鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は二水戦旗艦の神通さんの物語にしました。…私も挟み揚げが食べたいです…ちくしょ~w。

何時の間にか、アクセス数とお気に入り数が急増しており、ちょっと焦っている作者です。何処かで宣伝してくれた人が居るのでしょうか。ありがとうございます。


第十八話 神通と蓮根の挟み揚げ

ようやく長月になり、夏の暑さも薄れ秋が近づいてきました。これまで夏野菜が中心だった私の料理屋も、そろそろ秋野菜が出てくる時期になった訳です。今日は鎮守府の近くの八百屋さんで蓮根を見かけたため、ついつい衝動買いをしてしまいましたが、もう蓮根が並ぶ時期なのですね。蓮根はキンピラにしても美味しいですし、様々な料理に使う事が出来ますが、今回の蓮根は、この時期にしてはかなりの大物です。折角ですから、この大きさを活かせる料理を作りたいところです。そうですね…海老がありますから、これを叩いて蓮根で挟んで、挟み揚げでも作りましょうか。揚げ物にした蓮根は、非常にホクホクして美味しいですから、きっと多くの子に喜んでもらえるでしょう。

 

 

「あら!?いらっしゃい、神通さん。今日はこんな早い時間に来るなんて珍しいですね。今日の夜間訓練はないのですか?」

 

軽巡洋艦の神通さんは、華の第二水雷戦隊(通称:二水戦)の旗艦を勤めている艦娘の一人です。二水戦の訓練がとても厳しい事は私も知っていますが、特に目の前に居る神通さんが訓練教官を行っている時の厳しさは有名で、夜間まで長時間の訓練が日常的に行われるようです。そしてこの訓練が終わった後、駆逐艦の娘達がヘトヘトになって駆逐艦寮に戻っていく姿を何度も目撃しています。順番的には今日の二水戦の訓練教官は神通さんですし、まだ時間は夕方。本来であれば、これから夜間訓練が開始されると思うのですが…今日はどうしたのでしょうか。

 

「あっ…今日の夜間訓練は中止にしました…。ちょっと…駆逐艦の娘達に疲労が貯まっているようなので…その…このまま訓練を続けますと事故が起こりそうでしたから…。」

 

二水戦に配属されている駆逐艦の娘達は、駆逐艦の中でも選りすぐりの娘が配属されています。ですから、昼間の訓練だけで力尽きるというのも珍しい…あっ!まさか…。

 

「あの…神通さん、つかぬ事を聞きますが、今回訓練でへばっていたのは、第十六駆逐隊の雪風ちゃん達ではないですか?」

 

「えっ?…あ…あの…どうして鳳翔さんが知っているのですか?私、まだどの駆逐艦の子が疲れきっていたと言っていないですよね?」

 

どうしましょう…理由を説明…しない方が良さそうですね。実は、第十六駆逐隊の雪風ちゃん、天津風ちゃん、時津風ちゃんの三人は、私のお店で海老フライが食べたかったようで、昨日の夜、海老採りに勤しんでいたようです。そして、昨日のかなり遅い時間に私のお店に採れたての海老を持ち込みました。私は、今日あの子達に訓練の予定が入っている事を知らなかったため、その時は夜更かしに対して少し注意をしただけで、持ち込んだ海老を使ってエビフライを作ってあげた記憶があります。あの時間に私のお店で料理を食べて、その後駆逐艦寮に戻って就寝したと考えると、今日の訓練で寝不足のため力尽きたという理由は説明出来ます。神通さんは私の方を不思議そうに見ていますが、正直に話してしまうと間違いなく雪風ちゃん達は叱られてしまいますし…ここは少しごまかしておきますか。

 

「い…いえ、なんとなくそう思っただけですよ。ほら、雪風ちゃん達は普段元気にはしゃいでいますから、ひょっとして前の日にはしゃぎ過ぎたのかな…と。ところで、神通さん?折角早く来たのですから、夕食として何か食べて行きますか?今日は蓮根が入っていますから、挟み揚げがお奨めですよ。」

 

「あ…それでしたら、折角のお薦めなのでそれにします。それと…今日は夜間訓練もありませんから、私もお酒を飲もうと思います。銀嶺立山…お願いします。」

 

神通さんの名前の由来である神通川が通っている富山県の辛口のお酒ですね。普段あまり飲まない神通さんですが、日本酒は辛口が好みのようで、私のお店に来た時は、よくこのお酒を注文します。蓮根の挟み揚げは塩で出す予定ですから、辛口のお酒はこの料理との相性も良いと思いますので、今日は楽しんでいって欲しいですね。それでは神通さんにお酒を出したら、早速料理をしましょうか。

 

通常、蓮根の挟み揚げの場合、挽肉などを挟んで揚げるのが定番ですが、雪風ちゃん達が昨晩持ちこんだ大量の海老がまだ残っていますので、これを使って挟み揚げを作らせてもらいましょう。海老の下準備は少し面倒ですが、背わたが入ったままでは、折角の海老の味が台無しになってしまいますので、背わたを取り除いてから、細かく刻んで包丁で叩きます。そしてここで叩いた海老に、刻んだネギを少しだけ混ぜて…少しだけ味付けをしてから蓮根に挟みます。塩だけで味付けをしても良いのですが、神通さんはさっぱりした味が好きですから、今回は醤油と生姜を使って少しさっぱりした味になるように、海老の下味を調整しますか…。

 

次は蓮根の準備ですね。あまり厚く切りすぎますと、海老を叩いた物を挟んで揚げた後がかなりの厚みになってしまうため、蓮根の皮を剥いてから少し薄目に輪切りにします。今回手に入った蓮根はかなり太いですから、食べ応えのある大きさの挟み揚げになりそうですね。そして輪切りにした蓮根は、切った瞬間は白くて綺麗なのですが、そのままにしておくと色が徐々に悪くなってしまいますので、それを防ぐために酢水につけておきます。ちょっとした事なのですが、やはり見た目は大事ですからね。

 

さて、それではそろそろ蓮根で海老の身を挟みましょうか。しっかり水気を拭き取ってから、蓮根の表面に片栗粉をまぶします。今回は衣をあまり厚くしたくないですから、少し薄目にまぶしておきますか…。そして輪切りにした蓮根を二枚使って、包丁で叩いた海老肉をサンドイッチのように挟んでいきます。あまりたくさんの量を挟んでしまいますと、挟んだ後に海老の身が蓮根の縁から出てしまいますので、量に気をつけて慎重に挟んでいかなくてはいけません。大丈夫ですね…準備完了です。

 

後は油で揚げるだけですが、蓮根で挟んだ海老の身の側面部分にも片栗粉をまぶしておかなくては綺麗に揚げられませんので、再び片栗粉を使って表面に薄くまぶしてから、いよいよ油に投入です。この料理は、衣がサクッとした歯ごたえになる方が、蓮根のモチモチ感を楽しめると思いますので、そこそこの温度でカラッと揚げていきましょう。焦げないように十分に気をつけて…よし、大丈夫ですね。後は塩とレモンを一緒にお皿にのせて…完成です!

 

 

 

軽巡洋艦 神通

 

 

今日も駆逐艦の子達を鍛えるために張り切って訓練にのぞんだのですが…途中から第十六駆逐隊に所属する三人の駆逐艦の子の動きが目に見えて悪くなってきました。原因はよく分かりませんが、体力的に限界だったようです。今日はそれ程厳しい訓練を行った記憶はないのですが…仕方ありません…夜間訓練は中止して解散となりました。もっとも、そのおかげで本来は鳳翔さんのお店で食事が出来なかった筈の日であるにも関わらず、料理を楽しむことが出来る訳なのですが…。ある意味これは幸運な事ですから、今日はお酒も頼んでしまいました。

 

鳳翔さんからは、蓮根の挟み揚げが今日のお薦め料理だと言われましたから、勿論私はそれを注文しました。そしてしばらく、先に出されたお酒と突き出しの料理を楽しんでいると、目の前に注文した蓮根の挟み揚げが出てきました。はぁ…蓮根の白い色が薄い衣の隙間から見えますし、見ているだけでも美味しそうですね。鳳翔さんのお店で出される料理は、ほぼ全て美味しい料理である事を私は知っていますが、今日出てきた料理は本当に綺麗で、見ているだけでも口の中に唾液が貯まります。折角の出来立ての料理ですから、冷めない内に食べましょうか。まずは一緒に出てきたレモンを絞って…どうやらこの料理は塩で食べるようですね。早速、蓮根の挟み揚げを一つ箸で摘んで、塩を少しつけてから口に入れます。

 

ハムッ…!あぁ、美味しいですね…とても美味しいです。蓮根のホクホク感…それと挟み込んだ…これは海老の身ですよね。海老を叩いて細かくしているのだと思いますが、ちょっとプリッとした食感が蓮根と口の中で合わさると…とても素晴らしいです。それに海老の部分には少し味がついている様で、蓮根の部分につけた塩とは少し違う味も楽しめます。たぶんこの料理は、ポン酢のような物で食べても美味しいと思いますが、海老の部分にしっかり味がついていますから、鳳翔さんとしては、よりシンプルな味付けの方が楽しめると思って塩とレモンだけを準備したのでしょうね。それにしてもこの料理、食べていると本当に落ち着いた気分になります。

 

私が知っている蓮根の挟み揚げは、蓮根の間に挽肉を挟んだ物ですが、挽肉の部分が海老に変わるだけで、こんなに旨味が違うとは思ってもいませんでした。やっぱり、鳳翔さんのお店で食事をすると幸せな気分になりますね。今日は訓練が中止になって、少しだけ気分が滅入っていましたけど、今はとても幸せです。

 

「鳳翔さん、蓮根で挟んでいるのは海老なのですね。こんな挟み揚げは私も初めてでしたけど、挽肉を海老に変えるだけでこんなに味が変わるのですね。この料理…本当に美味しいです。」

 

 

 

鳳翔

 

 

「神通さんに喜んでもらえて本当に良かったです。昨日の晩、雪風ちゃん達が持ってきた海老がまだ残っていたので、この料理で使ってみたのですよ。仕込みの時に少し味見をしたのですが、挽肉を挟むよりも旨味が強くなるので、私も驚いた側なのですよ。」

 

「えっ?この海老、雪風さん達が昨日の晩に持ってきたのですか???」

 

「あっ…」

 

神通さんの目が急に細くなり…パシッ…と箸を叩きつけるように机に置きました。これはかなり拙いです。私が不用意な事を言ってしまったばかりに…どうしましょう。

 

「神通さん、駆逐艦の娘達も、まだ小さいですから、たまにはこういう事も…」

 

あぁぁ…どうしましょう。神通さんは何も言わずに、水の入ったコップの中身を飲み干し、席を立とうとしています。…まさか、この時間から再度駆逐艦を集合させて夜間訓練を行うのでしょうか。少しだけですが、神通さんは日本酒を飲んでアルコールが入っていますから、そこまでの無茶はしないと思いたいですが…。

 

「鳳翔さん、ご馳走様でした。私、これから駆逐艦の子達をもう一度呼び出して、夜間訓練を行おうと思いますので、今日はこれで失礼します。…駆逐艦の子達もまだまだ余裕があるようですから、訓練のやりがいがあります…」

 

「神通さん、今日は神通さんも少し飲んでいますし、訓練は明日にまわした方が良いのではないでしょうか?それに…まだ食事の方も途中ですよね?海老と蓮根の挟み揚げの他にも、通常の挽肉と蓮根の挟み揚げも出来ますけど…」

 

「鳳翔さん、ありがとうございます。ですが私達二水戦は、何時如何なる時でも最前線に出る部隊です…。夜間訓練には丁度良い時間ですし…これから訓練を再開しようと思います。ですから、また次の機会に色々食べさせてください。あと、海老と蓮根の挟み揚げ…とても美味しかったです。」

 

…ごめんなさい、雪風ちゃん、天津風ちゃん、時津風ちゃん…。私が不用意な事を言ってしまったばかりに、皆さんが大変な事になってしまいそうです。これは罪滅ぼしのために、今度三人が来た時は、無料で何か食べさせてあげなくてはいけませんね。本当にごめんなさい。

 

 

翌日、ヘトヘトになった駆逐艦娘が三人、私のお店にやってきました。そして赤城さん顔負けの状態で様々な料理を食い散らかしていった事は、また別の物語です…。

 




現在、休暇を過ごすためにスロベニアという旧ユーゴスラビアの国に来ています。といいますか、昔自分が赴任していた国なので、この国には何人か古い友人がおり、その友人達と久しぶりの欧州での休暇を楽しむ予定なのですが^^;。まぁ、そんな事はどうでもよくて…和食が食べたい!物凄く食べたい!とっても食べたい!いえ、寿司とかそういう物はこっちでも食べられるのですが、煮物とか煮物とか煮物と言った、落ち着く食べ物がことごとく無いのです!今回書いた蓮根もない…ということで、実は今回の小説は、私の心の叫びだったりしますw。

蓮根の挟み揚げ…美味しいですよね。揚げた後の蓮根のホクホク感、そしてその蓮根で挟まれた挽肉の旨み、私とても好きです。勿論、今回小説で書いた海老の身を叩いた物を挟み揚げに使うと更にその美味しさは増しまして、旨みが一気に変わります。そういう意味では、海老の身を挟んだ挟み揚げを最初に考えた人は、凄いな…と素直に感心します。…とはいえ、そういうちょっとした和食が食べられない現在の自分の境遇を考えると…悲しくてヤケ食いをしたくなる今日この頃です(間違いなく、帰国した後に体重計には乗らない方が幸せな気が…)。

さて、神通さんによる夜間訓練に強制参加させられる第十六駆逐隊ですが、私の鎮守府には初風は着任しておりませんので、都合三隻で駆逐隊を編成しています。残念ながらしばらく艦これを遊ぶ事も出来ませんので、初風が私の鎮守府に着任するのは、少なくとも来月に入ってからになりそうですが…本当に着任してくれるのだろうか…。次のイベントまで待った方がよいかもしれませんね^^;

今回も読んでいただきありがとうございました。

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