鎮守府の片隅で   作:ariel

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最初は外伝にしようか少し迷ったのですが、一応鳳翔さんが主役に近い形で登場する話のため、本伝の方に入れる事にしました。とはいえ…最後の部分に書いた通り、予定ではこの話には続きがありますので、その部分は間違いなく外伝になるかと思います。まぁ、なんといいますか…空母の話を書いていると筆が進むと言いますか、勝手に空母娘達が暴れだすと言いますか…。これまでもそうでしたが、空母娘達の話になると結局ドタバタ喜劇になってしまうんですよね^^;


第五七話 空母のバーベキュー大会

スーパーマーケット『狸の皮』  瑞鶴

 

 

「…と、これだけ買っておけば大丈夫だよね?翔鶴姉」

 

「えぇ、これだけあれば、空母の皆さんが全員参加しても問題ないと思うわ、瑞鶴。大鳳さん、野菜の方は大丈夫かしら?」

 

「あっ、はい翔鶴さん。これだけ買っておけば、大丈夫だと思うけれど…。」

 

お母さんから、『梅雨も明けた事だから一度外でバーベキューでもやりましょう』と言われたから、今夜は空母娘全員でバーベキュー大会なんだよね。そして瑞鶴達は、そのための準備という事でお買い物なんだけど…これくらい買っておけば大丈夫だよね?久しぶりに外でお肉が食べられるから、瑞鶴達も凄く楽しみだよ。あっ、そうそう肝心な事を忘れてたよ。折角瑞鶴達が買い出しなんだから、少し良いお肉を瑞鶴達用に買っておかないと。

 

瑞鶴達はいつも扱き使われているんだから、これくらいの役得があっても罰は当たらないと思うんだよね。問題はあの加賀先輩に見つかったら全部取り上げられる気がするんだけど…隠しておけば大丈夫だし、どうせ焼くのは瑞鶴達がやらされるんだから、最初に先輩達に安いお肉を大量に食べさせてしまえば…。とりあえず、あの辺りに置いてあるお肉かな…。

 

「葛城、そこの高いお肉も何パックか買っていくわよ。これは最後まで隠しておいて、後から私達だけで食べるつもりだから、いくつか持って来て。」

 

「さすが瑞鶴先輩!葛城、最後まで付いていきます!」

 

「瑞鶴…そんな予算はないわよ。それにこんな事が万が一にも先輩達にばれたら、大変な事になるわ。」

 

翔鶴姉は心配症だよね~。予算の方は、加賀先輩を誤魔化してせしめた空母寮の積立金があるから問題ないし、このお肉は先輩達の前に出さなければきっと見つからないって。それにこのお肉が出る頃には、先輩達は満腹になっている筈だから、これは全部瑞鶴達のお腹に…今度こそ出し抜けそうだよね…えへへへ。

 

「大丈夫だって、翔鶴姉。それに、多少は私達五航戦が幸せになったっていいじゃない。」

 

翔鶴姉はまだ心配そうな顔をしているけど、今回は譲れない…。瑞鶴達だって美味しい肉が食べたいんだから!とりあえず…そこにある100gが500円もする高級肉を…えへへへ。バーベキュー大会が始まったら、一航戦や二航戦の先輩達には安いお肉と野菜をたくさん食べさせて、早いところ満腹になってもらえば問題ないよね!?今日のバーベキューは楽しみだわ!

 

 

 

肉屋『欲の友』 加賀

 

 

「…という事を、あの生意気な五航戦は考えているに違いないわ。バカな子達ね。あの子が私から空母寮の積立金をせびった時点で、この程度の事はお見通しだと言うのに…。赤城さん、このお肉でいいと思うわ。」

 

「そうですね…このお肉なら…。あぁ、想像しただけでもよだれが出てきそうですね。それにしても流石は加賀さん。赤城ではとてもこんな作戦は思いつきませんでしたが、これなら今日のバーベキュー大会は期待出来そうです。」

 

「えぇ、やはり折角ならば美味しいお肉が食べたいですから。」

 

そうよ。バーベキューでお肉を焼くのだから、やはり美味しいお肉を食べたいと思うのが世の理。買い物は五航戦に任せてあるけれど、あの子達に任せておいたらどんなお肉を食べさせられるか、分かったものではありません。やはりここは、私達一航戦が食べるための美味しい肉は自分達で確保しておかないと…。五航戦が買ってくるお肉は、先にあの子達に食べさせてお腹を膨らまさせてしまえば、自然にこのお肉は私達が食べる事になる。

 

…最近、お母さんから私達一航戦への視線が厳しい気がするから、ここは私達がお肉を焼いて先に後輩達にお肉を譲ってやる姿を見せることで、お母さんに対するアピールも出来るから一石二鳥ね。それに私達がお肉を焼いていれば、五航戦が自分達用に購入するであろう少し良い肉が出てきても、すぐに対応がとれます。

 

「すいません。そこのステーキ用のサーロインブロックをお願いするわ。赤城さんと私の二人分だから1.5kgもあればいいのだけれど…。100gで4000円だから…だいたい6万円ね。これまでの空母寮の積立金を使えば問題ないわ。」

 

そう…あの子達は私を上手く出し抜いたと思っているようだけれど、空母寮の積立金の管理をしているのは私です。まだまだ甘いわね。それに空母寮の積立金は、元々空母達の慰労に使用するために積み立てたお金。今回は、その空母達の代表でもある私達一航戦の慰労のために使うのだから、積立金の使用目的としても完璧だわ。今回のバーベキューは良いお肉が食べられそうです。やりました。

 

 

 

酒屋『泥船』 飛龍

 

 

「…というような感じで、加賀さん達も瑞鶴達も絶対にお互いに企んでいる気がするんだよね…。今日のバーベキュー大会は絶対に最後で荒れると思うから…なんとか無事にやり過ごす算段を考えておかないと、こっちまでお母さんの雷が落ちる気がするよ…。」

 

「飛龍先輩?そこまで本当にやるでしょうか?一応、瑞鶴先輩の方には葛城もついていますし、翔鶴先輩達もいますから…って、たぶん無理ですね。葛城が瑞鶴先輩を止められるとは思えないですし、翔鶴先輩も大鳳先輩も絶対に引きずられると思いますから…やっぱり先輩の予想どおり、今日は荒れそうですね。」

 

「まぁね…雲龍の言う通り、葛城や大鳳や翔鶴が瑞鶴を止められるとは思えないし、加賀さん達に至ってはアクセルだけでブレーキはないから、期待するだけ無駄だわ…。あ~ぁ、また(自称)良識派の私達二航戦が一番損しそう…。」

 

お母さんから提案のあった空母達のバーベキュー大会。買い出しに瑞鶴達が行かされているのは分かるけど、その後赤城さんと加賀さんも追加の買い出しに向かった時点で嫌な予感しかしないわ…。特に加賀さんは空母寮の積立金を握っているから、本当はちょっと自重して欲しいところだけど…まぁ無理かな。加賀さんを止められるのは赤城さんだけだろうけど、赤城さんが食べ物の事で自重するとは思えないし…。こりゃ、空母寮の積立金はまたゼロに逆戻りかな…。

 

だからと言って、私達二航戦までこの争いに参入しても、碌な事にならない事は簡単に予想つくよ…。ここはなるべく無難に災難を回避して、今夜はきっと落ちると思うお母さんの雷から回避する事を第一に考えた方が良さそうだよね…。それに私達二航戦だけならまだしも、私達を慕っている雲龍と天城を被害に巻き込む訳には行かないし…。葛城もこっちに居れば助かったと思うけど、あの子は瑞鶴になついているから…仕方ないよね。

 

「じゃ、私達は無難に麦酒や日本酒を買っていくよ。とりあえず、その棚のビールは全部持って来て。」

 

『死中に活を求める!』訳じゃないけど、なんとか私達四人だけでも、今回の死地から脱出しないと。まぁ、今回は大人しく端の方でお酒を飲みつつ適当に野菜だけ食べているか、軽空母達の方に混ざるか…。はぁ…本当に、上と下が滅茶苦茶だと真ん中が苦労するんだよね…。

 

 

 

小料理屋『鳳翔』前の広場  鳳翔

 

 

ようやく梅雨も明けて、夏らしい日々になってきましたね。あの人からの話では、今年の夏も、空母機動部隊の出撃がありそうですから、この機会に空母勢の士気高揚のためにバーベキュー大会をする事にしました。ですから今日は私のお店は休みで、お店の前の広場で軽空母の皆さんが中心になってその準備をしています。

 

「皆さん、もうすぐ正規空母の皆さんが買出しから戻ってくると思いますから、急いで準備してくださいね。あっ、千歳と千代田?お店にバーベキュー用のソースと、おにぎりを準備していますから、それもここに運んでください。」

 

「はいっ、鳳翔さん。分かりました。ほら千歳お姉ぇ~、酒瓶を眺めていないで…言われた物を取りに行くよ。」

 

 

どうやら、無事に準備は終わりそうですね。既にバーベキューを行うセットが準備されていますし、炭の準備も終わっています。臨時に準備した机の上には、お皿や箸、そしてコップが所狭しと並べられ、バーベキューで使う予定のタレや、山葵醤油、そしておにぎりの載った大皿も並びました。お酒は…今回はおそらく正規空母の娘達が購入してくるでしょうから、こちらはいつもの日本酒を数本だけ準備しておけば良さそうですね。

 

 

あらあら、翔鶴さんに瑞鶴さんに大鳳さん、そして葛城さんがリヤカーを引きながら戻ってきました。リヤカーの中身はお肉に野菜が満載です。凄い量ですが、これだけの量を準備していても、おそらく数時間後には綺麗さっぱり無くなってしまうのでしょうね。それでは急いで翔鶴さん達が購入してきた具材を、焼きやすい様に適当な大きさに切ってしまいましょうか。

 

「飛鷹、隼鷹。申し訳ないですが、材料を切るのを手伝ってください。コラッ、隼鷹!酒瓶を眺めていないで、こっちに早く来なさい。まだ飲むには早いですよ。こちらを手伝ってください。」

 

「へいへい…分かったよ~、鳳翔さん。それにしても…凄い量だね…これは…。」

 

たしかに…山の様に積み上げられた肉に野菜…とんでもない量ですね。あら?瑞鶴さんがコソコソと私のお店に包みを持って入って行きましたが、あれも準備した具材の一つではないのでしょうか?まぁ、今回の買出しのついでに自分用の物を購入してきたのかもしれませんが…。

 

 

「鳳翔さん、お待たせ~。とりあえず麦酒と日本酒買って来たよ。これだけあれば問題ないよね?」

 

「ありがとうございます、飛龍さん。たしかに、これだけあれば問題なさそうですね。」

 

「ヒャッハ~、酒だ!お酒様の到着だ~!」

 

続いて飛龍さんに蒼龍さん、そして雲龍さんに天城さんが大量のお酒と共に到着です。約二名程、軽空母が騒いでいますが…流石にこれだけの量のお酒があれば、全員が飲んでも足りそうですね。後は赤城さんと加賀さんが到着すれば全員集合となり、バーベキュー大会を始める事が出来ますが…あっ、来ましたね。

 

あら?赤城さん達は買出しには参加してなかったようですね。まぁ流石に、一番上の一航戦の二人自らが買出しに行く筈はないですよね。しかし加賀さんはスポーツバックのような物を持参していますが、ここに来る前に何処かで用事があったのでしょうか。

 

「鳳翔さん、赤城到着しました。今日はいよいよバーベキュー大会ですね。この日のために赤城は粗食に耐えてきましたから、今日は自重しません!」

 

「…赤城さん。あまり無茶な食べ方をしてお腹を壊さないでくださいね。それに…本当に粗食でしたか?私のお店の賄い食を大量に食べていた赤城さんしか、私の記憶にはないのですが…。」

 

「そうよ赤城さん。あまり食べ過ぎるのは良くないわ。鳳翔さん、遅くなりました。私たちが最後ですね。すいませんが荷物がありますので、お店に置かせてもらえないでしょうか?」

 

流石の赤城さんも、加賀さんにまで窘められて、少しバツが悪そうな顔をしていますね。まぁ、今日は折角のお楽しみのバーベキュー大会ですから、赤城さんを苛めるのはこれくらいにしておきましょうか。加賀さんは持っていた荷物を私のお店に置くために店内に入っていきましたが、直にバーベキュー大会が始められそうです。それでは、そろそろ炭に火をつけて、乾杯の準備をしなくてはいけませんね。

 

「皆さん、そろそろ始めますから、火の準備と乾杯の準備をお願いします。」

 

 

「皆さん、グラスは行き渡りましたね。それでは乾杯しましょうか。あの人からの話では、今年の夏も私達空母娘を主力とした作戦が開始されるとの事です。作戦が始まれば、私達空母娘は主力部隊として様々な戦場に投入される事になるでしょう。ですから今日はその壮行会も兼ねて、このようなバーベキュー大会を開く事にしました。皆さん、今日はたくさん食べて飲んで英気を養い、次の作戦を乗り越えましょう。そして再び此処に、全員が無事戻ってくる事を願って…乾杯!」

 

「かんぱ~い!」

 

 

 

加賀

 

 

「五航戦、そこをどきなさい。鳳翔さんが乾杯の時に言ったように、今日のバーベキュー大会は次の作戦のための壮行会だけれど、空母娘の懇親会でもあるのです。だから今日は私達一航戦がお肉を焼いて、貴方たちに振る舞ってあげるわ。ほら、お肉を取り分けてあげるからお皿を持ってきなさい。」

 

「エッ?エッ?…あの…加賀先輩?…その…熱でもあるの?瑞鶴達がお肉を焼くつもりだったんだけど…。本当にいいの?」

 

「五航戦…馬鹿な事を言ってないで、大人しく言う通りにしなさい。まったく…時々優しくしてあげたら直ぐにつけあがる…困ったものです。」

 

「瑞鶴。心配しなくても、今日は最初から私と加賀さんでお肉を焼くつもりだったから、気にしなくていいのですよ。貴方たち五航戦もだいぶ成長したようですし、今度の作戦では貴方達にも活躍してもらわないといけないのですから、しっかり食べなさい。私達一航戦は後でいいわ。」

 

「!!本当に一航戦の先輩が焼いてくれるんだ…。赤城先輩、加賀先輩、サ~ンキュ!瑞鶴、しっかり食べて次の作戦は頑張るから!」

 

フン、お尻にまだ卵の殻が付いているような五航戦の作戦を潰すなど、赤子の手をひねる様なものです。どうせ自分達用に良い肉を隠しておいて、私達には安いお肉を振る舞ってお腹を膨らまさせてから、自分達用の良いお肉を焼く作戦だったと思うけれど、そうは問屋が卸さないわ。立場が上の私達一航戦自ら、『お肉を焼いてあげるから、しっかり食べなさい』と言ってやれば、多少の不信感があったとしても、一応好意を向けられている以上、この子達が断る事は出来ない筈です。

 

先程軽空母達の所に居るお母さんの様子をチラッと伺いましたが、お母さんはこちらを見てニッコリ微笑んでくれました。どうやら当初の作戦通り、お母さんへのアピールも成功したようです。それにしても…軽空母の方は、結局お母さんが焼いているようですね。龍驤は手伝っているようですが、もっと他の軽空母はお母さんに気を利かせるべきね…。

 

それにしても…自分から今回は正規空母娘全員の分の肉や野菜を焼くと言っていますから、我慢せざるをえない…というのは分かりますが、目の前でお肉が焼け、表面で肉の脂がパチパチ音を立てて美味しそうな匂いが漂ってくるのを見ていると、とてもお腹が空いてきます。野菜の方も玉ねぎなどが飴色に焦げて美味しそうな匂いが漂ってくるし…赤城さんもそうですが、私も何処まで耐えられるか心配になってきます。ですが、まだこの焼き場には良い素材が登場していないのだから、ここはグッと我慢ね。とりあえず、私達の作戦を成功させるために、どんどん他の正規空母達にお肉や野菜を食べさせないと…。

 

「ほら、飛龍も遠慮しないで、どんどん食べなさい。そこのお肉も火が通ったわ。翔鶴、私達の事は気にしなくていいから、それも食べていいわ。葛城、貴方は肉の食べ過ぎよ。そろそろ野菜も食べなさい。」

 

 

 

瑞鶴

 

 

まずい…私達五航戦の作戦が、まるで砂上の楼閣が崩れていくように瓦解していくよ…。まさかあの赤城先輩や加賀先輩が焼き場に立つとは考えても居なかったし、こんな事態になるなんて想像もしていなかったんだよね…。でも、このまま行くと私達だけお腹一杯になって、折角私達用に買ってきた高いお肉が食べられなくなっちゃうよ…。なんとかしないと…グヌヌヌ。

 

!そうだ、今この場にあの高いお肉を紛れ込ませて、安いお肉と一緒に焼いてしまえば…。そうと決まれば急いで葛城と一緒に、あのお肉をお母さんのお店から持ってこよっと。後は適当に赤城先輩達が焼いているお肉の中に紛れ込ませれば…。

 

「翔鶴姉…瑞鶴、ちょっとお母さんの店に行ってくるね。すぐに戻るから待っててね。…葛城、作戦開始よ。」

 

「はいっ!瑞鶴先輩。」

 

 

よしっ、上手に例のお肉を紛れ込ませる事に成功したわ。後はあのお肉を赤城先輩達が焼いてくれるのを待っていれば…。あっ、加賀先輩が紛れ込ませた高級肉を選んで、お肉を網の上に並べ始めたよ…よしよし、もう少しで…。

 

「ふぅ…流石に私達も焼いてばかりでは、お腹が空いてきますね。赤城さん、私達も少し肉を食べながら、続きを焼いていきましょう。とりあえず今焼いている肉を少しもらいましょうか。貴方達、ごめんなさいね。私達も少し食べさせて頂戴。」

 

「そうね加賀さん、流石に赤城もお腹が空いてきました。とりあえずこのお肉は、私達一航戦が食べさせてもらいましょう。」

 

そ…そんな…。よりにもよって折角買ってきた私達用の高いお肉で…。しかもここまで焼いてもらっていたから、流石に『食べるな!』と文句も言えないし…。拙い、拙いよ…。ここはあまり顔に表情を出さずに、なんとかお肉を分けてもらう事を考えないと…。

 

「あの…加賀先輩?瑞鶴達もそのお肉を少し食べたいんだけど…。」

 

「五航戦…ここまで全部私達が焼いているのに、その私達に肉を食べさせないつもり?流石にそれはないと思うのだけれど。少しくらい私達が肉を食べても、問題はないと思うわ。」

 

や…やられた。これ絶対に分かってやっているよね…。加賀先輩の顔に勝ち誇ったような表情が…。でも、この状態じゃ文句も言えない状況だし…完全にやられた。事情を知っている葛城はガッカリした表情をしているし、翔鶴姉や大鳳もタメ息ついているし…。今回は完全に私達五航戦の負けだよ…トホホ。

 

もうこうなったら自棄よ!どんどん肉や野菜食べて、お腹一杯になるしか手はないわっ!

 

「葛城、もうこうなったら自棄食いよ!そこの野菜と鶏肉の塊持って来て!ほらっ、葛城もドンドン食べちゃって!」

 

「はっ…はいっ!」

 

 

 

飛龍

 

 

やっぱりね…あの食い意地の張った赤城さん達が自ら焼き場に立つと言った時から、おかしいと思ったんだよね。五航戦の立てた作戦くらいじゃ、赤城さんや加賀さんを出し抜く事は出来ないと思っていたけど、あそこまで鮮やかに切り返されたら、瑞鶴達も何も言えないよね…。

 

私の想像通りなら、加賀さんの更なる追い討ちがあると思うけど…。私達二航戦はそれには極力関わらずに、平和的に逃げ切らないと…。まぁ、加賀さんが自分達用に持って来ていると思われる具材が、私達二航戦の口に入るとはとても思えないから、今のうちに私達二航戦もお腹を膨らませておくかな。早いところしっかり食べて、軽空母達の方に避難しておかないと…。

 

「蒼龍、私達もドンドン食べて飲もうよ。ほら、雲龍も天城もしっかり食べて、飲む。折角のバーベキュー大会なんだから、食べておかないと損するよ。それと、そろそろ軽空母達の方に行こっか。あっちは鳳翔さんが焼いているみたいだから、あっちも食べたいしね。」

 

これで私達二航戦と雲龍達は死地から退避出来そうだわ…。

 

「飛龍、何処に行くつもりなの?まだこっちにも肉や野菜があるのだから、軽空母の所に遠征して食べ物を貰ってくる必要はないわ。そんな事より、もっとドンドン食べなさい。そこの豚肉も丁度良いくらいに火は入っているし、そこの表面に薄く焦げ目がついているピーマンも絶品よ。」

 

えっ…撤退失敗?という事は、蒼龍は勿論、雲龍や天城も退避出来ないという事だよね…。守ってあげる筈だったのに…雲龍や天城が心配そうな顔をして私の方を見ているけど、これじゃ何ともならないよ…。不甲斐ない先輩で本当にゴメン…。もうこうなりゃ、私も瑞鶴達と一緒で自棄よ…どんどん食べて飲むしかないわ。ま、何とかなるよね…たぶん。

 

 

 

鳳翔

 

 

久しぶりに軽空母の皆さんとゆっくりお話しをするのも良い物ですね。いつものお店と同様に、私が皆さんの野菜やお肉を焼いていますから、私自身はあまり食べる事が出来ていませんが、本当に楽しい時間を過ごす事が出来ています。龍驤には私を手伝ってもらっていますので、最古参の二人がほとんど食べる事が出来ていないというのは、変な話かもしれませんが、正規空母達の方でも赤城さん達が率先して焼いているようですし…あの子達も成長したという事なのでしょうね。

 

普段の鎮守府の生活では結構無茶をしているあの二人ですが、作戦中は全ての正規空母の先頭に立って纏めていますし、訓練の面倒も良く見ていると聞いています。それに…このような会で率先して裏方に回って後輩達を楽しませる…という事も出来るようですから、流石は現役の一航戦と言ったところでしょうか。

 

「なぁなぁ、鳳翔さん?あっちは凄い事になってるな。見てみ?正規空母の奴ら、まるで最後の晩餐と言わんばかりの食いっぷりや。ウチら軽空母もそれなりに食べるんやけど…あれ見たら、絶対に正規空母達には勝てんという事が良く分かるわ~。」

 

「まったく…多少は自重してもらいたいものですね。ところで龍驤、軽空母の子達も大体満腹になったようですし、私達もそろそろ少し食べましょうか。丁度良いくらいにお肉にも火が通っていますし、そこにあるエリンギも美味しそうですから」

 

「せやな。ほな、そろそろウチ等も食べよか。」

 

つまみ食い程度には私も肉や野菜を口に入れていましたが、流石にそろそろお腹が空いてきました。それにしても…あちらは赤城さんと加賀さん以外の全員がお腹を上にしてひっくり返っていますね。…完全に食べ過ぎと飲み過ぎです。あの状態では、いくら正規空母と言えども、しばらくは何も口に入れる事は出来ないでしょうね。

 

あら?ほとんどの正規空母の子達がひっくり返っているのを見た加賀さんが、赤城さんに何か指示を出していますね。おそらくこれから自分達が食べる物を焼くのだと思いますが…何を指示したのでしょうか。赤城さんは加賀さんの指示で、私のお店に入って行きましたね…。あら?あれは加賀さんが此処に持ってきたバッグですが…あの中に何か入っているのでしょうか。

 

…まさか、あのお肉は…。ちょっとやそっとではお目にかかれないような見事な霜降りの和牛の塊です。ひょっとしてあの子達、全部計画的にやっていたという事でしょうか…いえ、おそらく完全に計画通りだったようですね。あの子達が、後輩の子達に積極的に食べさせていたのは、後輩を労うためではなく、自分達が良いお肉を独り占めするつもりで…これはいけませんね。流石にこれは、全ての空母の模範となるべき一航戦が行う事ではありません。しかし、どうやってお仕置きをしたものでしょうか…普通に叱ってもあまり応えなさそうですし…そうです!

 

「龍驤、ちょっと手伝ってください。これから赤城さん達を懲らしめてやらなければいけませんので。」

 

「せ…せやな。流石にあれはちょっとウチもアカンと思うで…。って鳳翔さん、相当怒ってるな…」

 

あの二人を懲らしめて反省させるためには、目の前のあのお肉を食べさせないのが、一番効果があります。今日は私も少し無理をする事になりそうです。

 

 

 

赤城

 

 

ついにこの時が来ました。加賀さんの計画通り、他の空母の子達はお腹を空に向けてひっくり返っています。間違いなくこれ以上食べられない所まで肉や野菜を食べていますから、必然的にこの高級肉は加賀さんと赤城だけで食べる事が出来ますね。お肉全体に、まるで網の目のように入った細かい白い脂分。これぞ高級和牛の象徴でもある霜降り肉ですね。しかも赤城の目の前にあるのは、その塊。まずはこれを適当な厚さに切り分けて…。

 

バーベキュー大会という話でしたが、今この瞬間だけは、一航戦の一航戦による一航戦のためのステーキパーティね。一枚ずつバーベキュー用の網の上に並べられていく、白い網目がびっしり入った赤い塊。この赤い塊に徐々に火が通って、白い網目が消えながら肉の表面の色が変わっていく姿を見ているだけでもお腹が空いてきますね。ここまで我慢して肉や野菜を『少しだけ』しか食べてこなかった甲斐がありました。

 

お肉の色が赤色から序々に変わり、表面に鮮やかな焼き色が浮かび、表面で脂が細かく弾けています。あと少しね。既にこのような素晴らしい和牛のステーキを食べるための山葵醤油も準備していますし…あとは食べるだけ…はぁ…口の中に唾液があふれてきます。

 

「あら…赤城さん、加賀さん。美味しそうなお肉を焼いているのですね。折角ですから、私達にも食べさせてもらえますか?」

 

「…えっ?ほ…鳳翔さん。軽空母の方におられたのでは…。」

 

「えぇ加賀さん。先程までは軽空母の方に居たのですが、やはり今回のバーベキュー大会は空母全体の懇親会という側面もありますから、こちらにも顔を出したのですよ。そうしたら、これまでこちらで焼いていたお肉とは比べ物にならない程素晴らしいお肉を焼いていましたので、少し食べさせてもらおうと思って声をかけただけですよ。…まさかとは思いますが、遥か昔、一緒に一航戦として戦った私や龍驤にも食べさせられない…という事はないですよね?」

 

拙いです…。まさかお母さんが参入してくるとは思いませんでした。たぶん加賀さんも想定外だったようですね。あまりの出来事に目が泳いでいます。それに…お母さんの顔は微笑んでいますが…物凄く怒っている事が雰囲気からよく分かります。お母さんと一緒にいる龍驤も目を背けていますし…これはかなり拙い兆候ですね。こんな状態でお母さんの申し出を断る事など、私にも加賀さんにも出来ません。

 

(加賀さん、拙いですよ。まさかここでお母さんが介入してくるとは思っても居ませんでしたし、それに物凄く怒っていますよ。どうしましょう…。このままではお母さんの雷が落ちそうですし、赤城達のお肉も…)

 

(赤城さん、まだ負けたわけではないわ。今回私達は肉を1.5kgも準備している。流石にお母さんと龍驤では、全部食べきれないと思うから多少は目減りしたとしても、最終的には私達の口に入る事は間違いない。ここはお母さんの機嫌をこれ以上損ねないためにも我慢の一手ね。それに…まだ私には良い作戦があるわ。)

 

「も…勿論です、お母…ではなくて、鳳翔さん。折角なので食べていってください。赤城さん、鳳翔さんに濃厚なバーベキューソースを持って来てあげてください。」

 

「あら…加賀さん、ありがとうございます。龍驤、折角のご好意ですから食べさせてもらいましょう。あっ、赤城さんバーベキューソースはいらないですよ。折角の美味しそうなこの和牛の霜降りステーキ、今回は山葵醤油で食べさせてもらいますので」

 

…加賀さんの最後の作戦も不発に終わりました。たぶん加賀さんは、濃厚なバーベキューソースを使わせる事で、少しでもお母さん達が食べられる量を減らして被害を抑えようと考えたのだろうけど、やっぱりお母さんの方が一枚上手でした。しかし加賀さんがさっき赤城に言った通り、これだけしっかり脂身の入った和牛の霜降りです。お母さんや龍驤といえども、そうたくさんは食べる事が出来ない筈です。

 

 

「加賀さん、これは本当に美味しいお肉ですね。口の中にお肉を入れて、歯を少し立てただけで、その部分からまるでお肉が溶けるような感じで分かれていきます。それに中から溢れ出てくる肉汁も素晴らしいですね。やはりこのような脂身がしっかり入ったお肉は、山葵醤油のような刺激のあるアッサリしたソースでいただくのが一番です。これなら私でも、まだ食べられそうです。もう一枚お願いしますね。」

 

「ふぅ~、やっぱりこのクラスの肉になると違うもんやな~。赤城も加賀も、こんなに美味しい肉を食べさせてくれるなんて、悪いなぁ~。ウチもまだまだ食べられそうや。それにしても、噛まなくても溶けていくような柔らかさとは良く言ったものだわ。これ、ほんまに旨いで~。」

 

 

「ほ…鳳翔さん、頑張ってそんなお肉、全部食べちゃってくださいよ!どうせ瑞鶴達は食べられないから、加賀さん達に残らないようにやっちゃってくださいよっ!」

 

「鳳翔さん、ウーロン茶持ってきたよ…このお茶なら、脂が強い食べ物食べていても多少は緩和すると思うから…。これ飲んでもう一息!」

 

お母さんと龍驤が私達一航戦のお肉を食べ始めた瞬間、それまで固唾を飲んでこちらの様子を伺っていた他の子達が騒ぎ始めました。それにしても…瑞鶴や飛龍までお母さんを応援するというのはどういう事でしょうか。これは…私達一航戦に対して普段から敬意が足りていない証拠ですね。それにしても、これだけ脂身が入ったお肉ですから直にお母さんと龍驤も食べられなくなると思っていたのですが…完全に計算違いです。…このままでは…。

 

 

流石のお母さんと龍驤も箸が止まり、食べ過ぎのためお腹を上にして引っくり返りましたが…残っているお肉はあと200g程度…どうしてこんな事に…。でも流石の二人も、これ以上はどうあがいても食べられなさそうね。赤城も加賀さんと同じように、お肉が一応残りそうですからホッとしましたが…今回は被害甚大です。あっ…

 

「おっ、やってるな。秘書艦の金剛から、空母が全員集まっているのだから、一度顔くらい出して来いと言われて来たんだが…。鳳翔…お前まで他の空母達と一緒になってひっくり返るまで食べてどうする…。もう他の空母程若くはないのだから、ちょっとは自重しろよ。ん?それ旨そうな肉だな。ちょっと俺にも食べさせてくれるか?」

 

まさか…ここに来て提督まで登場というのは、完全に予想外でした。流石に私や加賀さんでも提督の申し出を断る事など出来ません。それに提督の登場に、お母さんと龍驤が引っくり返ってしまいガッカリした表情を浮かべていた五航戦や二航戦の子達がガッツポーズをしているのは…空母寮に戻ったら、『一航戦の先輩に対する敬意について』お話が必要ですね…。

 

「提督さん!丁度良いところに来てくれたよ。その最後のお肉、何も言わないで食べちゃってよ。もう鳳翔さん達も食べられないから、瑞鶴達も困っていたんだから。早くやっちゃって。」

 

「ん?あ~、これか。お…おぃ、この肉は和牛の霜降りだろ?鳳翔からは壮行会だと聞いていたが、こんなに良い肉食べていたのか…ケシカラン奴らだな、まったく。まぁ、瑞鶴もそう言ってくれるなら、最後の肉は俺が食べさせてもらうか。…ん…やっぱり、このレベルの肉になると、別格だな。山葵醤油でアッサリ食べている部分もあるんだろうが、脂の部分から口の中でスッと分かれていくような感じがするし、脂分の濃厚な味もすんなり食べれてしまうな。とはいってもこんな脂分の多い肉は、量を食べる物ではないし、俺でもこの量で満足してしまうぞ。いや~、それにしても旨かった。」

 

…そ…そんな…残っていた僅かなお肉が…。本来なら私と加賀さんの胃袋に全て収まるはずだった、あの超高級和牛のステーキが…。ここまでこれを食べるために他のお肉を我慢してきたというのに…このままでは、今日はお腹が空きすぎて眠れなさそうです。加賀さんも私と同じように茫然としていますね。その気持ちは、赤城も痛い程分かります。

 

「あなた…すいません。少し調子に乗って食べ過ぎてしまいました。もう動けませんので、今日は私を家まで運んでもらえませんか?…それと赤城さんに加賀さん。しばらく私のお店に入店禁止です。貴方達は全ての空母の一番上に立つべき一航戦なのですよ。これに懲りたら、今度から馬鹿な事をしてはいけません。まずは飛龍さん達後輩の皆さんに謝って、きちんと反省するまでは入店禁止です。いいですね。」

 

「申し訳ありません…鳳翔さん。ほら、赤城さんも『今は』謝っておいた方がいいわ。」

 

「そうね、加賀さん。鳳翔さん、今回は一航戦にあるまじき振る舞いでした。赤城も以後『多少は』気を付けたいと思います」

 

…う…うぅ…赤城達のお肉が…。しかも、お母さんのお店に入店禁止だなんて…目の前が真っ暗になりそうです。そして今回ばかりは、お母さんの怖さが身に染みました。これからは少しだけ自重しなくてはいけませんね。…それにしても、お腹が空きました。今日は私も加賀さんも普通に眠られるかしら。いえ…ここは空母寮に戻ったら…。

 

to be continue




まえがきにも書いていましたが、このお話の続きは、次回の外伝になるかと思います。今回のバーベキュー大会、途中までは完璧に相手の出方をよみきった一航戦の作戦勝ちだったのですが、最後にまさかの『親の総取り』が待っていました。最後の最後で作戦が大失敗に終わったために、空腹で空母寮に引き上げる事となった赤城さん&加賀さんが、まさかこのまま引き下がる等という事は、一航戦の『埃』にかけてありえない事です。しかし…この二人、本当に反省しているのでしょうかねw

外でのバーベキュー、最近は全然やっていませんね(場所がないという話もありますがw)。しかし同じ肉を焼くだけの行為なのですが、室内で普通に焼肉をするよりも、外で食べた方が美味しいと思うのは、一体何なのでしょうねw。そのうち時間が出来たら、また外でバーベキューをやりたいものです。

それに…最近は、今回加賀さんが空母寮の積立金で購入したような高級肉をなかなか食べる機会に恵まれません。たしかにこの年になりますと、霜降り肉は重すぎてあまり食べる事も出来ないのですが、偶には楽しみたいものですw。しかし…空母寮の積立金を瑞鶴&加賀は勝手に使ってしまっていますが、こちらは問題ないのでしょうかね^^;。まぁ、鎮守府内の普段の生活では色々とやらかしている一航戦の二人ですが(つまり鎮守府の普段の生活を描いているこの小説内では、やらかしまくっている訳ですが…)、戦場では頼りになる先輩のようですから、空母寮でクーデターが起こるような事はないと思いますが…^^;

さて次回の外伝ですが、空腹のまま空母寮に戻った一航戦の二人がやらかすドタバタコメディーになりそうです。おそらく鳳翔さんに述べた反省の弁は綺麗さっぱり忘れて、色々とやらかす事になるでしょうねw

今回は肉や野菜を焼いただけの会のため、レシピはありません。
今回も読んでいただきありがとうございました。

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