陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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最終話 『右腕』としてな。

 

 

 

 

 

 時間が経つのは早いもので、俺たち【シャドウガーデン】が魔神・ディアボロスを倒し、『ディアボロス教団』を壊滅させてから二年もの月日が流れていた。

 

 魔神と呼ばれる存在を倒したことで、この二年間はとても平和なものだったと言える。

 

 俺とシドは無事に学園生活を満喫し、三年生としての課程も終了。今は自由登校の期間であり、三年生の大多数は実家に帰っている。俺もそのうちの一人だ。

 まあ、明日は『ミドガル魔剣士学園』の卒業式だから、最後の登校になるんだけどな。

 

 そして俺はと言えば、実家である『トーアム家』を継ぐことが決まった。学生生活三年間で残した功績と成績、それらを合わせれば反対する者などいるはずもなく、俺は満場一致で当主に決まったという訳だ。

 

「……ふぅ。良い天気だなぁ」

 

 大きな木の下に設置した木製のベンチに座り、紅茶を啜りながら青空を見上げる。肌に心地良い風が吹く、なんとも贅沢な時間だ。

 

 しかも隣には──金髪美少女エルフもいる。

 

「ふふっ。幸せそうね。ライ」

「そりゃそうさ。俺はこの時間が一番好きだからな」

 

 一緒のベンチに座り、俺と同じように紅茶を嗜むアルファ。表情は柔らかく、気品のある所作は貴族令嬢にしか見えない。ティーカップをテーブルに置く時も無駄な音は立てないなど徹底している。

 

 左手の薬指には銀色に輝く指輪が嵌められており、俺とアルファがどういう関係になったのかを見て分かるようにしてくれている。

 

 そう、彼女はもう──俺のお嫁さんなのだ。

 

「……よっと」

 

 美人の嫁さんを見て悪戯心が芽生えた俺はアルファの肩に手を回し、自分の方へと抱き寄せた。

 

「……あっ」

「嫌か?」

「そ、そんな訳ないでしょ。……驚いただけ」

 

 かっわい。なんだこの子かっわい。

 肌が白過ぎるってのも考え物だよな。赤くなったら一瞬で分かるんだもん。まあアルファの場合エルフ特有の長い耳もあるので、余計に分かりやすいんだけど。前にメイド服を着てもらった時も真っ赤になって、可愛かったなぁ。てかメイド服似合い過ぎなんだよ。いや、何着ても似合うけど。

 

「……今、失礼なこと考えてるでしょ?」

「いや? 俺の奥さんは可愛いなって」

「──ッ! ……そういうことを、軽く言わないで」

 

 口に手を当て、恥ずかしそうに目線を逸らすアルファ。

 穏やかな日差しがそうさせるのか、僅かに体温も高い。

 

「……なんだか夢みたい。貴方とこうして過ごせるなんて」

「ああ、本当だな。こうやって落ち着ける家も建てたし、これからは当たり前の時間にしような」

「お、お義父様とお義母様は……渋い顔をしていらっしゃったけど」

「いいんだよ。当主としての仕事はするし、文句は言わせないさ」

 

 チラリと視線を向けたのは、最近になって俺とアルファが住み始めた木製の我が家(マイホーム)。一年ほど前から時間をかけて、手頃な森の中に建てた。良質な木材を用意するってことで、ガンマ含む『ミツゴシ商会』には世話になった。このお礼も、しっかりと返していきたい。

 アルファはエルフだから、人混みの中より森の中の方が落ち着くだろうしな。俺もどっちかと言えばうるさいのは嫌いだし。

 

 美人の奥さんに自然の中のマイホーム。

 まさに、順風満帆。もう死んでも良いと思えるほどに、幸せだ。

 

「……あれからもう、二年になるのね」

 

 俺の肩に頭を預け、アルファがどこか感慨深そうに呟いた。

 自分たちの力で手に入れた平和な世界。『悪魔憑き』として絶望していたのも今は遠い昔だが、ふと思い出すことはあるんだろう。それならそれでいい、アルファの隣には俺が居るのだから。

 

「そうだな。アルファたちが頑張ってくれたお陰だ」

 

 素直に礼を言ったつもりだったのだが、アルファは何故かむっとした表情を浮かべた。

 

「本当に頑張ったわよ。私たち全員、しばらくの間魔力が使えないぐらいに消耗したんだから」

「わ、悪かったって……。あの時は、俺もアイツもテンション最高潮だったからなぁ」

 

 未だにあの時のことは定期的に責められている。しかもアルファからだけでなく、他の子たちからもだ。言葉は柔らかくとも少々のトゲは感じるので、よっぽど大変だったのだろう。本当に申し訳ない。

 

「……でも、誇らしかったわ。初めて、貴方たちの役に立てたと感じたもの」

 

 胸に手を当て、嬉しそうな顔を見せるアルファ。

 自己肯定感の低さとかは変わっていないが、それも別に直す必要はない。何度も近くで言ってやればいいだけだ。何度も、何度でも。

 

 俺はアルファの手を引いてベンチから立たせると、すかさず足と胴体を腕で支え、そのままアルファの身体を持ち上げた。

 きゃっ、という可愛らしい声を上げたアルファを抱えたまま、俺はベンチを離れて太陽の下へと出た。

 

「俺は幸せ者だなっ! アルファが居てくれてっ!」

「ちょっ、ちょっと! 急に何を──」

 

 落ちないための反射的行動なのか、アルファが俺の服をぎゅっと両手で力強く握った。しかし表情に恐怖はなく、どちらかと言えば戸惑いといった様子だ。

 俺はそんな愛おしい彼女をお姫様抱っこしたまま、目が回らない速度でくるくると回転した。

 

「ありがとな! アルファ!」

「も、もう……。ふふっ。──私もよっ。ライっ」

 

 素直に気持ちを伝えられる。それがどれだけ幸せなことか、俺は身をもって実感していた。ずっとこうやって、穏やかに生きていきたい。心の底からそう思った。

 

 邪魔する奴がいるなら、たとえどんな手を使ってでも──。

 

 

「──すまない。新婚の邪魔をするつもりはなかった」

 

 

 叩き潰……せない相手もいるってことを、俺はこちらに向かって申し訳なさそうな顔を浮かべるエルフを見て思い知らされた。

 銀色の髪を風に揺らしながら、形の良い眉を下げる美人剣士──いや、〝()()〟と呼ばれる女性を見て。

 

「ベ、ベアトリクスさん……」

「お、叔母様……」

 

 いきなりの親戚登場に、俺とアルファが同時に固まった。

 理由はもちろん、イチャついているところを見られたからだ。普通に恥ずかしい。アルファが赤くなっているのは言うまでもなく、俺も多分赤くなっている。どうしよう、動けない。二度目の人生で初めて金縛りを経験した気がする。

 

「トーアム家を訪ねたら、こちらの屋敷に居ると聞いてな。顔を見ようと来た次第だ。邪魔をしてすまなかった」

「あ、あの! 全然大丈夫なんでっ! 何度も謝らないでくださいっ! こっちが恥ずかしいんでっ! あと、結婚して二年ぐらい経ってますから! 新婚って言うのやめてください!」

 

 すぐさまアルファを下ろし、急いで対応。この人はいつだって真面目だ。だからこそ受けるダメージというものがある。

 

「お、お久しぶりです。叔母様」

「ああ、三ヶ月ぶりか。元気そうでなによりだ。ア、アルファ」

 

 まだアルファのことを『アルファ』と呼ぶのに慣れていないようで、ベアトリクスさんはどこか歯切れが悪い。そもそも、彼女は頻繁に俺たちを訪ねてくる訳ではない。やはり、エルフという種族は時間の感覚がゆっくりらしい。

 

「新婚だというのに、お熱いな。叔母として、嬉しいよ」

「だから新婚じゃないですって!」

「そうだったな。すまない」

 

 この訂正も、何度したことか。

 

「ライ。これを君に渡すよう言われた」

「えっ? ……手紙か」

 

 ベアトリクスさんから手渡されたのは、一枚の手紙。

 今住んでいる屋敷には郵便物が届かないようになっているので、トーアム家の方に届いている。使用人の誰かから、俺に渡すよう頼まれたんだろう。

 

「ありがとうございます。ベアトリクスさんもお茶飲みます?」

「そ、そうね。美味しい紅茶があるんです」

「そうか。ありがたく頂くとしよう」

 

 再びベンチに移動し、ベアトリクスさん、アルファ、俺の順番で座り直した。

 

「──……げっ」

 

 開いた手紙を見て、思わず声が溢れた。元々、少しばかり嫌な予感はしていたのだが。

 

「どうしたの? ライ」

「何か問題か?」

 

 綺麗な顔が二つ、俺の方へと向けられる。こうして見ると、ちゃんと顔が似てるんだよな。初対面の時、私に似ていると言っていただけはある。

 まあ、アルファの方が可愛いって思ってるのは変わらないけど。叔母の人に対しては失礼だったな。

 

「い、いやぁ……面倒な内容だったんで。つい」

「「面倒な内容?」」

 

 綺麗に揃った声で訊ねられたので、手紙の内容を省略しながら説明。

 所謂──スカウトってやつだ。

 

「差出人はクレアだ。いつものやつだよ」

「……ああ、なるほど」

「クレア? クレアというと、クレア・カゲノーのことか?」

 

 ベアトリクスさんの言葉に頷き、俺は一つため息を溢した。アイツが学園を卒業してからこの手紙で三度目。本当に諦めが悪い女だな。

 

「騎士団へ入れって内容ですよ。何度も断ってるんですけどね」

「ほう、それは凄い。()()()()()()()()()()()()

「いやいや、ただのヤクザですよ。あれは」

 

 現在、『ミドガル王国』には二代巨頭と呼ばれる二つの騎士団が存在する。

 一つはアイリス・ミドガル第一王女が騎士団長を務める有名どころ──『(くれない)の騎士団』。そしてもう一つが『紅の騎士団』から独立したクレア・カゲノーが騎士団長を務める──『(あかつき)の騎士団』だ。

 

「……あのバカとの血の繋がりを感じて疲れる」

「そんなこと言わないで返事をしてあげて? クレアさんだって、受けてもらえるなんて思ってないわよ」

「だから面倒なんだよ。嫌がらせ以外の何ものでもないぞ。これ」

「それは……ふふっ、そうね」

 

 まあ、アルファが返事を書けと言うなら書くけどさ。

 

「ていうか、俺が居なくても十分なぐらい戦力は足りてるだろ」

「確かに。『暁の騎士団』には実力のある魔剣士が多く在籍しているな」

 

 ベアトリクスさんの言う通り、『暁の騎士団』は強い。ハッキリ言ってしまえば『紅の騎士団』よりもずっと強い。なにせ、メンバーがメンバーだ。

 

 騎士団長にクレア、副団長にはあのアレクシア・ミドガル第二王女だ。更に副団長補佐に至っては──何故かアンネローゼ・フシアナス。

 混ぜるな危険みたいな奴らが一つの騎士団に集結した。水と油だと思っていたが、どうやらそこそこ上手くやっているらしい。根っこが似た者同士だからかもな。

 

 特にクレアはここ二年で意味分からんぐらいに強くなった。身体に宿している『災厄の魔女』・アウロラさんの力を随分と使えるようになったからだ。俺も、本気を出さなきゃ勝てないかもな。

 そしてアウロラさんはたまに、クレアの身体を借りてシドとお茶してるらしい。不自由ながらも楽しそうにやっていて良かった。

 

「……はぁ。分かったよ。明日には書いとく」

「そうね。今日は色々と、()()()()()()

 

 アルファが入れ直してくれた紅茶を飲み干し、ベンチから立ち上がる。

 癒しの時間はここまでだ。そろそろあのアホに声を掛けに行かなきゃな。

 

「むっ。何か用事か?」

「ええ、そんなところです。アルファ、ベアトリクスさんと話してろよ。また後でな」

「分かったわ。私はベータたちと最終確認をしてから合流するから。また後でね」

 

 さて、学園卒業前の最後の仕事だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 アルファとの癒しを終え、俺は死んだ目でとある池に来ていた。

 別になんてことない、ただの池だ。アホが釣りをしていること以外は。

 

 良い感じの石に腰を落とし、木の枝で作った簡単な竿を手に持っている。寝癖のついた黒髪に、眠たそうな黒眼の男。

 

 切っても切れない俺の腐れ縁──シド・カゲノーだ。

 

「おい、何やってんだ。この池に魚はいねぇぞ」

「分かってないなぁ。釣れるかどうかじゃない、釣りをしていること自体がカッコいいのさ」

「お前を餌にして釣りでもしてやろうか」

「いだだだっ、会って早々アイアンクローはやめて」

「お前が俺に会って早々会いに来たことを後悔させるのをやめたらな」

 

 なんだよ、釣りをしていること自体がカッコいいって。迷走してんだろ、コイツの陰の実力者の価値観。

 

「わざわざ呼びに来てやったんだ。さっさと準備しろ」

「分かってるって。今日は久しぶりにみんな集まるみたいだしね。『ディアボロス教団』の残党狩り……ん〜、良いね。腕が鳴るよ」

「アルファたちが情報収集と作戦を立ててる。俺たちはそれに従って、いつも通りのお飾りやるだけだ」

「あははっ、相変わらず頼りになるね」

 

 親玉が魂になってまで生き残っていたように、残党たちも中々にしつこい。主力と呼べる力はないようだが、放っておく訳にもいかんだろ。不安材料は消しておくに限る。

 

「それにしても、よく全員集まったね。【七陰】も含めてさ」

「まあな。みんな忙しくしてるみたいだけど、今回の件には絶対参加するって意気込んでたらしいぞ」

 

 最終目標だったディアボロスを倒したことで、【シャドウガーデン】は実質解散した。メンバーたちはそれぞれに、新しい人生を歩み出したのだ。

 ベータ、ガンマ、イプシロンは今まで通り表の顔で生きている。小説家、商会の会長、音楽家。三人とも世界的に有名な存在となっており、求婚者が続出しているらしい。当たり前のように断っているみたいだけど。

 

 イータもシェリーと共に研究者を続けている。アーティファクトを改良し、様々な発明を成功させているみたいだ。公にすれば、現在の文明レベルを大幅に上げること間違いなしのとんでもないやつを。

 

「ふーん。デルタは?」

「楽しみにしてたぞ。今頃『ミツゴシ商会』でたらふく飯食ってんじゃねぇか?」

 

 狩りなのですっ! って張り切ってたからな。思う存分暴れさせてやろう。

 

「ゼータが一番驚いたよ。世界中旅してるみたいだしね」

「本当それな。自由にやってるよ、アイツは。……まあ、楽しんでるみたいだから良いけどな」

 

 ゼータもたまに、俺のところへ顔を出す。めちゃくちゃ極稀に、だが。もっと顔見せろって言っても、意味ないことは分かる。アイツはそういう奴だから。

 

「みんな思い思いに伸び伸びと、良いねぇ。人生はそうでなきゃ」

「お前は好き放題に生き過ぎだろ。もっと自重しろ」

「何言ってるのさ。前にも言ったろ? 僕は後300年は生きて『陰の実力者』をやるって。ライも付き合ってくれるって言ったよね?」

「言ってねぇよボケ。ぜってぇ嫌だって言っただろが」

 

 どうしてこう人の話を聞かないんだろう。何でもかんでも自分に都合良く変換しやがって、その耳千切ってやろうか。

 

「大体、300年も生きられるかっての。人の限界超えてんじゃねぇよ。死んどけよ、人として」

「でもさ、ライ。エルフの寿命って長いじゃない? アルファより先に死んで良いのかな」

「馬鹿野郎。300年でも500年でも生きてやろうじゃねぇか。俺は絶対アルファより後に死ぬ」

「うんうん。それでこそライだよ」

 

 なんか上手いこと乗せられた気がする。

 ていうか、そんな話をしに来た訳じゃねぇんだよ。

 

「おい、無駄話は終わりだ。そろそろ『ミドガル王国』に向かうぞ。遅刻なんてシャレにならん」

「そだね。じゃあ向かうとしよ……んっ?」

「なんだよ?」

 

 いきなり変な声を上げたシド。気になって手元を覗いてみると、釣竿の糸がこれ以上ないほどに張っていた。なんで? この池に魚なんて居ないはずなんだけど。

 

「とっ! ととっ! け、結構重いんだけど……」

「はぁ? 何を遊んでんだ。さっさと釣り上げろよ。危険な魔物とかだったら片付けておいた方がいいだろ」

「う、うん。そうなんだけど……っとぉっ!!」

「お、おいっ!!」

 

 嘘だろ。シドの力で引き上げられない魚なんているのか? いや、目の前にいるか。糸と釣竿は魔力で強化してるから切れないし折れないだろうけど、引き上げられないなら意味ない。

 

「……はぁ。おらっ! さっさと釣り上げるぞ! 時間ねぇって言ってんだろ!!」

「なんか楽しいね。ライ」

「もし遅刻したら、お前をこの池に沈めてやるからな」

 

 集合時間まで後三時間。

 集合場所に行くまでは二時間あれば余裕。まあ、大丈夫だろ。二人でやれば。

 

 

 俺たちが無事に魚型の魔物を釣り上げたのは──それから三時間後だった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……はぁ。……はぁ。……きっつ」

「いやぁ、ギリギリだったね。あははっ」

「笑ってんじゃねぇよっ!! どんだけ飛ばしたと思ってんだっ!!」

「大変だったねぇ」

「……なんでこうなるんだ。いつもいつも」

 

 時刻はすっかり夜。

 町の灯と月明かりが合わさり、とても幻想的な景色となっていた。こんな景色を見るのも久しぶりだ。【シャドウガーデン】としては、見慣れた景色なんだがな。

 

 今日は風が強い日のようで、高い建物の屋上に立っている俺たちは強風に襲われていた。シドからすればローブが良い感じに揺れて、嬉しい限りだろう。

 

「──静かな夜だ。今宵は我らの世界となるだろう」

 

 もうシャドウに切り替わってやがる。仮面までしっかり付けてるよ。

 

「なあ、シャドウ。俺が移動中にした説明、ちゃんと覚えてるよな?」

「愚問だな。……フッ」

「お前、本当に覚えてるよな? 頼むぞ? お前の尻拭いなんて御免だからな?」

 

 何故だろう。言えば言うほど、フラグが立っているような気しかしない。

 俺がもう一度説明し直そうかと思った瞬間、シャドウは眼を紅く光らせて、腕を組みながら高らかに声を上げた。

 

 

「──妥協は許されないッ!!」

 

 

 妥協。それは誰しもが経験したことのあるものだ。

 楽がしたいから、厳しいから、無理だから。理由なんて付けようと思えば幾らでも付けられる。

 

 でも、このバカは本当にしなかった。

 

 自分の憧れに正面から向き合い、馬鹿正直に走り続けた。

 誰もがやろうと思えばやれる、でも絶対にしないことを。

 

 コイツの辞書に──〝妥協〟なんて言葉は存在しないのだ。

 

「……分かってるよ」

 

 そんなこと、とっくの昔に分かってる。

 俺だけじゃなくて、お前に救われた全員がな。

 

「──心配ないわ」

 

 耳に届く、愛らしい声。だが普段とは違い、今日は凛としたものだった。

 俺は声の主であるアルファを見て、口元を僅かに緩める。

 

「既に包囲は完了している。奴らに逃げ場はない」

 

 シャドウと俺の後ろに、いつの間にか【七陰】全員が集結。

 久方ぶりの全員集合には、流石に笑みが溢れる。

 

「全て主様のご賢察通り」

「その遠慮深謀には、感嘆の言葉しか浮かびません」

 

 ガンマ、ベータが続けて褒め言葉。

 違うよ、コイツ何も知らないし考えてないよ。ただのアホだよ。

 

「久しぶりの大きな狩り! 楽しみなのですっ!」

「容赦はしないよ。思いっきりいく」

 

 今度はデルタ、ゼータの獣人コンビ。

 どちらも気合いは十分、やり過ぎないことを祈ろう。

 

「……うんうん」

「皆、主様たちの号令を待っています」

 

 いつも通り静かに頷くイータに、不適な笑みを浮かべるイプシロン。

 今回の作戦に参加するメンバーは総勢200人。その全員が配置に着いており、ちゃんと自分のやるべき事を分かっている。

 

 そう、一番前に立つバカ以外は。

 

「……フッ、良いだろう。──ライト」

「……ああ」

 

 何が良いんだよ、どうせ何も分かってねぇだろ、と言いたかったが取り敢えず頷いておく。

 口に出していない俺の言葉が聞こえるはずもなく、シャドウは掌に魔力を集中させながら、士気を高めるためか知らんが語り出した。

 

「我らが目指す頂きはただ一つッ! ──ゆくぞ」

 

 空へと飛び出したシャドウに続き、俺もその背中を追う。

 アルファたちにも僅かに視線を向けておき、頷くことで作戦成功を祈っておく。そんなことしなくても彼女たちは優秀だから、心配なんてしてないけどな。

 

 

 暗い夜空を、九つの光が駆ける。 

 

 

 その光たちが向かう場所は同じ──はずだった。

 

「……おい、シャドウ」

「どうした。我が右腕」

 

 俺は怒りを抑え込みながら、前を飛ぶバカに声を掛けた。

 事前に教えていた場所と、()()()()()()()()()()()()に。

 

「てっめぇッ! クソシドッ!! やっぱり話聞いてねえじゃねぇかッ!!」

「あ、あれ?」

「あれじゃねぇッ!! アルファたちとあんなに離れちまってるじゃねぇかッ! どうすんだッ!?」

「だ、だってこっちの方が月をバックにした時に映えるかなって……」

「こっのっ!! バカッ!」

 

 フードの上から頭を引っ叩き、コースの修正を試みる。

 まだ間に合う。いや、間に合わせなければ。

 

「シャドウッ! 急ぐぞッ!」

「ねぇ、ライト」

「ああっ!? なんだよッ!」

 

 全く焦りを感じていない声音で話し掛けてくるシド。いや焦れよ、原因お前だぞ? もう一発殴ってやろうか? 

 そんな俺の怒りをコイツが察してくれる訳もなく、こっちの苦労なんて微塵も考えていないように、軽く言い放った。

 

「──楽しいね」

 

 本当に、俺はいつかコイツを絶対にボコボコにする。

 何が楽しいねだ。楽しくねぇわ。理不尽な核爆発野郎に連れ回されて、恥ずかしいごっこ遊びに付き合わされる人生。

 

 とっととコイツより強くなって、俺は幸せな人生を歩むんだ。

 

「ばーかっ! 寝ぼけたこと言ってねぇで、さっさと追いかけるぞっ!」

「フッ。振り落とされてくれるなよ? ──我が右腕」

 

 もう言いたいだけだろ。その台詞。なんとも思わねぇよ。今更。どれだけ長いこと付き合ってると思ってんだ。

 

 だから、俺の口角は上がってないし、楽しんでもない。

 

 厨二病患者への防衛本能として、笑っているだけなのだ。

 

 

「……まあ、飽きるまでは付き合ってやるさ」

 

 

 

 この『陰の実力者』の──。

 

 

 

 

 

 

 

──『右腕』としてな。

 

 

 

 

 

 

 

『陰の右腕になりまして。』

 

 

 

──『完結』──

 

 

 

 




 これにて、完結となります!
 約一年半もの間、本当にありがとうございました!

 意図した訳ではないですが、5月5日の55話で完結となりました(笑)。

 完結記念に、よろしければ『感想』『評価』の方をよろしくお願いします!

 完結出来たのはこの作品を応援してくださった読者様のお陰です。高い頻度で感想をくれた人、高評価を入れてくださった人、お気に入り登録をしてくれた人。そして、ライ・トーアムというオリジナルキャラのイラストを描いてくださった方。この場を借りて、深く感謝を申し上げます。

 軽い気持ちで始めた二次創作でしたが、こんなにも多くの方に見てもらえる作品になるとは思いませんでした。
 お気に入り登録は3000ぐらいいけば最高だな……なんて思ってたらあっという間に超えてしまい、結局『10000』人を超える方にお気に入り登録をして頂けました。

 評価数は『600』を超え、感想も密かに目標としていた『1000』を超えました。いや〜、嬉しいですね。感無量です。

 面白い作品を書けたかは分かりませんが、書き始めた身としては完結させることが出来て嬉しいです。
 『陰の実力者になりたくて!』という作品を、皆様と一緒に楽しむことができ、本当に幸せでした。

 映画も控えていますし、これからも楽しみですね。

 それでは、ご愛読ありがとうございました!!
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