鎮守府の片隅で   作:ariel

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およそ一ヶ月ぶりになりますが、久しぶりに投稿する事が出来ました。今回の主役は以前から言っていましたように戦艦になりました。既に大和型以外は一人ずつ登場させていますので、どの戦艦を登場させようかと悩みましたが、やはりここはこの物語で一番最初に登場した伊勢型しかないだろうと思い、伊勢に登場してもらう事になりました。


第四六話 伊勢と麻婆茄子

「鳳翔さん、今日もいつものをお願い。日向もそれでいいよね?」

 

「…いや、今日私は少し違う物を注文しようと思うんだ。鳳翔さん、今日はいつもの茄子の煮浸しの代わりに、何かその…違う味の料理を作ってもらえないだろうか?」

 

戦艦の日向さんと伊勢さんは、私のお店の常連さんです。そしてこの二人の注文する料理は、メインの料理こそ日によって違いますが、最初のお酒のおつまみとして頼む料理は、必ずと言って良い程『茄子の煮浸し』となっています。そして今日もいつもと同じように茄子の煮浸しとお酒を最初に出そうとしたのですが、珍しい事に違う料理を注文するようですね。日向さんの言葉を聞いて、伊勢さんも少し考えていましたが、結局日向さんにつられて同じようにいつもとは違う料理にするようです。何か気分を変えたいという事なのでしょうか。

 

「違う料理ですか…今日の突き出しのメニューで違う料理でしたら、手羽先はどうですか?」

 

「ん…手羽先の気分ではないな…。」

 

手羽先はダメですか…。となると、鯵の南蛮漬け、南瓜の煮付け、台湾風の枝豆の唐辛子和え、ふろふき大根などが用意してありますから、この中から選んでもらいましょうか。しかし、私がこれらの料理を一つずつ日向さんに勧めたのですが、どの料理に対しても日向さんは首を横に振るばかりです。困りましたね…。

 

「ちょっと…日向。このままじゃ、結局いつもの茄子の煮浸しになりそうなんだけど。本当に注文を変える気あるの?」

 

「いや…変える気はあるのだが…。その…茄子は食べたいのだが、味を変えたいんだ。」

 

なるほど…そういう事ですか。しかし煮浸しはある意味和食の定番中の定番の味付けです。この味に変化をつけて茄子の料理となりますと、酸味を加えるために梅煮のような形にするか、辛味をつけるために焼きナスにして辛い味噌ダレを使うくらいしか思い浮かびませんね。しかし今日の日向さんの様子を見ていますと、そういう小手先の味の変化では納得してくれなさそうな気がします。だからといって、トマト煮のような洋風の物は日向さんの好みではなさそうですし…どうしたものでしょうか。ここまで来ますと、私としても意地でも日向さんが満足する料理を作ってあげたい気持ちになってきます。

 

…そうですね。洋風は駄目かもしれませんが、中華風なら問題ないかもしれません。一度日向さんの意向を聞いてから決める事になりそうですが、豆板醤を使ったピリ辛の麻婆茄子のような物であれば、味や雰囲気がいつもの茄子の煮浸しとは大幅に変わりますので、気に入ってもらえるかもしれません。

 

「日向さん、これから料理しなくてはいけないので、少し時間はかかってしまいますが、中華風の麻婆茄子はどうですか?これでしたら、中華風のピリ辛という事で、いつもの和風の茄子の煮浸しとは、だいぶ味や雰囲気が違うと思いますが。」

 

「まぁ、悪くない。」

 

「日向!折角、鳳翔さんが提案してくれたのに、その返事はないんじゃない!?鳳翔さん、この我儘な日向には、激辛の麻婆茄子でも作ってやってよ。」

 

伊勢さんはこう言っていますが、元々日向さんはあまり感情が表に出ませんし、無口な人です。それに…私の提案を聞いて、日向さんの顔にはうっすら微笑みがありますから、喜んでくれていると思います。それでは、伊勢さんが希望するような激辛味にはしませんが、少しだけパンチの利いた辛さの麻婆茄子を作りましょうか。

 

麻婆茄子には麻婆豆腐に茄子を入れたタイプから、純粋に茄子と挽肉、そして色合いと歯応えの変化をもたらせるために違う野菜を少し入れたタイプまで、様々なレシピがありますが、今回は茄子が好きなお二人のために、豆腐を使用しないタイプの物にしましょう。ただ茄子だけでは少し寂しい気もしますから、緑の色合いが綺麗なピーマンを混ぜましょうか。

 

そして、最近は麻婆豆腐用のタレが市販されていますが、これを使用しますと口に入れた瞬間からビリッとする辛さになってしまいます。これは私の勝手な意見ですが、辛い料理というのは口に入れた瞬間はそれ程辛くなく、後からグッとくる辛さこそが良いのではないかと思うのです。ですからそのような味にするために、味付けも自分で行わなくてはいけません。それでは早速作ってみましょうか。

 

まずは、麻婆のタレに入れるためのネギと生姜を微塵切りにして、鷹の爪を少し細かく切っておきます。また茄子は皮を荒く剥いてから乱切りにしておきます。色合いをつけるためのピーマンも乱切りで大丈夫ですね。さて乱切りにした茄子ですが、茹でて灰汁を抜いても良いのですが、今回は色合いを大切にしたいですから、少し高温で一度軽く揚げてしまいましょう。こうする事で、茹でて下処理をした物とは少し違った風味を出す事が出来ます。

 

さぁ、それではここからは一気に料理をしなくてはいけません。中華料理と言うのはスピードが勝負と聞いた事があります。本当は中華鍋で作りたいところですが、生憎私の店には中華鍋はありませんので、今回はフライパンで一気に目的の料理を作ってしまいましょう。それではフライパンに油を引いて、まずは乱切りしたピーマンに軽く火を通します。そして次に挽肉を混ぜて強火で一気に炒めます。この時に挽肉が固まってしまいますと、麻婆茄子中の肉の成分の食感が悪くなってしまいますので、パラパラになるように丁寧に炒めます。大体、これくらいで大丈夫ですね。それでは、この挽肉とピーマンを炒めた物に、先程微塵切りにした生姜と鷹の爪を入れます。また大元の味付けをするために、辛味の中心となる豆板醤、そして中華風の甘味噌とも言われる甜麺醤(テンメンジャン)を混ぜて、さらに炒めます。

 

良い感じの色になってきましたね。とはいえこのままでは味が濃すぎますし、辛くても美味しい料理に仕上げるために、これに旨み成分を足さなくてはいけません。今回はこの中に鳥ガラスープ、日本酒、醤油、砂糖を入れ、少しだけ和風の旨み成分を加えるために隠し味として出汁汁を入れます。これで辛さの後ろに旨みが隠れた、美味しい麻婆茄子になると思いますし、食べた瞬間ではなく後から辛さが出てくる料理になるはずです。それではこの中に、メインの軽く揚げた茄子を入れて、数分間煮込んで茄子全体に味が馴染むようにします。最後に薬味のネギを加えて、水溶き片栗粉でとろみをつければ完成です。

 

「お待たせしました、伊勢さん、日向さん。麻婆茄子を作りましたのでどうぞ。ただ…この料理は味も強いですし、香りも強いですから、日本酒よりも焼酎の方が合うと思いますよ。折角ですから、芋焼酎がありますのでこちらもどうぞ。」

 

「ま、折角だから、鳳翔さんに任せるさ。」

 

「日向!全く…。鳳翔さん、ありがとう。私も日向も焼酎をお願いするわ。」

 

 

 

戦艦 伊勢

 

 

まったく日向は…。鳳翔さんは優しいから普段は怒らないけど、怒ったら凄く怖い事は日向も知っているでしょうに…。あれ以上我侭を言っていたら、どうなっていたか知らないわよ。まぁ、結果的にいつもと少し違う料理が食べられるから、私は良いんだけど。それにしても、鳳翔さんは麻婆茄子と言っていたけど、鎮守府食堂で出てくる麻婆豆腐とはだいぶ色が違うのよね。

 

そう…鎮守府食堂の麻婆豆腐は『いかにも辛そう!』と言った感じの褐色の粘度の高い餡が使われているのだけれど、今回鳳翔さんが出してくれた麻婆茄子は、色は少し薄めの黄土色…というより輝いているから黄金色かな…。それに粘度もあまり高くなさそう…ただこっちの方が挽肉も多そうだし、色合いも充実しているわね。鎮守府食堂の麻婆豆腐は口に入れた瞬間にビリッと舌が痺れるような辛さがあって私は好きだけど、この料理はどうかな。早速一口、茄子にたっぷり挽肉の入ったタレをまぶして食べてみようかな。

 

ウン…口に入れた感じは、それ程辛くはな…エッ、何これ。口の中で茄子を噛み始めたら、急に口の中に辛さが…これは…後からカーッと来る辛さじゃないの!これは注意しないと…一気に食べたらとんでもない目に合うわねっ…。ふふ…日向はやらかしたみたいね。最初の一口で油断して大量に口に入れたから、口の中に広がったあまりの辛さに、口を開けてハァハァしているわ。でもこの辛さ、辛味の後ろには旨味がしっかり入っていて、癖になる辛さじゃない。それになんとなくだけれど、私達が普段食べている茄子の煮浸しに通じる和風の香りもするのよね。あと茄子も一度揚げているから、表面だけ少しパリッとしていて、中はジュワッとした汁気がたっぷり閉じ込められているわ。

 

次は一緒に入っていて、私の目を楽しませてくれる綺麗な緑色のピーマンも食べるわよ!折角だから今度は、この辛いタレをしっかり味わうために、ピーマンをお椀に見立てて、中に挽肉とタレをしっかり入れて…たぶん後から凄い辛さが襲ってきそうだけど、行くわよ!

 

ハァハァ…予想通り、ピーマンを口に入れてしばらく経ってから、すごい辛さが口の中に広がってきたけど…これは…本当に病み付きになりそうな味だわ。ピーマンの少し固めの食感に挽肉のボロッとした食感、そしてピーマンの甘さと後味としてやって来る辛さと旨味。茄子とはまた違った味が堪能出来て、凄いじゃない!今回はこの料理を食べる切欠を作ってくれた日向に感謝かな。

 

さてそれじゃ、一度一緒に出してもらった芋焼酎で口の中をサッパリさせたら、もう一度この美味しい麻婆茄子を食べよっと。今日も最初の料理から大当たりだし、ついているわ。

 

 

 

鳳翔

 

 

どうやら喜んでくれたようですね。私も調味料は揃えていますが、普段は中華風の料理は作らないので久しぶりに料理しましたが、美味しく食べてもらえそうです。正直に言いますと、戦艦のお二人にお出しするため、少し豆板醤を入れすぎて辛くしすぎたかもしれない…とヒヤヒヤしていましたが、二人には丁度良い辛さだったようですね。今回のように中華スープや出汁が入っていますと、色合いはそれ程辛そうには見えなくても、実はかなり辛い料理になっていますから心配だったのです。

 

「ほぉ、日向、伊勢、美味しそうな料理を食べているな。それは麻婆茄子か?見た感じ、それ程辛そうには見えないが、辛くはないのか?」

 

「あっ、長門。この麻婆茄子、(最初に口に入れた時は)辛くはないわね。」

 

「そ…そうか。私にも少し分けてくれるか?何…流石に鎮守府食堂の麻婆豆腐は辛そうだから私には無理だが、一度こういう料理も食べてみたかったのだ。この色なら私にも食べられそうだからな。」

 

えっと…長門さん、止めておいた方がいいですよ。何故伊勢さんが『辛くはない』と答えたのかは知りませんが、この麻婆茄子は間違いなく鎮守府食堂の麻婆豆腐よりは辛いと思います。長門さんは甘い出汁巻きが好きですし、辛い料理は苦手だったはずです。たしかにあまり辛くないと言われれば、一度食べて見たいと思うのも理解出来ますが、今回は止めた方が…一応止めておきましょう。

 

「あの…長門さん?悪い事は言いませんから、その麻婆茄子は止めた方がいいですよ。伊勢さんが『辛くない』と言っていますが、この麻婆茄子は間違いなく鎮守府食堂の麻婆豆腐よりは辛いですから…。」

 

「ハッハッハッ、鳳翔さんも人が悪いな。この長門、流石にそんな言葉には騙されないぞ。この麻婆茄子の色を見れば、どう見てもそれ程辛そうには見えないし、鎮守府食堂の麻婆豆腐より辛いとは…鳳翔さん、流石にそれは言い過ぎだろう。」

 

いえ…その…色はたしかにそうなのですが、作った本人としては、入れた豆板醤の量を把握していますから、間違いなく辛い料理だと思うのです。私が更に長門さんを止めようと思ったのですが、日向さんと伊勢さんはニヤッと笑っていますし…どうやら長門さんに食べさせる気が満々のようですね…困った人達です。それに長門さんの隣に入る陸奥さんが、私の言葉に被せて、長門さんを更に煽ります。この様子では陸奥さんも長門さんにこの料理を食べさせようとしていますし、陸奥さんは私がこの料理を作っている所をチラッと見ていて、この料理の中にどれだけの豆板醤が入っているか知っていそうですね…。

 

「あら?長門、その料理食べるの?私も鳳翔さんと同じように止めて置いた方が良いと思うんだけどなぁ~。あなた辛い料理は全然駄目でしょ?あなたにその料理は無理よ。」

 

「陸奥、お前までそう言うか。流石にこれくらいの色の料理なら私にだって食べられるさ。このビッグセブンをあまり甘く見ないで欲しいものだな!」

 

はぁ…陸奥さんの売り言葉に買い言葉。こうなってしまっては、長門さんは意地でも引かないでしょう。そして、私にはこの料理を食べた後の長門さんの反応が簡単に予想出来てしまいます。それでは日向さんや伊勢さんが、長門さんにこの料理を食べさせる前に保険を準備しておきましょうか。大ジョッキ一杯に氷水を準備しておけば、流石の長門さんでも大丈夫だと思います。

 

「うむ、これは本当に旨そうな料理だな。それでは早速一口。ウン、たしかに口に入れても舌が痺れる事もないし、これくらいの味なら私だって…ヴッ…ギャァァァァ」

 

だから言わない事ではありません。もう少し私の忠告を聞いてくれていれば、このような事にはならなかったと思います。長門さんは口を大きく開けてハァハァしていますし、顔には汗が一杯です。仕方ありませんね。準備していた大ジョッキの氷水を渡しましょう。

 

「長門さん…はい、氷水です。少し落ち着いてくださいね。」

 

長門さんが一口で撃沈した様子を見て、周りの他の艦娘達も興味を持ったのか、伊勢さんと日向さんに、自分達にも一口食べさせて欲しいと言い寄っていますね。これでは、折角料理を楽しんでいる伊勢さんや日向さんの分が無くなってしまいそうです。これは…もう一度作り直したほうが良いかもしれませんね。

 

その日以降、長門さんを一発で大破させたこの麻婆茄子は、私のお店の名物の一つになりました。伊勢さんや日向さんも、時々この麻婆茄子を注文しますし、特に伊勢さんはこの味を気に入ってしまったようで、『後味の凄い辛さとそれに隠された旨味が丁度良い』などとよく言っています。この料理を作る切欠となった日向さんも、最初こそこの料理の辛さに驚いていましたが、最近は伊勢さんと一緒に非常にこの料理が気に入ったようですね。最初の経緯はどうであれ、結果的にお気に入りの料理が一つ増えた訳ですから、良かったのではないでしょうか。今日も鎮守府は平和です。




仕事の方もなんとか初動の一番忙しい部分が終わり、ようやく少しだけ一息つけました。とはいえかなり疲れきっていますので、三月の最終週は一週間完全にOFFにしてしまい、台湾でノンビリしようかな、と画策している今日この頃です。艦これの方は、最近あまりINしていないのですが、先日のアップデートで実装された摩耶さんの改二は、以前から育ててあったので、なんとかその日の内に改二にする事が出来ました。これ…秋月さんと組ませれば、正規空母一隻分くらいの艦載機なら簡単に蒸発させられそうな気が…w。

さて今回の料理の麻婆茄子ですが、同じ麻婆と付いても豆腐と茄子では、だいぶ感じが変わるな…というのが私の感想です。中には豆腐と茄子を両方入れるレシピも存在しますが、今回は別物という形で書いてみました。また文中でも少し書きましたが、この料理は市販のルー?を使うよりも、自分で作った方が遥かに美味しい物が出来ると思っています。なんといいますか、市販の物を使って味付けをしますと、口に入れた瞬間から舌に刺激を感じるような辛さなんですよね。

また、鳥ガラスープで割るレシピにしましたが、これは市販の中華スープでもOKですし、コンソメでもそれっぽい味になるかと思います。これと最後に少しだけ隠し味で入れる出汁(これも市販の出汁の元でもOK)によって、後から来る辛さになるのかな…と思いますし、辛いながらも旨みが出てくるのだろうな…と考えています。今回はニンニク無しのレシピを紹介していますが、生姜+ネギ以外にニンニクの微塵切りを混ぜても美味しく食べられますので、好きな人は是非お試しを。

昔、某テレビ局で料理の鉄人という番組をやっており、あれは私の非常に好きな番組だったのですが、たしか今回のレシピもその時に覚えたやり方だったような…。もう遥か昔の話ですので記憶も曖昧なのですが、たしかその頃に覚えてそれ以来、私にとっては好きなレシピになっています。

前回のあとがきで次の話は春の味覚…と書きましたが、ちょっとまだ早いかなと思い、今回はあまり季節に関係ない料理にしています。次回こそは春の味覚で書きたいですし、丁度それが合う時期に次の投稿が出来たらなと思っています。

今回も読んでいただきありがとうございました。


麻婆茄子(四人分)
茄子  : 中5-6本
ピーマン: 3-4個
生姜  : 小2
ネギ  : 1/2本
鷹の爪 : 少量
挽肉  : 200-300g
豆板醤 : 大さじ1-1.5 (お好みで)
甜麺醤 : 大さじ2
鳥ガラスープ:350-400 mL
日本酒 : 15 mL
醤油  : 20 mL
砂糖  : 少量
出汁汁 : 20 mL
水溶き片栗粉:適量

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