鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は食事中心の少し短めの話になりました。主役は久しぶりに本編で空母娘を出そうかな…と思い、酔いどれ軽空母の相方に登場してもらう事になりました。普段から相方に苦労している子ですが…今回はどうなる事やら…。料理の方は少し時期的には早いかもしれませんが、作者が現在食の墓場な国におり、落ち着いたものを早く食べたいな…と強く思っていたため、落ち着いた味が定評の肉豆腐に登場してもらう事に。早く食べたいぜ…ヒャッハ~。


第六三話 飛鷹と肉豆腐

夏の暑さが一段落したと思ったら、直に秋がやってきた感じですね。ここ最近、日暮れを過ぎますとだいぶ涼しくなっていたのですが、今日は折からの雨で涼しいを通り越して、肌寒い気温になっています。秋の食べ物を出すにはまだ少し早いのですが、今日は温かい料理を注文する艦娘の子が増えそうですね。何か考えておいた方が良さそうです。

 

ガラッ

 

「鳳翔さんこんばんは。なんだか今日は寒いですね。こんな日は少し温かい物が食べたいけれど、何かない?」

 

「そこはあたしに任せておけって、飛鷹。この隼鷹様が体の芯から温まるような物を注文してやるからさ~、ヒャッハ~。」

 

「あっ、鳳翔さん。今日は隼鷹にお酒出さなくていいから。」

 

「え~~、そりゃないぜ、飛鷹~。」

 

なんと言いますか、あっという間に賑やかになりましたね。いつもは千歳と来店する事が多い、軽空母の隼鷹ですが、今日は久しぶりに姉妹艦の飛鷹さんと来店です。そして来店早々に飛鷹さんからお酒を禁止された訳ですが…大方空母寮でまたお酒絡みで何かやらかしたのでしょうね…。毎度の事ですから一々気にしていたら私の身がもちませんので、今回は特に理由は聞かないでおきますが、勝手にお酒を飲み始めないように今日は少し注意していた方が良さそうですね。

 

それにしても考えていた側から、飛鷹さんが温かい料理の注文をしてきました。この調子では、このような注文が今日は間違いなく多いでしょうから、本気で何か考えた方が良さそうです。今ある材料で作れて温かい物…しかもあまり刺激のあるような味は私のお店には合いませんので、少し落ち着いた料理。そうですね…豆腐はありますし、肉とネギも余っていますから、少しこの季節には早いかもしれませんが肉豆腐でも作りましょうか。

 

材料的にはすき焼を作ってしまっても良いのですが、ここでこってりしたすき焼を作ってしまいますと、ただでさえお酒が好きな隼鷹が暴走する確率が跳ね上がってしまうでしょうから、あくまでも豆腐がメインで、すき焼よりは少し出汁で薄味になる肉豆腐の方が良さそうです。とはいえ、肉豆腐も日本酒と非常に合う料理ですし…今日はかなり注意を払わなくてはいけなさそうですね。まぁ、すぐ隣に飛鷹さんも居る事ですから、なんとかなるのではないでしょうか。

 

それでは早速肉豆腐を作ってしまいましょうか。まずはメインとなる豆腐を一口大に切り分けていきます。そして肉は食べた時にボリューム感を感じられるように少しだけ大きめに切り、ネギは緑の部分と白い部分を分けるような形で、こちらも一口大に切り分けます。下準備も終わりましたし、順番に火を入れていきましょうか。まずは出汁と醤油、日本酒、砂糖にみりんと和食の定番の調味料をフライパンに入れて、一煮立ちさせる事で味を整えます。そしてここに少しだけ味に変化を与えるために、千切りにした生姜を入れたら、切り分けたお肉に軽く火が通る程度に煮ます。

 

そろそろ色合いが変わってきましたから、軽く火が通りましたね。煮すぎて肉が固くなる前に、一端肉を外に取り出しておきましょうか。後は肉を取り出した汁に豆腐を入れて、中火にしてから蓋をしてしばらく煮ます。これで肉を煮た旨味が入った和風タレの味を豆腐に軽く染み込ませることが出来ます。…そろそろ大丈夫でしょうか。それではネギの根元に近い白い部分を先に投入し、粗方火が通りましたら、最後に火が通りやすいネギの先端の部分の緑色の部分を入れて、しんなりするまで火を入れます。

 

最後に取り出していた肉を再び戻したら、後は全体的に味が馴染むように数分煮て…完成です。非常に簡単な料理ですが、少し肌寒い今日のような日にピッタリの美味しい料理だと思います。また、少し味に変化を与えるための生姜も入れていますから、すき焼とは少し違った味を楽しんでもらえるといいですね。

 

「さぁ、二人とも?肉豆腐を作ってみましたから、どうぞ食べてみてください。今日のような少し肌寒い日には丁度良い料理だと思いますよ。」

 

「ヒャッハ~。こりゃまた美味しそうな料理だね~。ところで鳳翔さん、ちょっとお願いが…(駄目よ、隼鷹)…ヘイヘイ、分かってる、分かってるって。」

 

 

 

航空母艦 飛鷹

 

 

まったく、本当に隼鷹には世話がやけるわね。ここ最近、毎日のようにほろ酔いで空母寮に帰ってきてるし…。この間なんて、千歳と一緒に空母寮の前で大騒ぎした挙句、 龍驤さんに頭からバケツで水かけられているし…。千代田と相談して、千代田が千歳をしばらく管理して、私が隼鷹をしばらく管理する事になったけれど、本当にこれで上手くいくのかしら。とりあえず、今日は今のところお酒を飲ませない事に成功しているけれど、これからしばらく大変な事になりそうね。ま、そんな事より…これ美味しそう。今日はちょっと肌寒かったから、少し温かい物が食べたかったけれど、まさかこんなに美味しそうな料理が出てくるなんて思ってなかったから、驚いたわ。

 

鳳翔さんは、肉豆腐と言っていたけれど、すき焼を一人分だけ食べるような感じね。どこから箸をつけるべきか迷うわ。でも、とりあえずお肉からね。…あっ…柔らかい。ちゃんとしっかり火が通っているのに、これ程柔らかいなんて…絶妙な火加減でこの柔らかさを維持しているのね。あれ?これ生姜ね?お肉の上に糸のように乗っている生姜、舌の上でちょっとだけピリッとして、ちょっとした味の変化が本当に良いわね。それに…すき焼とは少し違って、味も少しだけ薄めだけれど旨味だけは強く感じられて…ご飯なしでもどんどん食べられそうだわ。いえ…隼鷹の言葉に賛同するわけではないけれど、日本酒が凄く合いそう。

 

肉豆腐と言うからには、やっぱり豆腐も大事よね。こっちもいただかないと。…はぁ…落ち着くわ。お肉も勿論好きだけれど、この豆腐のなんとも言えない包み込むような柔らかい甘味、それに表面の辺りのしっかりとした和風の味に旨味。豆腐の中までしっかり味が染み込んでいない分、豆腐の甘味を強く感じる事が出来て素敵ね。う~ん…やっぱりこの料理、御飯じゃなくて、お酒よね…。

 

それに添えられているネギも本当にいいわね。緑の部分は少し固めで歯応えがあるけれど、味がしっかりついているから美味しいし、白い部分は緑の部分よりも強い甘みと、ネギの内部にしっかり染み込んだタレが、ネギを噛む度に口の中に広がっていくわ。最初は一人前だけ取り分けられたすき焼かな…と思ったけれど、具も三種類だけとシンプルだし、味もすき焼よりも食べやすくて…これ本当に美味しいわ。…お酒飲みたいけれど…隼鷹に禁酒させている手前飲めないし…ちょっと早まったかな…。

 

ちょ…ちょっと隼鷹、何かを訴えるような目で私を見ないでよ。私だってお酒を飲みたいけれど我慢しているんだから。それにしても…この料理、辛口のキリッとしたお酒と一緒に食べたら、もっと美味しく食べられるんだろうな…。ど…どうしよう…。

 

わ…私がしっかり見ていれば、隼鷹だってそれ程暴走しないだろうし、一杯だけ…一杯だけなら、飲んでも大丈夫よね?そうよ、一杯だけと決めておけば、きっと大丈夫よ。やっぱり、美味しい料理には、美味しいお酒。我慢は良くないわ。

 

「ほ…鳳翔さん、日本酒の水尾を冷で一杯だけお願いするわ。ま…隼鷹も一杯だけなら許してあげるわ。でも一杯だけよ。」

 

「やった!流石は飛鷹だぜ。やっぱり、こんな美味しい料理には、日本酒だよな~。鳳翔さん、お許しも出たからあたしも貰うよ~。」

 

ふぅ…やっぱりキリッとした辛口の日本酒『水尾』が、この料理には本当に合うわ。優しい味を楽しみつつ、舌に残った味を辛口の日本酒で洗い流す…やっぱりこれよね。悔しいけれど、今回だけは隼鷹の考えに賛成ね。それにしても、この豆腐とお肉とネギだけのシンプルな料理…本当に良いわね。…あら?日本酒がもう無くなっちゃった…も…もう一杯くらいなら問題ないわよね?そ…そうよ、二杯くらいなら私も隼鷹も大丈夫よ。

 

「鳳翔さん、お酒もう一杯お願いね。…隼鷹も、もう一杯だけ許してあげるわ。」

 

 

 

鳳翔

 

 

温かい料理をリクエストしていた飛鷹さんですが、肉豆腐は気に入ってもらえたようですね。また隼鷹も食事自体は嬉しそうに食べていましたが、途中から訴えるような視線を飛鷹さんに送っていました。まぁ、この料理はお酒ととても合いますので、飲みたいという気持ちは痛いほど分かりますが、御飯で食べても美味しいのですよ?ただ、途中で飛鷹さんもお酒を飲みたくなってしまったようで、結局はなし崩し的に二人ともお酒を飲み始めてしまいました。

 

ただ…飛鷹さんのピッチが少し早いのは気になりますね。適度に飲みながら食べる事は、お酒が料理を更に美味しくしてくれますが、先程二杯目を飲み終わった飛鷹さんは、今度は何の葛藤もなく三杯目の注文を入れてきました。…そしてそれに合わせて隼鷹まで。少し止めておいた方が良さそうですね。

 

「あの…飛鷹さん?少し飲むペースが早すぎますよ。たしかに肉豆腐のような料理に、辛口の水尾が凄く合う事は分かりますが、何事もほどほどにしておかないと…。それに今日は隼鷹に飲ませない筈では無かったのですか?」

 

「あっ…その…鳳翔さん、申し訳ありません。その…あまりに美味しくてついつい…。その…今度こそ本当に止めますので、あと一杯だけ…。」

 

まったく…飛鷹さんにも困ったものですね。まぁ、普段飲む量を考えれば、この程度でしたら酔っ払うという事はないと思いますので、最後の一杯は出してあげますが…これでは隼鷹を注意出来なくなってしまいますよ。あらっ?そういえばさっきから隼鷹は静かですね、珍しいことも…なっ!

 

「赤城さん、何を渡しているのですか!勝手にそういう事をしてはいけません!って、何を食べているのですか!」

 

「ほ…鳳翔さん…その…これは…別に賄賂じゃないですよ?別に、赤城も肉豆腐が食べたいから、お酒と交換したわけでは…その…これは事故です。そう、事故なんです!」

 

「ゲッ…やばっ、見つかっちゃたよ~。あたしとした事が、しくじった…。」

 

…飛鷹さんを注意する事に専念していて油断しました。まさかお手伝いをしていた赤城さんが、隼鷹から賄賂(肉豆腐)を貰った見返りにお酒を出していたとは…。気づいた時には、既に隼鷹が一升瓶を直接口に咥えて…。どうしてくれましょうか…。

 

「赤城さん、それに隼鷹?余程私を怒らせたいようですね。そういう事でしたら、私にも考えがありますよ?」

 

「ほ…鳳翔さん?あ…赤城は反省しています。とっても深く反省しています。も…もう摘み喰いはしませんし、勝手な事はしませんから…その…。」

 

「や…やばい…やばいよ…。その、鳳翔さん?あたしもちょっと今回は調子に乗っちゃっただけで…。ひ…飛鷹、その…もうこんな事はやらないからさ~、早くあたしを助けておくれよ~。」

 

今更そのような事を言って、許してもらえるとこの馬鹿娘達は本当に思っているのでしょうか。流石に今回は、飛鷹さんも隼鷹を助けるつもりは全くないようですし、小さな声ですが『自業自得よ』という飛鷹さんの言葉が聞こえてきました。

 

「とりあえず、貴方達二人はそこの座敷で正座です。赤城さんも今日の賄い食は無しですよ。今日はそこで皆さんが食べている姿を見ながら、しっかり反省しなさい。」

 

流石に二人とも、私が怒っている事に心から反省したのか、少し震えながら…というのは不本意ですが、大人しく座敷で正座しましたね。飛鷹さんもそうですが、他のお客さんの艦娘達も、流石に今回は同情の余地が全くないと考えたのか、無言で頷いています。さぁ、それでは私も仕事を再開しましょうか。お客さんもたくさん居ますし、今回の騒動によって肉豆腐を食べたいと考えた艦娘もかなり居そうですから、いつまでも馬鹿娘達の面倒にかまけている訳にはいかないのです。

 

 

その日、閉店の時間まで隼鷹と赤城さんは、座敷で正座して私の店で過ごす事になりましたが、他の艦娘の皆さんが目の前で美味しそうにお酒や料理を楽しむ姿を、とても悔しそうな表情で睨んでいました。しかし貴方達、自分達が悪い事をしたという事は分かっていますか?とりあえず、今日は二人の頭に拳骨を落としてから帰らせますか…。

 

後日、飛鷹さんから隼鷹が最近は少し大人しくなったという話を聞きました。どうやらお説教と罰を与えただけの事はあったという事ですね。…しかし、もう一方の赤城さんは、今日もお手伝いの傍ら、摘み食いに勤しんでいるようです…。こちらは、とても反省したとは言えなさそうですね…困ったものです。




鳳翔さんが実力行使に出る回…という事で今回は少し珍しい回になったかもしれません。説教される側は、いつかきっと説教されるだろうな…と思われていた双璧ですから、まぁ、さもありなん…な展開になっていますが、この調子で某駆逐艦も説教される日が来るのでしょうかね…^^;。たぶんいつも隼鷹に苦労している飛鷹からすると、鳳翔さんの今回のお説教&実力行使に心から拍手を送っていそうな気がします^^;。

さて、肉豆腐です。私、現在食の墓場のような国に居まして…こういう料理を早く食べたい!と強く思っており、結果的に今回は少し時期外れなのですが、肉豆腐を登場させました。こちらで講演を頼まれていたため、今回は完全に接待される側ですから、それなりに良い物を食べさせてもらっている…筈なのですが、美味しくないのよ!!

流石に向こうも気を使ってくれて、洋食を食べに連れて行ってくれたりもするのですが、肝心の赤い料理がね…。辛く無い料理もあるのですが、そういうのは味がほとんどない&一緒に出てくる付けあわせは味が濃すぎる…のような感じで…(自分で味を調整しろという事なのですが、イギリス料理じゃないんだからさ…)。昔からかなり何度も来ていますし、色々食べてはいるのですが(犬鍋も食べた事ありますし、例のエイの『非常に独特な香り』の料理も食べていますがw)、どうも全般的に好きになれないんですよね。こればかりは、魔法の呪文をハリラハリラハラリーしても駄目ですわ…って、このネタ知っている人居るのだろうか^^;。たしか歌詞では、ビビンバが出ていたと思いますが、ビビンバもね…日本の韓国料理屋で食べた方が…。

という事で、この物語が投稿される頃には、帰国出来ていると思いますので、今日はマイルドな和食をしっかり食べたいところです。とりあえず、この物語に出ている肉豆腐は外せませんし、これを肴に辛口の日本酒でキューッとやりたいところですね。ついでに、出し巻き卵や白身の焼き魚も…。今回は物語をしっかり練る時間があまりとれなかったため、この物語の最初の方と同じように料理重視の話にしました。次回はたぶんなんとかなりそうですが、今回はこれで勘弁してください。

来週いよいよ艦これの方もメンテが入りますが、いよいよ翔鶴の改二が来るかと思うと、非常にワクワクしますね。個人的には瑞鶴派なのですが、やはり五航戦は両方とも好きですし、今からとても楽しみにしています。

今回も読んでいただきありがとうございました。


肉豆腐 (四人分)
木綿豆腐: 2丁
牛肉  : 200g
ねぎ  : 1本
生姜  : 適量

醤油  : 60 mL
砂糖  : 20 g
味醂  : 30 mL
日本酒 : 60 mL
出汁汁 : 250 mL

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