鎮守府の片隅で   作:ariel

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再び一話完結物に戻しました。今回は重雷装艦姉妹を妹に持つ球磨姉ちゃんの回になります。


第九話 球磨と冷しゃぶ

「鳳翔さん、うちの球磨姉ちゃんが、夏バテで食欲がなくてなっているニャ…早くニャンとかしないと、うちの家事の要でもある球磨姉ちゃんが倒れたら、私達姉妹も困るニャ…。だから、なんとか球磨姉ちゃんが食べられる料理を作って欲しいニャ…」

 

「…もう駄目だクマ…」

 

最近蒸し暑い日々が続いているため、特に駆逐艦や軽巡洋艦娘達の間で夏バテによる食欲減退や睡眠不足が問題になっています。ただでさえ大作戦を控えたこの時期、体調管理はしっかりしてもらわなくてはいけないのですが、これだけ暑い日が続きますとバテてしまう気持ちも分かります。

 

しかし、球磨さんを長女とする軽巡五姉妹が夏バテで次の作戦に参加出来なくなってしまいますと、非常に拙い事になります。長女の球磨さんは、軽巡洋艦の中では強力な火力を持っていますし、次女の多摩さんは特徴こそないものの纏まった力があります。そしてその下にいる妹三人は強力な雷装を持つ重雷装巡洋艦として、これまでの作戦では、ここぞという場面で投入されてきた切り札的な存在。ですから、これらの戦力が夏バテでごっそり抜ける事は避けなければいけません。まずは、球磨さんの現状確認からですね。

 

「球磨さん、食欲が全くないという事ですけど、きちんと水分はとっていますか?それと、いつもは鎮守府の食堂や巡洋艦寮では何を食べているのですか?」

 

「一応、水分は麦茶を毎日飲んでいるから取っていると思うクマ。食べ物は…この所暑くて、冷麦ばかりだったクマ…。面目ないクマ…。」

 

冷麦ばかりというのはいただけませんが、水分の方はちゃんと取っているようですね。

 

「姉ちゃん、嘘は駄目ニャ…。姉ちゃんの飲んでいた麦茶は、アルコールが入っていて泡だつ麦茶ニャ…。」

 

…問題外です。これでは、夏バテに自分から進んでなろうとしているようなものです。夏バテで食欲がなくなるという事は、冷たい物ばかりを飲んだり食べた事で胃腸が弱っているという事ですし、まともな物をしばらく食べていないようですから、栄養も偏っているはずです。たしかに、このままでは球磨さん達姉妹が夏バテで倒れるのは時間の問題ですね。

 

「球磨さん、あなたが倒れてしまったら、妹の面倒は誰が見るのですか?少しは長女としての自覚をもってもらわないと困りますよ。とはいえ、済んでしまった事をとやかく言っても仕方ないですから、今日は球磨さんが元気になるような食べ物を何か作りますね。それと…今日は麦酒禁止ですから、温かいお茶でも飲んでいてください。」

 

球磨さんは、しぶしぶと言った感じで、多摩さんに暖かいお茶をついでもらっています。さて、それでは球磨さんに何か作らなければならない訳ですが…栄養的には豚肉を食べさせるのが一番良いはずです。豚肉はビタミンも豊富ですから、夏バテにはもってこいのお肉です。とはいえ、球磨さんは完全に食欲を失っているようですから、コッテリした料理は出せませんし、少しでも食べやすいように酸味がある料理…そうですね…温かいお茶を飲んでいますから、料理の方は少し冷たい物でも大丈夫でしょう。

 

まずは、豚肉を薄くスライスしていきます。この時期に夏バテに効いて多少食欲がなくても食べられる料理…冷しゃぶです。冷しゃぶ自体は、豚肉を薄くスライスして、普通にしゃぶしゃぶを作ったら、ザルに入れて冷やしてしまえば出来上がりなのですが、大事なのは付け合せ。特に今回は、冷麦ばかりを食べて栄養状態が最悪の球磨さんが相手ですから、しっかり野菜も食べさせなければいけません。それに、食欲を少しでも復活させるためには、酸味のある味付けも必要です。

 

今日冷蔵庫に残っていて、冷しゃぶの付け合せに使えそうなもの…ミョウガに紫蘇の葉…レタスですか…これなら、サラダ仕立ての冷しゃぶが出来そうですね。あら…大根もありますね。この時期の大根はあまり辛くないですが、大根おろしは消化を助けますので、これも入れてしまいます。そうと決まれば、まずは付け合せの野菜を切って準備をしなければ。

 

「鳳翔さん…あまりコッテリした食べ物は食べられないクマよ…。」

 

「大丈夫です、球磨さん。今の球磨さんの食欲でもちゃんと食べられる物を作っていますから、安心してください。」

 

「そ…それならいいクマ。多摩、ついでに妹達もここに呼ぶクマ。折角だから、今日の夕食は鳳翔さんのお店で、みんなで食べるクマ。」

 

「それはいい考えニャ。早速呼んで来るニャ。鳳翔さん、という事で夕食を五人分作って欲しいニャ。」

 

五人分ですか…材料はなんとか…なりそうですね。それでは、早速作りましょう。まずはミョウガを薄切りにして…ミョウガのさわやかな香り…好き嫌いはあるかもしれませんが、冷しゃぶにはピッタリの野菜です。そして紫蘇は千切りにします。…これなら食欲を少しでも引き出してくれるでしょう。後は、大根を下ろす訳ですが・・・。最近、竹製の鬼おろしが手に入りましたので、これを使って今回は少し粗めの大根おろしを作ります。これを使うと、普通の金属で出来た下ろし金で作るよりも大根おろしが粗めに出来るため、食べ応えがあり、私自身も最近結構気に入っているのです。少し下ろすのが大変なのですが、それだけの労力に見合った大根おろしが出来る筈です。球磨さんも気に入ってくれるといいですね。後はレタスを適当にちぎってお皿に乗せて…これで準備完了。残りは冷しゃぶを乗せるだけですね。

 

五人分という事ですから、もう少し豚肉をスライスしておきましょうか。これを湯掻いて…ザルに取って後は水で冷やします。牛しゃぶとは少し違いますから、しっかり火を通さなくてはいけませんが、これだけ薄くスライスしてあればすぐに火が通りますから、あっという間に豚肉のしゃぶしゃぶが出来上がりました。

 

最後は盛り付けです。先程のレタスの上にしっかり水を切った冷しゃぶを乗せて…ミョウガと紫蘇の葉を乗せます。これに大根おろしをたっぷり乗せて…あっ、梅干がありましたから、これも少し叩いてから乗せてしまいましょう。酸味もそうですが、色合いも良いものが作りたかったので、丁度良かったです。後は上からポン酢をかけて・・・出来上がりです。

 

ミョウガや紫蘇の風味は凄く良いですし、それ程辛くない大根おろしですが、多少の刺激はありますし消化を助けてくれます。それに梅肉やポン酢の酸味も手伝ってくれると思うので、食欲がなくなっている球磨さんでも、問題なく豚肉を食べられると思うのですが…大丈夫でしょうか。

 

「鳳翔さん、こんばんは。大井っち、今日はまともな物が食べられそうだね~。本当に良かったよ~。」

 

「嬉しそうな北上さんが見られるだけで、私は元気になります。」

 

「こんばんは、鳳翔さん。球磨姉さんが世話になっているようで、助かったよ。俺も最近、姉さんが食事を手抜きしていて、少しバテ気味だったから本当に助かるぜ。」

 

一人だけ少し問題発言があったようですが、気にしたら駄目ですね?さて、球磨さんの妹達はまだ食欲があるようですから、ご飯やお味噌汁も出して、きちんとした食事を用意してあげましょう。

 

「皆さん、冷しゃぶを作りましたから、しっかり食べていってくださいね。それとご飯とお味噌汁、ほうれん草の御浸しもあるので…これも一緒にどうぞ。いくら暑くてもきちんと食べないと駄目ですよ。」

 

「鳳翔さん、助かるクマ。早速、いただくクマ!」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 

 

軽巡洋艦 「球磨」

 

 

はぁ…妹達の面倒を見なければいけない私が、こんな事になったのは本当に面目ないクマ。鳳翔さんにも怒られたけど、やっぱり毎日麦酒と冷麦だけでは、駄目だったクマね。おかげでここ数日、全く食欲も出ず、どんどん体力が削られていたクマ。今日は鳳翔さんのお店で、まともな料理を食べられそうだけど、今の私の状態で食べられるか、それが心配だクマ。とはいえ、妹達も来ているから、まずは一口だけでも食べてみるクマ!

 

む?鳳翔さんは冷しゃぶだと言っていたけど、肉が見えないくらい野菜が乗っているクマ。それにミョウガや紫蘇の爽やかな香りや、ポン酢や梅干の酸っぱそうな香りもしてくるクマ。これなら今の球磨でも大丈夫クマね。大根おろしもあるし、まずは上の野菜の部分を食べるクマ!

ハムッ…美味しいクマーー!。梅肉の酸味やポン酢の酸味が球磨の食欲を刺激してくれるクマ。それに、大根おろしは普通の大根おろしと違って歯ごたえもあるし、ミョウガのさわやかな味や、紫蘇の独特な香りや味もどんどん口の中に広がっていくクマ…この調子なら、ちょっと肉は駄目だと思っていたけど、問題なく冷しゃぶも行けそうだクマ。

 

しゃぶしゃぶは球磨も好きだけど、この冷しゃぶもいいクマね。薄い肉だから、どんどん食べられるし、上に乗っている野菜も一緒に食べると、口の中に広がる香りが最高だクマ!・・・折角だから、お味噌汁も少し・・・少しだけ食べるクマ!ふぅ~・・・ちょっと冷ための料理を食べていたから、お味噌汁を飲むと落ち着くクマ~。お味噌汁の具も、しっかり野菜や豆腐が入っていて、とても美味しいクマ。う~ん・・・なんか物足りないクマね・・・折角鳳翔さんが出してくれているから、ご飯も少しだけいただくクマ。あぁ~、久しぶりのお米もいいもんだクマ。冷麦もいいけど、お米の甘さには叶わないクマね。やっぱり、球磨は心底日本の艦だと思うクマ。む?あっという間に茶碗のお米もお椀のお味噌汁もなくなってしまったクマ・・・。たぶん鳳翔さんが気を使って少なめに入れてくれたと思うけど、もう少しだけ食べたいクマ。妹達もしっかり食べているようだし、鳳翔さんに感謝だクマ!

 

 

 

鳳翔

 

 

・・・夏バテで食欲がない・・・なんて言っていたと思うのですが・・・しっかり食べていますね。ちょっと無理かな・・・と思いましたけど、一緒に出したご飯やお味噌汁もあっという間に食べてしまいましたし、冷しゃぶもすぐになくなりそうです。隣の多摩さん達もしっかり食べていますし・・・一体何だったのでしょうか。口々に『美味しいニャ』『いいね~痺れるね~』『北上さんの満足した顔で、お腹一杯です』『ありだな!』なんて嬉しそうに話していますから、満足はしてくれたようですね。ただ、これまであまり食べてこなかった所に急にたくさん食べますと、お腹を壊す事は間違いありません。ですから、球磨さんには申し訳ないのですが、今日はこの辺りで止めた方が良さそうです。

 

「鳳翔さん、おかわりをもらうクマ!ついでに、何か他のおかずも食べたいクマ!」

 

「球磨さん・・・しばらくまともな物を食べていなかった所に、急に大量に食べたら後が大変な事になりますよ。悪い事は言わないですから、今日はこの辺りにしてください。いいですね?」

 

球磨さんは少し不満そうですが、一応私の言う事を納得してくれたようです。どうやら食欲は戻ったようですから、一安心ですが・・・明日から大丈夫でしょうか・・・そこのところは少しだけ気がかりです。

 

「姉ちゃん、あまり鳳翔さんを心配させたら駄目ニャ・・・それと明日からは、しっかり私達に料理を作って欲しいニャ。」

 

「むぅ…考えてみれば、私が毎日料理をするというのもおかしいクマ・・・。・・・よし決めたクマ!明日から、我が家では料理は当番制にするクマ!お前たちも料理くらい出来ないと、某重巡洋艦のように行き遅れになる可能性が出てくるクマ。だから、この機会に当番制にするから、しっかり練習するクマ!」

 

「姉ちゃん、それは横暴ニャ!それに足柄さんは、料理は出来るニャ!あの人が行き遅れているのは、別の理由ニャ!」

 

「あら…その理由気になるわね…是非教えて欲しいわぁ~。」

 

「そんな事言うまでもないニャ!あんな獰猛そうな雰囲気を醸し出していたら、男は皆逃げるに決まっているニャ…って、あれ?」

 

「ふ~ん…球磨に多摩…なかなか面白い意見ねぇ。参考になるわぁ~。…撃沈まではやらないけど、大破炎上する覚悟は出来ているでしょうねぇ…。」

 

「「ヒ…ヒィィィィ」」

 

球磨さんも多摩さんも…もう少し周りを確認してから、本音話はした方がいいですよ。妙高さん姉妹は毎日のようにうちのお店に来ているのですから…。それと…足柄さん、怒っているのは分かりますが、一升瓶を振り上げるのは止めてください…後片付けが大変です。

 

「足柄さん、この店で暴れたら出入り禁止ですよ。妙高さん、申し訳ないですけど、足柄さんを少しなだめてあげてくださいね。」

 

「あっ、鳳翔さんごめんなさい。ほら、足柄…私が相談に乗ってあげるから、こっちに戻りなさい。それと球磨さん達も、もう少し配慮してあげてくださいね。」

 

「「…よ…よ~く、分かったクマ(ニャ)。だ…だ…だから、許して欲しいクマ(ニャ)。」」

 

一応、私も後片付けが大変になってしまうので、このお店の中ではとめますが…。店から出た後までは責任持てませんよ…。まぁ、口は災いの元と言いますし、球磨さんも多摩さんも気をつけた方がいいですよ…って、真っ青な顔をして二人で抱き合って震えていますし、三人の妹達は完全にソッポを向いて知らない振りをしていますね。夏バテが解消されたと思ったら、今度は肝が冷える思いという事ですか…夏らしいですね。

 




蒸し暑い日が続きますね…。我が家でもこの時期になると、時々家内が冷しゃぶを作ってくれますが、この料理夏バテにはすごく効きますね。冷しゃぶのタレ…我が家では、家内の好みから胡麻ダレの方が多いのですが、私個人としてはポン酢の方が好きでして…。この辺りは、好みもあるので一概にどちらが良いという訳にはいかないですが、皆さんはどちらが好みでしょうか。

鬼おろしで作った大根おろし、これは使った事がある人は知っていると思いますが、かなり粗く卸せますので食べ応えがありますし、余分な水分が抜けるので好きな人にはたまらない大根おろしが出来ます。問題は、少し卸すのに労力が必要なところですが、この味が好きになってしまえば、その労力も気にならず…という事で、使った事が無い人は是非一度トライしてください。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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