陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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53話 決着つけようぜ

 

 

 

 

 

 前方には二人の妖怪。

 周囲には無力となった自分を取り囲むように立っている三百人以上の敵兵。

 

 魔神・ディアボロスは己の生存本能に従い、逃走を決意した。

 

クッ!! 

 

 ライに与えられた魔力を爆発させ、その場から急上昇。ロケットでも打ち上げたかのような速度だったが、魔力を与えてきた()()()()()に勝てるはずもなかった。

 

「逃す訳……ねぇだろ!」

 

ぐあぁぁぁぁァァアッ!! 

 

 地上から一瞬でディアボロスの真上へと移動したライト。

 物理的な接触が可能となったディアボロスにオーバーヘッドキックを叩き込み、地面に向かって蹴り落とした。

 

「──フンッ!」

 

グギィィィィイッ!! 

 

 ディアボロスが蹴り飛ばされた先に立っていたのはシャドウ。パスされた先としては最悪の相手だ。無駄な動きなく垂直に繰り出された蹴りは、飛んできたディアボロスを真上へと蹴り返した。

 完全にサッカーしようぜ〜! お前ボールな〜! 状態であり、ディアボロスは普通に泣いた。

 

ぐぴゃッ!!! 

 

 更に魔神の不幸は続く。

 久しく感じることのなかった激痛に襲われていると、上昇中に急停止。自分の状況を確認すると、()()()()()()()()()()()()()()()で拘束されていることが分かった。

 

 どうにか視線だけを鎖の出所に向けたディアボロス。

 そこには七人の女たち──【七陰】が険しい顔で立っており、短剣のようなものを自分に向けて鎖を発射していた。

 

 その正体、シェリー・バーネット制作のアーティファクト。

 ライトに不評だったことから『光陰(こういん)の鎖』改め──『陰の鎖』。

 

 対象を空間ごと完全停止させるという性能は、魔神の魂すら完璧に固定してみせた。

 

 だがしかし、こんな目に遭わずとも、どうせあのままでは上空で待機しているライトに二発目の蹴りを喰らうところだった。ボールにされるか、鎖に囚われるか、それだけの違いしかないのだ。

 

 

 ディアボロスは──考えるのをやめた。

 

 

「総員ッ! 魔力障壁を全力展開ッ!!!!」

 

 

「「「「「──了解ッ!!!!!」」」」」

 

 

 ディアボロスが思考を放棄した次の瞬間、アルファによる号令が響いた。内容はこの場にいる【シャドウガーデン】メンバーへの短くまとめられた指示。リーダーと副リーダーをサポートするため、自分たちに出来る最後の戦いだった。

 

 三百人以上の人間が魔力を合わせ、何十枚にも重ねたドーム型の魔力障壁を展開。内側に入っているのはシャドウ、ライト、ディアボロスの三名のみ。

 薄水色に光る美しい処刑台が完成したのだった。

 

「流石アルファ。気が利くな」

 

 地上にはシャドウ、上空にはライト。そしてその両者の間に固定されたディアボロス。これ以上ないと言って良いほどの舞台だ。

 

「──シャドウ。『ブシン祭』の時は邪魔されたからな。あの時の勝負、今ここで……決着つけようぜ」

 

 勢いが衰えることを知らない白銀の魔力と共に、ライトが遠く離れたシャドウへと語りかける。障壁内がライトの魔力によって徐々に満たされ始めると、シャドウもそれに続いて圧縮した魔力を展開した。

 

「望むところだ。──我が右腕」

 

 挑戦への返事は、当然のように快諾。

 既に、彼ら二人の目にはお互いの姿しか映っていない。

 

 魔神を倒すなど、彼らにとっては〝ついで〟でしかない。

 

 周りへの被害を考える必要はなく、持てる力の全てを解放出来るこの状況。気持ちは昂り、闘争心は激しく燃え、ただ目の前にいる相手に勝ちたい。

 

 シャドウとライトから流れ出た青紫の魔力と白銀の魔力が障壁内を完全に埋め尽くした。互いの魔力はぶつかり、混ざり合うことなく反発。遠目から見れば黒と白の『勾玉』のようにも見える光景となった。

 

…………グフッ

 

 ぶつかり合う魔力と魔力の中心にいるディアボロス。

 技を繰り出す前の前兆とも呼べる魔力だけで消えそうになっていた。最も内側にある魔力障壁ですらヒビが入るのだから、突然と言えば当然だ。

 

 そしてそんな状況を維持するため、歯を食いしばる者たちが居る。そう、魔力障壁を作り出している者たちだ。

 

「──ッ! これより【七陰】も魔力障壁の維持に参加ッ! 誇りに懸けて、最後まで絶対に守り抜きなさいッ!!」

 

 冷静な判断のもと、アルファが更なる指示を飛ばした。

 ディアボロスは魔力の渦に拘束されており、逃げ出す心配は必要ない。『陰の鎖』を解除し、魔力障壁の補強に専念した。

 

「……は、はいっ!!」

「わかり……ましたっ!!」

「……はっ、はいなのですぅッ!!」

「了解……しましたッ!!」

「分かってる……よッ!!」

「……き、きつい」

 

 世界的に見ても上位の実力者である【七陰】ですら、魔力回路に耐え難い負担が襲いかかってきた。ライトから魔力を与えられ、一時的な超強化を受けているにも関わらずだ。

 それでも、魔力障壁を壊す訳にはいかない。魔神を滅ぼすためでもなければ、世界を救うためでもない。尊敬する二人の男たちに、全力を出してもらえるように。

 

 少女たちは──意地を通すのだ。

 

「……ああ、最高だな」

 

 ふと、ライトが呟く。

 手には既に二本の『ホワイトスライムソード』が握られており、容赦なく注ぎ込まれる魔力によってスライムが悲鳴を上げていた。

 

 魔神を倒して世界を救う。

 誰もが賞賛するであろう偉業すら──()()

 

 これほどまでに贅沢な言い訳があるだろうかと、ライトは心底楽しそうに笑みを浮かべた。見なくとも分かる、地上に立っている男も同じように笑っているのだと。

 

 

「勝たせてもらうぞ。──シャドウ」

「勝たせてもらおう。──ライト」

 

 

 耳に響く重低音と共に、障壁内に充満していた魔力が主人のもとへと還る。一個人が所有してはならない力。世界そのものを破壊してしまうような、圧倒的な力の流れ。

 手加減という枷から外してもらった二人のバカは、遠慮なくこの時間を楽しんでいた。

 

 唐突に、雨が降り始める。

 雷が落ち始め、強風が山の木々を揺らす。

 大地は恐怖するように震え、天変地異を予告した。

 

 天に立つ、ライト。

 地に立つ、シャドウ。

 

 両者とも獰猛な笑みを浮かべると、持てる力の全てを剣に込める。

 そして、彼らは証明するのだ。

 

 

 自分の方が──()()()()()

 

 

「──〝アイ〟」

 

「──〝ソード〟」

 

 

 純粋で、凝縮された『陰』。

 純粋な、洗練された『光』。

 

 

「──〝アム〟」

 

「──〝イズ〟」

 

 

 

 シャドウは〝指揮者〟のように剣を、ライトは〝介錯人〟のように剣を振り下ろす。

 

 表と裏に位置する二つが──衝突した。

 

 

 

「──アトミックッッ!!!」

 

「──メテオッッ!!!」

 

 

 

 上からは『隕石』、下からは『核』。

 人智を超えた質量の力が接触、時空を歪ませるほどのエネルギーが発生した。

 

 中心にいた魔神など、とっくに消し炭。いや、炭すら残らず消え去った。

 

 頑張っているのは他でもない、【シャドウガーデン】だった。

 

「こ、堪えなさいッ!!!」

「うわあぁぁぁぁぁあんッ!!!」

「鼻血がァァァァぁぁあッ!!!」

「ぎやぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!」

「胸がァァァアァァァァッ!!!」

「勘弁、してよぉぉぉおッ!!!」

「………………………………むり」

 

 号泣、鼻血、悲鳴、紛失、文句、降参。

 アルファの言葉が耳に届くはずもなく、【七陰】のその他六名は魔力障壁へ両手を突き出しながらそれぞれの個性に合わせた反応を見せる。

 

 身体には電撃を流されているかのような激痛が走り、魔力回路が痺れるように痙攣。異常を警告する身体からのSOSでもあった。

 

 しかし、少女たちの願いも虚しく、バカ二人は止まらない。

 

 押し潰す『隕石』と駆け上がる『核』。

 莫大なエネルギーを保有する両者の衝突は更なるエネルギーを生み出し、混沌と称する他ない光景を作り出していた。

 

 そして当の本人たちは──。

 

 

 

「「──ハハハハハハッ!! まだまだァッ! 押せ押せえぇぇぇぇェェェッッ!!!!」」

 

 

 

 とても楽しそうであった。

 天地を引っくり返す力も、世界を滅ぼす力も、彼らにとってはただの全力でしかない。絶対に負けたくない相手を倒すための、全力でしかないのだ。

 

 己の力と唯一競える存在。そんな相手だからこそ、負けたくはない。

 意地という言葉すら通り越した〝なにか〟。

 

 二人の勝負は、そういう土台で出来ていた。

 

(なんて力……なのっ!! 耐えなさいっ! アルファ! 今が恩を返す時なのっ! お願い……どうか最後までっ!!)

 

 そしてそんな勝負をどうにか最後までさせてあげようと頑張る少女、アルファ。

 痺れる腕と身体を奮起させ、魔力回路を限界まで酷使する。自分が保有している魔力と与えられたライトの魔力、二つの魔力を合わせても魔力障壁を維持するには足りなかった。

 

 三百人以上の人間の心を一つに、魔力障壁を維持し続ける。

 何十枚も重ねていた障壁の残りは既に三枚。これ以上割られる訳にはいかなかった。

 

「──気合いよっ!!」

 

 最後まで凌ぐため、アルファが叫んだのは精神論。合理性の欠片もない指示に対しても、【シャドウガーデン】は魂で応えた。

 ヒビの入っていた魔力障壁が徐々に変化。破壊される速度を上回る速度で修復され始めたのだ。

 

(……も、保たせられるっ!!)

 

 障壁内部の衝撃を計算しても、このまま抑え込めると確信。

 アルファが僅かに浮かべた笑みを後悔したのは──それから数秒後のことだった。

 

「…………えっ」

 

 か細く、そして絶望に満ちた声がアルファの口から溢れる。

 莫大なエネルギーが荒ぶる障壁内で、アルファの目は捉えてしまったのだ。

 

 直接『剣』でぶつかろうとする──二人のバカを。

 

 

 

「「──シャドウォォォォォオッッ!!!!」」

 

「「──ライトォォォォォォオッッ!!!!」」

 

 

 

 魔力の渦を一直線に切り裂き、二人の剣は激突。

 

 逃げ場を失ったエネルギーは当然の如く──爆発した。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……ううっ。……一体、どうなったの?」

 

 温い風に頬を撫でられ、アルファが意識を取り戻す。

 鈍い痛みが走る身体をどうにか動かし、ゆっくりと立ち上がる。辺りは爆発の影響か平坦になっており、生きているのが不思議なほどだった。

 

「っ! ベータっ!!」

 

 近くに倒れていたベータに駆け寄り、声をかける。自分と同じように意識を失ってはいるが、それ以外には問題ないと判断。アルファは胸を撫で下ろした。

 

「ガンマ……デルタ……イプシロン……ゼータ……イータ……みんなも無事ね。良かった」

 

 あちこちに吹き飛ばされていた同胞の無事を確認し、アルファは歩き出した。目的は当然だが、魔神を倒せたかなどという分かりきったことではない。

 爆発を引き起こしたライトとシャドウを探すためだった。

 

「……ライトーッ! ……シャドウーッ!」

 

 身体への負担を無視して、アルファが大声を上げる。向かう先は魔力障壁で囲っていた爆発の中心。彼女はこの目で見たのだ。探し人二人が目の前で激突した瞬間を。

 

「……ッ! ……そんな、こんなのって」

 

 足を引きずりながら辿り着いた爆心地。

 アルファはそこに広がる光景──()()()()()()()()()()()を見て、思わず息を呑んだ。

 

「ラ、ライト……。シャドウ……」

 

 顔から血の気が引き、ぺたりとその場へ腰を落としたアルファ。

 足には力が入らず、立ち上がることは出来そうにない。

 

 名前を呼び、手を伸ばす。

 それでも、返事はなく変化もない。

 

 気付けばアルファは、自分でも驚くほど自然に涙を流していた。

 魔神が倒され、世界は平和になった。それはもちろん喜ばしいことだ。自分たちは長年、そのために戦ってきたのだから。

 

 しかし、その平和な世界に──彼らが居なければ意味が無い。

 

「……ライト。……シャドウ」

 

 止まる気配もなく、涙が流れ続ける。

 白い肌の上を滑り、乾き切った大地へと落ちていった。

 

「……私は。……私たちは。……貴方たちが居たから。居てくれたから……!」

 

 口に手を当て、悲しみを堪えるように泣くアルファ。

 砂埃で汚れた金髪が風に揺れ、キラキラと輝きを放った。

 

 アルファがもう一度大穴へ叫ぼうとした──次の瞬間だった。

 

 

 

「だからぁッ! 俺の勝ちだって言ってんだろッ!!」

「違うってッ! 僕の勝ちだからッ!!」

 

 

 

 聞き覚えのある声、聞いていて幸せになれる声が、アルファの耳に届いた。聞き間違えるはずがない、衝撃で涙もピタリと止まったのだから。

 全く力の入らなかった身体がすぐに動く。アルファは恐る恐るといった具合で大穴を覗き込んだ。

 

 視界に入ってきたのは白と黒の髪を生やした二つの頭。何やら言い合いをしながら崖を上へとよじ登って来ていた。

 

「お前は本当に負けを認めねぇよな! そんな小さい器で『陰の実力者』を名乗るなんざ笑わせんじゃねぇよっ!」

「あー! そう!? そういうこと言うんだ! へぇー!!?」

「あっ! てめっ! 頭掴んでくるんじゃねぇよっ! 落ちるだろうがっ!」

「そういうライこそ耳引っ張らないでよっ! 体勢が崩れるじゃんっ!」

 

 わーわーぎゃーぎゃーと、場の雰囲気をガン無視したやり取りにアルファの身体から再び力が抜ける。心配して損した、などという次元ではない。心配した時間を返して欲しいとさえ思った。

 

「……おっ、アルファ! 無事だったんだな。良かった」

「やあ、アルファ。お疲れ様」

 

 アルファが思考停止していると、ひょこっと崖から顔を出したライとシド。いつも通りの緩い感じで声をかけてきた。

 

「アルファ聞いてくれよ! このバカがまた負けを認めなくてさぁ! 今の勝負はどう考えても俺の勝ちなのに!」

「いーや! 違うね! 絶対に僕の勝ちだよ! どっちのスライムスーツがよりボロボロなのか一目で分かるでしょ!?」

 

 そして始まるいつもやつ。

 アルファは深いため息を溢した。

 

「それを言うなら下に叩き落とした時点で俺の勝ちだろ! お前は下から、俺は上から、同時にぶつかって結果的に下へ行ったんだ。俺が押し勝ったってことだろっ!!」

「下に落ちたのは同時に魔力が切れて飛んでいられなくなったからでしょ! ライが僕に押し勝った訳じゃないよっ!!」

「ああんっ!?」

「なにさっ!!」

 

 至近距離で睨み合う二人。とても魔神を滅ぼして世界に平和を取り戻した英雄の姿には見えなかった。英雄譚には書けないなと、アルファはどこか他人事のように思った。

 

「……ん? なに笑ってるんだ? アルファ」

「僕よりボロボロのライが面白いの?」

「まだ言うかお前っ!!」

 

 自分でも気付かない内に、アルファは笑っていた。

 世界の運命をかけた戦いのつもりだった。ここに居る誰もが、そうだと思い込んでいた。

 

 しかし、彼らは違った。

 彼らだけは、いつもと何も変わっていなかった。

 

 悲しみからくる涙ではなく、安堵からくる涙がアルファの瞳から流れる。

 

「ど、どうした? アルファ。腹でも痛いのか?」

 

 泣き出したことに動揺したのか、おろおろするライと首を傾げるシド。

 アルファは抑えきれない思いを存分に消化した後、これ以上ないほどに可愛らしい顔で口を開いた。

 

 

「……ふふっ。負けず嫌いにも……程があるわよ」

 

 

 どこにでもいる少女のように、アルファは笑った。

 

「……ぷっ、確かに」

「ははっ、本当だね」

 

 先程まで空を覆っていた厚い雲はライとシドの一撃によって大穴が空けられ、そこから暖かな光が差し込む。

 

 

 笑い合う三人を照らすかのように──祝福の光はいつまでも輝いた。

 

 

 

 





 ──次回、最終話です!
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