鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は、引き籠もり駆逐艦の初雪が主人公・・・この娘が主役の話って、需要があるのだろうか^^;。料理の方はタコブツです。この娘の話は、同じように穴に引きこもっているタコしかない!と考えていたため、このタイミングで話を作りました。


第十ニ話 初雪とタコブツ

「鳳翔さん、この間はウニを美味しく料理してくれてありがとうでち。最近はゴーヤ達も暇しているから、ちょっと潜ってタコを獲ってきたでち。使って欲しいでち。」

 

「あら・・・これは、立派なタコですね。本当にもらってもいいのですか?」

 

「いいでち。一匹しか獲れなかったけど、この間のウニ料理へのゴーヤ達からのお礼でち。」

 

作戦中のため、いつもであれば資源回収任務に投入されている筈のゴーヤさん達潜水艦にも、鎮守府で待機命令が出ています。そのため少し暇になったのでしょうか、鎮守府周辺の海に時々潜って、こうやって海の幸を私の所に持ってきてくれます。それにしても、立派なタコですね。これは料理のやり甲斐があります。それに・・・タコが入荷したという事が知られれば、普段は蛸壺のように部屋に篭っているあの駆逐艦娘が今日は来店するでしょうから、早めに下ごしらえと、タコが入荷した事を知らせる張り紙を店の前に貼っておかないといけません。

 

タコの下処理・・・私も慣れるまでは大変でしたが、流石に今は問題なく行えます。まずは、内蔵を全て取り出してしまい、塩で慎重にもみ洗いです。この塩によるもみ洗いで、タコの表面のヌメりを完全に取り除かなくてはいけませんので、何度か繰り返しその都度、水で洗い流していかなければなりません。しかも今回ゴーヤさん達がくれたタコは、大物です。この大きさのタコを塩でもみ洗いするのは、本当に大変ですが・・・ここで手を抜いてしまうと、折角のタコが台無しになってしまいます。そして・・・あの駆逐艦の娘はタコについてだけは、非常にうるさいので、手を抜くことが出来ません。

 

どうやら、ヌメりは粗方取れましたね・・・。後はこれを茹でるだけです。大鍋には既に湯が煮立っていますから、脚の方から慎重に鍋に入れていきます。大物のタコですが、あの子が来店すれば、間違いなく今日中に無くなると思いますので、保存は考えずに短く茹でて直ぐに湯から取り出します。それに、タコは茹で過ぎると美味しくなくなってしまいますから、半生に近い状態で鍋から外に出さなくてはいけません。さぁ、これで準備は完了ですね。ここまで来れば、後はどんなタコの料理にも対応出来るでしょうから、あの子の注文に応じて作れば大丈夫ですが・・・おそらく注文する料理は決まっているでしょうね。

 

 

「いらっしゃい・・・初雪さん。今日は来ると思っていましたよ。」

 

「・・・今日はタコがあると聞いたから・・・タコブツで・・・」

 

予想していた通り、駆逐艦の初雪さん来店です。初雪さんは、私のお店にタコがある時は、ほぼ必ずと言っていい程来る娘です。本人曰く『自分と同じで狭い所に閉じこもっているタコが好き・・・』だそうですが、私が見ている限りでは、タコを食べるのが好きなのではないかと思います。そして初雪さんが注文するのは、タコブツ。一度、生ダコの刺身を注文した事もあったのですが、食べている最中に舌に吸盤が張り付いたらしく、それ以来茹でたタコしか注文しなくなりました。

 

「タコブツですね、分かりました。味はどうしましょうか?」

 

「・・・いつもの」

 

これも、初雪さんが来店する時の定番の受け答えですが、一応味付けは確認しておかなくてはいけません。艦娘達の間では、タコブツもタコの刺身と同様に山葵醤油で食べる子も居ますが、初雪さんの好みは三杯酢。たしかにタコブツのように薄切りではないタコを食べる際は、タコの甘さを引き立てるために三杯酢という選択肢もよく分かります。

 

「他の料理はどうしますか?」

 

「・・・それだけでいい。」

 

初雪さんとの会話はなかなか難しい物がありますが、最低限必要な事は分かりましたから、問題ありません。うちのお客さんには、とにかく待っている間も食べている間も話し続ける事が好きな娘達も大勢いますが、初雪さんは来店するとカウンターの一席に陣取って、料理が出てくるまでは黙っていますし、食べる時も勿論静か。二三、料理に対して批評をする事はありますが、基本的には食べ終われば直ぐに帰っていく子ですから、うちのお客さんの中では少し変わっています。とはいえ、これが初雪さんのスタイルなのでしょうね。

 

さて、それでは下処理をしていたタコを持ってきて、タコブツを作ってしまいましょうか。といっても、後は足の部分を適当な大きさに切って、あしらいと一緒に出してあげるだけなのですが。それでは、まずタコの足の部分を・・・とりあえず二本分程ぶつ切りにしますか。基本的には一口サイズにぶつ切りしていきますが、初雪さんの口はそれ程大きくないので、少しだけ小さめに切り分けていきます。これを、大根の千切りとワカメを乗せたお皿に盛りつけしましょう。後は三杯酢を・・・丁度作り置きが冷蔵庫に入っていますので、これを一緒に・・・。おそらく、このタコブツの量では追加注文が入ると思いますが、まずはこの量で出します。

 

「初雪さん、出来ましたよ。どうぞ。」

 

「・・・どうも…ありがと…」

 

 

 

駆逐艦「初雪」

 

 

今日も昼食後自分の部屋に閉じこもっていると、同部屋の深雪から連絡があった。なんでも鳳翔さんのお店でタコが入荷したとの張り紙を見つけたそうだ。タコは私と同じで、狭い場所に閉じ篭りジッとしているのが好きなため、非常に好感が持てる。また、以前何かの機会に鳳翔さんのお店でこれを食べた事から、この素晴らしい生物が非常に美味しい事も分かっている。そのため、私はタコが鳳翔さんのお店に入荷したら、必ずそれを食べに行くようにしている。今日は鎮守府の食堂での夕食は少なめにして、鳳翔さんのお店に行く事にした。

 

鳳翔さんのお店は、一人で静かにしている事が好きな私には少し敷居が高いが、それでも美味しいタコを食べるためには行かなくてはいけない。店内に入ると幸いにもカウンターが空いていたため、ここに座る。・・・余計な会話はしたくない。早速鳳翔さんにタコブツを注文した。鳳翔さんには、味付けを聞かれたが、ここは三杯酢の一択。これしかない。鳳翔さんは、私に余計な事を話しかけて来ないので、非常にありがたい。

 

しばらく待っていると、待望のタコブツが私の目の前にやってきた。・・・ウン、タコの大きさも火の入り加減も申し分ない。早速、タコを一つ箸で掴んで、三杯酢にしっかり浸してから口に運ぶ。口に入れた感覚・・・ン・・・滑りは全くない。三杯酢の甘い香りと酸っぱさが口の中を包み込んでいく。早速噛み締めてみる。・・・タコの弾力性・・・よし・・・甘味・・・申し分ない。・・・『合格』。ん?思わず口に出してしまったのだろうか・・・、鳳翔さんが少し驚いた顔でこちらを見ている。・・・少し申し訳ないことをしてしまった。

 

タコブツは素晴らしい。タコの刺身も好きだが、やはりタコは塊で食べた方が良いと私は思う。同部屋の深雪などは、たこ焼きの方が美味しいと私によく言うが、その意見には全く賛成出来ない。また、一度だけ友達の吹雪と一緒にタコブツを食べた際、吹雪は山葵醤油でタコブツを食べていたが、これも私に言わせてみれば、問題外。折角のタコの淡白さそしてほんのりとした甘さ・・・これを最大限引き出す味付けは、三杯酢しかない・・・。以来、吹雪と一緒にタコブツを食べに来た事はない。

 

少し考え事をしながら、タコブツを無意識の内に口に運んでいると、気付いたら残りは僅かになってしまった。たしか鳳翔さんは、タコの足を二本分切ってくれていたから、普通に考えれば、残りの足六本分のタコブツは出来る筈だ。他からの注文が入る前に追加の注文を出そう・・・言葉に出すのは面倒くさいが、こればかりは仕方ない。

 

「・・・鳳翔さん、追加・・・。」

 

 

 

鳳翔

 

 

タコブツを目の前に出した瞬間、無心でタコブツを口に運び始めた初雪さんですが、最初のタコブツを食べ終わった時にボソッと一言『・・・合格』と言った事には、一瞬驚きました。普段は無口な初雪さんですが、実は色々と頭の中で考えている事は知っていますし、特にタコについては一家言あるようで、味付けや調理方法、そして下準備に至るまでかなりうるさい所があります。

 

そんな初雪さんが『合格』と口に出した事、そして休む間もなくタコブツを口の中に運んでいる事から、今回のタコはかなりお気に召したのでしょう。以前、私のミスでヌメりがまだ少し残っていたタコを出してしまった時は、普段の無口な初雪さんからは想像出来ないくらい雄弁に、タコの下処理や私のミスについて指摘されてしまいました。あの時は、本当に驚いた記憶があります。そういう意味では、初雪さんは私にとってはなかなか気の抜けない難しいお客さんかもしれません。

 

そうこうしている間に、初雪さんの皿の上のタコブツの残りは僅かになりました。この調子ですと、追加注文が入るのは確実です。今のうちに準備しておきましょうか。次も同じだけ切って出せば問題ないでしょう。

 

「・・・鳳翔さん、追加・・・。」

 

「分かりました。それでは次も同じ量切りますね。」

 

「・・・ン」

 

少ない会話ですが、こういう静かなやり取りもいいものですね。・・・あら?利根さんと筑摩さんも来店ですね。彼女達も今回は鎮守府待機組ですから、少し暇を持て余しているようですね。

 

「いらっしゃい、二人とも。今日は何にしますか?」

 

「おぉ・・・鳳翔。吾輩、今日はタコが入荷したという張り紙を見たぞ。だからそれを注文するぞ。とりあえず、足を何本か焼いてもらいたいのぉ。筑摩はどうする?・・・ん?初雪か・・・どうしたのじゃ?」

 

「・・・そのタコ・・・私の・・・。」

 

「初雪、そうケチケチするでない。吾輩もタコが食べたいのじゃ!」

 

「姉さん・・・今日はタコは止めておきましょう。ほら、今日は姉さんの大好きなマグロのカマ焼きもあるようですから、そちらにしませんか?」

 

「ムム?・・・ほぉ、それもあるのか。分かった、鳳翔。今日は吾輩達、マグロのカマ焼きを注文するぞ。初雪が怖い目でこちらを睨んでおるからのぉ。」

 

利根さんの注文内容を聞いた瞬間、普段は大人しい初雪さんが、私でも殺気が感じられるような雰囲気を醸し出しました。とはいえ、タコを注文しようとした利根さんも、結構自分の我を通そうとする所がありますから、これはちょっと困った事になるかもしれない・・・と思いましたが・・・。どうやら妹の筑摩さんが、私の心配を感じてくれたらしく上手に利根さんを誘導してくれました。本当に助かります。

 

しかし次は、ゴーヤさんに頼んでもう少したくさんのタコを持ってきてもらうことにした方が良さそうですね。

 




イベントの方は、もう少しでE2攻略まで来ていますが・・・途中の事故率が多すぎですw。とはいえ、なんとか鳳翔さんを投入せずに史実組だけ(不幸姉妹は投入しましたが、後は史実組の重巡と軽巡を使用)でALはクリアー出来そうなので、前回あとがきで書いていました「鳳翔と戦闘食」を書かなくても済みそうですw。まだ決めていませんがE6まで参加するとなると、五航戦+鳳翔さん+加賀(MIで加賀さんを温存出来れば)が主力になるため、このお題で書く事になりそうですが、ここまで参加するかどうか・・・まだ決めていませんw(資源が・・・今からオリョクル回すかw)。

さて、タコブツです。タコの下処理・・・結構面倒です。私も二度程やった事がありますが、綺麗に滑りを取るのは、結構大変でした。また、茹ですぎてしまうとタコブツ美味しくなくなってしまうので、半生くらいに茹でる・・・結構茹で加減は慎重にやった記憶があります。またタコブツの食べ方ですが、刺身醤油派の方がメインな気がしますが、個人的には三杯酢絶対正義派ですw。少し甘味のある酢・・・これでタコを食べる時の幸せといったら・・・って、なんかこの物語の初雪になりそうなので、ここで自重しますがw

初雪さん・・・口下手かつ引き籠りですが、色々な事に一家言持っており、時々それが口から繰り出される・・・といった感じのキャラ付けをしています。ですから、初雪さんの内面の部分は非常に饒舌ですが・・・自分の中では、色々と考えている?という形にしてみました。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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