鎮守府の片隅で   作:ariel

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ようやく予告していた通り、イタリア戦艦でお話を書く事が出来ました。何故か知りませんが、話のスパイスとして出した金剛さんの方が目立ってしまっている気がしないでもないですが…、この物語の金剛さんは、それはそれは強い個性がありますので、このお方が登場してしまうと…。だったら他の戦艦出せよ!と言われてしまいそうですが、今回のお話のスパイスは金剛さんでなくてはいけませんし…w

ローマ…イベント中には出てこなかったんですよ!必死に何度も何度もE6周回したのですが、かすりもしませんでした…チクショ~メw。



第五一話 リットリオとニョッキ

「Hey! 鳳翔。邪魔するネ~!」

 

…開店を一時間後に控えて、様々な下準備に忙しい時間をまるで狙ったかの如く(いえ、間違いなく狙っていますね…)金剛さんが私のお店にやってきました。まだ開店前ですから、お帰り願うというのも一つの手ですが、あの金剛さんがわざわざ私の所にやってきた事、そして両手で少し大きめの箱を抱えている事から、どうやら本当に私に用事がある事は間違いなさそうです。手短に用件を済ませてもらいたいものですが…。

 

「折角Funnyな情報を持ってきたというのに、鳳翔は私をwelcomeしてくれないネ~。手土産まで持参してきた私を追い返そうとしている酷い女デ~ス。」

 

「はいはい…金剛さん。分かりましたから、早く用件を仰ってください。もうすぐ開店ですから、本当に忙しいのですよ。お話があれば、開店中か閉店してから来ていただければ良かったのですが…」

 

「な~に言ってるネ。そんな時間に来たら、鳳翔の邪魔が出来ないデ~ス。それと、とりあえず紅茶が飲みたいネ。話は紅茶を飲んでからするデ~ス。」

 

…申し訳ありませんが、金剛さんの言っている意味が全く分かりません…いえ、理解しようとしたら負けだという事だけは理解出来ました。金剛さんは、私が敢えて迷惑そうな顔をしたのも気にせずにカウンター席に座りこむと、紅茶まで要求してきました。うちは喫茶店ではないのですが…。

 

「あの…金剛さん?うちは喫茶店ではないのですが…」

 

「そこの右から二番目の棚の一番下に紅茶が入っているのは、知っているネ。」

 

たしかに以前、金剛さんが私の店に襲来した際、しつこく『紅茶が飲みたいネ』などと騒ぎましたから、急いで赤城さんに紅茶を買いに外に走らせました。そしてその時以来、急な金剛さんの襲来にも対応出来るように、紅茶の缶が金剛さんが言った場所に入っている事は確かです。それにしても…どのような手段を使ったのかは知りませんが、私のお店の紅茶が入っている場所まで知っているのは、流石はこの鎮守府の現役秘書艦と言ったところでしょうか。致し方ありません。これ以上邪魔されるのも嫌ですし、実際に金剛さんが持ってきた『ふぁにーな話』と言うのも気になりますから、とりあえず紅茶を出して話を続けさせましょう。…それにしても、今日は開店前から疲れそうですね。

 

 

「ん~、紅茶が美味しいネ。私に比べればまだまだデ~スけど、鳳翔も器用なところがあるネ。それじゃ、私が持ってきたFunnyな話を教えるネ。鳳翔も知っていると思いマ~スけど、今回の作戦終了後に同盟国のItalyから戦艦娘が二人来る事になっていたネ。」

 

そういえばそうでしたね。たしか先日あの人から、同盟国のイタリアから我が国に深海棲艦に対する戦術や情報伝達のために戦艦娘が二人派遣される事になったという話を伺いました。そして私達の居る鎮守府でこの二人の面倒を見る事も決まったと伝えられ、今回の作戦に合わせて欧州との連絡線が確立した段階で派遣される…とも聞いています。そしてそのため、作戦終了後にこの二人の歓迎会をしたいという話も聞かされました。この鎮守府に主力艦隊が戻ってくるのは、明後日ですから、近い内に開かれるその歓迎会でどのような料理をお出しするのか…私も最近悩んでいましたので、この件はよく知っています。

 

「ところがデ~スね。そのうちの一人が、Italyに帰ってしまったデ~ス。」

 

え?その…任務に就いている艦娘が、そんなに簡単に本国に戻れるものなのでしょうか。続けて金剛さんから話を伺いますと、どうやら今回の作戦に参加していたビスマルクさんと、そのイタリア戦艦娘の一人が大喧嘩をしたようで、怒ったイタリア戦艦の子が『こんな大西洋の暴れん坊が居る鎮守府には、とても赴任出来ないわ!』と言い捨てて、本国に帰ってしまったのだとか…。本来であれば大問題になる筈の事(実際に大問題になったようで、その後始末に金剛さんもかなり苦労したようです)を『ふぁにー』の一言で片づけてしまっている金剛さんには脱帽です。

 

「だから今度の歓迎会に来るイタリアの子は一人だけデ~スから、先に連絡に来たネ。それにしても…欧州の艦娘の心情は複雑怪奇ネ。まぁ日本の艦娘でも、鳳翔のように腹に一物も二物も持っている意地悪な艦娘も居マ~スけど。」

 

「(ムカッ)…そうですね。たしかに昔どなたが仰ったか忘れましたが、『欧州情勢は複雑怪奇』らしいですから、その文化圏に属する艦娘の心情も、私達から見れば複雑怪奇なのでしょうね。そういえば、金剛さんも欧州の生まれでしたよね?ですから、私には金剛さんの心情がいつも分からない訳ですね。」

 

私もそうですが、金剛さんも凄く良い笑顔ですね。まぁ、こうやって金剛さんが私と嫌味の応酬をしている間は、鎮守府は平和だという事ですし、お互いにそれを分かっていてやっていますから非常に結構な事なのですが…。その分、私のお店の空気は非常に張りつめた状態になってしまいます。

 

「まぁ、この件はここまでにしておいてあげるネ。お互いにbusyデ~スから、time is moneyネ。だから急いで、もう一つの用事も済ませておくね。…これを鳳翔に持ってきたネ。どうせ鳳翔はItalyの子が来るから、ビスマルク達にしたようにイタリア料理を作ろうとしているネ。だから、これをあげるネ。」

 

あら?金剛さんが持ってきた箱を開けますと、そこには手動のパスタマシン(製麺機)が入っています。これを使えば簡単に、スパゲッティを手作りで作れますので、ありがたいですね。金剛さんが言いましたように、イタリアから来る子の歓迎会ですから、ビスマルクさん達の時と同じように、一品だけでもその国の料理で歓迎したいと私も思っていました。ですから、このような機械をいただけるのはとてもありがたいです。…問題は、金剛さんがどのような意図で、私にこんな高い物をプレゼントしてくれるのか?という事ですが、それでも嬉しい物は嬉しいですね。

 

「まぁ、ありがとうございます、金剛さん。流石に私も、すぐにこれを使いこなす事は出来ませんので、イタリアから来る艦娘の子に色々聞きながら、近い内に美味しいスパゲッティを作ってみますね。その時は、金剛さんにもご馳走しますから、是非うちの店に来てくださいね。」

 

「What? 鳳翔、な~に呑気な事を言っているネ!私が今度の歓迎会でスパゲッティを食べたいから、このマシンを鳳翔にプレゼントしたネ!こうやって装置の投資までした訳デ~スから、必ず今度の歓迎会で鳳翔のスパゲッティを食べさせてもらうネ。食べられなかったら私悲しくなって歓迎会の席で『鳳翔に意地悪されたネ~』と大騒ぎするデ~ス!」

 

…前言撤回です。いくら私でも、本場イタリアから来た子に対して、付け焼刃で作ったスパゲッティを出すなどという無謀な事は出来ません。また私はあの人から聞いていますが、今度来る子はかなり料理が上手な子という事です。そんな子に対してスパゲッティを出すという事は、私がその子に味噌汁を作ってもらう事と同じです。金剛さん…歓迎会で大騒ぎするネタを仕込むために、わざわざこのような高い物を持ってきたようですね…。しかしそういう事でしたら、こちらにも考えはあります。とりあえず、今日の所はこれでお引き取り願いましょうか。

 

「金剛さん…分かりました。パスタを作る事に関しては善処しますので、歓迎会は楽しみにしていてくださいね…ウフフフ」

 

「Oh! 鳳翔が引き受けてくれたネ。それじゃ、私も歓迎会での鳳翔のパスタを楽しみにしているネ!まぁ、本場の子から駄目出しされないように、せいぜい頑張ると良いネ!…フフフ」

 

さて、金剛さんはようやく帰ってくれましたが、実際の所、今度の歓迎会で一品だけ作るイタリア料理…少し困りました。イタリアはデザートなども美味しいと聞いていますから、アイスクリームの上からエスプレッソをかけるアフォガードのような物でも良いのかもしれませんが、やはり最初はちゃんとした料理でおもてなしをしたいですからね。

 

!そうです。ビスマルクさんとの喧嘩が原因で一人帰ってしまっていますから、ドイツ料理でよく使う食材を用いたイタリア料理を出して、少しでも融和的な雰囲気を出せないでしょうか。たしかイタリア料理には、ニョッキという名前のジャガイモを用いた料理があった筈です。この料理でしたらスパゲッティ程の難易度はありませんし、これを歓迎会でお出しして、少しでも今度赴任してくるイタリアの子とビスマルクさんとの間に友好関係が生まれてくれれば…料理の遣り甲斐も出てきます。

 

そしてこの料理ならば、パスタの一種ですから、金剛さんとの約束である『パスタを作る』という物もクリアー出来ます。とはいえ…金剛さんの持ってきた装置は使いませんので、あくまでもこれは抜け道を探るような回答方法なのかもしれませんが…。ですから一応保険のために、一人前だけ金剛さん用に、有名店でも出るようなスパゲッティを作って満額回答も準備しておきましょうか…。

 

 

主力組も鎮守府に戻ってきましたし、鎮守府全体で行う作戦完遂の祝賀会は無事終了しました。そして今日は、戦艦組が主催するイタリア戦艦の歓迎会が私のお店で行われます。だいたいの準備は終わっていますが、肝心のイタリア料理はこれから作らなくてはいけません。それでは早速、先日考えていたとおり、ニョッキを作り始めましょうか。

 

ニョッキというのは、ジャガイモと小麦粉で作る一口大の塊上のパスタです。そしてスパゲッティなどとは異なり楕円形状の塊なのですが、その分モチッとした歯ごたえも楽しめる優れものです。ニョッキを出す時に合わせるソースについては、まだ決めていませんが、とりあえずニョッキ本体を作ってしまいましょうか。

 

まずはジャガイモを皮がついたまま塩茹でします。そして中まで十分に火が通りましたらジャガイモの皮を剥いてしまい、滑らかな舌触りを実現させるためにしっかり潰して裏ごしをしてしまいます。最終段階でおかしな歯応えを残さないためにも、この作業は丁寧に行わなくてはいけません。それでは、ここで裏ごししたジャガイモに、モチモチ感を出すために薄力粉と片栗粉を混ぜて、さらに味をマイルドにするために卵の黄身、そしてパルメザンチーズを入れて混ぜていきます。今回のソースどうしましょうかね…。トマトソースでも美味しいですし、バジルをたっぷり使ったジェノバソースでもいいですね…それに濃厚なチーズソースも捨てがたいですが、この場合は味が強めのチーズが必要です。

 

「鳳翔さん、ビスマルクよ。そう、ちょっと相談があって来たのよ。…あぁ、もう話は聞いているのね。ちょっと今回はキツク言い過ぎたかも…。そのお詫びではないけど、今回のリットリオの歓迎会の料理に、このチーズを使ってもらえないかしら。この間の本国からの補給の際に受け取った、欧州のゴルゴンゾーラチーズよ。この国じゃ、こういう物はなかなか手に入らないでしょ?だから、これを使ってリットリオの歓迎会を盛り上げてちょうだい。」

 

「あら…ビスマルクさん。今回は大変でしたね。済んでしまった事ですし、今回帰ってしまった子も、そのうちまた来る事になるでしょうから、あまり気にしても仕方ありませんよ。それと…こんな素晴らしいチーズありがとうございます。今、丁度チーズの事を考えていたので、渡りに舟ですよ。このチーズ、ありがたく使わせていただきます。今日の歓迎会は楽しみにしていてくださいね。」

 

丁度チーズの事を考えていたという私の言葉に、ビスマルクさんは少し不思議そうな顔をしていましたが、私の料理の腕は信用してくれているようで、何度も頷きながら戻っていきました。それにしても、ビスマルクさんは非常に気が利くのですね。こうやって自分の失敗をすぐにフォローしようとする部分は流石だと思います。ですからリットリオさん達とも、すぐに分かり合える日が来るのではないでしょうか。

 

さて瓢箪から駒で、このような素晴らしいゴルゴンゾーラチーズが手に入ってしまいました。このチーズは、普通に食べますと塩味も強いですし、青かびの刺激も効いていますが、これがチーズソースになると非常に濃厚で美味しいソースになるのです。ですから今回のニョッキはこれを使ったチーズソースに決定ですね。ゴルゴンゾーラチーズのソースを使うという事はソースの味が濃くなりますので、ニョッキ側の塩分は弱い方が良いでしょうね。ですから今回は、あまり塩は入れずに先程のニョッキの基を混ぜていきます。

 

これで十分ですね。後は蕎麦切りの要領で、打ち粉をした台の上での作業になりますが、まずは直径1.5cm程度の紐状に生地を伸ばしていきます。そしてこれを一口大に切っていき、最後に形を整えるために、フォークを使って転がしながら筋をつければ完成です。後は実際の歓迎会が始まってから、これを十分な塩を入れた熱湯で茹でていき、浮き上がれば完成ですね。

 

 

それでは歓迎会の時間も近づいてきましたし、ゴルゴンゾーラチーズのソースも作りましょうか。まずはフライパンにバターをしっかり溶かしておき、ここに生クリーム、牛乳、白ワインを入れてよくかき混ぜていきます。そして細かく千切ったゴルゴンゾーラチーズを入れて、ヘラで潰すような感じで混ぜながら溶かしていきます。最後に別口で茹でていたホウレン草を入れて、塩と胡椒で味を整えたら完成です。

 

ここから先の作業は料理を出す直前に、このソースの中に茹でたニョッキを入れてから、短い時間でニョッキにソースを絡めれば終了ですね。あまりイタリア料理には自信がありませんが、なんとか形にはなったようで良かったです。新しく入ってくる本場イタリアの艦娘に喜んでもらえると嬉しいですね。

 

 

戦艦主催の歓迎会が始まりしばらく経つと、長門さんが今回の歓迎会の主役であるリットリオさんを連れて、私の所に挨拶に来てくれました。

 

「鳳翔さん、こっちが新しくイタリアから来てくれたリットリオだ。これから色々と面倒をかけると思うが、よろしく頼む。リットリオ、この人が鳳翔さんだ。鎮守府の生活で何か困った事があったら、鳳翔さんに相談するといい。」

 

長門さんから紹介されたリットリオさんは、少し大柄ですがとても可愛いらし子です。私は今回が初対面ですが、長門さんからの紹介の様子を見る限り、とても人当たりの良さそうな子ですし、うちの鎮守府でも上手にやっていけるのではないでしょうか。

 

「はじめまして~、鳳翔さん。リットリオと申します。本当は妹のローマも一緒に来るはずだったのですが…ちょっと事情があって私一人赴任する事になりました。これからどうぞよろしくお願いします。それと…長門さん達からは鳳翔さんは料理が上手だと聞いています。私も料理は好きなので、色々と教えてくださいね。あと、今日の歓迎会でわざわざパスタを作ってくれたとも聞きました。とても楽しみです。」

 

「リットリオさん、こちらこそよろしくお願いします。私もリットリオさんが料理が得意だとあの人から聞いていますので、そのうち美味しいイタリア料理の作り方を教えてくださいね。今日は…見よう見真似ですが、ニョッキを作ってみました。お口に合うと良いのですが…どうか楽しんでいってくださいね。」

 

話した感じは、少しノンビリした雰囲気も見受けましたが、料理については一家言ありそうで、いきなり料理の話題になりました。今日は頑張ってニョッキを作ってみたのですが…お口に合うと良いですね…。流石に私も少し緊張してきました。

 

「ありがとうございます。本国から遠く離れた地でパスタが食べられるだけでも幸せです。それでは早速ニョッキをいただきますね。」

 

 

 

戦艦 リットリオ

 

 

この鎮守府に来る前に、妹のローマとドイツのビスマルクさんが喧嘩してしまって…まさか途中でローマが帰国してしまい、一人で異国に赴任する事になるとは思っていなかったです。リットリオもビスマルクさんと話す時は少し緊張してしまいますが、流石に喧嘩までは…。もう昔の事ですしビスマルクさん自身が関わっていた訳ではないのですから、もっと地中海的に楽しくやっていけば良いのです。

 

ですから少し心細い気持ちで異国の鎮守府に赴任したリットリオですが、そんなリットリオに気を使ってくれた日本の同じ戦艦娘の方々には感謝しています。今日もこんなに美味しそうな料理で一杯の歓迎会まで準備してもらい…本当に嬉しいですね。リットリオも本国では色々な料理を作っていましたから、この鎮守府に移動してくる間に長門さん達から聞いた『とても美味しい鳳翔さんの料理』には凄く興味がありました。先程鳳翔さんには長門さんに紹介してもらいましたが、とても優しそうな人でしたし、今このお店に並んでいる料理の数々を見ると、噂通りの料理の腕という事がよく分かりました。

 

しかも今回、リットリオを歓迎するために、わざわざニョッキまで作っていただいたようで、本当にいいですね。いいと思います。勿論、今日並んでいるその他の料理もとても美味しそうですが、やはりイタリアから来たリットリオとしては、このニョッキを一番始めに食べなければいけません。

 

あら~、いいですね。ニョッキはジャガイモと小麦粉から作るパスタですから、この割合を間違えてしまいますと、口触りや食感が悪くなってしまいます。しかし今回鳳翔さんが作ってくれたニョッキの口触りや食感は完璧です。表面はスルッとしていて舌触りはザラザラしていませんし、噛み切ろうとした時のプルンとした、少しモチッとした感じの食感。これこそが、我イタリアの誇るパスタなのです。そしてニョッキ単体には、ジャガイモから来る僅かな甘味と、ほんの少しだけ感じられる塩味だけ。そうです、今回のニョッキにかけられているソースを考えると、これ以上の味は邪魔になるだけ…やはり鳳翔さんの料理の腕は素晴らしいと思います。

 

今回のニョッキが入ったお皿…。これはチーズソースのニョッキですね。異国の地でも、これだけのチーズソースが準備出来るのですね。見た目は、白くて濃厚な感じのただのソースですが、其処から漂ってくる湯気の香を少しかげば、このソースにはゴルゴンゾーラチーズが使われている事は明白ですし、所々に浮かんでいる緑色の野菜…これはリットリオの予想が正しければ、ホウレン草のはずです。味の方はどうでしょうか…

 

う~ん、Ottimo(美味しい) !。ゴルゴンゾーラチーズの強い香りと塩味、そして生クリームが出すとてもまろやかな味。そしてこれら全てが合わさった非常に濃厚なチーズソース…パンを使って、このソースだけを食べたくなるような素晴らしいチーズソースです。この濃厚なチーズソースをたっぷりニョッキにつけて食べると、リットリオの口の中でこの素晴らしく濃厚なゴルゴンゾーラチーズの香が広がり、しかもニョッキのモチッとした食感まで楽しめて…これはフォークが止まりません。本国を出る前は、日本に来たらあっさりとした和食に切り替えて、ダイエットのために少しパスタを控えようとも考えていましたが、こんなに美味しいパスタが日本でも食べられる事が分かってしまった以上、無理です。

 

こんなに美味しいイタリア料理を作れる鳳翔さんとは、今後も時々料理の情報を交換して、リットリオも本国に戻るまでに和食が作れるようになりたいですね。本国からは情報交換がリットリオの主任務の一つだと言われて来ましたが、我偉大なるイタリアにとって料理の情報は重大な戦略情報の筈ですから、鳳翔さんとの交流で任務を全うしなくてはなりません。今回の歓迎会、リットリオにとっては非常に有意義な時間になりました。長門さん、Grazie mille(本当にありがとうございます)!

 

 

 

鳳翔

 

 

慣れないイタリア料理を作る事になりましたので、本場のリットリオさんに満足してもらえるか少し心配でしたが、どうやら食べている雰囲気を見る限り、満足していただけたようです。ビスマルクさんからのゴルゴンゾーラチーズ。これ程の物は、残念ながら我が国ではほとんど手に入りませんので、今回の味はまさにビスマルクさんの助けで実現した本格的な味という事でしょうか…。

 

「鳳翔さん。今回の料理は、まるで欧州に居るような雰囲気が楽しめました。Grazie mille(本当にありがとうございます)!今後ともどうぞよろしくお願いします。」

 

「いえいえ、リットリオさん。こちらこそよろしくお願いしますね。それと今回の料理ですが…実はビスマルクさんが渡してくれたゴルゴンゾーラチーズのおかげで、この味が実現出来たのですよ。ですから、お礼はビスマルクさんに言ってくださいね。まぁ今回は残念な事に、イタリアに戻ってしまった子も居たようですが、ドイツでもよく使われるジャガイモを使ったこのイタリア料理のように、リットリオさんにはビスマルクさんと仲良くやってもらえると、私も嬉しいです。」

 

たしかに先の大戦では色々あったと思いますが、今回はお互いに本国から遠く離れた異国の地に居るわけですし、ご近所さん同士という事で再び仲良くやってもらえたら…と心から思います。私のネタばらしにリットリオさんも少し驚いた様子ですが、素直にビスマルクさんにお礼を言うようですね。

 

「ビスマルクさん、今日は本当にありがとう。私達の本国政府間では昔、色々あったと思いますけど、せめてここではお互いに仲良くやりましょう。…それと、ローマの件はごめんなさい。」

 

「こ…こっちこそ、ローマの件は申し訳ないと思っているわ。それと、こっちにはプリンツオイゲンや駆逐艦達も居るけど、お互いに仲良くやっていきましょ。」

 

二人とも、まだ少しだけギクシャクしていますが、ちゃんと握手もしてくれましたし、これからは連携もとれそうですね。折角の同盟国からの援軍ですし、この援軍の仲が悪いようではあの人も指揮で困ると思います。ですから今回の歓迎会で、そのような悪い物が少しでも氷解してくれれば、あの人の妻として本当に良かったと思います。今日も鎮守府は平和…

 

「な~に勝手に良い話に纏めているネ!私は大いに不満があるデ~ス!Hey 鳳翔!たしかにこのニョッキはdeliciousだったネ。それは百万歩譲って、私も認めてあげてもいいデ~ス。But、私が爪に火を灯す思いで貯めたmoneyで購入したパスタマシンはどうなったですカ~。私のrequestがまだ果たされていないネ!」

 

「金剛さん、私は『パスタを作る』と約束しましたから、今回の金剛さんとの約束は守っていると思いますが。それに慣れるまで少し時間はかかると思いますが、金剛さんからいただいたパスタマシンを使って、近い内に美味しいスパゲッティを金剛さんにご馳走しますよ?」

 

自分で回答はしましたが、絶対に金剛さんはこの回答では納得しないでしょうね。大方、大げさに嘘泣きでもしてくると思いますが…やっぱりそう来ましたか。しかしここまでは、私も想定していました。

 

「ウ…ウゥ…鳳翔は酷いデ~ス。Poorな私が折角moneyを貯めて特別な装置を購入してきたのに、私のdreamを壊したネ。リットリオ、鳳翔に騙されてはいけないネ。この女はとっても酷い女デ~ス!」

 

金剛さんが貧乏?流石にこの言葉には、周りの戦艦娘達も突っ込みたい気持ちで一杯のようですね。金剛さんの妹である榛名さんや霧島さんの口からも『お姉様が貧乏というのは…流石の榛名も信用できません。』『お姉様…普段の派手な生活を皆知っていますから、その言い分はちょっと…』などという会話がここまで聞こえてきます。

 

さて、間違いなくこのような展開になると考えて作っていた料理が役に立つ時が来ましたね。本当はこのような料理を使いたくなかったのですが、今回は致し方ありません。

 

「はぁ…金剛さんがそう言ってくると思っていたので、今回は特別に金剛さんのために、スパゲッティも準備してありますよ。『有名店』で実際に出ているスパゲッティですから、喜んでもらえれば嬉しいですが…。」

 

「Hey 鳳翔!そんな物が準備してあるなら、もったいぶらずに早く持ってくるネ~!私の厳しい舌で、鳳翔の料理の味をチェックしてあげるデ~ス!」

 

先程までの泣き真似はどこへやら、あっという間にいつもの金剛さんに戻りました。金剛さんのあまりにも早い変わり様にリットリオさんも驚いていますが、早く慣れておかないといけませんよ?金剛さんは秘書艦ですから、間違いなくリットリオさんも関係が出てくるのですから。さて…今回準備した料理は冷製パスタですから、冷蔵庫からこれを取り出して…。あら?私のお皿の上に載っている料理を確認した周りの戦艦娘達がザワザワしていますね…たしかに、見た目のインパクトは凄いですからね…この料理は。

 

「金剛さん、お待たせしました。名古屋の有名店で人気の甘口の抹茶小倉スパゲッティです。甘い物が好きな金剛さんにはピッタリですよね?どうぞデザートを楽しんでください。」

 

「Nooooooネ! 比叡、私は秘書艦の任務がありマ~スから、席を外すネ。折角の鳳翔の料理は、my sister達で楽しむといいネ! Hey 長門に陸奥。Why私の腕を両側から捕まえるデスカ~。私は早く提督の所に戻らないといけないネ!こんな料理を無理やり食べさせられるのは、絶対にNoネ! Noなんだからネ!」




名古屋の有名店(一部の方対象)『マウンテン』の抹茶小倉スパ…これは…一人で完食するのは至難の業ですw。私も昔々、トライした事がありましたが、残念ながら登頂に失敗しました(このお店では、これ系料理の完食を登頂と呼びます)。このお店、一般メニューもありますが、やはりこのお店に来たからには、『とても個性的な料理』を注文してこそのマウンテンだと思うわけでして…。我こそは!という剛の者は、是非名古屋に来た際は、トライしてもらえたら…と思いますw

それにしても金剛さん…太っ腹なんですよね。スパゲッティが作れるパスタマシンって結構高いような…。半分程は嫌がらせに近い理由でしたが、一応鳳翔さんにそのマシンをプレゼントしてしまう辺り、金剛さんと鳳翔さんは結構仲が良いと思いますし、一応そのつもりでこの物語を書いていたりしますw。

さて肝心のお話の方は、ニョッキのお話だったわけですが、これは通常のパスタとは異なりまして、かなりモッチリ感がありますから、『食べた~』と思えるパスタだと思います。また、あっさり食べたい時はトマトソースやジェノバソース、こってり行きたい時チーズソース…のような感じで、スパゲッティと同じように様々な味が楽しますので、個人的にはかなり好きなパスタ料理だったりします。

そしてゴルゴンゾーラチーズソース。これはですね…とても駄目なソースです(主にダイエット的な視点で)。チーズや生クリームがたっぷり入っていますので、カロリーはとても高めですし、普通にゴルゴンゾーラチーズを食べると癖が強い!と言う人もいるかと思いますが、これが生クリームや白ワインが入ったチーズソースになりますと、この強い癖が上手に弱まり、どんどん食べれてしまいます。このクリーミーでちょっと癖の強いチーズの香という微妙な味の組み合わせが、ダイエット的に非常に拙いソースに変身してしまうんですよね…。

今回のレシピでは少し癖の弱めのレシピとして、ゴルゴンゾーラの量を少なめで記載しています。ですが私もそうですが、ゴルゴンゾーラチーズ自体が好きな人は、ソースの方にも少し癖があった方が美味しい!と思うと考えられますので、ゴルゴンゾーラチーズの量を少し多目に入れると美味しくなると思います。また今回の具はホウレン草のみのシンプルな物にしていますが、ここにシメジのようなキノコを入れても美味しいと思います。

リットリオさん、セリフ的には少しのんびりした感じがありますし、様々なセリフから料理が凄く得意なんだろうな…とも思いました。まぁ、イタリア料理はとても美味しい物が揃っていますから、料理が得意な艦娘も多いのでしょうね。私が昔赴任していた国はイタリアのすぐ横だったため、時々週末に国境を越えてイタリアまで食事をしに行きましたが、イタリア料理は美味くて安くて量がある!と三拍子揃った素晴らしい物だった記憶があります。

また、甘い物好きの私としては(今回の金剛さんではないですがw)、イタリア料理のガッツリ出てくるドルチェも好きでしたし、あっさり食べられるアフォガードは最高のドルチェの一つだと思いました。おかげで帰国してから、エスプレッソメーカーを購入する事になってしまい、未だに作ったりしているわけですが^^;。もしも…ローマが私の鎮守府に赴任するような事になりましたら、またイタリア料理で物語を書いてみたいな…と思っていますが、いつになることやら…。ついでに、大鳳&武蔵も…そろそろ来てほしいですね^^;

今回も読んでいただきありがとうございました。


レシピ
ニョッキのゴルゴンゾーラチーズソース(四人分)

ニョッキ
ジャガイモ   600 g
薄力粉     100 g
片栗粉      50 g
卵黄       1 個
パルメザンチーズ 15 g
塩      適量


ゴルゴンゾーラチーズソース
バター     : 30 g
生クリーム     :100 mL
牛乳        :100 mL (生クリームと合わせて200 mLくらい。)
白ワイン      : 60 mL
塩         :適量
胡椒        :適量
ゴルゴンゾーラチーズ:150 g
ホウレン草     :お好みで

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