陰の右腕になりまして。 作:スイートズッキー
前書き失礼します!
この話はクリスマス記念ということで本編とは関係ありません!
時系列も無視しているので、特別編としてお楽しみください!
季節は冬、息も白くなり出した寒い時期。
その日、【シャドウガーデン】は慌ただしく活動していた。敵対組織である『ディアボロス教団』への対応に追われて──ではなかった。
「アルファ。会場の飾り付けはどうなってる?」
数十枚の紙がセットされたバインダーを手に持ちながら、難しい表情を見せるライ。制服は着用しておらず、ラフな私服姿だ。
「八割程が終了よ。明日までには間に合うわ」
「よし。じゃあ参加メンバーへの最終確認も頼む」
「分かったわ」
普段とは違い眼鏡をかけ、美しい髪を一本に纏めているアルファ。一言で表すなら美人秘書と言う他ない。
「ゼータから連絡はあったか?」
「少し手間取っているようね。攻撃的な魔物に妨害されているみたい」
「マジか……。ここは任せて良いよな?」
「ええ、大丈夫よ」
服の袖を捲り、ライが身体を魔力で強化。部屋の窓を開け、飛び出す前準備のように足を掛けた。
「すぐ戻る」
「行ってらっしゃい」
アルファの微笑みに見送られ、ライが外へ飛んだ。アルファは外から流れてきた冷えた空気に少し震えると、一息ついてから窓を閉めた。
「……張り切ってるわね」
腕を組みながらクスッと笑うアルファ。全体に指示を出しながら面倒事の解決にも積極的に関与、頼もしい副リーダーだと口元が緩む。
「アルファ様。準備が出来ました」
そんなアルファに声をかけたのはベータ。アルファと同じく眼鏡をかけているが、普段から使用しているためか全く違和感はない。
「ありがとう、ベータ。……私達も彼に負けていられない。ゼータは居ないけど、最後の仕上げをしましょうか」
「はい! シャドウ様とライト様に喜んで欲しいですからね!」
「ふふっ、そうね。──さあ、行きましょうか」
明日は遂に作戦決行日。数週間前から準備してきた成果を発揮する日だ。ライだけではなく、【七陰】と【シャドウガーデン】メンバー全員が真剣に取り組んできた。
──明日は忘れられない日になる。
そんな予感に少しだけ胸を躍らせながら、アルファはベータと共に笑顔で歩き出した。
「ほら、早く来い」
「なんなのさ〜、急について来いって」
魔剣士学園に入学してから初めての冬休み。実家に帰るつもりのない僕は同じく帰省しなかったライに誘われて、全く記憶にない城へと来ていた。
やけに霧が濃い森を抜けたり、山の上にある城なので険しい崖を登ってきたり。僕は何に誘われたんだ?
「着いたな。入るぞ」
「ちょっと、説明は?」
「中に入れば分かる」
どうやら事情を説明してくれる気はないらしい。僕は仕方なく、ライの背中を追って城の中へと入った。建物自体がそこそこ古いけど、どこも掃除が行き届いてて清潔感はある。
僕がキョロキョロと辺りを見回していると、長い廊下を一緒に歩いていたライが立ち止まった。目の前には豪華な装飾が施された扉がある。売ったら良い値段しそうだ。
「ここだ」
「入れって言うんでしょ。ここ最近忙しそうにしてたことと関係あるのかな?」
「流石はシャドウ様。その通りでございます」
わざとらしく様付けしてきたり、今日のライは少し機嫌が良いように見える。僕はそんな右腕に扉を開けるよう促されたので、大人しく従った。
「「「「「──メリークリスマース!!」」」」」
……えっ?
部屋に入った瞬間、あちこちからクラッカーが鳴らされる。僕は飛び出してきたカラフルなテープに襲われながら、少し思考が停止した。
「……えーっと。ライ? これは? なんかみんな揃ってるみたいだけど」
アルファ達【七陰】全員に、それ以外の子達も居る。ていうかこの部屋広いなぁ、僕が使ってる寮の部屋とは比べ物にならないや。
大きいテーブルの上には数多くの料理が並べられていて、高級ホテルのバイキングみたいだ。
「メリークリスマスって言われたろ? 【シャドウガーデン】全員で楽しむ、クリスマスパーティーの開催だ」
「クリスマス……パーティー?」
「最近はその準備をしてたんだ。お前をハブってな」
「笑顔で人を除け者宣言しないでよ」
「こういうパーティーとかしたことないだろ? 俺に感謝しろ」
「言葉にトゲを感じるんだけど?」
頭に乗ったテープを取りながら文句を言ってみるけど、ライはそんなのどこ吹く風。気にした様子もなく、僕の肩に手を置いた。
確かに前世ではこんなパーティーとかやったことはない。『陰の実力者』には余計なものだと切り捨てていたから。
「ほら、席に着くぞ。お前の席は……ふっ。あそこな」
「今笑ったよね? バカにしたよね?」
小馬鹿にした笑みを浮かべてライが指差したのは、王様専用なんじゃないかと思う程に金ピカにゴツイ椅子だった。趣味悪いよ、成金じゃん。
「ボスー! メリクリなのですー!」
「わっ、デルタ」
口を押さえて笑ってるライを睨んでいると、尻尾を振りまくりながらデルタが飛び付いてきた。本当に遠慮ないなぁ。
「デルタ。シャドウから離れなさい。これから食事よ」
僕に助け舟を出してくれたのはアルファ。やっぱり頼りになるね。デルタはアルファには逆らえないので、耳をしょんぼりさせながらも離れてくれた。
「さっ、飯だ飯だ。席に着け……ふっ」
「やっぱりバカにしてるよね?」
まあ良いさ。せっかく用意してくれたパーティーを断る程、僕は空気が読めない訳じゃない。ここまで来るのに割と本気ダッシュしてきたし、お腹も減ってる。大人しくライ達の厚意に甘えるとしよう。
「シャ、シャドウ様! そのローストビーフ、私が作ったんです! お味はどうでしょうか……」
「へー、これベータが作ったんだ。うん、美味しいよ」
「あ、ありがとうございます!!」
味の染みたローストビーフ。手間がかかってるなぁ。
「あ、主様! こちらのチキンは私が! ……召し上がってください!」
「ありがとー。うん、こっちも美味しいよ。イプシロン」
「も、勿体無いお言葉です!!」
肉厚なチキン。香辛料も効いてて、スパイシーだね。
「ボスー! これはデルタが狩ってきた獲物なのです! 一緒に食べよー!」
「はいはい。……うーん。ボリュームあるなぁ」
「美味しい!?」
「うん、美味しい。ありがとう、デルタ」
パァッと顔を輝かせるデルタ。僕からの感想を聞くと、嬉しそうに尻尾を振って残りの肉を食らい尽くした。ワイルドだねぇ。
「主様。こちらのワインは私が用意しました。お口に合えば」
「ありがとうガンマ。……うん。まろやかでコクがあるね。美味しいよ」
「……お褒めの言葉、光栄です」
次から次に運ばれてくる料理や飲み物はどれも最高級と言って良い物ばかり。よくこんなにお金かけられたな。
「なんだよまろやかでコクがあるって。味も分からないくせに」
「うるさいなぁ。ライだってそうでしょ?」
「俺はお前みたいに見栄を張る必要はないからな。気楽な右腕なんで」
そう言いながら、ライはオレンジジュースを飲んでいた。別に僕は無理をして見栄を張っているんじゃない。張りたくて見栄を張っているんだ。
「……にしても、あのクリスマスツリーなに? デカくない?」
「あれは私とライトで取ってきた。主、嬉しい?」
部屋の天井にまで届きそうな巨大クリスマスツリー。色鮮やかな電飾が付けられたそれは、どうやらゼータとライトが用意した物らしい。
「ライトアップはイータが担当した」
「ぶいぶい」
「綺麗だねー。ありがとう、ゼータ、イータ」
あまり顔を合わせる機会のない二人も、このパーティーのために尽力してくれたみたいだ。ここまで全員準備に関わってるのに僕だけ何もしてないと流石に少し申し訳ないな。
「シャドウ、ライト。貴方達に見せたいものがあるの。私達からのクリスマスプレゼントよ」
バクバクと食事を進めていると、アルファから声をかけられる。準備していた側のライも驚いていることから、予定外のイベントみたいだ。
アルファが手を叩くと、名前の分からない子達がテキパキと動き出す。すぐにテーブルが端に寄せられ、部屋の中心にスペースが出来た。
「何が始まるんだろうね」
「……いや、俺も分からん」
椅子に座ったまま、僕とライは首を傾げる。空けられたスペースに運ばれてきたのは数々の楽器。どうやらこれから始まるのは演奏会のようだ。中心に立つのは【七陰】達。彼女達が歌うのかな?
「シャドウとライト。私達のリーダーと副リーダーに日頃感謝を込めて、歌を届けるわ」
「この日のために練習してきました!」
「主様達に私達の気持ちを伝えさせて頂きます」
「デルタも練習したのです!!」
「音楽の力で、お二人の心を揺らしてみせます」
「……照れるけどね」
「うんうん」
部屋の明かりが消え、上からアルファ達にライトが当たる。演奏は他の子達がするようで、それぞれの楽器をスタンバイした。
「──始めるわよ」
アルファの合図で、【七陰】による合唱が開始。
それは色々な感情を削ぎ落としてきた僕ですら感動出来るものであり、隣で聞いていたライは歌が終わった瞬間に号泣した。
「……うっ、お……うぇ」
「はぁ。いい加減に泣き止みなよ」
「おまっ……だって……あんな……うぇ」
副リーダーの情けない泣き顔をメンバー達に見せ続ける訳にもいかないので、僕はライを連れて外のバルコニーに出ていた。
「……成長したなぁ。アイツら」
「母親みたいなこと言ってるね」
茶化すような発言をしたけど、ライの言うこともなんとなく分かる。小さい頃からの付き合いだし、彼女達は『悪魔憑き』だったんだから。あんな風に僕達への感謝を込めたような歌を披露してくれば、ライがこうなるのも無理はない。
「はぁー……落ち着いてきた」
「鼻水出てるよ。はい、ハンカチ」
「……サンキュ。お前は人の心無いんだったな。あれで泣かないとか可笑しいぞお前」
「感動してるよ? 本当に」
正直自分でも驚いているぐらいには感動してる。僕は自分の中で大切なものとそうでないものをハッキリと区別している。好き嫌いというよりかは『どうでもいい好きなもの』・『どうでもいい嫌いなもの』という感じだ。
「お前はアホな目標以外興味ないからな。どうでもいいなんとか〜ってやつだろ?」
「ははっ、ちょうどそのことを考えてたよ。流石は我が右腕」
「そういう奴だよ、お前は。……けど、【シャドウガーデン】のことは好きなものの中に入ってんだろ?」
呆れたように訊ねるライ。でもそれは違う。僕はしっかりと否定するため、首を左右に振った。
「どうでもいい好きなものじゃないよ」
「……じゃあ、なんだって言うんだ?」
若干視線を鋭くしながら、再びライが僕に訊ねた。不機嫌ではないけど、ご機嫌でもない。普段クールなくせに、こういう時は熱い男だなぁ。
「どうでもよくないよ」
「はぁ?」
「僕にとって【シャドウガーデン】は──『どうでもよくない大切なもの』さ」
「…………」
おっ、真顔で固まってる。久しぶりに見るなぁ、ライのこんな顔。
「……お前、そういうこと言える人の心とかあったんだな」
「失礼だな。君は」
心の底から失礼な発言をされる。一番付き合いが長い君に言われたら、流石の僕も少し傷付くんだけど。
「……そうか。……まあ、俺も似たような感じだ」
「パクリは感心しないね」
「うるせぇ。お前より俺の方がよっぽど【シャドウガーデン】を大事にしてるわ。お飾りのリーダーめ」
痛い所を突くなぁ。特に言い返す言葉も見つからず、僕は星の輝く夜空を見上げた。
「──じゃあ、僕達もお返ししようか。ねぇ? ライ」
「……お返し? ……なるほど。やるか」
詳しい説明もない僕の提案をすぐに理解してくれる。口には出さないけど、君が居てくれて僕は嬉しいよ。この世界に来て初めての幸運が何かと訊かれたら、僕は間違いなく君に出会えたことだって言うね。君が居なかったら、僕はここまで自分を高められなかった。
「始めようか。我が右腕」
「そうだな」
魔力を使い夜空へと飛び出す。手には魔力を集中させた魔力弾を用意し、パーティーへのお礼とする花火祭りを開幕した。
「いけいけいけ!!!」
「おらおらおら!!!」
青紫色の魔力と銀色が弾け、夜空を煌びやかに彩る。爆裂音を聞き、バルコニーにアルファ達を始めとしたメンバーが次々に顔を出す。それを確認した僕とライは更に魔力の出力を上げ、花火の大きさを引き上げた。
「ライー!」
「なんだー!?」
「最っ高だよね!!」
「なにがー!?」
ライの叫びに答えることなく、代わりに僕は特大の花火を打ち上げた。
メリークリスマス!
【七陰】が歌ったのはアニメのエンディング曲である『Darling in the Night』としてください!神曲です!
そしていつもこの小説を読んで頂きありがとうございます。こうして隙を見つけては書けているのも、日頃から感想やお気に入り登録、そして高評価をしてくれた読者様方のお陰です!
モチベーションが続く限り頑張るので、これからも応援よろしくお願いします!!