鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は少し渋目の料理を…。おそらく巨大なフキのある地方ですと定番料理なのかもしれませんが、フキの肉詰めで物語を書いてみました。今回の主役は初春型のネームシップである初春…なのですが、約一名同じ初春型の駆逐艦も本編に登場したがっていましたので…。


第五六話 初春とフキの肉詰め

ガラッ

 

えっ!?まだ今日の料理の下準備をしているところですが、いきなりお店の入り口が開いて、入ってきたのは…フキのお化け…ですか?…いえ、フキの葉の下に可愛い足が見えていますから、おそらく駆逐艦の子だと思うのですが…それにしても大きなフキですね。えっと…入ってきた子は初春ちゃんのようですね。たしか初春ちゃんは、短期任務として北方艦隊に出向中だったと思いますが、その任務が終わってこの鎮守府に帰ってきたのでしょう。

 

そして、おそらく向こうで手に入れた食材を持って帰ってきたのだと思いますが…それがこのフキという事でしょうか。北海道で初春ちゃんの背丈よりも高いフキとなると…該当するフキは…足寄のラワンブキでしょうね。おそらく私に料理してもらうために持ってきたのだと思いますが、これだけの大きさのフキを料理するのは、私にとってもかなり大変な作業になりそうですね。

 

「鳳翔さん…わらわもやっと鎮守府に帰ってこられたのじゃ。それにしても、このフキは重いのぉ。頑張って持って帰ってきたのじゃから、これで何かわらわに料理を作ってもらえんかのぉ。北方艦隊の木曾さんに聞いた所によると、このフキはラワンブキと言って珍しいフキのようじゃから、わらわもこれの料理を楽しみにして持って帰ってきたのじゃ。…それに、時期的にもこれが今年最後のラワンブキという事じゃし…美味しく食べたい物よのぉ。」

 

「分かりました、初春ちゃん。折角このような、こちらでは珍しい物を持ってきてくれたのですから、頑張って料理しますよ。ただ…アク抜きに時間がかかりますから、今日は少し遅い時間に来店してもらえますか?」

 

初春ちゃんが持ってきたラワンブキは、丈が2m以上ありますし、太さも直径約6cm。これ程の大きさとなりますと、アク抜きもきちんと行わなくては、料理をした際にエグ味が残ってしまいます。これからアク抜きをして料理を作るとなると…アク抜きだけで半日はかかるでしょうから、開店直後に来店されてしまうと少し料理が間に合いません。

 

「鳳翔さん、分かりましたぞ。それでは今日の少し遅い時間にわらわも来店するゆえ、よろしく頼みましたぞ。」

 

初春ちゃんは嬉しそうに帰って行きましたが、このフキ…どのように料理をしたものでしょうか。折角このような大物のフキですし、通常のフキのように只単に煮付けを作るというのでは、流石に勿体無いですね。…そうです!これ程の太さがあるフキでしたら、フキの中の空洞部分も大きいですから、ここにお肉を詰めて、旨味を追加して煮込めば…美味しいフキの肉詰めになりそうですね。そうと決まれば早速料理してしまいましょう。

 

まずはラワンブキの解体(?)ですね。フキの葉の部分は後から甘辛く煮詰めて佃煮にしてしまえば良いですから、まずは葉の部分を切り取ります。そして…問題はこの長いフキの茎の部分ですね。最初にアク抜きをしなくてはいけませんから、鍋に入る長さに切り分けましょうか。そして鍋一杯にお湯を沸かしたら、塩を入れて、切り分けたラワンブキを鍋に投入します。

 

後はこのまま強火で15分程煮る事で、フキ全体に火を通したら、すぐに冷水につけて塩茹でしたフキを一度冷します。今回のような太くて立派なフキになりますと、どうしても食べる際にフキの筋が気になってしまいます。ですからこの筋をしっかり取除かなくてはいけませんので、一端冷したフキから皮を丁寧に剥く事で、フキの筋を取除いておきましょう。後は、このまま冷水につけて半日程放置しておけば、きちんとアクが抜けて僅かなフキ独特の苦味だけが残った、美味しいフキの水煮が完成です。

 

 

そろそろラワンブキからアクが抜けていそうですね。それでは出来上がったフキの水煮を使って、フキの肉詰めを作りましょうか。フキの中に詰める具材ですが、これは豚の挽肉に微塵切りした椎茸と人参を混ぜてから、玉子を落として塩を振りよく混ぜる事で作ります。後はこの具材をフキの中に入れる前に、食べやすい大きさにフキの長さを揃えておかなくてはいけません。そうですね…フキの直径が6cm程ですから、少しだけ太さの方が長くなってしまいますが、5cm大の長さに切り揃えておきましょう。これ以上の長さでも勿論良いのですが、フキの中にしっかり肉を詰める作業が大変ですから、少し短めですが今回はこの長さにします。

 

それではいよいよ準備した具材をフキの中に詰めていきましょうか。今回はフキの空洞の部分の直径は約4cm。この中にしっかり肉を詰めるのは結構大変な作業ですね…。とはいえ、ここで手を抜いて中の具材がガサガサの状態になってしまっては、煮ている間に中身がフキからスポッと抜けてしまう恐れがあります。ですから今回は、絞り袋と菜箸を使って上手に、フキの空洞部分に具材を詰め込んでいきます。

 

 

大体詰め終わりましたね。元々のフキの大きさが大きかったですから、かなりの量が出来てしまいましたが、うちのお客さん達は良く食べる子が多いですから、問題なさそうですね。それでは最後に準備したフキの肉詰めを煮込みます。大鍋に出汁とみりん、日本酒と醤油そして砂糖を入れて一度煮たてる事で味を落ち着かせます。ここまで煮汁の準備が出来ましたら、準備したフキの肉詰めを静かに並べて、蓋をして弱火で煮ていきましょうか。この大きさのフキになりますと、火を均等に入れるために時々フキの肉詰めをひっくり返す必要がありますが、豚肉の挽肉に完全に火が通り、味が染み込んでいくまで20分程煮込んでおきましょう。あとは一度、粗熱を取り除いて、煮汁の味がフキ全体に染み込めば完成です。

 

 

そろそろ良さそうですね。既に開店の時間となり、様々なお客さんが私のお店で食事を楽しんでいる時間になってしまいましたが、なんとか初春ちゃんが来店する前に料理の準備が完了して本当に良かったです。初春ちゃんは、この料理を楽しんでくれるでしょうか。少し楽しみですね。

 

 

「鳳翔さん、そろそろ料理の準備は問題ないじゃろうか。約束どおり少し遅い時間にやってきましたぞ。折角の機会じゃから、同部屋の初霜も誘ったのじゃが…問題ないかのぉ。」

 

「いらっしゃい初春ちゃん。準備は出来ていますから、カウンター席にどうぞ。勿論、初霜ちゃんも歓迎ですよ。早速料理を出しますから、少しお待ちください。」

 

初春ちゃんは凄く嬉しそうな表情でカウンター席に座りましたね。それに、今日はいつも大和さんと一緒に来店している初霜ちゃんも、初春ちゃんと一緒に来店です。そういえば、今日は大和さんが一人で食事をしていたので、珍しい事もあるものだ…と思っていたのですが、こういう事情だったのですね。たしかに、初春ちゃんと初霜ちゃんは駆逐艦寮では同部屋ですから、たまには友達同士でゆっくり食事がしたいという事なのでしょうね。ふと大和さんを見ますと、大和さんも微笑ましそうな表情で初春ちゃんと初霜ちゃんを見ています。

 

「初霜、いつもわらわは初霜の世話になっておるから、今日はわらわが初霜にご馳走するからのぉ。わざわざ北海道より珍しい食材を運んできたゆえ、喜んでもらえると嬉しいのじゃが…。」

 

「まぁ、初春ちゃん。初霜にご馳走してくれるなんて、本当にありがとう。わざわざ遠い北海道の食材を運んできてくれたなんて、今日はとても期待できるわね。」

 

「とはいえ、わらわは材料を持参してきただけで、料理は全て鳳翔さんに任せているのじゃがな。そうじゃ、折角だから今日は酒も頼むかのぉ。鳳翔さん、わらわ達に日本酒を頼む。なに、わらわ達はそんなに量は飲めぬゆえ、冷酒で一杯だけじゃがな。今回の料理に合うようなキリッとした日本酒を出してもらえんかのぉ。」

 

「そうね。同部屋の初春ちゃんと仲良く飲むのも悪くないわね。…そうだわ。折角だから、今回の材料と同じ北海道のお酒はどうかしら。あの…鳳翔さん、もしこのお店にあったら、北海道の日本酒を出してもらえないかしら。…その、出来れば私達でも払える値段のお酒で。」

 

そうですね…たしかに北海道のお酒、先日阿武隈さんが鎮守府に帰還して来た時に一緒に運んできてくれたお酒がありますが…これはちょっと値段が…。大吟醸「国士無双」。これは北海道の有名な国士無双シリーズの最高峰に位置する、非常に淡麗辛口で雑味が全くない素晴らしい大吟醸です。今回私が準備したフキの肉詰めの味を全く邪魔しない素晴らしい日本酒なのですが…ちょっとこのお酒は駆逐艦の二人には高価過ぎるのが問題ですね。今回は初春ちゃんが材料を持参していますので、料理自体はほとんど只同然なのですが、それでもこのお酒は…。どうしたものでしょうか…。

 

「初霜?折角ですから、私にもその料理を食べさせてもらえますか?鳳翔さんからは、初春が持って帰ってきた珍しい食材を使った料理だと聞いていますので、私も食べてみたいですからね。ですから今回は、あなた達二人のお酒は私が払ってあげましょう。」

 

「まぁ、大和さんありがとうございます。初春ちゃん、折角だから今回は大和さんの御厚意に甘えましょうよ。それに、その鍋に入っている今回作ってもらった料理はかなり量がありそうだわ。だから私達だけでは食べきれないと思うの。」

 

「そ…そうじゃな。た…ただ、あの大和さんに奢ってもらうというのは、わらわはちょっと…。」

 

「大丈夫よ、初春ちゃん。大和さんは、今回初春ちゃんが持ってきた珍しい素材の料理を食べてみたいようだし、その食材を運んできてくれた初春ちゃんへのお礼という意味で、そう言ってくれているのだと思うわ。ここは御厚意に甘えましょうよ。」

 

「さ…さようか。それなら今回は大和さんの御厚意に甘えるかのぉ。大和さん…よろしくお願いしますぞ。」

 

私が初霜ちゃんのお酒のリクエストに対して、どのように対処するのか迷っていた事に、大和さんは直ぐに気付いたのでしょうね。最善の形で回答を準備してくれました。それに…たしかに今回の料理、かなりの量を作っていますので、初春ちゃん達だけでは食べきれないでしょうから、結局は他の艦娘達の胃袋にも収まる事になる筈です。おそらく、そのあたりの事情も全て考えた上での大和さんの提案のようですね。

 

初春ちゃんはこのような事は初めての経験だったようですから、大和さんの御厚意にとても戸惑っていましたが、同席していた初霜ちゃんの方は慣れていますので、直ぐに大和さんの意図に気づいて、初春ちゃんを誘導してくれて本当に良かったです。それでは私の悩みも解決しましたから、まずは初春ちゃん達に国士無双の冷酒をコップで出したら、準備していたフキの肉詰めも出してあげましょうか。

 

 

 

駆逐艦 『初春』

 

 

短期間じゃったが、北方艦隊に派遣されていたわらわがこの鎮守府に戻る際、北方艦隊の木曾さんから、このお化けのようなフキを渡された時は驚いたものじゃったな。わらわの身長よりも遥かに背の高いフキ。まるで天然の傘のようなフキじゃったが、木曾さんからは『鳳翔さんに渡せば、美味い料理を作ってくれるから、そのままの形で持って行けよ』と言われていたから、わらわは頑張ってそのまま鎮守府に運んできたのじゃ。

 

そして今、わらわの目の前にそのフキを使った料理が並べられているのじゃが…予想はしていたものの、本当に大きいのぉ。太さだけでも、わらわが一口で食べられるかどうか微妙な大きさじゃ。そして、そんな極太なフキの空洞の部分にぎっしり、挽肉で作ったような詰め物が詰められておるのぉ。おそらくフキの空洞部分に肉を詰めて煮込んだ料理じゃとわらわは思うのじゃが…本当に美味しそうじゃな。早速食べてみるとするか。

 

…ウグッ…ムムム。こ…これは太いのぉ。一口で…なんとか一口でわらわの口に料理の一部が収められたが、一度噛み切らなければ、全部は一気に食べられぬ大きさじゃ。…おぉ…これは…これは本当に美味しいものじゃな。醤油ベースの出汁が染み込んだフキの部分を噛むと、シャクッとした食感と共に、薄味の出汁がフキから溢れてきておる。そして僅かに感じられるフキの苦味…エグ味とは少し違う微笑ましいこの苦味は、このフキの特徴なのかもしれんのぉ。

 

そしてフキの部分から更に内部に歯が到達した時に出てくる、やはり出汁がたっぷり染み込んだ挽肉の旨み。フキの部分との食感の違いや味の違いがこれ程楽しめるとは予想も出来んかったのぉ。この挽肉の部分、どうやら挽肉だけではなく人参なども交じっておるようじゃが、この食感の違いも素晴らしい物じゃな。あと…これはなんじゃろうか…肉とは少し違う旨みも含まれておるようじゃが…フム…なるほど、これは椎茸も一緒に入っておるようじゃのぉ。それにしても美味い物じゃ。フキの部分も筋を全く感じられぬし、とても柔らかく煮込まれておるようじゃな…やはり鳳翔さんにお願いして正解だったようじゃのぉ。

 

さて…折角じゃから、あの大和さんに奢ってもらえた日本酒も飲んでみようかのぉ。まさかの展開にわらわは心臓が止まるほど驚いたものじゃが、同部屋の初霜は何も緊張せずに奢ってもらっているようじゃし…わらわも、あの初霜の度胸の良さは見習わなくてはならんのぉ。いずれにせよ、まずはこの日本酒を楽しまなければならんな。あの大和さんが注文してくれた日本酒なのじゃから、美味い事は間違いないと思うのじゃが…どんなものかのぉ。

 

!…これは。このような日本酒があったのじゃな。舌を刺激するような雑味は全くないにも関わらず、味全体はキリッとした辛口。これは見事な酒じゃのぉ。そしてこれだけの淡麗辛口の日本酒ともなれば、わらわ達が先程食べていた料理の味を全く邪魔しないじゃろうし、普段あまり飲まないわらわでも、スーッと飲めてしまうのぉ。まぁ、飲み過ぎは禁物じゃろうが、これ程の日本酒と出会えたのじゃ、大和さんに感謝しつつ、残りの料理もこの日本酒と一緒に楽しまなくてはならんのぉ。

 

今日は本当に良き日じゃな。鳳翔さんは勿論、大和さんや木曾さんにも感謝せねば。ふむ?初霜も美味しそうに料理を楽しんでおるようじゃし、いつも初霜の世話になっておるわらわからすると、初霜に対して丁度良いお礼になったようじゃな。

 

 

 

鳳翔

 

 

今回ラワンブキを持って帰ってきた初春ちゃんは、とても嬉しそうにフキの肉詰めを楽しんでいますね。そして時々冷酒が入ったコップに手を伸ばし、まるでその都度お酒の味を確かめながら飲むかの如く、一口飲んでは目をつぶり口の中で日本酒を転がすような動作をしています。これだけ喜んでもらえるのでしたら、私も頑張ってアク抜きから料理した甲斐がありました。

 

あらあら…初霜ちゃんも、初春ちゃんの真似をして、日本酒を口の中で転がしながら味を楽しみつつ、料理の味も楽しんでいますね。こう言っては申し訳ないのですが、この二人の駆逐艦娘達が、まるで戦艦や正規空母の艦娘達が行うような動作・表情をしているのを見ると、微笑ましくなってきます。そしてそんな二人の様子は他のお客さん達も気づいた様で、初春ちゃんと初霜ちゃんの姿を、表情を弛めながら横目で眺めていますね。

 

それにしても、二人ともとても美味しそうに料理を食べていますね。…二人にお酒を奢ってあげた大和さんも嬉しそうに二人を眺めていますし、大和さん自身も今回のフキの肉詰め料理を堪能しているようです。…となると、今回の珍しい食材を使用した料理が美味しいという事を、他の艦娘達も認識した訳ですし…ここまで来れば、次にどのような出来事が展開されるのか…火を見るよりも明らかです。

 

 

「フム…吾輩も食べてみようかのぉ。鳳翔、そのフキの肉詰め、吾輩と筑摩の分も頼むぞ。初春、どうやら今回はお手柄だったようじゃな。吾輩も、初春に何か奢ってやるぞ。ついでに初霜にもな。」

 

「まぁ、ありがとう利根さん。初春ちゃん、折角だから利根さんに何か美味しい料理を頼んでもらいましょうよ。そうね…今日はイサキが入っているみたいだから、イサキの塩焼きなんてどうかしら。利根さん、いいですか?」

 

「あぁ、それくらいなら吾輩は構わぬぞ。鳳翔、この二人にイサキの塩焼きを出してやってくれるかのぉ。あぁ、勿論このお代は吾輩が払うぞ。」

 

「は…初霜…。本当に大丈夫なのかや?わらわは今回のような申し出は初めてであるがゆえ…。(大丈夫よ初春ちゃん、ここは全て初霜に任せて頂戴。)」

 

 

「…フキの肉詰めですか…。たしかに美味しそうな料理ですね。しかもこの太いフキというのが気になります。私も一ついただこうかしら。鳳翔さん。私にも一つ…いえ、こちらのテーブルに8人前お願い出来るかしら。…そこの五航戦、今回は注文を忘れないで欲しいものね。それと…初春。このような面白そうな食材を持ってきた事はお手柄でした。私からも貴方達に何か奢りますので、好きな物を頼んで良いわ。」

 

「まぁ、加賀さんありがとう。初春ちゃん、折角の加賀さんからの申し出、断ったら失礼だわ。そうね…加賀さん、肉じゃがをお願いしても良いかしら。初春ちゃんには、是非鳳翔さんの美味しい肉じゃがを経験させてあげたいの。」

 

「そうね…たしかに初霜の言う通り、鳳翔さんの肉じゃがは絶品です。ですから初春にそれを経験させてあげたい気持ちは、とてもよく分かるわ。分かりました。鳳翔さん、肉じゃがをこの二人に出してあげてください。勿論、肉じゃがのお代は私が払います。」

 

「は…初霜…あの加賀さんがわらわ達に…。本当に大丈夫なのかや?わらわは少し心配になってきたのじゃが…。(大丈夫よ初春ちゃん。加賀さんは凄く優しい人だから問題ないわ。初霜に全て任せて頂戴。)」

 

 

「妙高姉さん…。あのフキの肉詰め。あれだけの太さのフキなど滅多に食べられなさそうだし…私も食べてみたいな。他の艦娘達も注文するようだし、私達も注文しないか?鳳翔さん、こっちにも四つ頼む。初春、珍しい食材を持って来てくれて感謝するぞ。折角だから、私達からも初春達に何か一品注文してやろう。なんでもいいぞ。」

 

「那智さん、本当にありがとう。それなら…初春ちゃんには、鳳翔さんの作った冷たくて甘いデザートを是非食べさせてあげたいの。今日のような暑い日にはピッタリでしょう?お願いしてもいいかしら。」

 

「なるほど、たしかに鳳翔さんの甘味は絶品だから、初霜の言いたい事は私も良く分かるな。あの神通や矢矧達も完全に嵌っているようだからな。分かった。鳳翔さん、この二人に何か冷たいデザートを出してやってもらえるか?そうだな…たしか今日は水羊羹を作っていただろう?あれを出してやってくれ。会計は私の方につけていいぞ。」

 

「は…初霜…流石にわらわは怖くなってきたぞ。あの鳳翔さんのお店の甘味を、まさかこのような形でわらわが食する事になろうとは…ほ…本当にこれは夢ではないのじゃろうか…(初春ちゃん、大丈夫よ。那智さんは私達のようなしがない駆逐艦を騙すような人じゃないわ。今回は全て初春ちゃんのお手柄なのだから、今日は最後のデザートまで楽しみましょうよ。)」

 

 

最初の利根さんの言葉を皮きりに、店内のほとんどの艦娘達がフキの肉詰めを注文しましたね。元々のフキが大きく、今回はたくさん作ってありましたが、あっという間になくなってしまいそうです。…それに、このような珍しい食材をこの鎮守府に運んできてくれた初春ちゃんには、皆さん非常に感謝しているようで、口々に何か料理を奢ってやるという話になってしまいました。

 

初春ちゃんは、このような出来事に慣れていませんので戸惑っているようですから、これらの申し出は初霜ちゃんが上手に捌いて、初春ちゃんに少しでも美味しい物を食べてもらえるように調整しているようですね。初春ちゃんだけでは、どうしようも無かったと思いますが、今回は私のお店に慣れている初霜ちゃんが一緒で本当に良かったと思います。

 

 

皆さん喜んでくれて本当に良かったです。今日のお客さん達は、珍しい食材で作った料理が食べられて幸せだったでしょうし、初春ちゃんも私のお店で様々な料理を味わう事が出来ましたから(最後は、水羊羹のデザートを掻き込むように食べて、積載オーバーでひっくり返る寸前でしたが)、初春ちゃんも幸せだったと思います。今日も鎮守府は平和ですね。




先日ちょっとした機会がありまして、北海道の飲み屋にて、ラワンブキの肉詰めを食べる機会に恵まれました。店の主人が言うには、『もうそろそろシーズンも終わりですから、運が良かったですね。』などと言われましたので本当に運が良かったのだと思います。そして肝心の肉詰めの料理…これは美味しいな…と少し感動しました。話によると秋田の方でもアキタブキを使ってこのような料理をするようですね。やはりアキタブキもそうですが、ラワンブキのような太いフキでなければ、このような料理は駄目なのでしょうね^^;(細いフキでも可能なのでしょうが、肉をしっかり詰めるのは結構大変そうです)。

今回の主人公、初霜のルームメイトである初春に登場してもらいましたが、最初は軽巡を主人公で行くかどうするか少し悩みました。といいますのは、今回の料理はかなり渋目の料理ですし、日本酒がとても合いますから、間違いなく酒が出てくる話になります。となると駆逐艦は…と思ったのですが、初春なら問題ないじゃん!と思いましてw、今回は駆逐艦を主役にした話にしました。

…最後の部分のやりとりは、この物語を最初から読んでいる人ですと、以下のようなHATSUSHIMOの心の声が副音声で聞こえてきそうですがw、結果的には初春も幸せになっていますので、今回は許してやってくださいw。



HATSUSHIMO


ウフフフ、今日は初春ちゃんをダシに使って大漁だわ。えっ?結局は初霜が好きな物を注文しただけなんじゃないかって?ううん、そんな事はないわ。初霜は、初春ちゃんに鳳翔さんのお店で美味しい物を食べてもらいたいという只一心で、他の艦娘のお姉さん達からの申し出を調整しただけよ?結果的に、初霜が自信を持ってお勧め出来る料理という事で、初霜の大好物が並んだだけ…。そう、全て初春ちゃんのために選んだ料理であって、なにも初霜が自分の我侭を通した訳ではないわ。

それにしても…『情けは人の為ならず』とは、よく言ったものだわ。普段からコツコツと初春ちゃんにおやつを分けていた、初霜のこの優しさが積み重なって今回の幸運を呼び込むことになった訳だし、これからも初霜はこの路線で頑張っていかないといけないわね。





そういえば、艦これのゲームの方ですが、次回のイベントはマリアナではないようですね。五航戦の改二に合わせてマリアナか…と思っていたのですが、違うようです。となると、瑞鶴と翔鶴中心の空母機動部隊のステージ…、珊瑚海か南太平洋ですかね…。いずれにせよ南方への進出になりそうですし、珊瑚海でしたら翔鳳、南太平洋なら飛鷹、隼鷹、瑞鳳、龍驤が活躍してくれそうです(大規模イベントとなると、やっぱり南太平洋海戦ですかね…)。

次回…順番的には外伝でも良いのですが、どうしたものやら。外伝は鳳翔さんが出ない会も多いので、結構気を使っていたりしますw。まぁ、完全にネタベースで『土用丑の日 ライバル対決II (金剛さんの逆襲)』でも良いのかもしれませんが、これを書くと碌な事にならなさそうでして…ww。それにこの書き方で行きますと、来年度は『土用丑の日 ライバル対決III (鳳翔さんの復讐)』と続き、某SF映画になってしまいますから駄目ですねw

今回も読んでいただきありがとうございました。



フキの肉詰め
ラワンブキ:適量
豚挽肉  : 200-300 g
椎茸   : 3-5個
人参   : 2本程
卵    : 1個
塩    : 適量

出汁   : 300 mL
みりん  : 30 mL
日本酒  : 30 mL
醤油   : 150 mL
砂糖   : 30 g

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