陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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52話 そんなに知りたきゃ教えてやるよ

 

 

 

 

 

「──調()()()()()()

 

 そんな言葉が耳に届くと同時に、ディアボロスの動きが止まる。

 無防備なシャドウへトドメとして振り下ろした剣もピタリと停止し、力を込めていた筈の腕は石のように固まってしまった。

 

 魔神は初めて、動揺を見せた。

 

(な、なんだ!? 何故身体が動かん!?)

 

 異変の原因は間違いなく〝調子に乗るな〟という声。ディアボロスは思考を加速させ、声の主を特定しようとした。

 まず最も可能性があるのは目の前で座り込んでいるシャドウ。こんな芸当ができるとすればこの男ぐらいのものだが、何か動きを見せた様子はない。ただ下を向きながら脱力したままだ。

 

(シャ、シャドウではない……!)

 

 ならばと、次に可能性として浮かび上がったのは【シャドウガーデン】のメンバーだった。しかし、それもあり得ないとすぐに切り捨てる。何故なら、彼女たちは先程自分が始末したばかり。あの斬撃の雨から逃れた者が居るなど考えられなかった。

 

(何故だっ! 何故動か……な、い……!?!?)

 

 謎が解けずに取り乱すディアボロスだったが、更に恐ろしい事実へと直面する。

 

 ──声が出ないのだ。

 

(ま、まさか……!? あ、あり得ん……っ!!)

 

 ディアボロスは()()()()()()()()()()に恐怖を覚えながら、爆発的な魔力の高まりを感じ取った。思わず目を細めてしまいそうになるほどの、白銀の魔力を。

 

(ぬ、ぬあぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!!)

 

 溢れ出る魔力によって、魂が焼かれるような感覚に襲われたディアボロス。抵抗など出来るはずもなく、無理矢理ぶつけられた魔力によって──()()()()()()()()

 

ぐあぁぁぁぁァァアッ!! ……ハァハァ、何故だッ!? 我の魂が引き剥がされたッ!? 

 

 漆黒に染まっていた魂に、白色の線が混ざり合う。どこか懐かしいような違和感を覚えながらも、ディアボロスは予想外の事態にただ叫ぶことしか出来なかった。

 そんな魔神に言葉を返したのは、やはりというかこの男だった。

 

 

「──うるせぇな。耳障りな声で(わめ)くな」

 

 

 魔神の器となっていた、ライ・トーアムが目覚める。

 肩こりを和らげるように腕を回しつつ、伸びを繰り返す。その様子はとても魔神に操られていた人間のものとは思えない。

 

な、な、何故……

 

「あー、そういうのいいから。ちょっと黙ってろ」

 

 動揺が隠せないディアボロスを黙らせ、ライがくるりと半回転。真後ろで沈黙を続けている主の側まで歩いて行き、項垂れている頭部へ普通に拳を落とした。

 

「──え、痛っ」

「痛っ、じゃねえよ。いつまでそうやってんだ」

 

 シャドウとしてではない反応を見せたシド。気の抜けた声にすかさずライが指摘し、不満そうな顔で腕を組んだ。

 

「あれ? もういいの?」

「ああ、もういい。……で? お前は何してんだ?」

「カッコよく岩に背を預けて沈黙する……的な? 陰の実力者として、こういう状況も想定しておかないといけないかなって」

「そうか、じゃあもっとめり込んだ方がいいぞ」

「ちょっ、岩に押し付けないで! メリメリ言ってるよっ!」

 

 先程までの緊迫した空気はどこかへ飛んでいってしまったらしく、緩い雰囲気が一瞬で空間を支配した。シドとライのやり取りは、ライがシドの身体で岩を破壊するところまで続いた。

 

「あーあ、いい感じの岩だったのに」

 

 ローブに付いた砂埃をパンパンと手で払いながら、シドがゆっくりと立ち上がる。眼は紅色から黒色に戻っており、シャドウだった頃のプレッシャーは消え去っていた。

 隣に立つライの眼も同様に黒色へ。魔力の解放は一時的に抑え、自然体のまま魔神へと対峙した。

 

あり得んッ!! こんなことが……あり得るはずがないのだァァァアッ!! 

 

「それがあり得るかも、ってな。現にお前は追い出されてんだろ。情けなくな」

 

き、貴様の身体は完全に奪い取ったはずだ! 何故こんなことが……

 

()()()()()? おいおい、本格的に舐められたもんだな。最初に言っただろ──〝お前程度じゃ無理だ〟ってよ」

 

なっ……っ!! 

 

 ハッキリと断言された事実に、ディアボロスが硬直。これまでに感じたことのない感覚は魔神の心を大きく揺さぶった。

 心底馬鹿にされるような態度を取られたことなど、これまでに一度たりともなかったのだ。

 

お、大口を叩くなッ! 貴様は先程まで完全に我の支配下だった! シャドウを見た瞬間、殺意を込めた攻撃をしたではないかッ! 

 

 的確に反論したディアボロス。しかし、ライは言葉に詰まることもなく当然のように言い返した。

 

「コイツが来たから殺意を込めたんだ。殺そうとしたぐらいで死ぬなら、俺はとっくにコイツを殺してる」

 

き、斬り合ってまで殺そうとしていただろうッ!? 

 

「俺とコイツが殺し合うのなんていつものことだ。珍しくもなんともねぇよ」

「だよね〜」

 

ハァッ!? 

 

 思わずキャラを崩壊させるディアボロス。無理もない、これに関しては相手が悪かったと言う他ない。

 

シャ、シャドウッ! 貴様も一方的にやられていたではないかッ!? どういうことだ!! 

 

「ライの中に何かいるのは分かったからね。寄生型の魔物かな? ライも手の込んだことするよね」

「そうそう、お前はそれでいいんだよ」

 

 ディアボロスにとって二人のやり取りの意味は分からず、ただ余計に疑問が深まっただけだった。

 

こ、小娘たちは!? 小娘たちはどう説明するっ!? 貴様の手で完全に──』

 

「あら、それは私たちのことかしら? 魔神・ディアボロス」

 

 ディアボロスの言葉を遮るように、透き通った美しい声が響き渡る。

 声の主はシドとライの後方に立っていた。艶のある金髪を風に揺らしながら、美しい青色の瞳を輝かせている。

 

 見間違うはずもなく、【七陰】第一席・アルファであった。

 

 そして、次々と姿を現す生存者たち。

 

「魔神というのもマヌケな顔をするのですね。ふふっ、小説にしてあげるわ」

 

 第二席・ベータ。

 

「ではその小説は『ミツゴシ商会』が総力を上げて販売しましょう」

 

 第三席・ガンマ。

 

「ばかなのですっ! アイツばかなのですっ!」

 

 第四席・デルタ。

 

「貴方の声、醜いわね。私の耳を汚さないで頂けるかしら?」

 

 第五席・イプシロン。

 

「滑稽過ぎるね、流石の私も知らなかったよ」

 

 第六席・ゼータ。

 

「……実験動物にもならない。……アレはいらない」

 

 第七席・イータ。

 

 組織最高幹部が揃い踏み。七人全員が横並びに、シドとライの後ろへついた。

 

貴様は……貴様らは先程殺したはずッ! どうして生きているッ!? 

 

「あら? 生きているのは私たちだけじゃないわよ」

 

 冷酷で妖艶。そんな表情のアルファがパチンッと指を鳴らすと、魔神を取り囲むようにして、複数の影が同時に現れた。

 

 その数──三百以上。

 

……ぜ、全員、生きているだと? た、確かに……殺したはず。しかも傷まで癒えているとはどういうことだァッ!? 

 

 自身も幽霊のような存在であるにも関わらず、幽霊を見るような目で周りを確認するディアボロス。余程信じたくないのか、呼吸などしていないくせに過呼吸気味だ。

 

「お前が言ってるのって、これのことだろ?」

 

 ディアボロスの疑問を解消するべく、ライが一振りの『ホワイトスライムソード』を展開。隣に立っているシドに向かって、遠慮なく魔力を纏わせた斬撃を放った。その規模は先程アルファたちを襲った斬撃にも負けてはおらず、あれだけ至近距離で当たれば致命傷になるのは確実だった。

 

な、なにを……ッ!?!? 

 

 理解出来ない行動に戸惑いの声を上げたディアボロスだったが、次の瞬間には気の抜けた声を溢した。

 斬撃に呑み込まれたシドが──()()()()()()()()()()()

 

「おー、治った治った。ありがと」

「おう。……まっ、こういうことだ」

 

 〝攻撃用の魔力〟ではなく、〝回復用の魔力〟を纏わせた斬撃。

 殺したと思っていた者たちが生きており、尚且つ全回復していた謎は目の前で解き明かされた。

 

「お前は馬鹿みたいに笑ってたから、気付きもしなかったけどな」

 

そんなことが……。な、ならば何故ッ! 貴様は我を拒絶しなかったッ!? 最初から抵抗していればよかっただけの話だッ!! 

 

「理由があったからに決まってんだろ。──お前を殺すためにな」

 

 不敵な笑みと共に、ライが理由を語った。

 魔神と呼ばれる存在を、人間が恐怖させながら。

 

「お前は魂だけの存在。そのままじゃ殺すことは出来ない。ならどうするか? 実体を与えてやればいい」

 

実体を……? 

 

「お前、自分の魔力を俺の魔力に混ぜ込んだと思ってるだろ? 逆なんだよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 すぐさま自身の状態を確認したディアボロス。漆黒の魔力には確かに白銀の魔力が混ざり合っており、全体的に見ればほとんど白色にしか見えないほどにライの魔力で埋め尽くされていた。

 

「感じ取れるだろ? 空気の流れや温度、それから……俺たちがお前に向ける殺気とかな」

 

き、貴様……最初からわざと……ヒィッ!! 

 

 身体が震える。つまりはそういうことだった。

 自分はまんまと嵌められていたのだと、魔神は目の前の男に恐怖するしかなかった。

 

「ライト……おかえりなさい」

「ただいま。アルファ」

 

 言いたいことは山ほどあったが、今ではないとアルファは一言で口を閉じた。

 ライトが一瞬振り向いたことで二人の視線が重なっただけの味気ないやり取りだったが、それだけでこの二人は通じ合えた。

 

 今は、成すべき事を成す時なのだと。

 

「お前、その状態だったら死ねるぜ?」

 

 ディアボロスに向けてそんな言葉を放つと同時に、ライは自身の顔を覆っていた仮面を取り外して放り投げた。頭に被っていたフードも取り払い、曇天の下では余計に目立つ白髪が現れた。

 

 ──殺される。

 

 追い詰められたディアボロス。最後の希望にすがりつくように、声を張った。

 

貴様ァッ! 隣にいるのは貴様を殺した男だぞッ! 憎くはないのかッ!? 復讐したくはないのかァァァァッ!!? 

 

 一度は決め手になったと思われた前世の記憶。

 ディアボロスは限りなく細い逆転の糸を手繰り寄せるため、ライの心に言葉を投げかけた。

 

 しかし、やはりと言うべきか、相手が悪かった。

 

 

「バーカ。俺がどれだけ長い間コイツと一緒にいると思ってんだ。()()()()()()()()()()()

 

 

…………へっ? 

 

 頼みの綱であった切り札さえも、ライは容赦なく一刀両断。

 ディアボロスは魔神が出してはいけないような声を出しながら、思考停止した。

 

「前世から魔力を求めて修行する狂人が、そう何人も居てたまるか」

 

 正論である。

 

「確かに、俺はコイツに殺された。そのこと自体はまだ恨んでるし、許すつもりもない」

「……えっ、そうなの?」

 

 小声で驚くシドの肩を殴りながら、ライが続ける。

 

「けど、それだけじゃねぇ。色々あんだよ、こっちにも」

 

 どこか遠い目をしながら、過去の自分を思い起こすライ。

 二度目の人生でどう生きていけばいいかも分からず、大き過ぎる力に戸惑った日々。人を殺しても何とも思わず、精神が壊れそうになった。

 

 そんな時に、彼はシド・カゲノーに出会ったのだ。

 

 強引に右腕にされ、あっちこっち振り回される毎日。

 生きる意味を考えるだとか、大き過ぎる力に戸惑うとか、そんな暇がある訳もない。別の意味で精神が壊れそうになることは多々あるが、退屈とは無縁の生活になった。

 

 そしてそんな生活が、案外悪くもなかった。

 

 自分を殺した〝復讐相手〟に、自分を救った〝救世主〟。

 最早どちらに転ぼうと大した差はない。ライにとって、その辺は『どうでもいいこと』に切り替わっていた。

 

 だからこそ、今の自分がある。

 だからこそ、大切なものが出来た。

 だからこそ──この世界で生きていけるのだ。

 

……〝信頼〟。いや、〝友情〟というやつか。……そんな不確かなものを信じるなど、愚かな……

 

 声に覇気がなくなりながらも、ディアボロスは現実を受け止めきれないでいた。

 ライは一つ大きなため息を溢すと、許容出来ない間違いを指摘するべく──魔神を鋭い視線で貫いた。

 

「勘違いするなよ。俺はコイツを『仲間』だと思ったことはないし、ましてや『友達』だと思ったこともない。ただ同じタイミングで死んで、同じ世界に転生したってだけの腐れ縁だ」

 

……ならば何故ッ! どうして貴様はその男の傍にいるッ!? ……なんなんだ、貴様は一体なんなんだぁぁァァァァァッ!!! 

 

 感情を乗せた魔神の叫びに、ライが口角を上げて答える。

 こんなやり取りも、一度ぐらいなら悪くない。隣に立つ笑顔のシドを横目で見ながら、そんなことを考えていた。

 

 

「そんなに知りたきゃ教えてやる。俺はトーアム家次期当主『ライ・トーアム』。そして【シャドウガーデン】副リーダー『ライト』。()()()()()()──」

 

 

 

 

 

 

 

「──『(シャドウ)の右腕』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 ライは真っ直ぐに言い放った。

 彼はその立ち位置にこだわりもなく、執着もなく、誇りもない。

 

 それでも彼は──『陰の実力者』の『右腕』なのだ。

 

「やっぱり、こうじゃなきゃね」

「うっせぇよ。クソ厨二」

 

 シドはシャドウに、ライはライトに、それぞれが魔力を解放。

 黒から真紅に、黒から黄色に、瞳の色が変化した。

 

 

「──我らは【シャドウガーデン】」

 

 

「「「「「陰に潜み、陰を狩る者」」」」」

 

 剣を天に向かって掲げたシャドウの声に合わせ、その場にいる少女たちが自らの存在を示す。完璧に揃った声が、魔神を更に追い詰めた。

 

「振り落とされてくれるなよ? ──ライト」

「抜かせ。必死になるのはお前だろ。──シャドウ」

 

 二人が身に纏っている漆黒のローブ。片方のローブには金色のライン、もう片方には銀色のラインが入っており、魔力の影響でも受けているのか神々しい輝きを放っている。

 

 大地は揺れ、ぶ厚い雲は渦を巻く。

 空気は激しく流れ、重力は一段とその重みを増した。

 

 世界の異常(バグ)たちによる、最終決戦が始まったのだ。

 

 

「さあ、終章(フィナーレ)だ。我が右腕」

「ああ。お前の言葉を借りるなら……こんな感じか?」

 

 

 青紫と白銀。

 それぞれの輝きを最大のものとし、彼らは並び立った。

 

 

 

 

 

「「──()()()()()()()」」

 

 

 

 






 さーて! 次回の『陰の右腕になりまして』は!

 「ディアボロスです。上手くいったと調子乗った結果、もう絶対に逆転出来なくなりました。相手が妖怪じゃなくて、普通の人間だったら良かったんですけどね。あの世に行ったら、教団の奴らに文句言われるんだろうな〜」

 「さて次回は──」

 【・シリアスにさよなら。
  ・バカ二人が全力を出せる環境作り。
  ・シャドウガーデンメンバー「できらぁっ!!」】

 「の、三本です。次回もまた見てくださいね〜。じゃんっ! けんっ! ぽん!」
 
  うふふふふふふっ(白目)。
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