鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回の主役は歴戦の駆逐艦にしてみました。そして…同僚の狸っぷりが、ついに露呈する日が来たかも…


第八七話 霞とアジの南蛮漬け

鎮守府  埠頭  霞

 

 

「また来たわ!勿論、まだガンガン行くわ!雪風はどうなのよ?」

 

「雪風の竿にも、また当たりが来ました!霞ちゃんも凄く釣れていますし…やっぱり今日は運が良いですね!」

 

「朝霜にも、また来たぜ!」

 

「浜風、そっちはどうだ?磯風の釣りの腕は伊達ではないぞ。」

 

「磯風には負けません。浜風も今日は…あっ、また当たりが来ましたね。」

 

久しぶりに、第二水雷戦隊の天一号組のみんなで朝から釣りに来たけれど、今日は凄く釣れるわ。釣れるのはアジばかりだけれど、これだけ釣れれば楽しいわね。初霜は朝から金剛さんに呼ばれているから、途中で来ると言っていたけれど、早く来ればいいのに!

 

「どう、みんな釣れているかしら?」

 

「凄く釣れているわよ!今日こそ矢矧さんには負けないから!」

 

「あら…私に釣りで勝負するつもりだったの?甘いわよ霞。」

 

うっ…凄い…。今日は霞達も凄く釣れたと思っていたのに、やっぱり霞達、天一号組の旗艦を勤める矢矧さんは凄いわね。霞達が全員で釣り上げたアジよりもたくさん釣っているなんて。ソロモン組の旗艦を勤める神通さんには、矢矧さんも負けるみたいだけれど、それでも私達全員で勝てないなんて…次こそは見てなさい!

 

「おぅ~、流石は矢矧さんだなぁー。それにしても、こんなにも沢山アジが並ぶと壮観だな!うん。あたいも驚いたぜ。」

 

「雪風、今日の食事が楽しみですね。矢矧さん、今日はこのアジで、どんな料理を雪風達に食べさせてくれるのですか?」

 

「矢矧、今日の料理はこの磯風も手伝おう。」

 

「磯風…そんな事したら、天一号組が全員入渠する事になりますから、止めてください。」

 

矢矧さんはこのアジでどんな料理をするのかしら。でも…矢矧さんは魚を捌くのは苦手だった気がするわね…なんだか嫌な予感がしてきたわ。…あっ…やっぱり。矢矧さんが露骨に視線を霞達から外したわ。…こんなにたくさん釣っちゃったのに…どうするのよ!

 

「わ…私は…ちょっと今日は気が乗らないから、みんなで魚を捌くわよ。まぁ、最悪能代姉ぇや神通さんを呼んできて、二水戦全員で食べてもいいのだから、大丈夫よ!」

 

そうよね…。どうせ、そんな事になるだろうな…って霞も思っていたわ。折角、私達が早起きして釣ったのに…。でも、今回は仕方ないわ。

 

「あら?もう釣りは終了しちゃったのですか?初霜もやっと金剛さんから解放されたのだけれど…。」

 

「初霜、もう~遅いわよっ!今日は大量に釣れすぎたから、もう終了。これから第二水雷戦隊の他の子達を呼んで、皆で料理するわよ。みんなを呼びに行くから、ついてらっしゃい!」

 

「えっ、私達で料理するつもりなの?霞ちゃん。」

 

えっ!はっ!?初霜は何を言っているの?自分達で料理しなかったら、誰が料理するってのよ。矢矧さんは魚料理だけは苦手だから、絶対に私達のために料理なんてしてくれないわ。初霜は時々頓珍漢な事を言うのよね…でも、いつのまにか初霜の言っていたとおりに物事が動いている事が多い気もするけれど…。

 

「初霜?あなた何を言っているの?私はやらないわよ!まぁ、いいわ。とりあえず何か考えがあるのなら、聞いてあげるから言ってごらんなさい。」

 

「あの…矢矧さん?初霜に考えがあるから任せて頂戴。でも…初霜の考えでは、このアジの量では足りないわ。もう少し釣らないと。」

 

「そう…。初霜に考えがあるのなら、今回は言う通りにしてあげてもいいかしら。」

 

相変わらず、何を考えているか分からないところがあるわね。でも、矢矧さんは何故か知らないけれど、初霜の言葉に頷いているし…。磯風や浜風、それに朝霜も頷いているわね。まぁ、今回は私も付き合ってあげるわ。

 

「まぁ、今回は私も初霜の言うとおりにしてあげるわ。雪風、もう一度勝負よ!」

 

「雪風は負けませんっ!」

 

 

釣れたわ…。こんなに釣ったのは久しぶりだわね。それにしても…さっきの状態でも料理が大変だと思ったけれど、こんなに釣って本当に大丈夫なの!?初霜はニコニコして頷いているけれど…そういえば、初霜は釣りに参加せずに何処かに行っていたけれど、何処に行っていたのかしら。

 

「まぁ、凄いわ。これだけあれば問題ないわ。さぁ、それじゃ釣ったアジを集めて運びましょう。」

 

「初霜?運ぶのは良いけれど、何処に持っていくつもりなの?」

 

「このアジを鳳翔さんの所に持っていきます。矢矧さん。このアジを全部鳳翔さんに渡して、代わりにこのアジを使った料理を、今日の夕食として食べさせてもらえば…初霜達全員が美味しい鳳翔さんの魚料理を食べられると思ったのだけれど…。」

 

ったく…どんな思考回路しているのよ…初霜は。って、そんな裏技、普通は思いつかないわよ!まぁ…初霜の作戦が当たれば、霞も今日は鳳翔さんのお店で美味しい魚料理が…べ…別に嬉しくもなんともっ!まぁ…矢矧さんや磯風達も嬉しそうだから、初霜を褒めてあげるわ。

 

「まぁ、初霜にしてはいい考えね…褒めてあげるわ。」

 

 

「鳳翔さん、初霜です。先程言ったアジを持ってきたわ。その…これだけの量ありますから…代わりに初霜達にここで今日の夕食を食べさせてもらえると…。」

 

「まぁ、凄い量のアジですね。たしかにこれだけあれば、今日アジを仕入れる必要はなさそうですね。初霜ちゃん、本当にありがとうございます。勿論、今日の皆さんの夕食くらいでしたら全く問題ありませんが…本当にお代はいらないのですか?」

 

「はい。初霜達は、鳳翔さんの美味しい料理が食べられれば、十分です。それに…お店に来る他の艦娘の皆さんが、初霜達が釣った魚を喜んで食べてくれれば、それで満足なの。」

 

ふぅ…霞では絶対に真似出来ないわね。さっきは、とんでもない思考回路を見せたかと思えば、今度はこんなに素直に善意を振りまく…。鳳翔さんは凄く嬉しそうな顔しているけれど…たしかにこんなに素直な善意を受け取れば、そう思うのも無理ないわね。…って、あれ?何か引っかかるわ。おかしいわね…。

 

!そうよ。初霜の言葉よ。あの子、どさくさに紛れて『初霜達が釣った魚』なんて言っていたけれど、初霜は一匹も釣っていないわ!…まさか、全部計算づく?…嘘でしょ!?あの普段ニコニコしている初霜が、そんな狸だったなんて…。とはいえ、流石に直には判断出来ないわね…。それに今この場で私が騒ぎ立てたら、私が全部悪役になる事は間違いないし…。今は大人しくしておいて、駆逐艦寮への帰り道で問い詰めないと。

 

 

 

小料理屋『鳳翔』  鳳翔

 

 

今日は私もついていますね。そろそろ今日の仕入れをするために、鎮守府から出かけようとしていたのですが、急に初霜ちゃんがやってきました。そして初霜ちゃん達が釣りをしていて、凄くたくさんのアジが釣れたので、お店で使ってくれないか?と言われました。アジは丁度今が旬の魚です。ですから、丁度今日もアジを仕入れる予定でしたから、私も二つ返事で了解しました。

 

そしてしばらくした後、初霜ちゃんを始めとして矢矧さんや天一号組の皆さんが、釣ったアジを持ってきたのですが、お店で使うには十分な量です。おかげで今日はアジを仕入れなくても済みそうですね。初霜ちゃん達は、このアジを渡す代わりに今日の夕食を食べさせて欲しいと言って来ましたが、勿論お安い御用です。いえ、それではあまりにも私が得をし過ぎてしまいますから、お代も渡そうと思ったのですが…初霜ちゃんに断られてしまいました。しかし一緒に居た矢矧さん達は頷いていましたが、霞ちゃんだけは少し難しい顔をしていましたね。おそらく、霞ちゃんだけは正当な報酬をもらうべきだ…と考えていたのかもしれません。ただ…その他の全員に押し切られてしまった…という事でしょうか。

 

霞ちゃんには申し訳ない事をしてしまった訳ですから…その分、今日の料理は美味しい物を出さなくてはいけませんね。これだけの量のアジ…どのように料理しましょうか。今日は幸いにも晴れましたが、全体的にはジメジメした時期ですし…どちらかと言えばさっぱりした味の料理にした方が喜んでもらえそうですね。アジを使ったさっぱりした感じの料理…そうですね、折角ですから南蛮漬けでも作ってみましょうか。この料理でしたら酸味を程よく感じる事が出来て、食も進むこと間違いなしだと思います。

 

さて、それではアジが大量にありますので、急いで捌かなくてはいけませんね。まずは包丁を入れてエラの部分を切り取ったら、腹の部分を割いてワタを取除きましょうか。この料理はワタの苦味が合いませんから、丁寧にワタの部分を取除かなくてはいけません。それではワタを取除いたら、一度水洗いをしてから水気をしっかり拭き取りましょうか。そして後から汁が染み込み易い様に、身の部分に浅く切り込みを入れて、塩と胡椒を振ります。

 

次は野菜の準備ですね。玉ねぎ、人参、ピーマン、そして味のアクセントを付けるための赤唐辛子を今回は使いましょうか。まずは玉ねぎを薄切りして、辛味を少しとるために2分程水にさらします。…そろそろ良いですね。それではざるに上げて水気を十分に切っておきましょうか。次は人参を千切りにして、ピーマンを横細切りにします。赤唐辛子はあくまでも味のアクセントとして使用するだけですから、これは小口切りにして一口で食べる量を小さめにしておきます。

 

…そうですね、折角ですから野菜の方にも爽やかさを感じさせるために、セロリも一緒に入れてしまいましょう。セロリが入りますと、野菜の方に非常に爽やかな風味が加わりますので、いつも以上に食べやすいアジの南蛮漬けになると思います。それではセロリの筋を引いて、一口大の大きさに切り分けたら、それを更に縦方向に薄切りにして、人参やピーマンなどと同様に長細い形に切り分けます。これで野菜に準備は完了ですね。

 

それではアジを揚げる前に、先程切り分けた野菜を先にタレに付け込んで味を染みこませましょうか。あまりタレの味に酸味が強すぎますと、食べ難くなってしまいますので、酢の量は気をつけなくてはいけません。それでは鍋に出汁、醤油、酢、砂糖、みりんを入れましたら、味を馴染ませるために一煮立ちさせて、これを底が浅い器に入れます。そしてこの中に先ほど切り分けた野菜を入れて、しっかり漬け込みましょうか。

 

さて、いよいよ下準備したアジの調理の番ですね。まずは軽く塩と胡椒を振ったアジ全体に片栗粉を薄く塗したら、180度程の油で一気に揚げます。アジの表面に細かい泡がパチパチ出てきており、良い感じに揚がりましたね。それでは揚げたアジを油から取りだし、軽く油を切りましたら、熱い内に野菜を漬け込んでいるタレの中にアジを入れて…時々引っくり返しながら、アジにも十分にタレを染みこませます。

 

…よい感じに漬けこめたでしょうか。勿論、このまま食べても十分美味しいのですが、個人的にはこのジメジメした時期に食べる料理ですから、冷した方が、味が馴染んで美味しいと思います。ですから粗熱を取除いたら、器ごと冷蔵庫に入れて十分に冷しておきましょうか。これでアジの南蛮漬けが完成です。先ほど少し難色を示していた霞ちゃんにも喜んでもらえると良いですね。

 

 

「いらっしゃいませ、皆さん。皆さんが釣ってきてくれたアジですが、南蛮漬けという料理にしてみました。今日は楽しんでいってくださいね。」

 

矢矧さんを先頭に、天一号組の子達が来店ですね。皆さん嬉しそうな顔をしていますし…先ほどは少し微妙な顔をしていた霞ちゃんも笑顔で来店ですね。どうやら、私の心配は杞憂のようでした。それでは他の料理の準備をする間に、準備が出来ているアジの南蛮漬けを楽しんでもらいましょうか。

 

「これがアジの南蛮漬けです。このジメジメした時期を乗り切れるように、少し酸味のある料理にしてみました。赤唐辛子も入っていますので、苦手な子は取除いて食べてくださいね。それでは召し上がれ。」

 

 

 

駆逐艦『霞』

 

 

ふぅ…。自分が嫌になるわ…。今日の午前中の鳳翔さんの店からの帰り道、初霜に文句を言ったのだけど、矢矧さんはおろか、周りの駆逐艦の子達からも怒られてしまったわ。朝霜からは『初霜は、あたい達夕雲型姉妹にいつも気を使ってくれる優しい子さ。夕雲姉さんも初霜の事を凄く信用しているんだよな』と言われるし、磯風や浜風からは『初霜は、金剛さんにも信頼されている真面目な子ですよ』と言われて、矢矧さんからも『初霜は普段から真面目に頑張っている子よ?今回だって、良いアイデアを出して私達を全員幸せにしてくれたでしょ?』と窘められて、挙句の果てには初霜自身から『ついつい言葉のあやで、鳳翔さんにはあのように説明してしまったけれど、霞ちゃんが気を悪くしたのだったら、謝るわ。本当にごめんなさい』なんて言われたら、流石の霞だって申し訳なかったと思うわよ!まぁ…雪風の『初霜ちゃんは、雪風によくお菓子をくれる良い人なんですよ!』というのは、それって買収じゃないの?って思ったけどね。

 

たしかにあの一言だけで天一号組の仲間を疑ったのは、霞の間違いだったわ。最近ちょっと疲れていたのかもしれないわね…。それもこれも、あの司令官の艦娘使いが荒いからよ!今度文句を言ってやるんだから!…まあ、実際にはそんな文句言えないけれど…あれだけ効率よくいつも作戦を遂行しているし…。い…一応私だって、司令官が頑張っているって理解しているんだから…。

 

あーもう、馬鹿な事考えていたらお腹が空いてきたわ!折角霞達が釣ったアジを、あの鳳翔さんが料理してくれたんだし、もう何も考えないで食べるわよ!どう見ても、普段鎮守府食堂ではお目にかかれないような美味しそうな料理だし、楽しみだわ。えっと…南蛮漬け…だったかしら?揚げたアジを汁に漬け込んだ料理みたいね。野菜もたっぷり入っているようだし、どんな料理かしら。

 

まずは折角だからアジから食べないと…むぐっ…あっ…美味しい。何これ…。全然想像していた味と違うわ。アジは揚げ物になっているから、少し油っぽいかな…と思っていたけれど、表面から染みこんだタレの甘酸っぱさが、心地よい味と香りを口の中に広げてくれて…揚げ物の筈のアジがあっさり食べられるし、凄くアジが柔らかくなっていて食べやすいわ。それに、しっかり料理が冷えているのも凄く味と合ってる…。これだけしっかり冷えていて、尚且つ心地よい酸味があると…どれだけでも食べられる感じがするわ。

 

あっ…アジだけじゃダメよね。折角野菜も一緒に入っているのだから、こっちも一緒に食べないと。野菜は…玉ねぎに、人参にピーマン…それとこれは…セロリ?かしら。とりあえず今度は野菜をアジの上に乗せて一緒に口の中に…。嘘でしょ…野菜がこんなに甘く感じられるなんて。甘酸っぱいタレの力もあるのだと思うけれど、玉ねぎも人参も…それにピーマンも凄く甘く感じられるわ。それにやっぱりこれセロリだわね。噛んだ瞬間に口の中に広がる爽やかさが、元々ほとんど臭みを感じさせないアジの部分を更に食べやすくしてくれるわね。野菜の歯応えも、アジと凄く違っていてこれも良いわ。

 

きゃっ!しまった…鳳翔さんが注意してくれていたのに、赤唐辛子をしっかり噛んじゃったじゃない!でも…このピリッとくる味も凄くこの料理に合っている気がするわね。最初は酸味を心地よく感じていた舌が、食べ続けるうちに慣れてしまっていたけれど、今の鋭い刺激でまた味に緊張感が出たような気がしたわ。これならまだまだ食べられるわね。こんなに美味しい料理が今日食べられて、本当に霞は幸せだわ。そういう意味では、このような機会を作ってくれた初霜と、料理を作ってくれた鳳翔さんには感謝しないといけないわね。さっきは本当に初霜には申し訳ない事をしてしまったわ。

 

「鳳翔さん、この料理凄く美味しいわ。これならどんどん食べられる気がするわね。それと初霜、さっきは本当に悪かったわね。こんなに美味しい料理が今日食べられたのは、初霜のおかげだわ。…ありがとう。」

 

 

 

鳳翔

 

 

どうやら霞さんにも喜んでもらえたようですね。それと…初霜ちゃんと何かトラブルがあったのでしょうか?とはいえ、初霜ちゃんはいつもどおりニコニコしていますし、霞ちゃんに対しても『別に初霜は気にしていないわ』などと言っています。初霜ちゃんの答えを聞いた限りでは、何か霞ちゃんが勘違いしていただけのような気がしますので、特に大きなトラブルという訳でもなさそうですね。

 

さて、皆さんアジの南蛮漬けを喜んでくれたようですし、私の方も他の料理の準備が出来ました。それではここからは、アジの南蛮漬け以外の料理も味わってもらいましょうか。折角このような美味しいアジを大量に持ってきてくれたわけですし、今も他の艦娘の子達がアジの南蛮漬けに舌鼓を打っている訳ですから、皆さんには本当に感謝しかありませんね。

 

「鳳翔、鳳翔。アジの南蛮漬けを追加なのじゃ。我輩、あれだけではとても足りぬぞ。しかし…このアジは、矢矧や初霜達の天一号組が釣ってきたのじゃな。なる程…我輩も明日少し釣りがしたいのぉ~。筑摩ぁ~、明日は我輩も釣りに行きたいのじゃ~。」

 

「はい、姉さん。今日の夜の内に準備をしますね。」

 

「うむっ!これで我輩、明日もアジの南蛮漬けが食べられるのじゃ。あ、そうじゃ。お主等に礼をせねばならんのぉ~。こんなに美味しいアジを釣ってきてくれたからこそ、今日我輩はこのような美味しい料理が食べられたのじゃからな。そこの戦艦や空母どもも、我輩と一緒に矢矧達に礼をするのじゃ。とはいえ、今日は鳳翔が、お主等に食事を既にご馳走する事になっておるようじゃし…礼をすると言っても、どうしたものやら。」

 

「それなら、折角だから私達に甘い物をご馳走して欲しいわね。『勿論』皆もそれでいいわねっ!はい、決まりよ。」

 

矢矧さん…躊躇せずに利根さんの言葉に反応しましたね。まぁ、矢矧さん指揮下の駆逐艦の子達も矢矧さんの言葉に頷いていますから問題ありませんが、『勿論』の部分に強い意志が込められていましたから、たとえ反対する子が居たとしても、有無を言わせないという感じでしたね。まぁ、皆さんそれで納得しているようなので結構な事なのですが。

 

「わ…分かったのじゃ。矢矧、そんなに強く言わんでも、我輩達がちゃんと全員分奢ってやるぞ。」

 

「ありがとう、利根さん。ただ…出来れば、その…急いで奢ってもらえると嬉しいのだけれど…。具体的には神通さんと能代姉ぇが来る前に…」

 

困ったものですね。先ほどまで嬉しそうな顔をしていた駆逐艦の子達が、矢矧さんの言葉に緊張した表情を見せました。おそらく全員が、神通さんや能代さんに内緒で甘い物を食べる事が何を意味するのか、よく理解しているようですね。

 

「ほ…鳳翔さん、急いで甘い物を霞達に出してよ…。こんな所を神通さんや能代さんに見つかったら…あっ…」

 

「霞さん?私達に見つかると…何かあるのですか?」

 

「矢矧…とても楽しそうな事になっているようですね。私達に内緒で食べる甘い物…さぞかし美味しいのでしょうね…。」

 

甘い物あるところ二水戦の旗艦ありとは良く言ったものです。甘い物が出てくる雰囲気に誘われたのか偶然なのか知りませんが、神通さんと能代さんも来店ですね。以前にもこのような事があったように思うのは私の気のせいかもしれませんが、矢矧さん…目が泳いでいますよ。別に悪いことをしている訳ではないのですから、もう少し堂々としても良いと思うのですが…。

 

「さて…何度も同じことを繰り返している矢矧さんには、少し…あちらでO・HA・NA・SHIをしないといけないようですね。」

 

「貴方達、申し訳ないですけど、少し矢矧を借りていきますね。」

 

あらあら…怖いほどの笑顔の神通さんと能代さんが、矢矧さんを両脇から抱えるように連れ出そうとしていますね。そして能代さんが、一応駆逐艦の子達に矢矧さんを連れ出す了解を取っているようですが…歴戦の駆逐艦揃いの天一号組の子達が全力で頷いています。

 

「ちょ…ちょっと貴方達、何頷いているの!私を助けなさいって。えっと…その…神通さん?これにはその…深い訳があって…別に神通さんに内緒で甘い物を食べようとした訳ではないのよ?能代姉ぇも、その…ちょっと落ち着いて…。ちょ…ちょっと!貴方達、何知らない振りして、甘い物を食べてるのよ!」

 

「矢矧さん?それにしては、私達が来る前に急いで甘味を食べてしまおうと言っていたように思いますが…。私達が今日来店する事は、矢矧さんも知っていた筈ですから、私達が来てから一緒に同じ甘味を食べても良かったと思いますよ…。」

 

「鳳翔さん、すいませんが矢矧にお説教…じゃなくて、『厳重に』注意したいので、能代達にあちらの座敷を使わせてください。」

 

たしかに言われてみれば、神通さん達が来る事を知っていたのでしたら、神通さん達が来てから、奢ってもらった甘味を一緒に食べても問題はなかったと思います。にもかかわらず、神通さん達が来る前に甘味を食べてしまおうと考えたのは…おそらく奢ってもらった甘味はカウントせずに、改めてもう一度自分の注文で甘味を食べよう…と考えていたのでしょうね。あまり欲を出すと失敗するという良い例なのかもしれません。

 

さて…一瞬緊張が走りましたが、残された駆逐艦の子達は嬉しそうに甘い物を食べていますし、この子達にとっては、今日はとても良い日になったのではないでしょうか。今日も鎮守府は…一部を除いて平和なようですね。




どうやら腹黒駆逐艦さん、本性を隠すことに成功したようです。丁度近くに居たのが、自分の仲間内が多かったため(朝霜は夕雲を通じて、浜風&磯風は金剛経由で、雪風は買収済み?)、フォローが得られたという事もありますが、なんとか誤魔化せたようですね。

南蛮漬け、本当は昨年の梅雨の時期にでも出そうかな…と考えていた料理なのですが、なんだかんだやっている内に梅雨が終わってしまい…今年にずれ込んでしまった料理です。この料理凄くさっぱりしていて、この時期には欠かせない料理の一つだな…と思っています。あの酸味が食欲を増してくれるんですよね。一部のレシピでは、唐辛子を入れないタイプもあるようですし、セロリを使わない作り方もあると思いますが、やはり味のアクセントは重要だな…と思いますので、我が家ではアジの南蛮漬けの際は、この二つは欠かせない食材になっています。

今回の主役…誰にしようか少し迷ったのですが、そろそろ駆逐艦の順番だな…と思った事、そして久しぶりに二水戦の旗艦トリオを出したいな…と考えたため、天一号組の霞に決まりました。神通さん配下のソロモン組ですと、今回の話の最終部分のような形には絶対になりませんし(そもそも神通さんの意思が、二水戦では最優先ですからw)、能代さんの捷一号組でもちょっと違うな…と思い(能代さんは、ソツなくこなしていくタイプかな…と)、一番これまでやらかしている矢矧さんの天一号組から霞が選ばれた次第です。しかしまぁ…甘味が絡むと、神通さんが途端に駄目艦娘になってしまうのは…もうお約束です。

艦これのゲームの方、実は最近少し止まっていたりします。といいますか…リアルが忙しくなりすぎており、なかなかゆっくりゲームを楽しむ事が出来ず…本当に困ったものです。実は、明日から久しぶりのフランス出張も入っており、向こうの旧友達とフランス料理が楽しめるぞ!という嬉しさもありますが、これでますますゲームから遠ざかるというデメリットもあり…時間が欲しい!と切に願っている今日この頃です。そのうち外伝で、空母勢が鎮守府外のフランス料理屋に突撃して、やらかしまくる話でも書いてみようかな…とは思っていましたので、仕事の合間に次の外伝のネタを探せるかな…とは思っていますが(転んでも只では起きませんw)。

今回も読んでいただきありがとうございました。今回の感想返しはかなり遅くなると思いますが、ご了承ください。





アジの南蛮漬け(四人分)
アジ(小):16尾くらい
片栗粉:適量

玉ねぎ:一個
人参:1/2本
ピーマン:1個
セロリ:1本
赤唐辛子:1-2本(お好みで)

出汁:300 mL
醤油:60 mL
酢:100-120 mL (酸味はお好みで調整)
砂糖:30 g
みりん:50 mL

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