「まだまだ、これから…なんだけど、今回は失敗しないように…」
「五月雨、今日はとっても慎重っぽい?夕立も今回は失敗しないように物凄く自重しているよ?」
あの人に決められた私の店への出入り禁止期間が終わった後、すぐに大作戦が開始された事で、しばらく私のお店に来る機会がなかった駆逐艦の夕立ちゃんと五月雨ちゃんの二人が今日は私のお店に来ています。長門さんと陸奥さんに曳航されて駆逐艦寮に戻った先日の大失態を反省して、今日は二人とも食べる量をセーブしていますし、お酒についても二人とも一杯ずつしか飲んでいません。流石に二回も同じ失敗をする訳には行かないという事でしょうか。
「おぉぉ?今回は五月雨も夕立も大人しくしているなぁ~。まぁ、先日あれだけやらかしているからなぁ。このあたしのようにいつも分別を持って飲まないとなぁ~、ひゃっは~。」
「隼鷹…。あまり五月雨ちゃん達を煽ってはいけません。もう酔っ払っているのですか?」
「えぇ~…。鳳翔さん、そんな事ないよぉ?まだ素面だよ?ということで、お酒もう一杯追加よろしく!」
まったく…折角五月雨ちゃん達が大人しく飲んで食べているのですから、変に煽らないでください…隼鷹?それにしても、隼鷹の挑発に乗ることもなく、二人とも穏やかに食事をしていますし…だいぶ成長しましたね。今まであれば、夕立ちゃん辺りが簡単に挑発に乗って、そこからなし崩し的に五月雨ちゃんも巻き込んで飲み始めるパターンが多かったですから…一度大きな失敗をしたとはいえ、本当に成長したものです。
「隼鷹お姉さん…五月雨達は、前回のような失敗はもうしないですよ?もうドジっ子なんて言わせませんから!」
「そうそう!夕立も、ちゃんと自重しているよ?だから、今日はあと一皿だけ食べたら、駆逐艦寮に戻るっぽい?次に失態起こしたら、提督さんにまた怒られるし~。という事で、鳳翔さんあと一つ何か食べさせて~。五月雨、最後何食べる?」
「そうですね…前回、白和えを出してもらいましたが、全く覚えていないので、もう一回作ってもらいましょうか?…あっ、でも今日はまだ少しお腹空いていますから、同じ豆腐の料理でも、もう少しお腹に貯まる物をお願いしませんか?」
「五月雨、それいいかも…夕立もまだ食べられるっぽい!」
豆腐を使った料理で、少しお腹に溜まる料理ですか…。確かに今回二人ともかなり自重して食べていましたから、まだお腹が少し空いているようですね。ただ、豆腐料理というのは一般的にアッサリしていたり、ヘルシーな料理が多いですから、五月雨ちゃん達の希望に沿う料理となると…あぁ…それでしたら、揚げ出し豆腐を作りましょうか。肉豆腐などでも良いのかもしれませんが、折角なので豆腐がメインの料理という事で、野菜や大根おろしを少し添えた揚げ出し豆腐にしましょう。
揚げ出し豆腐となると、絹ごし豆腐で作っても良いのですが、作る時も食べる時も形が崩れやすくなってしまいますから、今回は木綿豆腐を使いましょう。これを五月雨さん達が食べやすいように、4等分程に切り分けて…しっかり水切りをしておきます。
「五月雨ちゃん、夕立ちゃん、これから揚げ出し豆腐を作りますけど、味付けどんな感じがいいですか?普通の味でも、ちょっとピリ辛でもどっちでも作れますが?」
「五月雨は…少しピリッとした揚げ出し豆腐が食べたいですね~。夕立どうします?」
「夕立も、ピリッとした方がいいっぽい。」
二人とも少しピリッとした味の方が好きなようなので、大根おろしではなく、もみじおろしをつけましょう。大根に鉄串で穴を開けて、ここに唐辛子を詰め込みます。そしてこの状態でおろし金を使って汁気を取除きながらおろせば…ほんのりと赤く綺麗な色のもみじおろしの出来上がりです。これくらいの量をおろしておけば、二人分でしたら十分ですね…。
それでは豆腐に片栗粉をまぶして揚げる前に、揚げ出し豆腐のタレの部分を先に作っておきましょうか。このタレの出来で、揚げだし豆腐の味が決まってしまいますので、慎重に作らなくてはいけません。鰹出汁に、みりん、日本酒、薄口醤油を使って味を調整していきます。これを鍋で一煮立ちさせれば、美味しいタレの出来あがりです。後は付け合せに使う、しめじと獅子唐辛子を別に茹でておきましょうか。
さて、タレの準備も出来ましたから、いよいよ揚げだし豆腐を作りましょう。切り分けて水切りを行った豆腐に片栗粉を薄くまぶして、これを180度くらいの油で一気に揚げていきます。色がうっすら変わる程度までしっかり豆腐を揚げたら、油を十分に切って出来上がりです。後は出来上がった豆腐を鉢に四つ程ずつ並べて、別茹でした獅子唐辛子としめじを横にそえて…もみじおろしを上に乗せたら、最後にタレをかけて…出来上がりです。
「さぁ、二人とも。揚げ出し豆腐を作りましたから、熱いうちにどうぞ。リクエスト通り、もみじおろしでピリッとした辛さも入れましたから、気をつけて食べてくださいね。」
駆逐艦 五月雨
前回、夕立と私の二人とも、鳳翔さんのお店で記憶を無くして、気がついた時は駆逐艦寮の自分達の部屋でした。友達に話を聞くと、鳳翔さんのお店で引っくり返った私達を長門さん達が運んでくれたようです。そして次の日、提督からお説教をもらい、しばらくの間、鳳翔さんのお店に行く事を禁止されてしまいました。そしてその禁止の期間が終わったと思ったら、今度はMI作戦が開始してしまい、私と夕立ちゃんはしばらく鎮守府に戻ってくる事が出来ませんでした。しかも、ようやく作戦が終わった後は、その打ち上げで友達と散財してしまって…今日は久しぶりの鳳翔さんのお店です。今回は前回のような失敗はしません!
いつも私は、周りの友達から『ドジッ娘の五月雨』と言われていますが、今日は私も夕立も細心の注意を払って、食べ過ぎず飲み過ぎずに気をつけてきました。途中、軽空母の隼鷹お姉さんの挑発に乗りそうになりましたが、そこもグッと耐えて、いよいよ最後の料理まで穏便にたどりついたのです。これさえ乗り越えれば、今日は気持ちよく二人とも駆逐艦寮に戻る事が出来ます。最後に鳳翔さんにお願いした料理は、前回の最後と同じ豆腐料理です。ただし前回と違って、今日は私も夕立もお腹に余裕があるので、ボリュームのある豆腐料理をお願いしました。前回アッサリした豆腐料理だったのですが、今回はどんな料理が出るのかとても楽しみです。
そして出てきた料理は、揚げ出し豆腐。豆腐に衣をつけて揚げた物と野菜が一緒にタレに入っている、とても美味しそうな料理です。やっぱり鳳翔さんのお店は最高です。私達のお小遣いでは毎日は来られないのが残念ですが、今日は一生懸命貯めたお小遣いで私も夕立も最後まで楽しめそうです。それでは、早速食べてみましょう。私達でも一口で食べられる大きさの豆腐がいいですね…パクッ。
豆腐の周りに薄く衣がついていて、歯で簡単に衣を破る事ができました…中身は熱々の豆腐です。衣に絡んでいるタレの味と豆腐の味が口の中で混じると…豆腐の甘さを感じます。なんだか、とても落ち着く味で、今の私にはぴったりの味です。次は少しだけ、もみじおろしをつけて食べてみます。鳳翔さんからは、少しピリ辛だから気をつけるように言われましたが、少しつけるだけなら大丈夫でしょう。それでは早速…ウン!美味しいですね~。薄い赤色のもみじおろしが口の中に入ると、ピリッとした鋭い辛さを感じましたが、この辛さのおかげで、さっきよりも豆腐が甘く感じられます。それに、これくらいの辛さなら私でも大丈夫です。
一緒についてきた獅子唐辛子やしめじも、もみじおろしを乗せてタレをつけて食べると本当に美味しいですね。特に、しめじなんて最高です。私達のリクエストにきちんと答えてくれた鳳翔さん、本当にありがとうございます。隣を見ると、夕立も『これなら、どれだけでも食べられるっぽい?』なんて言いながら食べていますが、今日の私達は腹八分目で帰ると約束していますから、少し名残惜しいですけど、これで終わりです。何も問題を起こさずに帰れば、また来る事が出来るのですから…。
「鳳翔さん、ありがとうございます。最後の揚げ出し豆腐も、本当に美味しかったです。それと揚げ出し豆腐を食べて喉が渇いたので、最後にお水を一杯大きなグラスでください。それ飲んだら、今日は帰りますから。」
「夕立も、お冷が欲しいっぽい!」
鳳翔
どうやら、五月雨ちゃんや夕立ちゃんの希望に沿う料理を出すことが出来たようですね。私のお店では、揚げ出し豆腐はお酒のつまみとしてよく注文が入りますが、これはお酒なしでも美味しく食べられる料理です。少しピリ辛にするために、もみじおろしを使ったため、大丈夫かな…とも思いましたが、五月雨ちゃん達には丁度良い味だったようです。ピリッとした辛さがありますと、豆腐がより甘く感じられますから、美味しく食べられたのでしょうね。
今日は二人ともだいぶ慎重に飲み食いをしたようですから、前回の失敗がきちんと生かされたという事でしょうか。それでは最後に、大きめのコップにお水を入れて渡しましょうか。
「鳳翔さん、日本酒をもう一杯おくれよ!枡とコップだと一々持ち変えるのが面倒だから、今度は大きめのグラスでおくれよ~。」
「あっ、私も隼鷹と同じ物お願いします。」
「おっ、千歳も今日は飲むねぇ~。」
…それに引き換え、この酔いどれ軽空母は…。しかも今日は飲み仲間の千歳と二人で来ています。通常ですとそれぞれの相方が止める役になるのですが…今日は誰も止める人間がいません。それもあって、今日はいつもより飲むペースが早い気がします。とはいえ、いつも飲んでいる量を考えれば、まだ余裕はありそうですから、この注文は受けてもまだ問題なさそうですね。
「隼鷹、千歳、あまり飲みすぎては駄目ですよ。とりあえず、大きめのコップに日本酒を入れて、そこに置いておきますから、自分達で持っていってください。」
「鳳翔さん、肉じゃが三人分お願いします。」
「はいはい、加賀さん。すぐに出しますから、少し待っていてくださいね。」
今日は本当に忙しいですね。赤城さんが色々と手伝ってくれていますが、注文が入ってからの料理は、ほとんど私が処理していますから、どうしても注文が立て込みますと、色々な仕事を平行して行わなくてはならないのです。そろそろ赤城さんに料理の手伝いもお願いした方が良いかもしれませんね。
「あ゛ぁ~…。鳳翔さん?これは酷いよ!これ水じゃないか~。いくら飲んでいても、水と酒の違いは分かるよ!ちゃんと日本酒おくれよ~。」
「ん…私のもお水ですね。」
え?さっき隼鷹と千歳のために、日本酒を入れたコップをカウンターに置いておいたはずですが…。おかしいですね…あっ!まさか。
「あ…あれ?夕立…もしかして…また沈んじゃうっぽい??」
「ごめんなさい…五月雨も…ここまでのようです。やっぱり私、ドジッ娘だったのかな…。」
大きめのグラスになみなみ注がれた日本酒をほぼ一気に飲み干した五月雨ちゃんと夕立ちゃん…そのまま引っくり返りました。一体どうして…。おそらく隼鷹と千歳のコップと間違えたのでしょうが…いくらなんでも、飲む前に気付いて欲しいです。それにしても…今日は長門さんも居ませんし…誰に曳航してもらいましょうか。
「…加賀さん、申し訳ないですけど、帰るついでに駆逐艦寮に…」
「…分かりました。提督には報告しますか?」
「いえ…今回は報告しなくてもいいです。それよりも、隼鷹と千歳の二人を入店禁止にしたいところですよ…。」
「え~っ、そりゃないよ~、鳳翔さん。今回のミスは、鳳翔さんが間違えやすい場所に置いた事が…。」
えっ、私の責任ですか?ま…ま…まぁ、たしかに間違えやすい所に置いた責任があるかもしれませんが…。一番いけないのは、大きなグラスで日本酒を出してくれと言った、隼鷹と千歳だと私は思うのです。いえ、そうに違いありません。とりあえず、それぞれの相方の飛鷹と千代田には、二人から目を離さないように伝えて、間違っても二人だけで入店させないように…と釘をさしておきましょう。…しかし…今回は仕方ありませんね…私の方から、あの人には謝っておきましょうか…。どうしてこんな事に…。
今回は、『第四話 夕立と白和え』の続編的な位置づけのお話にしました。そして、前回の失敗を反省した二人が再び来店し、前回とは少し異なる豆腐料理を食べるというお話にしてみました。とはいえ、最後はやはり五月雨でしたがw。豆腐を使う料理は結構色々ありますが、豆腐がメインの料理でボリュームのある料理となると、やはり揚げ出し豆腐かな…と思います。
揚げ出し豆腐の衣の部分、私が作るときは片栗粉を使って薄目にしますが、薄力粉を使うレシピもあるようです。このあたりは、そろぞれの好みによって少しずつレシピが違いそうです。また、出汁の部分も薄めに作る人、濃い目に作る人と色々いると思いますが、個人的には出汁がしっかり効いているけど、味は薄目…というタレがいいかな…と思っています。
もみじおろし、作るのは唐辛子を大根に埋め込まなくてはならないため、少しだけ面倒ですが(水気もしっかりと切らないといけませんし)、これ美味しいですよね(しゃぶしゃぶなどのタレにも応用出来ますし)。私は揚げ出し豆腐の際は、普通の大根おろしよりも、もみじおろし派ですが、人によって、もみじおろしは苦手な人も居るかもしれませんね。
揚げ出し豆腐の材料
木綿豆腐 一丁
獅子唐辛子 二本くらい
しめじ 少量
鰹だし 100-200mLくらい
みりん 少量
薄口醤油 適量
日本酒 少量
つゆのもとで代用も可能。この場合は、みりんと日本酒のみかな…
大根 少し
唐辛子 お好みで
今回も読んでいただきありがとうございました。もうすぐ私も揚げ出し豆腐が食べられる訳で…戻ったら色々と食べたい和食があります。