鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回はウニの話です。本当は主役を違う艦娘にして、海産物とは関係のない飲み屋用のメニューで書こうと思っていたのですが、あとがきにも書いたとおり、北の島でウニを食べた事から急遽予定を変更。潜水艦娘とウニの話となりました。ウニもお酒と合うんですけどね…いかんせん高すぎる><


第六話 ゴーヤとウニ 

「鳳翔さん、こ…これで、ゴーヤ達に力がつく物を急いで食べさせて欲しいでち…。残りは、引き取って欲しいでち。」

 

まぁ、凄い量のウニですね。潜水艦のゴーヤさん達は、海の中を移動している事もあって、よく今回のようにウニやカニ、貝などを私のお店に持ってきてくれるのですが、今回はもの凄い量のウニです。それに、ゴーヤさん達は疲れてきったような顔をしていますし…最近忙しいのでしょうね。

 

「分かりました。それにしても凄い量のウニですね。急いで料理しますから、待っていてくださいね。」

 

「お…お願いするなのぉ。急いで食べないと、出撃時間が迫っているでち。」

 

あら?今日は半舷休息でお休みではなかったのでしょうか?たしか昨日も出撃が…と言っていたと思うのですが。まさか、お休みなしの連続出撃でしょうか…。

 

「ゴーヤさん達は、今日も出撃ですか?たしか昨日も出撃だったと思いますが。お休みもらっていますか?」

 

「う…うぅ…鳳翔さんからも、提督に言って欲しいでち…。ゴーヤ達、最近は月月火水木金金シフトで働かされているよぉ。しかも、今日に至っては午前中に一度出撃しているのに、これから4時間後には再び『第129次オリョール資源回収作戦』への出撃命令が出ているでち…。」

 

「イクも、もう駄目なのぉ…。そろそろお休みが欲しいのネ。」

 

「イムヤもヘトヘト・・・提督、イムヤの事嫌いになったのかな・・・」

 

「シオイも、本当はすぐにお風呂にドボーンしたいですよー。」

 

『第129次』ですか…どれだけ働かされているのでしょう…。これまで、こんなに潜水艦の子達が酷使される事はなかったと思うのですが。そういえば、先日あの人が私に言っていましたね。なんでも、来月の初旬から空母機動部隊による大作戦が発動される…と。詳しいお話は聞いていませんが、おそらくその作戦に向けての資材確保の一環だと思います…。

 

しかし今回の連続出撃は少し酷すぎますので、私からも一言あの人に言いたい…ところなのですが、作戦に関する事は口出ししない事が、私達の間の約束になっています。…とりあえず、可哀想なゴーヤさん達に、何か力がつく物を食べさせてあげるくらいしか、私には出来ません。

 

「ゴーヤさん、とりあえず焼きウニを作りますから、少し待っていてくださいね。これだけ見事なウニでしたら、生で食べても美味しいと思いますが、少し焼いた方が甘くて美味しいと思いますから。」

 

「それでいいでち!甘い物はゴーヤも大好きだよぉ。」

 

ゴーヤさんからもOKが出ましたから、早速焼きウニを作ってしまいましょう。焼きウニは、最近では電子レンジなる装置を使って中身だけを取り出して暖めるという手軽な方法もあるようですが、私のお店には焼き場がありますから、殻ごと直火で焼いてしまいます。殻についているトゲトゲが簡単にボロボロ落とせる程度まで、しっかり焼かなくてはいけませんので、少し時間はかかってしまいますが、こうすると殻の中でウニが蒸される効果も少し加わりますから、より甘く焼きウニが出来上がる訳です。これから出撃を控えているゴーヤさん達には丁度良い料理になるでしょう。

 

ゴーヤさんとイクさんイムヤさん、そしてシオイさんの4人分ですし、シオイさんは私のお店でいつも結構な量を食べますので、とりあえず20個程一気に焼いてしまいましょう。そして今のうちに、もう一つの料理を作るために、いくつかのウニの殻を割って中身だけを取り出しておきます。たしか先日、北方海域作戦に行っていた木曾さんがお土産に持ってきてくれたホタテが残っていましたから、これと一緒にしてパイ包を作る事にします。

 

それと今日は、車海老のお刺身の注文がかなり入ったために、海老の殻が大量に余っています。これを炒めて、殻を潰しながらコンソメを入れて白ワインを継ぎ足して入れていけば、簡単に海老の甘いソースが出来ますから、これを使えば・・・。あの人の無茶に付き合わされている、この子達へのせめてもの私からのお詫びです。

 

「ウニが沢山焼かれているのネ。早くイク食べたいのネ・・・」

 

「イク! あれは全部ゴーヤのでち!イクは大人しく待っているでち!」

 

「そんな事ないでしょ。あれには、イムヤの補給分も入っているんだから!」

 

「ゴーヤ・・・、あれは全員で食べるウニですよ~。今日の午前中の遠征で、鳳翔さんのお店で食べさせてもらうために、皆で力を合わせて収穫したでしょう。ね?」

 

ウニが焼き場に並べられている様子を見た潜水艦娘達が、賑やかになってきました。もうすぐ自分達が収穫したウニが食べられる事が分かって、少しだけ元気が出てきたのでしょうか。先程までどんよりした表情だったあの子達が、少しだけ嬉しそうな顔をしています。もっとも、私の方は手を休めていられる時間はありません。急いでパイ包も作ってしまわなくてはいけませんからね。

 

ホタテは貝柱の部分を少しだけ薄くする・・・はずなのですが、今回は少しでも元気を出してもらうために、このまま肉厚な貝柱を入れてしまいます。そしてパイ生地(本当は、最近私のお店にあまり顔を出していない五航戦の娘達が心配なので、彼女達に甘いパイ菓子でも作ってあげようと考えていたのですが・・・)に、準備したウニとホタテの貝柱を入れて密封します。最後に綺麗に焼くために表面に卵の黄身を塗って…そしてこれをオーブンに入れてしまえば、後は待つだけです。海老のソースの方も、だいぶオレンジ色の綺麗なソースが出来てきましたから、もう少し煮込んでから、使った海老の殻などを潰しながらザルを使って濾せば完成です。そうこうしている間に、ウニが丁度良いくらいに焼きあがりましたね。殻の上の部分だけを上手に切って・・・中身を食べやすくして小さじと一緒に出しましょう。

 

「はい、四人とも、ウニが焼けましたから、まだ熱いうちにめしが上がれ。」

 

「ウニが出てきたでち。早速食べるよぉ・・・あぁ・・・ウニっていいよねぇ~、ウニって。甘くて美味しいよぉ。」

 

「その大きいのはイクのなの。あっ!イムヤがイクの盗ったのね!」

 

「うん!美味しい!大漁、大漁!」

 

「三人とも、もっと落ち着いて食べようよ・・・ねぇ?」

 

あらあら、一緒に出した小さじを使って、もの凄い勢いでウニを殻からほじくり出して、口の中に入れています。お腹が空いていたのだと思いますが、ウニを口の中に入れる度に、ゴーヤさん達が元気になっているような気がします。やはり、美味しい食事を仲間と一緒に話しながら食べる事は、一番良い休息の時間になるのでしょうね。もうすぐパイ包も出来上がりますから、こちらも喜んでくれると嬉しいですね。

 

どうやら、パイ包も綺麗に焼きあがったようです。まずは、最初に作っていた海老のソースをお皿に敷いて、その上に出来立てのパイ包を乗せて完成です。オレンジ色の綺麗なソースの上に、少し大きめのパイ包。見た目もいいですし、おそらくパイを開いた時の香りは最高だと思いますが・・・気に入ってくれますかね。

 

「はい、続いてウニとホタテのパイ包です。私の自信作ですから、喜んでもらえると私も嬉しいですけど。」

 

「まずは・・・イクがいただきますなのね!・・・これ、凄く美味しいなのね!さっきの焼きウニも美味しかったけど、こっちの料理はもっと甘くて美味しいのね!」

 

「イムヤも、これ物凄く気にいったんだから。ウニの甘さとホタテの甘さが丁度よくて・・・これならどんどん食べられるわ!あと・・・海老の甘いソースが染み込んだパイの部分も、嬉しいな。」

 

「流石に鳳翔さんの特製料理は最高だよね。シオイは、もずくとか和食が好きだけど、このパイ包は最高だよ。パイが割れた時に中から出てきた香りは最高だよね。そう思わない?ゴーヤ・・・ねぇ。」

 

「う・・・うぅ・・・こんなに美味しい料理は久しぶりでち。こんな料理が食べられるなら、ゴーヤ達の苦労も少しだけ報われた感じがするでち。それに、こんなに美味しくウニを食べたのは初めてでち・・・これからも、時々ウニを持って帰るよぉ。」

 

普通は、焼きウニを出してしまうと、これの次に出す料理を迷う事になります。なんといっても、焼きウニはウニの最高の食べ方の一つですし、非常にウニを甘く感じる食べ方ですから、これの次に出す料理の選択となるとなかなか難しいのです。しかし、このウニのパイ包は私にとっても自信作です。ウニとホタテの甘さに加えて、海老のソースの染み込んだパイの部分。洋食ですが、焼きウニに匹敵・・・いえ、焼きウニ以上のウニの美味しさを発揮出来る食べ方だと思っています。惜しむらくは、かなりの量のウニを使って作るため、なかなか作る事が出来ないのですが、今回は幸いにもゴーヤさん達が大量のウニを持ち帰ってきたために、作る事が出来ました。

 

どうやら、ゴーヤさん達も私の用意した二つの料理にいたく喜んでくれたようで、一気に元気になったみたいですね。四人で『この鎮守府はブラック鎮守府でち…』とか『提督からのご褒美を期待するのね』などと話し合っていますが、あまりあの人の悪口を、私の前では言わないで欲しいものです。とはいえ、今回はゴーヤさん達の気持ちはよく分かるので、何も言いませんが。しかしゴーヤさん達も一気に元気になりましたので、この調子ですと次の作戦も元気よく出撃出来そうです。あらあら・・・歌まで歌い始めましたし、問題なさそうですね。

 

「さぁ、三人とも。これから次の作戦に向かうでち!軍歌『潜水艦のしるし』!」

 

『満期除隊に希望をのせて

オリョル、バシー、カレークルーズ

鉄鋼、ボーキ

砲弾 燃料

運べ~る限りの資源を載せて

はるか世界で戦~えますか!』

 

何やら勇ましい歌を歌い始めましたね・・・。いずれにせよ、ゴーヤさん達の休憩時間はあと僅か。おそらく、この後すぐに補給などを受けて出撃していく事になるでしょう。潜水艦の四人には申し訳ありませんが、あの人のためにも今は頑張って欲しいですね。私もなるべくあの四人のために美味しい料理を作って、あの子達が一生懸命働けるようにしたいと思います。

 

…あら?

 

「こら!赤城さん。そのウニの残りは商品ですから、まだまだツケを滞納しているあなたは、食べられませんよ!」

 

今日もお店でお手伝い中の赤城さんが、どさくさに紛れてウニを持っていこうとしていますので、注意しておかなくてはいけません。

 

「鳳翔さん、このウニが今日の私の賄い食になるのですね!流石に気分が高揚します!」

 

「赤城さん…それは私の台詞です。一航戦ともあろうあなたが、ツケを滞納しているとは…もっと誇りを持ってもらいたいものです。それと…鳳翔さん、こちらにもウニのパイ包を『3つ』お願いします。」

 

「そ…そんな…。」

 

あらあら…相変わらず加賀さんは厳しいですね。自分と二航戦の三人分だけのパイ包を注文するようです。…少し可哀想ですから、赤城さんにはお店を閉めた後に、改めて作って上げましょうか…。やはり空母娘には、どうしても私は甘くなってしまうようです。それに…おそらく来月にでも発動される大作戦、私の娘達が最前線に出て行く事は容易に予想出来ます。ですから、今だけはノンビリ過ごしてもらいましょう。

 




ウニ…好き嫌いが分かれると思いますが、私大好きです。生でよし、寿司もよし、そして焼いてもよし!先日、仕事の関係で北海道に行きましてウニを食べたのですが、初日は向こうに居る人間の馴染みの、ちょっとした個人経営の飲み屋に連れて行かれたのです。そこで焼きウニを出してもらったわけですが、あれは本当に良かったです。殻ごとしっかり直火で焼いたウニは、本当に甘くて美味しいですね。

実は、ウニを焼いているところは、今回初めて見たのですが、焼きすぎでないの??と思うほど焼いていました。後からお店の人に話を聞いた所では、これだけ焼かないと美味しくならないと言われまして、私が思っていたよりもかなりしっかり焼くんだな…と感じました。

また今回の話で出てきましたパイ包ですが、私にとってはこれが最高のウニ料理です。こちらも、北海道の個人経営のフランス料理屋で昔(だいぶ昔なのですが)食べた料理ですが、未だにこれに勝るウニ料理というのに私は出会った事がありません。パイの中にウニとホタテ、そして確か少量のツブ貝も入っていたと思うのですが、これを海老のアメリケーヌソースと一緒に出してもらいました。パイを破ったときの香りも最高でしたし、ウニとホタテは本当に甘くて感動した記憶があります。また、最後に残ったパイの部分をアメリケーヌソースで絡めて食べる時も非常に美味しかったです。たぶんこの時のアメリケーヌソースは、時期的にボタン海老の殻で作っていると思いますが、今回は時期外れですし、本州の鎮守府の設定ですから、車海老で代用ですw。

この他にも、このお店では北海道ならではのフランス料理が色々と出てきまして、楽しい時間を過ごす事が出来た思い出があります。あの店…まだやっているといいですね…。そのうち再訪したいのですが、なかなか時間が…私もデチ公のように働かされており、なかなか時間が…w。

ゴーヤ達の歌った歌…元ネタは、たぶん分かる人は一発で分かるあの歌です。
バブル時代の歌ですよねw。今ならさしずめブラック企業の社歌ですがw
http://www.youtube.com/watch?v=MmHlyCaqLws


次回はいよいよ(ようやく)、土曜丑の日のお話になります。たしか7/29が土曜丑の日ですから…前日の夜に投稿できたらな…と思っています。今回も読んでいただきありがとうございました。

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