鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は重武装ボディーさんと夏のあの大きな野菜の料理の回になります。


第十五話 愛宕と冬瓜のそぼろ煮

先日、二つの大きな作戦が無事終了したとの知らせを受け、鎮守府内全てがお祭り状態になりましたが、その知らせがあった翌日には、ミッドウェー島にて敵深海棲艦側の反撃があったようです。そのため、再び鎮守府には緊張感が戻ってきました。幸いな事に敵の反撃作戦はその日の内に撃退に成功したようですが、やはり油断は禁物ですね。私もあまり浮かれていないで、日々の仕事をきちんと行おうと思います。

 

この時期、私の菜園では毎日のように収穫が出来ていますが、そろそろ、少し収穫が遅れていたあの野菜も収穫出来そうですね。だいぶ大きくなってきましたし、今日はこの野菜を使った料理を出してみましょう。そうです、この時期に収穫出来る大型の野菜である冬瓜(とうがん)です。冬の瓜という字ですが、立派な夏野菜。冬瓜を使った料理は、落ち着いた味の物が多いですから、再び警戒態勢に入った鎮守府の娘達にひと時の安らぎを与えるための料理としては、もってこいです。とりあえず今日は2,3個収穫しておきましょう。長さは50cm程ありますから、冬瓜としては普通の大きさですが、これだけでもかなりの量の料理が作れると思います。

 

冬瓜の料理…色々ありますが、今日は今年初めての冬瓜料理ですから、定番である冬瓜のそぼろ煮でも作って、つきだし用の料理として準備するつもりです。まずは、この大きな冬瓜を一口大の大きさに切っていかなければなりません。普通の根菜類ですと先に皮を剥いてしまうのですが、この大きさの冬瓜となると、ある程度切ってから皮を剥いた方が楽ですから、先に少し小分けにしておきます。更に種がありますので、これも取り除かなくてはいけません。大体種はとれましたね…。それでは少し面倒ですが、皮を剥いて一口大の大きさに切り分けていきましょう。

 

今回はそぼろ煮を作りますが、冬瓜は先に少しだけ火を通しておいた方が、最終的に固すぎず柔らかすぎない状態に出来ますから、まずは少しだけ塩を入れた熱湯で、切り分けた冬瓜を軽く茹でてしまいます。ここであまり茹で過ぎてしまいますと、そぼろと一緒に煮た時に冬瓜が柔らかくなりすぎますから、ここは固めに茹でるだけにして、一度お湯から取り出してしまいます。さぁ、次はそぼろの準備ですね。

 

そぼろの方も、最終的に煮込む時に味をきちんと付けますので、まずは挽肉に火を通す事だけを目的に炒めます。ですが、流石に挽肉だけでは綺麗にばらけないですから、少しだけ日本酒を入れて炒める事で、綺麗なそぼろ状のお肉にします。…いい感じでボロボロの状態に炒められましたから、そぼろの準備も完了ですね。後は、下茹でした冬瓜と炒めたそぼろを合わせて煮込むだけです。

 

まずは、炒めたそぼろの中に、こんぶ出汁をヒタヒタになる量まで投入して…ここに醤油とみりんを入れて少しだけ味を濃くします。最後に塩で味を調整して…いいですね、少し薄味ですが、非常に柔らかい味の汁になりました。それでは、ここに下茹でした冬瓜を入れて、少しだけ煮込んでしまいます。そぼろと冬瓜が良い状態に混じるようにかき混ぜて…あとはこの料理はとろみが大事ですから、水溶き片栗粉を使ってとろみをつけます。ここまでくれば、このまま料理を寝かせておけば、開店の頃には冬瓜にしっかりそぼろと和風餡が馴染みますから、冷たくても温かくても美味しく食べられる料理になっているでしょう。さて、それでは他の下準備も急いで行って開店に備えますか。

 

「ぱんぱかぱ~ん。鳳翔さん、今日はお腹空いたから、色々食べさせてくださいね~。」

 

「こんばんは。今日もよろしくお願いしますね、鳳翔さん。」

 

「いらっしゃいませ、愛宕さん、高雄さん。」

 

開店後しばらくして、かなりお客さんでお店が賑やかになっている頃、重巡洋艦の愛宕さんと高雄さんが来店しました。お二人は毎日という訳ではないですが、時々私のお店で料理やお酒を頼んでいく常連さんでもあります。残念ながら今日はまだ作戦待機命令が解除されていないですから、お酒を飲むことは出来ませんが、食事だけでも楽しもうとしているのだと思います。

 

「お酒の方は、今日はまだ駄目でしょうけど、一通りのつきだしは作ってありますよ。どれにします?」

 

「う~ん…そうねぇ~。あら、これ冬瓜ですよね、鳳翔さん?これお願いします。高雄姉さんはどうするの?」

 

「愛宕、冬瓜という野菜を私はよく知らないのだけれど、どんな野菜なの?」

 

「う~ん…そうね…。私の重武装ボディーよりも大きな瓜で…」

 

いや…その説明は…。たしかに、愛宕さんよりも冬瓜の方が大きいとは思いますが、全く説明になっていないような気がします。ですが、愛宕さんの説明?に興味を持ったのか、高雄さんも結局愛宕さんの注文と同じ物を頼むようですね。

 

「愛宕さん、温めますか?それともこのまま冷たい状態にしますか?」

 

「そうねぇ~、折角夏ですし、冷たいまま頂くわ。高雄姉さんの方も同じように出してくれるかしら~。」

 

たしかに、まだ暑い夏ですから冷たいまま食べた方がいいかもしれませんね。それでは、出来上がった冬瓜のそぼろ煮を小鉢に取り分けて、最後に生姜を乗せてお二人に出す事にします。夏の煮物系料理は、最後に生姜を少し乗せるだけで一気に食欲を引き出せますし、とくにこれから料理を食べてもらうためのつきだしですから、生姜は必須ですね。

 

 

 

重巡洋艦  愛宕

 

 

久しぶりに冬瓜が食べられるわね~。高雄姉さんはよく知らなかったようだけど、この時期の冬瓜料理は最高なのよね。私も料理はよく作っているから、自分の料理に自信はあるのだけど、流石に鳳翔さんに勝てるとは思わないのよね。だから時々こうやって、料理の勉強も兼ねて鳳翔さんのお店に来ているのよ。高雄姉さんも私のように少しでも料理に興味を持ってくれればいいのだけど…姉さんはどこか要領が悪い所があるから…将来どうなるのか心配だわ~。間違っても、あの重巡洋艦のようになってもらっては困るし…。

 

さて、それでは早速いただこうかしら。まずは、冬瓜からね…あら、箸がスッと中に入っていくわね…それでいて冬瓜自体は崩れない。火の入り方が絶妙という事かしら…おそらく軽く下茹でして、上手に火の入り方を調整しているのでしょうけど…流石は鳳翔さんね。お味の方はどうかしら…。ん~、良い味。たぶん、最初に食べる料理だから、わざと薄口の味にしているのだろうけど、薄味でもしっかりした味ね。おそらく出汁をしっかり取っているからでしょうけど、本当に上品な味…、私にも真似出来るかしら…。

 

それに、和風餡の方に入っているそぼろ…口の中で細かく分かれて…本当に美味しいわ。全体的に冷たい料理だけど、たしかにこの味でこの食感なら、鳳翔さんが最初に勧めた様に、冷たくても美味しく食べられる料理よね~。それにしても、この料理はずるいわ…。こんなに口当たりが良くて美味しい料理を、最初に少しだけ食べさせられてしまったら、食事の注文が増えてしまいそう…。この調子だと…『ダイエットは明日から』ね…。

 

高雄姉さんも凄く満足そうだし…今日も鳳翔さんのお店に来て良かったわ。これまでずっと待機状態で…しかもまだ待機命令が解除されていないから、少し気が滅入っていたのよね…。やっぱり、食事だけでも美味しい物を食べないとね。それにしても…冬瓜のそぼろ煮…、本当に美味しいわ~。

 

 

 

鳳翔

 

 

「お二人とも、気に入ってもらえた様で何よりです。この料理、冷たくても美味しいでしょう?」

 

「えぇ、愛宕に勧められて今日初めてこの料理を食べたのだけれど、本当に美味しいですね。冬瓜も丁度良いくらいの柔らかさですし、味がしっかり中まで染み込んでいて…もう一回同じ物を食べたい気分ですね。」

 

「高雄姉さん?姉さんは鳳翔さんの罠に嵌っているわよ~。鳳翔さんは、こういう軽めであっさり食べられる料理を一番最初に出すことで、私達に一杯注文してもらおうと思っているに違いないわ~。とは言っても、私ももう一回同じ物を食べたいくらい気に入ったし、今日も自重せずに注文する予定だけどね~。」

 

あらあら…。私は別にそんなつもりで、この料理を出したわけではないのですが…。ただ、そう思える程この料理が気に入った…という事であれば、これは光栄な事ですね。特に愛宕さんは、見かけとは裏腹に艦娘達の中でもかなり料理が得意な子です。そんな子から、これ程の評価を受けたという事は、私も素直に嬉しいですね。

 

『ブー、ブー、ブー 緊急連絡。作戦待機中の艦娘は、至急作戦会議室に集合せよ。繰り返す…』

 

えっ?これは…緊急招集命令です。これまでこんな事は無かったと思いますが…。それに…私にも作戦待機命令が出ていましたから…私も急いで作戦会議室に行かなくてはいけません。

「すいません、緊急招集命令が発令されましたので、今日はこれで閉店です。私は店の火だけ止めてから行きますので、皆さんは先に行ってください!愛宕さんも、高雄さんも、すいませんが、また次の機会によろしくお願いしますね。」

 

「そうね~、残念だけど、緊急招集ですから。それでは、私達は一足先に行っていますね。」

 

私のお店で食事を楽しんでいた艦娘達も、びっくりしたような表情をしていましたが、直に食事を止めて作戦会議室に向けて走って行きます。私も急いで火だけ止めて移動しましょう。

 

 

 

作戦会議室

 

 

店の火を止めてから作戦会議室に向ったため、私がどうやら最後だったようです。ですが何故か知りませんが、あの人…いえ、提督の隣の席しか空いていません。私は半分引退したような身分ですから、一番末席でも良かったのですが…席が空いていない以上は仕方ないですね。

 

「鳳翔で最後か。それでは始めるぞ。先程、ウェーキ島東方で哨戒中のイムヤより緊急通信が入った。『発 伊168 宛 呉鎮守府司令長官  ウェーキ島東方ニテ西方ニ向ケテ航行中ノ 敵大艦隊ヲ発見。敵艦隊ニハ多数ノ大型艦ヲ含ム。』どうやら、昨日ミッドウェー島に反撃を仕掛けてきた敵は陽動艦隊で、こちらが本隊のようだ。そして海軍では、この艦隊の目的は本土直接攻撃と判断し、本鎮守府に迎撃命令が発せられた。既にミッドウェー島に居る我が第一航空艦隊には、敵本隊への追撃命令を出しているが、こちらからも迎撃艦隊を出す。出航は明日0900。艦隊編成はこれから発表する。」

 

大変な事になりました。一航戦と二航戦主力が抜けた状態で、敵本隊の迎撃。これはかなり苦しい戦いになるでしょう。イムヤさんの報告では敵の大型艦が多数出てきているようですから、こちらも機動部隊で迎撃という事になるのだと思いますが…。現在鎮守府で待機中の正規空母は、五航戦の二人しか居ません。という事は、この迎撃艦隊の航空戦の指揮は翔鶴さんが執る事になると思いますが、失敗が許されない今回の作戦指揮をまだ若い翔鶴さんに執らせるのは、流石に酷な気もします。五航戦の二人も最近錬度を上げているとはいえ、一航戦や二航戦の娘達のような豊富な戦闘経験はまだありません。せめて私と一緒に昔から戦ってきた龍驤がこの場に居てくれれば…。

 

「迎撃艦隊旗艦は鳳翔、そして迎撃艦隊本隊は、五航戦の翔鶴、瑞鶴。第一戦隊の長門、陸奥、第九戦隊の大井とする。」

 

えっ??私が本隊の旗艦…ですか?

 

「鳳翔…申し訳ないが、緊急事態だ。迎撃艦隊の旗艦を頼む。なに…一航艦も追撃を開始している。上手く行けば、敵本隊との戦いには間に合うだろう。」

 

「…分かりました、提督。空母鳳翔、出撃いたします。」

 

いたしかたありませんね。五航戦の二人も提督の言葉を聞いてホッとした表情をしていますし、長門さんや陸奥さんも提督の言葉に頷いています。それにしても…半分引退した私が、現在の鎮守府に残る最大戦力の指揮を任される…皮肉なものですね。それと…一航艦が間に合えば理想的な挟撃になるのでしょうが…これはおそらく難しいでしょう。位置的に敵本隊との戦闘に間に合うか間に合わないかギリギリの場所ですから、居ない物として行動した方が良いと思います。また…既にミッドウェー周辺で敵の反撃部隊と一戦交えており、その後の補給はされていないですから、戦力も低下していると思います…。

 

「聞いてのとおりだ。今回の迎撃は本土防衛のため、失敗は絶対に許されない。既に南鳥島海軍基地の二式大艇が索敵に出ており、本土の海軍航空隊も続々と硫黄島経由で南鳥島に移動中だ。今回は基地航空隊と力を合わせて必ず敵を迎撃して欲しい。それと、支援艦隊には空母千代田と千歳、そして日向と伊勢、愛宕と高雄に出てもらう。また前衛艦隊は一水戦。こちらの指揮は阿武隈が出撃中のため五十鈴に任せる。機動部隊直援は、鳥海と摩耶、そして名取の五水戦に出てもらう。その他の艦娘は、これ以外の敵戦力が来ていないかどうかを確認するため、各海域の哨戒任務を命じる。今回は本当の意味での総力戦だ。みんな、頼んだぞ。それでは準備に取り掛かれ、解散!」

 

提督も苦しそうな表情ですね…。本当は、あの人に少し声をかけたい所ですが、この場は公式な場で、私はあの人の部下…。何も声をかけられないのが、本当にもどかしいです。しかし…今は迎撃作戦に集中しなくてはいけませんね。それでは私も急いで出撃の準備をしましょうか。艦載機は途中で合流すれば問題ありませんし、燃料弾薬は既に満載していますので、後は糧食などの積み込みですね。今回は短期決戦になるでしょうから、それ程多くの補給物資を積み込む必要はないと思いますが、せめて航空作戦に参加する妖精さん達の航空弁当が作れるくらいの糧食は、積み込まないといけないですね。

 

「さぁ、あなた達、出航は明日の0900です。急いで支度をするのですよ。…それと、今回はよろしくお願いしますね。」

 

「は…はい、鳳翔さん。妹の瑞鶴ともどもよろしくお願いします。」

 

「鳳翔さん、この長門…いざとなったら、陸奥と共に敵艦隊に殴りこみをかけてやるさ。だから大船に乗ったつもりで任せて欲しい。」

 

「…北上さんが戻ってくる場所は…絶対に守ってみせるわ…。」

 

ちょっと不穏な言葉も聞こえましたが…、皆さん気合は十分なようですね。それでは私も頑張りましょうか…。

 




昔、冬瓜は冬の野菜だと思っていた頃がありましたw。ですがこれ、れっきとした夏野菜です。そして、冬瓜は煮込み系料理と非常に相性が良いため、特に今回登場させた冬瓜のそぼろ煮は、定番中の定番料理だと思います。しかも冬瓜大きいですから、一つ購入するだけでもたくさん食べる事が出来るため、うちの家計にもやさしい野菜でして…w。

夏に冬瓜のそぼろ煮を食べる時は、わざと冷やしてから食べるのも結構好きな食べ方です。自宅で食べる時は、わざわざ冷やしてから食べるのも大変なので、作りたての温かい物を食べる事が多い気がしますが、飲み屋などではこの時期、わざと冷やした冬瓜の煮物を出してくれますので、個人的には気に入っています(だからこそ今回、パンパカパ~ンとカカオさんには冷えたタイプを食べてもらったわけでして…)。

さて、夏イベントの方ですが、順調にE5をクリアする事が出来、雲竜さんが鎮守府に着任しました。これL50まで育てないと駄目なのですね…。設計図は持っているので改良条件の一つはクリアしているのですが、L50…先はまだ長そうです。そしてE6一度だけ遊んでみました。クリアは資源的に無理なため、最初から一発勝負と決めた出撃になりました。その甲斐もあってか、フル支援と運が良かったようで、ボスを一回削る事には成功したため、鳳翔さんを温存していて良かったな~と。

次回は鳳翔さんが出撃してしまったので、外伝になると思います。調べて見ると、航空弁当って色々あるのですね。どのタイプの航空弁当で外伝を書くか…少し迷っています。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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