鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回の話、主役は順番的に戦艦だな…と早くから決めていたのですが、どの戦艦を出すのかという点では、かなり悩みました。既に全ての艦種から一人は出ていますので、残りの一人…何処からにしようかと考えたのですが、ふと考えたら金剛姉妹だけは四姉妹のため、まだ三枠残っていたという事に気付きましたw。とはいえ、私の鎮守府では金剛姉妹は特別ですし、特に榛名はその中でもお気に入りです(そういう意味では、秘書艦を長い間続けている金剛もお気に入りの艦です。)。正規空母達と同じように金剛姉妹の位置付けだけはこの物語を書く前から決めていたため、それに沿った形で…となると、必然的に今回の物語の主役が決まりました。これで私のお気に入り艦で出していない艦は、矢矧と瑞鶴だけになりましたが、瑞鶴の登場はまだだいぶ先になると思うので、次のお気に入り艦の登場は矢矧になりそうですね^^;


第三八話 榛名と湯豆腐

「こんばんは、鳳翔さん。今日はちょっと座敷を借りたいのですけど、開いていますか?」

 

いつもであればテーブル席の一つを占領している加賀さん、飛龍さん、蒼龍さんの三人の正規空母娘ですが、今日は加賀さんが座敷を希望してきました。そして今回は珍しい事に、他の正規空母娘と一緒ではなく、何故か知りませんが高速戦艦四姉妹の榛名さんと霧島さんが一緒です。座敷を借りるというのは、これが原因なのでしょうか。私のお店のお手伝いに来ている瑞鶴さんは、この組み合わせについて不思議そうな顔をしていますが、赤城さんは納得した顔ですね。ちょっと聞いてみましょうか。

 

「赤城さん?事情を知っているようですけど、何かあったのですか?」

 

「実は…丁度昨日の出撃の時、私達機動部隊の護衛を榛名さんと霧島さんにお願いしていまして…私達一航戦と二航戦はかなり助けられたので、そのお礼を…。」

 

なるほど。昨日の作戦では機動部隊本隊が出撃したようですが、その時の護衛役として榛名さんと霧島さんも出ていたのですね。赤城さんは言葉を少し濁したようですが、あの人からの話では、昨日の作戦でかなり厳しい局面もあったと聞いています。おそらく、この二人の高速戦艦に相当助けてもらったようですね。

 

「なるほど、そういう事ですか。それでしたら、そちらの座敷が開いていますから使ってください。赤城さんは行かなくて良いのですか?」

 

「あ…あのぉ…ちょっと先立つものが…。赤城はこちらで手伝いながら…。」

 

まぁ、ツケを現在進行形で清算中の赤城さんにそんな余裕があるとはとても思えませんが…今日くらいは仕方ないですね。恩を受けた訳ですから、お礼はちゃんとしなくてはいけません。今日はお手伝いから開放してあげましょう。それに今日は瑞鶴さんも来ていますし、お店の仕事は問題ないですから。

 

「赤城さん、あなたも座敷に行ってきなさい。今日のお手伝いは結構ですから。」

 

「あ…ありがとうございます。鳳翔さん。」

 

座敷の一つを占領した正規空母娘四人と高速戦艦の二人に何をお出ししましょうか。六人居ますし何か鍋物の準備でもして、あとは適当に食べられる物を出してあげれば、後は向こうで適当にやると思います。鍋物何が良いですかね…ここは本人達の希望を聞いた方が早いかもしれません。

 

「榛名さん、霧島さん。今回は本当にうちの正規空母娘達がご迷惑をおかけしたようで…ありがとうございました。今回は、折角なので鍋物を出そうと考えたのですが…何か希望はありますか?」

 

「榛名姉さま、霧島は何でも良いので、お姉さまが決めてください。」

 

「良いのでしょうか…榛名が選んでしまって…。ですが、選んでも良いのでしたら、今日は少し榛名も疲れていますから、胃が落ち着くような鍋物が良いですね…。あっ、鳳翔さん、榛名は湯豆腐がいいです。」

 

湯豆腐ですか。たしかにこの寒い時期、温かい湯豆腐はご馳走と言っても過言ではありません。アツアツの湯豆腐をもみじ卸しの入ったポン酢ダレで食べる…これは本当に贅沢な料理だと思います。あら?妹の霧島さんは嬉しそうですが、肝心の空母娘達は微妙な顔をしていますね。この子達も豆腐は好きだと思いますし、このような寒い日ですから湯豆腐は嬉しい料理だと思うのですが…どういう事でしょうか。

 

「貴方達?浮かない顔をしていますが、湯豆腐は嫌いでしたか?」

 

「い…いえ、湯豆腐は好きです、鳳翔さん。いくら赤城でも、肉が入らない鍋なんて信じられない!なんて思っていないですよ。はい。」

 

「私も湯豆腐は好きです。それだけではお腹が膨れない…などとは勿論考えていません。」

 

…何が言いたいのかよく分かりました。大方この子達は、榛名さん達にご馳走するという名目で、すき焼きか何かを食べようと考えていたのでしょう。ところが肝心の榛名さんが湯豆腐を選択してしまい、当てが外れたと言ったところでしょうか。とはいえ、流石にご馳走すると言って誘った相手が選んだ料理をこの時点で変えさせるという訳にはいかず…といったところでしょうね。

 

さて、どうしたものでしょう。このまま湯豆腐だけ出しても良いのですが、それをすると折角の榛名さん達へのお礼のはずが、殺伐とした空気になる事は間違いありません。仕方ありません…湯豆腐以外に何かお腹が膨れるような物を一緒に出してこの正規空母娘達を落ち着かせてから、湯豆腐は出す事にしましょう。それにしても…本当に困った子達です。とりあえずお酒と一緒に、豚肉と大根の塩焼き、そして鶏肉の磯揚げ、焼き魚…あっさり食べたい榛名さんには申し訳ないのですが、これだけ肉や魚類を出しておけば、少なくとも空母娘達は静かになるはずです。瑞鶴さんも手伝いで来ていますし、急いで準備してしまいましょう。

 

 

私の目論見通り、お腹が膨れそうな料理を先に出しますと、空母娘達の表情も緩みました。一緒に来ている榛名さんや霧島さんも嬉しそうに出した料理を食べていますから、私の心配は杞憂に終わったようです。

 

それでは一段落しましたから、湯豆腐の準備をしましょうか。湯豆腐には豆腐だけを入れる非常にシンプルな物から、様々な野菜などを一緒に入れる物までありますが、今回は折角のお礼の会のようですから、豆腐を邪魔しない程度に他の野菜も一緒に食べてもらいましょうか。定番ですとネギ、白菜、椎茸、春菊、そして人参と言ったところを一緒に出せば十分だと思います。

 

まずは昆布を一枚、水を満たした土鍋に入れて、この土鍋を座敷に置かれたコンロの上にセットしておきます。それでは、湯豆腐の具材の準備をしてしまいましょうか。まずは豆腐です。最後に鍋から取り出す時に崩れやすいという欠点がありますが、やはり滑らかな食感が良いと思いますので、今回は絹ごし豆腐を用意します。それに穴じゃくしを用意しておけば、柔らかくなった絹ごし豆腐でも問題なく鍋から取り出せるでしょうから、大丈夫ですね。それでは絹ごし豆腐を少し大きめに切り分けましょう。

 

次は野菜です。白菜、ネギそして春菊は食べやすい大きさに切り分ければ良いですが、色合いをつけるために入れる人参、そして椎茸は少し細工切りをする事で目でも楽しめるようにしておきましょうか。人参はいつも煮物を作る時と同じように花びら状に細工切りをして…椎茸の方は、傘の側から包丁で中心で交わるように三本切り込みを入れます。こうする事で、椎茸を茹でますと傘の側に星が現れますから、見た目も楽しめるのではないでしょうか。

 

それでは切り分けた野菜と豆腐を大皿に盛って、座敷に持っていきましょう。後は湯豆腐で使用するタレですね。湯豆腐で使うタレは、ある意味この料理の一番大事な部分ですし、様々なタレを出す事で、味の変化を楽しむ事が出来ます。まずは定番の醤油ベースのタレですね。醤油とみりん、そして日本酒を軽く煮立てて、ここに分葱の微塵切りと旨みを出すための鰹節を入れたら火を止めて…これで一種類は完成です。

 

次は酸味のあるタレですね。これはポン酢で良いのですが、やはりピリッとしたアクセントも必要でしょうから、ポン酢タレに合わせられるように、薬味として鷹の爪と大根を使ってもみじおろしも準備しておきます。後は甘いお味噌のタレも準備しておきましょうか。これは八丁味噌と三温糖、そしてみりんと日本酒を鍋に入れて、軽く火にかけながらヘラで味噌を伸ばしていき、トロッとなったら少しだけフツフツしてくるまで熱したら完成です。このタレは濃厚で独特の甘味を持つタレで、豆腐にはよく合うのです。

 

後は、もみじおろし以外の薬味の準備ですね。おろし生姜、にんにくおろし、胡麻、分葱の微塵切り…これだけ準備しておけば十分です。それぞれの薬味を小鉢に取り分けて…座敷に運べば準備終了です。後は、あの娘達が勝手にやってくれるでしょう。

 

「皆さん、湯豆腐の準備が出来ましたから、後は適当に作って食べてくださいね。それとお酒の追加、ここに置いておきますね。」

 

 

 

高速戦艦 榛名

 

 

何故か知りませんが今回の作戦終了後に、一緒に出撃していた一航戦の加賀さんからお礼をしたいと言われて、言われるまま妹の霧島と一緒に鳳翔さんのお店にやってきました。私達高速戦艦は、機動部隊の直掩として空母の皆さんと一緒に出撃する事が多いのですが、今回榛名達が特別に活躍をしたとも思えません。本当に榛名達がご馳走になってしまっても良いのでしょうか。

 

鳳翔さんのお店は、この鎮守府の艦娘達にとって憩いの場だと榛名も知っています。しかし私達高速戦艦四姉妹は、一番上の金剛お姉様が鳳翔さんとは緊張関係にあるため、なかなかお店に訪れる事が出来ません。妹の霧島は以前に重巡洋艦達と一緒に訪れたと聞いていますが、その際に何か失態を起こしたようで提督からは入店禁止を告げられましたし、それを聞いた金剛お姉様からも厳しく叱責を受けたようです。榛名も今日は気をつけなければいけません。

 

金剛お姉様の評価はだいぶ異なりますが、鳳翔さんはとても優しい航空母艦です。今日も榛名が希望した湯豆腐を快く準備してくれるようですし、私の注文に空母の皆さんは少し不満があったようなのですが、鳳翔さんの心配りでそれもあっという間に氷解しました。そして並べられた料理の数々、榛名も霧島も正規空母達と一緒に、既に様々な料理に手をつけていますが、やはり榛名は湯豆腐が待ち遠しかったです。今日は色々と疲れているので、湯豆腐を食べて落ち着きたかったのです。

 

いよいよ榛名が注文した湯豆腐が机の上に乗りました。土鍋には既に昆布が入ったお湯が入っていますし、材料も既に切り分けられていますから準備は万端です。それに…所狭しと並べられた様々なタレに薬味の数々。こんなにも準備してもらえるなんて、素晴らしいです!榛名感激です。鍋料理というと必ず仕切りたがる艦娘が居ますし、私達高速戦艦四姉妹では、金剛お姉様が全てを取り仕切りますが、今日は一航戦の加賀さんが仕切るようですね。赤城さんが豆腐を生のまま食べようとする箸を途中で迎撃したり、豆腐と一緒に綺麗に切られたお野菜などを鍋に並べたりと、とても忙しそうです。

 

「…出来ました。まずは今日のお客さんの榛名さんと霧島さんに取り分けますので、お碗を貸してください。赤城さん!お客さんが先です。もう少し待つのね。」

 

加賀さんに言われてお碗を差し出すと、加賀さんが榛名のお碗に綺麗に豆腐や野菜をよそってくれました。金剛お姉様が鍋奉行の時は取り分けてはくれませんし、鍋の具を巡って姉妹で激しい取り合いになります。そして榛名達はいつも生存競争に負け、余り物しか食べる事が出来ません。ですから、このようにお客さんとして一番最初に榛名が食べる分を取り分けてもらえるなんて、本当に榛名感激です。妹の霧島は、私達四姉妹の鍋とは様子が異なる事に驚いているようですが、これが本当の鍋料理だと榛名は強く思います。

 

さて、折角取り分けてもらったので、冷めない内に早速食べましょう。湯豆腐を食べる訳ですから、やはり最初は豆腐です。榛名には少し大きめの豆腐なので、これを崩さないように慎重にまず箸で二つに切り分けます。今日の湯豆腐は、滑らかな食感が特徴の絹ごし豆腐のようですから、あまり力を入れすぎてしまいますと崩れてしまいますから…あぁ、霧島、そんなに力を入れてはダメです。

 

霧島は豆腐が崩れてしまい悪戦苦闘しているようですが、榛名はなんとか切り分けるのに成功しました。それでは早速…どのタレから行きましょうか。定番の醤油タレに、ポン酢タレ、そして甘さが特徴の味噌ダレ、本当に迷ってしまいます。ですが、やはりここは定番中の定番の醤油ダレですね。ここに分葱とおろし生姜、そして胡麻の薬味を少し入れて…湯豆腐を浸します。真っ白な豆腐が徐々に醤油タレ特有の透明感のある薄茶色の液体に浸されて、まるでお化粧をしたように色が豆腐の下の部分からついていきます。これくらい漬けたら大丈夫です。薬味を少し乗せて…。

 

はぁ…口の中一杯に広がる、豆腐から出る湯気とタレの香り。そして噛むと豆腐の甘さがジワッと広がり…本当に落ち着きます。このような素晴らしい料理を出してくれた鳳翔さんに感謝です。定番のタレですが、醤油を元にした少し甘めのタレ、豆腐の甘さに旨みを与えて本当に美味しいです。そして薬味として一緒にのせた生姜特有の辛味、胡麻の食感と香り、そして分葱…どれを抜いてもこの完璧な味は崩れてしまいます。次は何を食べましょうか。

 

次は白菜を食べてみます。先程は定番の醤油タレを使いましたが、今度は折角ですからポン酢タレを使ってみます。榛名は少しピリッとしたアクセントも好きですから、折角用意してあるもみじおろしをポン酢タレに少し落として、これに白菜をつけます。普通の鍋料理ですと、鍋料理自体に味があるので、その味を吸った白菜も美味しいのですが、湯豆腐の場合は昆布の旨みが入っただけの湯で茹でてありますから、白菜本来の甘味をしっかり感じられる筈です。ここにポン酢タレの酸味ともみじおろしのアクセントが入れば、きっと素晴らしい味になると榛名は想像出来るのです。

 

鼻から入る柑橘系の香り、これが榛名の食欲をそそります。白菜を十分にポン酢に浸してもみじおろしを乗せました。後はこれを口の中に入れるだけです。あぁ、これも榛名の想像通りの味です。白菜の合間に入り込んだポン酢のさわやかな酸味と白菜固有の甘味が合わさって榛名の口の中に広がっていきます。そしてもみじおろしのピリッとした辛さ。本当に堪りません。比叡お姉様の作った辛いカレーも榛名は好きですが、あの暴れまわるような辛さとは全く違う、控えめなそれでいてきちんと自己主張をする辛さ…榛名はこういう味が本当に好きなのです。

 

それにしても榛名のお碗に盛り付けられた色とりどりの野菜に豆腐、本当に綺麗です。野菜の切り方をほんの少し工夫したり、彩に気をつけて鍋料理を作るだけで、こんなにも視覚的に楽しめるのですね。榛名達がいつも食べる鍋とは全然違います…。そういえば、もう一つタレが用意されていたのを忘れていました。味噌ダレです。これはたぶん、田楽などに使うようなタレだと思いますから、湯豆腐にも絶対に合うと思います。やはりこのタレは、豆腐につけて食べなければいけません。お碗に残っている豆腐を味噌ダレにつけて…豆腐の白と味噌ダレの黒のコントラストが本当に綺麗ですね。

 

ふぅ…このタレも本当に美味しいです。豆腐の甘さとは少し違う味噌の甘味。たぶん味噌にみりんや砂糖を入れている事もあると思いますが、濃厚な甘さと味噌特有の香りが合わさると、豆腐の美味しさをこんなに引き出すのですね。この味噌ダレには胡麻の薬味が合うのかもしれませんが、榛名はこのタレはタレだけの純粋な味を楽しみたいです。同じ湯豆腐を食べていても、これだけ味の違う三種類のタレが出るだけで、こんなに味わいを楽しむ事が出来るのですね。榛名、脱帽です。

 

隣の霧島も美味しそうに食べ…あら?霧島の目が潤んでいますね。気持ちは痛い程分かりますが、金剛お姉様の前でその涙は禁物ですよ、霧島。

 

 

 

鳳翔

 

 

あら?先程まで騒がしかった座敷が少し静かになりましたね。料理の方を大方食べ終わったのでしょうか。特に追加の注文もなさそうですから、そろそろお開きになるようですね。…しかし、あの娘達のいつもの感じですと、お開きにはまだ少し早い気がします。今日は榛名さんや霧島さんが来ていますから、遠慮したのでしょうか。少し様子を見てみましょう。

 

「皆さん静かになりましたが、今日はお開き…えっ?」

 

驚きました。あの霧島さんの目に涙が浮かんでいて…榛名さんが何か霧島さんを慰めている感じです。そして正規空母の四人は、私もそうですがその光景に驚き沈黙しています。榛名さんが私に『大丈夫です』というジェスチャーを送ってきましたから、料理が不味かったという訳ではなさそうですし、うちの正規空母娘達が意地悪をしたという訳ではなさそうですが、ちょっと気になりますね。

 

「あの、榛名さん霧島さん、一体何があったのですか?私で良かったら相談にのりますよ。」

 

「あっ、鳳翔さん。本当に榛名達は大丈夫です。その…普段榛名達が鍋料理を食べる時と、あまりの違い…といいますか、平和さに涙が出てしまっただけです…ね、霧島?」

 

鍋の時の平和さ?一体何を言っているのかサッパリ分からないのですが…。しかし、こう言っては何ですが、うちの正規空母達も鍋料理をつつく時は、それ程平和とも言えない気がするのです。鍋の時になりますと、赤城さんが暴走しがちですし、それをブロックする加賀さんとの間で無言の戦いが繰り広げられますし、すき焼きなどでは肉を巡って激しい攻防が起こります。それよりも酷い鍋料理の争いと言われても、私には想像出来ません。

 

「榛名さん?その…あまり他所様の事を詮索するのはいけないのかもしれませんが、そんなに酷いのですか?金剛さんのところは。」

 

私がそう疑問を口にした瞬間、榛名さんに慰められていた霧島さんが覚醒し、様々なエピソードが堰を切ったかのように霧島さんの口から語られました。曰く『金剛姉妹の鍋料理は、金剛さんの金剛さんによる金剛さんのための鍋料理のようで、良い具材は真っ先に金剛さんの口に消えていく事』『すき焼きなどを行おうものなら、肉のほとんどは金剛さんと比叡さんに食べられてしまい、榛名さんや霧島さんにはほとんど回ってこない事』『鍋料理の間は、絶えず具材に火が通ったかを監視し、火が入ったと思われる瞬間に激しい生存競争が始まる事』『そのため、鍋料理の間は一瞬たりとも目が離せず、殺伐とした時間が続く事』。

 

他所様には他所様のやり方があるとは思いますが、金剛姉妹の鍋料理は恐ろしい物がありますね。どうやら霧島さんは、今回の湯豆腐の際に加賀さんから平等に具材をよそってもらったり、落ち着いて鍋料理を堪能出来、平和な時間を過ごせた事に感動して思わず涙が出てしまったという事のようです。比較対象の問題とはいえ、このような普通の出来事で涙を流されては…とても不憫に思ってしまいます。

 

「あっ、鳳翔さん。その…榛名達は慣れていますから、大丈夫です。それに…金剛お姉様も良いところはありますし。あっ、そうです。鳳翔さん、知っていますか?最近、金剛お姉様、秘書艦のお手伝いとして駆逐艦を連れてきて、色々と面倒を見ているのですよ。あの金剛お姉様も良い所があるんだなと、榛名感動したんです。」

 

重くなってしまった空気を変えるために榛名さんが別の話題を出してきましたが、この話題は私もとても気になります。あの金剛さんが駆逐艦の面倒?金剛さんとは、昔あの人を巡ってのライバル関係だったため、どうしても私には多少の偏見がありますが、それでも金剛さんが駆逐艦の面倒を見ている姿は、とても想像出来ません。それに駆逐艦の子達に、あまり金剛さんの真似をしてもらいたくはありませんし…。それにしても、一体どの駆逐艦を手懐けているのでしょうか。関係がありそうな駆逐艦と言えば、浦風さん辺りですが…。

 

「その…榛名さん?駆逐艦の面倒を金剛さんが見ているというのは、あまり想像が出来ないのですが、一体誰の面倒を見ているのですか?浦風さん辺りですか?」

 

「フフフ、それがですね鳳翔さん。榛名も最初驚いてしまったのですが、あの初霜ちゃんの面倒を見ているのですよ。何時からかは榛名も覚えていませんが、金剛お姉様が初霜ちゃんに秘書の仕事を丁寧に教えている姿を見てびっくりしたのです。」

 

えっ…。あの素直で良い子の初霜ちゃんが金剛さんに…これはいけません。手遅れになる前に、なんとかしなければいけませんが、まずはあの人が今日帰宅したら相談してみましょうか。榛名さんの言葉に、赤城さんや加賀さんも少し驚いた顔をしていますが、この娘達にも、少し注意して金剛さんの事を見てもらうように頼まなければいけませんね。余計な心配毎がまた増えました。




この時期の湯豆腐美味しいですね。冬に京都に出張で行きますと、大体一度は湯豆腐を食べる事になりますが、こういう寒い時期の湯豆腐は、すき焼きなどに比べて単純な鍋料理なのですが本当にご馳走だと感じます。個人的には、絹ごし豆腐のような滑らかな豆腐を用いた湯豆腐が好きなのですが、崩れ難さという点と歯応えという点から、木綿豆腐で作った湯豆腐も捨てがたいな…と感じています。

今回、様々な湯豆腐のタレや薬味を登場させましたが、個人的に好きなタレはポン酢+もみじおろしですね。あのちょっとした辛さのアクセントが入った酸味のあるタレは、湯豆腐に本当に合いますし、食が進みます。また今回は、変わり種のタレとして味噌ダレを登場させていますが、これも結構いけるタレだったりします。筆者は元々名古屋出身のためという事もありますが、味噌カツなどで使用する甘めの味噌ダレは、湯豆腐にもかなり合いまして…。田楽などのタレに比べるとゆるいタレなのですが、もし機会がありましたら是非お試し下さい。

さて、今回で金剛姉妹の半分が出揃い、また私のお気に入りの戦艦である榛名を登場させましたが、うちの鎮守府では金剛姉妹も正規空母達と同じく上下関係がはっきりしているようですw。おそらく、作中で鳳翔さんが言っているように『金剛姉妹の鍋料理は、金剛さんの金剛さんによる金剛さんのための鍋料理のようで、良い具材は真っ先に金剛さんの口に消えていく事』という感じで、すき焼きなどで良い肉は全て金剛の胃袋へ、残りの肉の大半が比叡の胃袋に消え、榛名と霧島の元にはネギや豆腐しか回っていなかったのではないかとw。そしてアルコールの力を借りて、霧島が時々反撃に出る…な感じですかね?あれ?そうなると、榛名はほとんど食べられないのではw。

また話題を変えるための榛名の一言で、鳳翔さんがついに初霜が金剛に使われている事を知ってしまいました。おそらくこれから鳳翔さんの指示で、正規空母達の彩雲が金剛を監視する事になるような…。まぁ、私の鎮守府の金剛がそう簡単にしっぽを出すとは思えませんので、しばらくは無言の攻防が繰り広げられそうです。

今回も読んでいただきありがとうございました。


今回のレシピですが、鍋料理のため基本的には自分が好きな量を好きなだけ入れれば良いという事で載せません。その代わり作中で使ったタレのレシピを載せます。


醤油だれ(湯豆腐では定番のタレ)
醤油 : 100 mL
みりん: 50mL
日本酒: 50mL
鰹節 : 2.5g
分葱 : 適当

醤油:みりん:日本酒を2:1:1で混ぜればOK


ポン酢ダレ
これは市販のポン酢が一番楽w
もみじおろしはお好みで
作り方は『第二一話 五月雨と揚げ出し豆腐』を参考にしてください。


味噌ダレ
赤味噌 60 gくらい
三温糖 30 gくらい
みりん 50 mL
日本酒 10 mL

味は好みがあると思いますが、このレシピですと少し甘目の味噌ダレになります。

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