鎮守府の片隅で   作:ariel

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前回のお話を投稿した後、ローマさんが掘れてしまいまして…そしてイベント後の大型艦建造祭りでは武蔵さんまで登場…という事で、私の鎮守府も大幅に変わってしまったため、今回の話で少し軌道修正したいと思います。秋月が主人公のため、本当は瑞鶴や翔鶴を出したかった所ですが、そういう事情もあり今回は戦艦と絡めた話になっています。料理の方は、偉大なる祖国『大名古屋帝国』の天むすにしました。そして今回は…最後の最後でKONGOH&HATSUSHIMOの連撃が…。


第六二話 秋月と天むす

防空駆逐艦『秋月』

 

 

「照月、すいません。再会のお祝いに、エビの塩焼きを食べさせようと車エビを狙ったのですが…採れたのは小エビばかり…。塩焼きの代わりに掻き揚げになりそうですが、料理は一生懸命頑張りますから、これで許してください。」

 

「そんな…秋月姉~、気にしないで…。照月はおにぎりだけでも幸せ!」

 

折角、この鎮守府で妹の照月と再会出来たので、お祝いに今日はエビの塩焼きをご馳走しようと車エビを狙って頑張ったのですが…こんな時に限って小エビばかりです。小エビとしては少し大きめですが、小エビはやはり小エビです。こうなっては仕方ありませんから、照月には小エビの掻き揚げで我慢してもらって…。照月は握り飯でも満足と言ってくれていますが、流石にお祝いの時くらいは豪華な料理を食べさせたかったです…そうです!何も秋月が作る事に拘らなくても良いのです。この鎮守府には、鳳翔さんという心強い味方が居るのですから、この小エビを鳳翔さんの所にもって行き、美味しい料理を作ってもらうという選択肢がありました。

 

「照月…少し考えたのですが、この小エビを鳳翔さんの所に持っていき、これで何か料理を作ってもらいましょう。折角の再会なのですから、今日くらいは贅沢をしても罰は当たらないと思うのです。」

 

「本当?秋月姉!ありがとう。鳳翔さんの料理を食べられるなんて、照月も楽しみ♪」

 

どうやら照月も賛成してくれました。それでは、早速この小エビを鳳翔さんの所にもって行き、今日の夕食のお願いをしなくてはいけません。

 

「照月、ちょっと鳳翔さんの所に行ってきますので、また後で。今日の夕食は期待していいですよ。」

 

 

「鳳翔さん。秋月、今日はお願いがあって来ました。妹の照月との再会を祝って、今日は二人で夕食を食べに来ますので予約をお願いします。それと料理なのですが、この小エビを使って何か作ってもらえませんか?よろしくお願いします。」

 

「分かりました、秋月さん。それでは今日の夜お待ちしていますね。あら?美味しそうな小海老ですね。小海老としては少し大きめだと思いますが、これを使うのですね?折角の再会のお祝いですから、秋月さん達が食べたい料理を作ろうと思いますが、何か希望はありますか?」

 

鳳翔さんは、あっさり秋月のお願いを聞き届けてくれました。そして更に、希望の料理まで作ってくれると約束してくれたのですが…照月の好きな料理ですか…これは難問です。秋月もそうなのですが、照月もいつも質素倹約していますから、好きな料理と言われても…。照月の先程の言葉ではありませんが、まさかここで『握り飯』と言うのも変ですし…鳳翔さんに全て任せた方が良いかもしれませんが…一応『握り飯』と言っておきましょうか。御飯の代わりに握り飯を作ってくれるかもしれませんし…。

 

「その…鳳翔さん?秋月もそうなのですが、妹の照月も普段は質素倹約していますから、特に希望と言われても…握り飯くらいしか思いつきません。ですから、鳳翔さんにお任せでお願いします。」

 

あ…ちょっとしくじったかもしれません。鳳翔さんも、『握り飯』というリクエストは流石に想定していなかったようで、少し考え込むような表情をしています。とりあえず、先程のリクエストは直に取り消して、完全に鳳翔さんにお任せにしておき…。

 

「分かりました、秋月さん。握り飯ですね?小海老のリクエストと合わせて、承りました。それでは今夜お待ちしていますので、楽しみにしていてくださいね。」

 

あら…あらら?まさかあんなリクエストが通るなんて、これは秋月も想定外です。ですが、これは今日の夜鳳翔さんが、秋月達にどのような料理を出してくれるのか…楽しみですね。夜が待ち遠しいです。

 

 

 

鳳翔

 

 

小海老を渡され、これを使ってお祝いの料理を作ってくれと秋月さんに言われた時は、特に気にしていなかったのですが、リクエストの料理が『握り飯』というのは、流石に想定外でした。しかし折角のリクエストですし、お祝いのための料理ですから、なるべく希望を叶えてあげたいところです。幸いにも、小海老の天婦羅を入れる天むすと呼ばれるおむすびがありますので、それを今日は作ってあげましょう。秋月さんからは、それ以外の指定はありませんでしたから、天むす以外は通常のお祝いに出すような少し華やかな料理を出せば良さそうですね。

 

私のお店では、普段のメニューにおむすびは載せていませんから、おむすびを作る機会は賄い食として赤城さん達に食べさせる時くらいしかありません。そしてその際のおむすびは、食べる相手が赤城さんや瑞鶴さんという事もあり、超大型のおむすびです。しかし今回の天むすは、おむすびという形で小海老の天婦羅を楽しむ料理でもある訳ですから、数口で食べられる小型のおむすびを作ることになります。

 

また天むすは、三重県で最初に作られた塩味の天むすから、有名になった名古屋風のタレで食べる天むすまで色々ありますが、今回の秋月さん達は、薄味よりもはっきりした味の方が好きそうですから、タレのタイプの天むすを準備しようと思います。そして当然の事ながら、揚げたての海老天を使っておむすびを作ることになりますから、注文が入ったその場で一気に海老などを揚げる必要があります。ですから海老の下ごしらえだけを今は済ませておきましょうか。

 

まずは海老の殻を剥き、少し面倒な作業になりますが、爪楊枝を使って背綿を丁寧に取り除きます。そして塩をかけたら、ぬめりが出るまでよく揉みこみます。後はこのぬめりを水で綺麗に洗い流したら、ふきんで丁寧に水気を取り除き、下ごしらえは完成です。この先は、秋月さん達が来店したら、その場で天麩羅にして天むすを作れば大丈夫ですね。少し変わった料理かもしれませんが、秋月さんと照月さんに満足してもらえると嬉しいですね。

 

 

「こんばんは、秋月さん、照月さん。カウンター席にどうぞ。それと照月さん、ようこそ呉鎮守府へ。歓迎しますよ。」

 

「鳳翔さん、ありがとう。照月、秋月姉と一緒に頑張ります!」

 

照月さんは、秋月さんと同じ防空駆逐艦の艦娘です。ですから、うちの空母娘達と一緒に出撃する機会はこれから多そうですし、早くうちの鎮守府に慣れてもらえると良いですね。見た感じでは、とても素直そうな子ですし、お姉さんの秋月さんとの仲も良さそうですから、おそらく直ぐにこの鎮守府にも馴染んでくれるのではないでしょうか。さて、それでは急いで天むすの仕上げをしてしまいましょうか。折角来店してくれたのですから、あまり待たせる訳には行きません。

 

それでは下ごしらえしていた小海老に衣をまぶしましょうか。水に卵を混ぜ、そこに薄力粉を少しずつ混ぜていきます。今回は天むすの具としての海老の天麩羅ですから、衣を少しふっくらさせたいですね…。卵の黄身を少し追加しておきましょうか。そしてダマが出来ないようにしっかり混ぜます。後は下ごしらえした小海老全体に衣をつけて準備完了ですね。今回は比較的小さな小海老の天麩羅だけを作る訳ですから、170℃程度の温度で一気に揚げてしまいましょう。

 

…そろそろ大丈夫そうですね。それでは天麩羅を油から引き揚げて、油をしっかり落としたら、いよいよ天むすを作っていきましょう。天むすは数口で食べる小型のおむすびですから、小海老の天麩羅を包むように握り、海老の天麩羅の先端がご飯から少し出ている程度の量で握らなくてはいけません。

 

それでは、揚げ終わった小海老の天麩羅に、水と砂糖、醤油そして味醂を一煮立ちさせて作った少し濃い目のタレを少しかけたら、包み込むように丁寧に握りましょうか。今回は天麩羅の方に濃い目の味が付いていますから、おむすびの方は少し薄めの塩味にしておきます。最後に海苔でクルッと巻いたら…天むすの出来上がりです。そしてこの天むすには、やはりこれを添えなくてはいけません。そうです、少し固めのフキの佃煮…キャラブキです。これを少量だけ天むすの隣に添えて…これで完成ですね。

 

秋月さんも照月さんも、不思議そうな表情で目の前に並べられていく天むすの姿を見ていますが、気に入ってくれると嬉しいですね。

 

「秋月さん、リクエストしてくれました小海老を使った握り飯です。気に入ってもらえるとうれしいのですが…。他の料理は出来次第出していきますので、先にこれを食べてもらえますか?照月さんも、どうぞ。」

 

 

 

防空駆逐艦 『秋月』

 

 

なるほど…たしかにこの料理でしたら、秋月の希望が全て叶った料理です。まさか小エビの天麩羅が入った握り飯が出てくるとは思いませんでしたが、この小さ目の握り飯…とても美味しそうです。握り飯の天辺から、小エビの天麩羅が顔を覗かせているのも可愛いものですね。この大きさの握り飯ですと、秋月でも二、三口で食べられてしまいますが、秋月の目の前には、そんな小型の握り飯が5個も並んでいます。そしてそんな握り飯の横に添えられた細いフキの佃煮…どれも美味しそうです。

 

早速まずは握り飯の方から行きましょう。あ…美味しいです!少し固めで、普通よりも薄い塩味の握り飯ですが、歯が小エビの天麩羅に到着した瞬間に、味そして食感が変わった気がします。普通の天麩羅よりもふっくらした衣に、しっとりと濃い目の天つゆが染み込んでいて、しかも周りの握り飯の部分にもうっすらと天つゆが染み込んでいるようで、これまで薄味だった握り飯の味が一気に、天つゆの甘辛い豊満な味に変わりました。

 

衣の中からは、秋月が頑張って取ってきた小エビが顔を出して、エビの少し甘い感じが天つゆの味ととてもよく合っています。そして、食感も握り飯の固めの米の食感と、衣のふっくらした食感、そして海老のプルンッとした食感…全てがとても素晴らしいものです。握り飯と天麩羅がこれ程相性が良いとは思いませんでしたが、天丼の海老だけを小分けにして食べていると考えれば、この味には納得出来ます。しかも一つ一つの握り飯が小さいために、握り飯を食べているにも関わらず、天麩羅を食べているかのような幸せな気分も味わえます。流石は鳳翔さん。今回、秋月がお願いした甲斐がありました。

 

ところで、この横に付いているふきの佃煮…これも気になりますね。秋月が普段食べる握り飯では、横に沿えるのは沢庵なのですが、わざわざこのような佃煮を出しているという事は、何か意味があるに違いありません。それでは…早速。こ…これは、この佃煮、噛むたびにキュッキュッと音がするような固めの細いふきの佃煮ですが、非常に味が濃いため、これを食べると先程の天麩羅の入った握り飯を更に食べたくなります。鳳翔さんの話では、今日は他の料理も出してもらえるそうですが、正直に言いますと秋月、この天麩羅の入った握り飯と佃煮だけで満足してしまいそうです。これはおかわりを頼まなくてはいけませんね。

 

!そうでした、今日は妹の照月との再会を祝うための食事でした。あまりに美味しい握り飯に感動して、自分の事ばかり考えてしまっていましたが、照月はこの料理に満足してくれたのでしょうか。

 

…どうやら大丈夫なようですね。照月も料理に集中しているのか、物も言わずに握り飯を口に運んでいます。私達秋月型姉妹は、質素倹約を旨として生活していましたが、たまにはこのような豪華な料理を食べるのも良さそうですね。この様子では、照月ももうすぐ出された握り飯を食べ終わってしまいそうですし、まだ食べたいと思っているに違いありませんから、今の内に私の分と纏めて追加注文をしておきましょう。

 

「鳳翔さん、とても美味しかったです。秋月感動しました。それで…出来れば、この握り飯…追加の注文をしたいのですが…。勿論、照月の分も含めてお願いします。」

 

 

 

鳳翔

 

 

今回の天むすは、お二人の好みにも合ったようで、まずは一安心です。使っている材料を考えれば、天丼の海老天だけをおむすびの形で食べているだけですから、美味しいとは思います。しかし、やはり変わった形態の料理のため少し心配していたのですが、その心配は杞憂に終わりました。本来であれば、この後普通の料理に移るところですが、お二人の希望ですから、追加の天むすを作る事にして、通常の料理の量は減らした方が良さそうですね。

 

今回秋月さんが持ってきた小海老はまだだいぶ余っていますし、先程からこちらの様子を伺っている店内の他の艦娘達の様子を見れば、これからこの天むすの注文が殺到する筈ですから、一気に作ってしまいましょうか。それにしても、今日は空母娘達が作戦中で居ませんので、ある意味良かったかもしれません。あの自重を知らない娘達が本気で天むすを食べ始めてしまいますと、一つ一つの大きさが小さい分、どれだけの天むすを作る羽目になっていたか…想像するだけでも怖くなってしまいます。

 

「初霜。折角ですから、私達もあの天むすをいくつかもらいましょうか。」

 

「はい、大和さん。初霜も食べてみたいわ。」

 

「分かりました。鳳翔さん、私と初霜にも、その天むすをお願いします。」

 

まずは大和さんと初霜ちゃんから天むすの注文ですね。天むすは小型のおむすびですから、駆逐艦の初霜ちゃんでも数口で食べられてしまいますので、こちらにも秋月さん達と同じ様に一人5個ずつお出ししましょう。

 

「鳳翔さん、なかなか面白そうな料理だから、こっちにもお願いするわ。Z1達も興味あるようだし、私やプリンツ・オイゲンも味見してみたいわ。」

 

「分かりました、ビスマルクさん。そちらにもお出ししますね。」

 

いつもはこの種の出来事に我関せずのビスマルクさんを中心としたドイツ組も、今回は興味があるようで、注文するようですね。こちらは味見がメインだと思いますから、四人で10個程作ってあげれば良さそうです。

 

「鳳翔さん、私とリベにもお願いしますね~。日本のソウルフード、リットリオも是非食べてみたいですから~。」

 

料理に対する好奇心が人一倍強いリットリオさんも、当然の事ながら注文しました。こちらも味見がメインですから二人分で5個でも良いかもしれませんが、意外にリットリオさんはこの種の和食も好きなようですから、10個出してしまってもよいかもしれませんね。

 

「鳳翔~、吾輩と筑摩も…」

 

「はいはい利根さん。そちらにも二人分出しますね。」

 

そしてこの種の料理は絶対に見逃さない利根さん達も、当然のことながら注文してきました。こちらは予想していた注文ですので、問題ありません。さて注文が増えたために忙しくなってきましたが、一気に作ってしまいましょうか。目の前のカウンターでは、秋月さんと照月さんが、次の天むすを待ちわびていますので、あまり待たせるわけにはいきません。今日もお店は忙しいですが、鎮守府は平和…

 

ガラッ

 

あらっ…あの子はたしか…大和さんの妹の武蔵さんですね。ようやくこの鎮守府にやってくる事になったという事でしょうか。そして入口から入ってきた武蔵さんの姿を見て、大和さんが嬉しそうに手を振っています。しかし…武蔵さんが、一人の眼鏡をかけた艦娘の首根っこを掴んでいる事は少し気になります。首根っこを掴まれている艦娘の子は、どうみても戦艦クラスの容貌ですが、私はこのような子を見た事がありません。なんとなくリットリオさんが着ている服にも似ているのですが…。

 

「鳳翔さん。この武蔵、いよいよこの鎮守府に赴任する事になった。大和ともどもよろしく頼む。それと…私が入店しようとしたら、この店の様子を外から伺っていた不審な艦娘が居たから、捕まえたんだが…この鎮守府の艦娘か?」

 

「ようこそ武蔵さん。あの人も大和さんも、それに勿論私も待っていましたよ。こちらこそよろしくお願いします。ただ…私もそのような子は知らないのですが…。すいません、どちらさまでしょうか?」

 

「…」

 

その…首根っこを武蔵さんに掴まれている艦娘の子は、凄く苦々しそうな表情でこちらを睨んでいるのですが…本当にどなたなのでしょうか…。あら?リットリオさんが手を口に当てて物凄く驚いた表情をしているのですが…それにビスマルクさんがニヤッと笑っているのも気になります…まさか!?

 

「ロ…ローマ。イタリアに帰ってしまったのではなかったのですか?リベからもそう聞いていましたし…。」

 

「…姉さん。本当は今回も帰ろうと思ったけれど、あの小さなリベ一人じゃ気になって…。」

 

どうやら、セイロン島付近でリベッチオさんと別れた後、リベッチオさんの事が少し心配になったようで、少し後からこの鎮守府までついて来たようですね。…ローマさんから事情を聞きましたが、途中で様々なトラブルがあったものの、今日鎮守府に無事到着して、あの人に報告に行ったようです。そして秘書艦の金剛さんから嫌味は言われたものの、無事にこの鎮守府に着任する事になり、リットリオさんが居る私のお店に来て内部の様子を伺っていたところ、武蔵さんに首根っこを掴まれた…という事のようです。なんといいますか…結果的に無事に着任する事になりましたが、ローマさんには本当に色々ありますね…。いずれにせよ、折角来てくれたのですから、秋月さんと照月さんの再会祝いに絡める形で、ローマさんを歓迎する料理も出しましょうか。あっ…

 

「あ~ら、誰かと思えば、地中海の引き籠り姫様じゃない。あれだけ私に悪態ついて本国にお帰りになったというのに、もう来た訳?あなた此処でやっていけるの?この鎮守府じゃ、引き籠りなんて出来ないわよ。」

 

「ちぃっ…大西洋の暴れん坊が…よりによってこんな所に居るなんて…」

 

やはりと言いますか、予想はしていましたが、この子とビスマルクさんは本当に相性が良くなさそうですね。以前はあれだけ殊勝に反省の弁を述べていたビスマルクさんですが、やはり本人を目の前にして、直ぐに挑発的な言葉が飛び出しました。そして売り言葉に買い言葉、ローマさんも直ぐに反応して、そのまま口喧嘩が始まりました。しかし、私のお店の中で揉め事は絶対に許しませんよ。ちょっと一言言っておいた方が…あら?初霜ちゃんが急にカウンター席からビスマルクさんとローマさんが火花を飛び散らせている所にやってきましたね。何かするのでしょうか。少し様子を見てみましょう。

 

「二人とも、こんな所で言い争いをしたら、鳳翔さんが困ってしまうわ。これからは一緒の鎮守府の仲間なのだから、仲良くして頂戴。それに、初霜のような小さな駆逐艦の前で、喧嘩なんてやめて欲しいわ。今回の事は秘書艦の金剛さんに報告して叱ってもらうわ。でもその前にまずは仲直りよ。さぁ、二人とも握手して頂戴。」

 

物怖じしない…とはまさにこういう事なのでしょうね。まさか駆逐艦の初霜ちゃんが、この二人の戦艦娘達の争いを未然に防ぐことになるとは、私も思っていませんでした。そしてそんな初霜ちゃんの姿を、大和さんや武蔵さんが驚いた表情で見ていますし、秋月さんや照月さんの『初霜もやりますね』という小声の会話がカウンター席の辺りから聞こえてきます。

 

またビスマルクさんとローマさんも、流石にこんな小さな子に注意されて恥ずかしいと思ったのか、舌戦を中断しましたね。口喧嘩に水を注されてお互いに少し冷静になったようですから、この機会に少しだけ仲良くなってもらいましょうか。今回の件は戦艦同士の揉め事。この件は秘書艦の金剛さんから叱ってもらえば良いでしょうから、私からはお説教しない方が良さそうです。

 

「お二人とも、初霜ちゃんの言葉ではありませんが、これからは同じ鎮守府に居て一緒に戦うのですから、せめて少しは仲直りしてもらえませんか?ビスマルクさん、ローマさん、色々お互いに思う事はあるかもしれませんが、今は仲直りしてください。」

 

ふぅ…なんとかなりそうですね。近くに居た武蔵さんに促されるように、ビスマルクさんとローマさんは握手するようです。お互い渋々なのは表情を見れば良く分かりますが、流石にビスマルクさんもプリンツ・オイゲンさんやZ1さん達が見ていますので拒否は出来ないでしょうし、ローマさんもリットリオさんやリベちゃんが見ていますから…。

 

「ま…まぁ、今は初霜や鳳翔さんに従って、仲直りしてあげるわ…フンッ」

 

メキメキメキ

 

「くっ…こ…こっちも、当面の間は仲直りしてあげるわ…フンッ」

 

メキメキメキ

 

その…物凄く力の入った握手のようですが、この二人の処遇については、金剛さんに完全に任せてしまった方が良さそうですね。お互いに全力で握手している姿を見て、武蔵さんや大和さん、それにリットリオさんも呆れたような表情をしています。この二人、本当に大丈夫なのでしょうか…。

 

 

戦艦寮 金剛私室  金剛

 

 

初霜、でかしたネ。初霜が鴨を二人連れてきたデ~ス。この二人はそのうちぶつかると思っていま~したけど、まさか赴任してきたその日にFightingするとは、こっちも予想外デ~ス。戦艦寮のmy roomで休憩していたら、my best friendの初霜から『鴨を確保した』という連絡が来たデ~ス。どうやら初霜がこの二人の本格的なbattleを途中でstopさせたようネ。そして初霜に連れてこられたビスマルクとローマ、二人とも意気消沈して私の前に立っているネ。

 

初霜が私にウィンクを送ってきま~したけど、ちゃんと初霜の計画はunderstandデ~ス。後は私に任せておくネ。まずは初霜を出汁に使って、この二人から搾り取れるだけ搾り取るデ~ス。

 

「何やってますか!あなた達は、戦艦ネ。戦艦が駆逐艦に喧嘩を止めてもらうとは、一体どういう事デ~スか。Shame on you ネ!言い訳は聞きたくないデ~ス。謝罪の言葉はいいデ~スから、これからは少し仲良くするネ。それと…今回は駆逐艦に喧嘩を止めてもらった失態、and私にとって借りを作りたくない鳳翔の店で失態をおかした以上、罰則を申し付けるデ~ス。ビスマルクは、先日motherlandからTrockenbeerenausleseの補給があった事は、調べがついているネ。そのうちの一箱は罰として私が没収するデ~ス!」

 

「なっ…あ…あれは、私の大好物よ。それに私だって二箱しか貰っていないのに…」

 

私もあれは大好物デ~ス。此処ではなかなか手に入らない甘口の美味しい貴腐ワインネ。So,この絶好の機会に一箱徴収させてもらうネ。ビスマルクは抵抗していま~すけど、そうは問屋がおろしませ~ん。初霜出番ネ。上手にビスマルクを庇うふりをするデ~ス。

 

「金剛さん。ビスマルクさんも反省しているみたいだから、ビスマルクさんの大切な物を没収するのは、あんまりだと思うわ。お説教をしてもらうために二人をここに連れてきた初霜が言うのは変かもしれないけれど、それは許してあげて欲しいわ…」

 

初霜、perfectデ~ス。綺麗なトスが上がりましたから、後は私がスパイクを叩き込むだけネ。ビスマルクには、自主的にワインを差し出させるデ~ス。

 

「初霜!余計な口出しはNoネ。これは、私達戦艦同士の問題デ~ス。ビスマルク…戦艦のあなたが、初霜のような駆逐艦に庇ってもらって嬉しいデ~スか?戦艦なら戦艦らしく、自分の起こした失態を反省して、罰則を受け入れるネ!」

 

「くっ…わ…分かったわ。たしかに、今回は私の失態…。初霜、あなたに庇ってもらったのは嬉しいけれど、もういいわ。罰はちゃんと受けるから。」

 

これでビスマルクは陥落したデ~ス。そして…この受け答えを隣で聞いているローマも俯いるから、もう陥落しているも同然ネ。ワインが手に入れば、次はつまみの番デ~ス。ローマはたしか…持参していた…

 

「喧嘩は両成敗デ~スから、ローマは持参してきたチーズと Prosciutto di Parmaを没収するネ。これに懲りたら、これからは二人とも仲良くするネ。私からはそれだけデ~ス。もう部屋に戻ってもOKネ。But, 直ぐに罰則の品を私の所に持って来てくださ~い。Cheatingしたら罰則を増やしま~すから、正直に持ってくるネ。」

 

これでイタリアの本場のチーズと生ハムも手に入ったネ。今日は美味しいワインとチーズと生ハムで乾杯デ~ス。ビスマルクとローマが落ち込んだ表情で退室していきま~したけど、今回は自業自得デ~ス。部屋に残った初霜はニヤニヤしていますネ。今回は初霜と私の連携作戦が綺麗に決まって大勝利デ~ス。あの場のアイコンタクトだけの咄嗟の作戦でしたけど、私達は以心伝心、best friendネ。

 

「初霜…perfectな援護だったネ。これは今回の報酬デ~ス。これからも上手に立ち回るネ。」

 

「分かったわ、金剛さん。ですが金剛さん?今回は初霜も頑張ったし収穫も大きいのだから、間宮さんの所のおやつ券だけでなくて、没収したワインとチーズと生ハム…少しくらい分けてくれても良いと思うわ。それに…結果的に、ビスマルクさんとローマさんの仲も多少好転させたわ。」

 

…相変わらず抜け目がないネ。たしかに今回の喧嘩両成敗で、ビスマルクとローマもぶつかり合う事は少なくなりそうデ~スから、結果的に初霜の鎮守府に対する貢献は大きいネ。But, 初霜自身はワインを飲まない筈デ~スから、大方このワイン等を大和に献上して、海老で鯛を釣るつもりネ。…まぁ、今回は見逃してあげるデ~ス。今日は収穫がたくさんありま~したから、少しくらい初霜に分けてあげマ~ス。私は寛大な女ネ。




HATSUSHIMO


ウフフフ。ビスマルクさんとローマさんの喧嘩を止めて、鎮守府にも貢献出来たみたいだし、良い事をした後は本当に気分がいいわ。金剛さんからも良い事をしたご褒美に、ワインやチーズ、生ハムまで貰えたし、本当に初霜は最高の気分よ。あの二人の喧嘩に割って入った事について、後から秋月さんから『初霜は度胸がありますね…』なんて言われたけれど、あの場には大和さんや武蔵さんも居たし、初霜に何かあったら鳳翔さんが絶対に黙っていない事は分かっていたから、ノーリスクハイリターンなボーナスステージよ?そんな美味しい場面を逃すことなんて、初霜には出来ないわ。

えっ?金剛さんとグルになって、ビスマルクさん達を嵌めたですって?いいえ、そんな事はないわ。戦艦同士のゴタゴタは、鳳翔さんではなくて金剛さんに解決してもらう方が良いと思っただけよ?鳳翔さんだって、それに納得していたから、ああいう解決方法になっただけ…。それに…初霜だって、ビスマルクさんからワインを取り上げようとした金剛さんを止めようと頑張ったのよ?結果的に、初霜の意図とは逆にビスマルクさんを追い詰めてしまったみたいだけれど、あれは初霜の本意ではないわ。そう…全て偶然が重なっただけよ?

その白ワインを大和さんに提供して、更に利益を確保するつもりだろう、ですって?それこそ下種の勘ぐりだわ。初霜がそんな即物的な事を考えている訳ないでしょう?そう…たしかにこの白ワイン等は大和さんに渡すつもりだけれど、それは何も見返りを期待している訳じゃないの。今日の秋月さんと照月さんが再会を祝してご馳走を食べていたように、大和さんも武蔵さんと再会出来たから、今日はきっと二人でお酒を飲む事になるだろうと思って、普段大和さんにお世話になっている初霜からお二人にプレゼントするだけよ。何も大和さんと同じくらいお金持ちの武蔵さんにも顔を売ろうとか…そんな事はちっとも考えていないわ。

初霜は誤解されやすいのかもしれないけれど、これからもこの鎮守府のために頑張っていくつもりよ。たしかに、良い事をしているのだから、多少は初霜に良い事があったらいいな…とは思っているけれど、それは別に悪いことではない筈だわ。




ような感じで、某駆逐艦は考えているようですね。今回の事は初霜の本意ではなく、全てが偶然の産物だったようです…なんて、書いている作者だって信じませんけどねw

さて、先日の投稿を終えた直後、突如としてE5のボスドロでローマさんが出現しました。前話では、『今回もローマさんが帰ってしまい、赴任しなかった』と書いていた矢先の出来事だったため、ストーリーどうしよう…と思ったのが正直なところです。そして今回の大型艦建造祭り…武蔵さんまで出現!という事で、大幅なストーリーの練り直しが必要になってしまいましたw。元々この話は、自分の鎮守府を想定して書いていますので、その設定だけは変えたくなかったんですよね…。

今回のお話、かなり早い段階で秋月さんか照月さんを主人公にする予定でした。そして先週の段階で、秋月さんを主人公にして史実絡みで空母娘達を登場させ、おにぎり等を最後は空母娘達が大量に食べてしまう物語を考えていたのですが、前述した出来事が突然起こったため、このストーリー部分を急遽戦艦娘に変更した次第です。ただこの種の強引な展開の話になりますと、やはり強い個性を持ったキャラの力が必要になりまして…このお話ではお約束の展開ですが、初霜がトスをあげて、金剛さんがスパイクを打つ…な感じになってしまいましたw。

今回の料理、天むすにしてみましたが、皆さんご存知でしょうか?名古屋周辺の人にとっては、お馴染みの料理ですが、元々は三重県の料理だったと思います。昔は塩味の天むすが主流でしたが、最近はやはり名古屋でカスタマイズされたタレで食べる方が多いかな…と思います。ちなみに筆者は、名古屋人のためタレ派だったりしますw。最初はおにぎりの天辺から天麩羅が見えているため、ん?と思う人も多いようですが、食べてみるとこれかなり美味しいのでお勧めです。

たしか中部セントレア空港でも天むすを売っていまして、そこの天むすは結構美味しいです。そして一緒についてくる付け合せのキャラブキも濃い目の味でしっかり作られているので、私個人としてはここの天むす+キャラブキは結構好物だったりします(自分で作っても勿論美味しいですが)。何故?と言われると困るのですが、天むすにはやはりキャラブキが合うんですよね…^^;

さて来週なのですが…正直投稿出来るかどうか分かりません。来週は週初めからお隣の国で講演を頼まれているため、出張でして…時間があれば物語が書けるかもしれませんが、あまり期待せずに待ってもらえるとありがたいです。しかし…10月にもあの国に行かなくてはいけませんし…今年は本当についていませんw

今回も読んでいただきありがとうございました。



天むす (四人分)(一人前5個×4)
えび:20尾 

水 :200 mL
薄力粉 :200 g
卵   :1個
卵黄  :1個分 (これを入れると天麩羅がふっくらします)

タレ
水   :70 mL
砂糖  :16 g
醤油  :30 mL
味醂  :30 mL

ご飯  :適量
塩   :適量
焼きのり:20枚(天むす一つにつき、1枚)

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