャドウさ──きゃあっ!」

 

 ベータの言葉を遮るようにシド──シャドウが行動を起こす。スライムスーツを瞬時に展開し、ベータとニューの二人を身体ごと掴んだ。

 そのまま地を蹴って上昇、青紫色の魔力を解放した。

 

「ライトの魔力は……向こうか」

 

 瞳を赤く光らせ、シャドウが飛行を開始。たとえ世界の裏側に居ようとも、ライトの魔力ならば探知出来る。自身が主を務めている組織の本拠地が分からずとも、問題はなかった。いや、問題はあるのだが。

 

「「……シャドウ様」」

 

 シャドウに連れられて空を飛ぶベータとニューが悲しみの表情を見せる。尊敬する主人の心中を察して、胸を痛めているのだ。特にベータは初期メンバーということもあり、シャドウとライトがどれほど深い絆で結ばれているのかを知っている。それこそ、ライトに嫉妬の感情を抱いてしまうほどに。

 

「……急がねば。早く、早く」

 

 絞り出すようなシャドウの声に、ベータとニューが眼を潤ませる。彼女たちは願うのみ、どうか最悪の結末にならぬようにと。

 

 

 ──しかし、この場にシャドウの『真の理解者』は居なかった。

 

 

(『教団』の本拠地を襲撃……?)

 

 ──シド・カゲノーが。

 

(魔神・ディアボロス……?)

 

 ──シャドウが。

 

(ライトが身体を乗っ取られた……?)

 

 ──自らの芯を揺るがすことなどありえない。

 

(流石だよライト。僕との約束をちゃんと守るつもりなんだね。まさか君がこんなサプライズを用意してくれるなんて……!!)

 

 音速に近い速度を出しながら、シャドウ(シド)は深く笑った。

 

 

 

 

 

(──『右腕』からの〝反逆イベント〟きたぁぁぁぁあああッッ!!!)

 

 

 

 

 

 厨二は死んでも治らない。

 

 

 

 




 祝!50話達成!
 完結まで走り抜きますので、応援よろしくお願いしますっ!!
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