「おお〜っ! すげぇ並んでる!」
「流石の人気ですねぇ! 『ミツゴシ商会』!!」
放課後、俺とシドはヒョロとジャガに連れられ、最近人気の『ミツゴシ商会』に来ていた。ヒョロが言うには『チョコ』という菓子がバカ美味いらしい。……チョコって、まんまだな。
そのチョコを使って女子生徒とお近付き、それがヒョロの考えた『プレゼント大作戦』とのことらしい。成功率0の作戦に付き合う気にはなれなかったが、行き先が『ミツゴシ商会』ということで顔を出すことにした。
「楽しみだねー」
「へぇ、珍しく興味が湧いてるのな」
「まあねー、この世界のチョコとやらも気になってるんだ」
生み出されたきっかけが自分にあるなど欠片も思っていないシド。まあ、商品として確立出来たのはガンマが頑張ったからだけどさ。なんだよ、苦い豆を砕いて砂糖をぶっ込んだら美味いものが出来るぜーって。
「入店は八十分待ちでーす!」
看板を持って声を張るお店の人。てか入店するだけで八十分って凄いな、人気アトラクション並みじゃん。
「ど、どうします? 寮の門限にはギリギリ間に合いますけど……最近は辻斬りも出るって噂ですし」
「バーカ! ジャガバーカ! こっちには魔剣士が四人も居るんだぞ。しかもその内一人は特待生様だ。いざって時にはライに守ってもらえば良いんだよ」
「なるほど! そうですね!」
おいコラ。流れるように他力本願じゃねぇか。ジャガイモ小僧もそうですねじゃねぇわ。
「頼りになるなー」
アホ、お前は守る必要ないだろ。
(……ん?)
俺がため息をつきながら三人の背中に続き列に並ぶと、後ろからさっき呼びかけをしてた女性店員さんが声をかけてきた。
「お客様。失礼ですが、少しお時間よろしいでしょうか? アンケートへのご協力をお願いしたいのですが」
「分かりました。行くぞ、シド」
「えっ? なんで僕?」
「良いから来い。ヒョロ、ジャガ。お前達は中に入っててくれ」
困惑するシドの首根っこを掴み、笑顔で建物内へ案内してくるお姉さんについていく。ヒョロとジャガも引っ付いてこようとしていたが、お姉さんの怖い笑顔で黙らされていた。
「……どういうこと?」
「ついていけば分かる」
明らかに客が歩く用ではない階段を黙々と登り、扉を開けて最上階へとやって来た。状況が掴めていないシドは説明を求めてくるが、面倒なのでお断りする。
「こちらです」
外の離れにある建物に案内され、中に入る。何人ものエルフ美少女達が美しく整列し、頭を下げていた。相変わらずな様子に少し引いている俺と、訳が分からず困惑しているシドを出迎えたのは──見知った顔の女性だった。
「ご来店を、お待ちしておりました。主様」
「ガンマじゃないか。あー、ここ君の店なんだ。ライは知ってたんだね」
「まあな。『ミツゴシ商会』は【シャドウガーデン】のフロント企業だ。なっ、ガンマ」
「はい。主様よりお聞きした叡智の一部を、微力ながら再現させて頂いております」
黒いドレスを身に纏い、レッドカーペットの敷かれた階段の上から頭を下げるガンマ。【七陰】の第三席であり、【シャドウガーデン】最高の頭脳を持つ少女だ。この『ミツゴシ商会』でも会長を務めており、数多くの商品を開発している。
そんな彼女の二つ名は──『最弱』。
何故組織の幹部であるガンマがそう呼ばれるようになったのかを、俺とシドはすぐに再確認することになった。
「ぴゃっ! ぶじゃっ! あぁっ! ぐへぇっ!」
階段をゆっくりと品のある歩き方で降りようとしたガンマ。三歩目までは最上位貴族の令嬢にも負けない美しさだったのだが、足を滑らせて落下。痛々しい4コンボを決め、レッドカーペットに顔面を思いっきり衝突させた。
「……お、お久しぶりでございます。主様、ライト様」
「鼻血出てるよ」
「ほら、動くな。ハンカチ」
「……申し訳ありません」
何もないところで転ぶ天才、ガンマ。戦闘の最弱さに於いては右に出る者が居ない程だ。俺はハンカチでガンマの鼻血を拭きながら、顔に傷などが出来ていないかを調べる。まあ最弱と言っても【七陰】だから、頑丈さは飛び抜けて高いんだけど。
「お、お見苦しいところを……。それより、お二人ともこちらへどうぞ!」
ガンマが服に付いた埃などを世話係のエルフ達に払ってもらうと、俺達に向かって階段の上へ上がるように言ってきた。見ればそこには無駄に豪華な椅子が置いてあり、王様ごっこでも出来そうなセットだ。
「おお〜、良いね。いくよ、ライ」
「……えっ、俺も?」
ノリノリなシドに言われ、俺も階段へと足をかける。
シドは躊躇うことなく椅子に腰を落としたので、俺は取り敢えず一定の距離を取って右側に立った。
「ああ……!」
「素晴らしいです……!」
「主様とライト様が……!」
なんかめっちゃ感動されてる。すっげぇ恥ずかしいんだけど。
(シドは……満足そうな顔だな)
どうやらアホはご満悦。足を組み、ニヤケ面を隠そうともしていない。楽しそうでなによりだ。褒美だとか言ってシャドウの口調で魔力をプレゼントしてるぐらいだし、思ったより嬉しかったんだろうな。
「ところでこの店……結構稼いでる感じ?」
(シャドウの声でそんなこと言うなよ)
金貨のために犬になった男、金に関してはがめつい。
シドの下心ある問いにもガンマは笑顔を絶やさず、片膝を付きながら商会の説明を始めた。
「はい、経営は順調でございます。活動資金も──10億ゼニー程なら即座に運用可能です」
「じゅ、じゅ、じゅ! イギッ!!」
「凄いなガンマ。シャドウも喜んでるぞ」
見苦しい顔と声を晒しそうだったので、シドの足を遠慮なく踏みつけて黙らせる。10億分の金貨が目の前にサラッと出されたんだ。気持ちは分からなくもない。王女のポチ何回分だよ。
「ちょっ……ガンマ、少し待て」
「は、はい」
「ライト、話がある」
冷や汗をダラダラ流したシドに呼ばれ、俺は椅子の後ろへと行く。そこでシドと共にしゃがみ込み、小声で会話を開始した。
「なにこれ? なんでこんなことになってるの? 僕の知らないところで」
「そうか、俺は知ってたぞ」
「なんで教えてくれないの!? 僕の知識を使ってぼろ儲けしてたってことじゃないか!」
「うっせーなー。こんな豪華な椅子に座らせてもらったんだから良いだろ」
「それはまあ……そうなんだけど」
確かに知識を教えたのはお前かもしれないが、それを全て形にしたのはお前じゃない。諦めろ、陰のポチ。
「あ、あの……? 何か問題でもございましたか?」
「いや、何でもない。シド──シャドウはお前達の努力を誉めている。えーっと……『陰の叡智』を与えたことを喜んでらっしゃるのだよ」
どう言い訳すれば良いか分からず、俺の口調もよく分からんことになった。
「ああ! もったいないお言葉です!」
(ちょろいなぁ〜)
取り敢えず誤魔化せたようで一安心。本当はシャドウが金に反応しただけなんて絶対言えないよな。
俺が隣に座り直したバカに白い目を向けていると、感動し終えたガンマが真剣な表情で口を開いた。
「主様達が来訪された理由は察しております。……例の事件についてですね?」
「えっ? ──ああ、そうだ」
(えっ? 何それ)
シャドウが即答したので俺も思わず頷いたが、何のことだかさっぱり分からん。てかシャドウ、お前も分かってねぇだろ。
「最近王都に現れた人斬り。奴等は【シャドウガーデン】の名を騙り、犯行に及ぶ愚者共。現在捜査を続けていますが……未だ犯人は捕えられていません」
(あー、そういえばそんな話聞いたな。アイリス王女が言ってたっけ)
俺がこの間入団した『紅の騎士団』での報告会。そこでガンマから言われた事件の情報を聞いていたと今思い出した。
……俺達の名を騙るか。良い度胸だな。
「必ず我等の手で仕留めて──ッ!!」
「ライト、魔力を抑えろ」
「……ああ。……悪い」
少しイラついたから魔力が溢れたか。あっ、窓にヒビ入ってる。ごめん、給料貰ったら弁償するから。
「我が右腕がすまなかったな。その事件に関しては心当たりがある。一度我とライトで探ってみよう」
「ま、まさか! もう答えに辿り着かれたと言うのですか!?」
え、そうなの? 人斬りなんてお前知らないだろ。
(……どうすんだ?)
(前に僕を斬った奴さ)
口パクを読唇術で読み取り、声を発さずに短く意思疎通。これもカッコいいからとシャドウに無理矢理練習させられた技術だ。スタイリッシュ開封とは違って、割と役には立つ。
(……あれか。アレクシア王女にぶった斬られたやつ)
あれは久しぶりにビビったな。シドが俺の肩を叩いてきて、振り返ったら殺人事件の被害者だ。あの下水道で大人しくアレクシア王女を降ろさなかったら同じ目に遭わされてたのかな。
「……まあ、その可能性は無い方が良いけどな」
そもそも何故かアレクシア王女も『紅の騎士団』に入ってるんだよな。そしてまたまた何故か俺は嫌われている。接点とかも特に無いのに。一度だけしたアイリス王女との模擬戦を見られていたことぐらいだと思う。ライトの時といい、俺は無意識にあの子の地雷とかを踏んでるんだろうか。
「ライト様まで……もう主様の考えを理解されたのですね。……流石でごさいます」
うわ、なんかガンマが悲しそうな顔してるよ。違うんだって、そんな大したことじゃないから。血塗れになったコイツの制服、一緒に洗ってやっただけだから。
「……来なさい。ニュー」
「は、はい」
ガンマはどこか諦めにも似た笑みを浮かべた後、後ろに控えていた一人の女性を呼ぶ。見ればその女性は、俺とシドに声を掛けてきた案内係の女性店員さんだった。
「この子はニュー。新たな【ナンバーズ】です。まだ入った日は浅いですが、その実力はアルファ様も認めています。ご自由にお使いください」
「よ、よろしくお願いします」
「……用が出来たら呼ぶ」
めちゃくちゃ美人な上にウチじゃ珍しい人間のメンバーだってのに、シャドウは相変わらずの薄っぺらい反応。男だったらガンマの言葉に過剰反応するところだぞ。
「あっ、そうだ。チョコを買いたいんだけど。一番安いのを四人分」
そして呆れる程の切り替え速度。シャドウからシドに戻ると、ガンマへチョコを買いたいと言い放った。四人分と言ってることからヒョロとジャガの分も一応確保しておくようだ。
「チョコレート……? 最高級のチョコをご用意します! 10割引きで!」
「ええっ! つまりタダじゃん! ははっ! ラッキー!」
「まあ、ふふふっ」
和やか……かどうかは分からないが、久しぶりの再会はこうして無事に終了。シドはチョコを受け取ると、ガンマへ礼を言いながら出口の方へと歩いて行った。
「あれ? どうしたの? 帰るよ?」
「先行ってろ。ちょっとガンマと話がある」
「ふーん、分かった。早くね」
特に詮索されることもなく、シドは一人で建物を出て行った。こういう時、アイツの性格は楽だ。
「あの、ライト様? 私に何か?」
「ああ、言っておくことがな」
シドだけじゃなく、ヒョロとジャガも待たせるとうるさい。手早く終わらせて、さっさと戻ろう。
「
「……えっ?」
ガンマの頭に手を置き、整えられた美しい黒髪を撫でる。知らない間柄であればセクハラ案件だが、俺からすれば妹みたいなものなのでセーフだろう。セーフってことにしよ。
「あ、あの、あのあの、どうして私はライト様に撫でられているのでしょうか……?」
「ガンマが頑張ったからだ。……ガンマじゃなかったら、『陰の叡智』をここまで組織に役立てられなかったと思う。流石はガンマだ」
昔のガンマは戦闘で役に立たない自分を嫌っていた。どうすれば組織の役に、シャドウの役に立てるかを考え続け──
「俺には出来ないシャドウの支え方だ。本当に頑張ったな」
「……もったいない、お言葉です」
「泣くなよ。美人さんが台無しだぞ」
再びハンカチを取り出し、先程の鼻血が付いていない部分で涙を拭き取る。
「言いたかったのはそれだけだ。俺も行く。またな」
「はい! ありがとうございました!」
良い笑顔。少しは元気になってくれたみたいだな。やっぱりガンマは表情豊かな方が可愛い。
「それからこれ、返すよ」
「これは……金貨ですか?」
「ああ。
「そ、そうでしたか。ありがとうございます」
「確かに返したからな。じゃあまた」
「はい! またのお越しをお待ちしております!」
厚みがある一枚の金貨をガンマへと手渡し、シドを追うために走り出す。俺はエルフ美少女達に見送られながら、階段を駆け降りていった。
「急げって!」
「門限に間に合わなくなりますよっ!」
「分かってるって〜!」
「結構ギリギリだな」
ガンマの権限により無料でゲットしたチョコを抱え、俺達は寮に向かって走っていた。俺だけ寮は学園にあるが、途中までは道も一緒なので同じく慌てている。
「シド君とライ君が悪いんですよ! アンケートで美人のお姉様とイチャコラしてっ!」
「悪かったって〜、チョコあげたじゃん!」
アンケートへの協力による報酬、それがチョコを無料でゲット出来た言い訳だ。シドの「なんかくれた」よりは遥かにマシな言い訳だろう。組織が大きくなってからというもの、言い訳が上手くなった気がする。嬉しくねぇ。
「も〜、なんで返しちゃうかな〜」
人として悪い方向に成長したと悲しんでいると、シドが小声で未練がましく文句を言ってきた。
「アホ、当たり前だ。金貨をパクろうとしたんだ。立派な窃盗だぞ」
「……そうだけどさぁ」
俺がガンマに返した一枚の金貨。床に落ちていたというのは俺の嘘であり、本当はシドがこっそり盗ってポケットに入れようとしていたのを俺が盗み返した物だった。
「でも僕の知識使って儲けてるし、一枚ぐらいさぁ」
「お前がバカなことやってる間にもガンマ達は努力してたんだ。働いてもないお前に金貨を受け取る資格はねーよ」
まあシドが金をよこせと言えば、アイツらは心からの笑顔と共に金を差し出すのだろう。そうなることは分かっているが、俺は絶対にそれを阻止する。
「そもそもライさぁ、自分だけ騎士団に入って給料貰うとかズルくない? ていうか僕に相談すらせずに他の組織に入るってどういうことさ。君は僕の右腕なんだけど?」
「偉そうなことは給料払ってから言え。当然、特別手当付きでな」
金に関する嫌味を金に関する嫌味でカウンターして黙らせる。シドは言い返したいが言い返せないという顔をしており、中々良い気分だ。
「まっ、お前にそんな甲斐性がないことぐらい──ん?」
良い気分のままシドを煽ろうとした瞬間、俺の耳に剣と剣が交わる微かな剣戟が届いた。シドも気付いたらしく、表情を切り替えている。
「誰だ?」
「ライ、後は頼むね」
「は?」
俺が声を溢すのと同時に、シドが腹を押さえて膝から崩れ落ちた。
硬直する俺の代わりに声を上げてくれたのは、前を走っていたヒョロとジャガの二人だった。
「おい! どうした!? シド!!」
「間に合わなくなっちゃいますって!!」
急に立ち止まったシドが焦る二人に返した言葉は、本当にため息しか出ないような──文字通りクソな言葉だった。
「──ウ○コ……してくる」
限界なんだ。そこまで来てる。今すぐしないと走りながら垂れ流すことになる。そんなシドの言葉を聞きながら、俺は思った。
(右腕やめてぇぇぇぇええ)
一丁前に演技力だけはある男、ヒョロとジャガは簡単に騙された。
「それは……確かに大事だな」
「門限か尊厳かの問題です……」
上手いこと言うな。ちょっと笑ったわ。
「僕を置いて、先に行け。……誰にも、見られたくないんだ」
多分ヒョロとジャガを先に行かせたいんだろうけど、もうちょいマシな言い訳なかった? 野糞だったら門限どころか尊厳すら守れてないからな?
「頼む……ライ」
「……ヒョロ、ジャガ。行くぞ」
「で、でも!」
「シドを置いていくってのか!?」
「早くしろっ! ……シドの覚悟を無駄にするな」
とにかく早くこの場を離れたい。ヒョロとジャガとも別れて早く寮に帰りたい。俺はその一心で全力を以て演技した。
「……分かったよ。シド! お前が野糞したことは誰にも話さねぇ! 男と男の約束だ!!」
「シド君の選択は誰がなんと言おうと正しかった……そう思います!」
「二人とも。……行くぞ」
「お前のことは忘れねぇ!」
「たとえ野糞でも! ずっと友達です!」
涙を流して走り出したヒョロとジャガ。俺もそれに続くが、涙なんて流せる筈もない。いや、あんな奴が自分の上に立っているという事実には泣けるけど。
「「うわぁぁぁァァッ!!!」」
(良い奴ら……なのか?)
友達のために泣ける、という部分だけならそうなのだろう。コイツらが普通にクズであるにも関わらず憎めない理由が、なんとなく分かった。
(……やり過ぎんなよ)
俺のアイコンタクトに小さくサムズアップしたシド。
アホ、俺はお前の心配じゃなくて街への被害を心配しとるんじゃ。
(まあ、アイツも思うところぐらいあるか)
シドが別行動を取った理由は十中八九【シャドウガーデン】の偽物に関してだろう。俺には分からないが、あの剣戟からアイツにしか分からなかったことがあるんだと思う。
(……また面倒事が始まりそうだな)
次の日、シドが走りながらウ○コ垂れ流した男と噂されることになると──この時、俺はまだ知らなかった。
新年、あけましておめでとうございます!!
年が明けて最初の話が
たくさんの感想とお気に入り、高評価を頂けてモチベーションも上がっております。一言評価をしてくださった読者様方には返信でお礼を伝えられないので、更新することでお返しとさせてください。
一番嬉しいのは感想を頂けることなので、ぜひぜひ感想を書いてもらえると嬉しいです!!