鎮守府の片隅で   作:ariel

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前回のあとがきでも書きましたように、今回は外伝の順番になりました。外伝どうしようかな…と思ったのですが、いつもは鳳翔さんがしっかりと料理していますので、今回はお手軽料理でも良いのではないだろうか…と考えまして、私の家でも普段作る様なお手軽クッキングから、ホイル蒸しを選び、面倒くさがり屋の初雪に作らせる事に…までは良かったのですが、折角だから料理教室風にするかと考えたのが、大失敗でしたw。駆逐艦の料理教室となった以上は、例のツンデレ駆逐艦が放っておくはずもなく…。


外伝10 初雪のものぐさ料理教室

駆逐艦寮 初雪

 

 

はぁ…面倒…。ちょっと寝坊しただけなのに…。秘書艦の金剛さんから、『寝坊の罰則として駆逐艦寮で奉仕活動1回』なんて言われた…嫌だ…。でも何かしないと、金剛さんからもっと怒られる…何もしたくないのに。仕方ない…ちょっと考える。なるべく面倒じゃない事をしないと。

 

駆逐艦寮の廊下掃除…問題外、疲れるのは嫌。駆逐艦寮のトイレ掃除…これもしんどいから嫌。…掃除は大変だからやめとこ…。他に何か…そう、駆逐艦寮の友達を集めて、私が得意な何かを教える事で駆逐艦娘の技術力向上…。でも教えるのは面倒くさいからこれも…あっ…これは良い考えかも…。問題は何を教えるべきか。お昼寝の練習…これは後から金剛さんに怒られる事確実。何もしないで時間をつぶすやり方の講習…これも怒られそう。…手抜き料理教室…うん、これなら私でも大丈夫。

 

カップラーメン作って、電子レンジでご飯をチンしたらカップラーメンに入れてラーメンライス…完璧。これなら料理教室を開催しても、面倒じゃなさそう。これで奉仕活動は決まり。あと問題は…誰を生徒として連れてくるべきか。私の手抜き料理教室に付き合ってくれそうで、文句を言わなさそうな友達…。まずは同部屋の深雪は強制参加。この間、私がカップラーメンをわけてあげたから、文句は言わせない。…うん、一人確保。あとは…物分りの良い初霜にも来てもらう。初霜も最初は嫌がるかもしれないけど…頼めば嫌とは言わない…筈。ついでに初霜と同部屋の初春も呼べば三人確保。初霜から誘わせれば、初春も付き合ってくれる…と思う。生徒が三人いれば、体裁は整うから、今回の罰則の奉仕活動として報告できる。…完璧。

 

 

…どうしてこうなった。

 

「ちょっと、何ボ~ッと突っ立っているのよ!折角私も来てやったんだから、早く料理を教えなさいよ!まさかあんた、手抜き料理なんてやらないわよね!こっちは忙しい中、あんたが料理教室を開催すると聞いてわざわざ来てやったのよ!変な料理教えたら、許さないわよっ!」

 

途中までは私の計画通りだったのに…。初霜は難色を示しながらも了承、ついでに初春も参加してくれる事になって、深雪を駆逐艦寮の共同台所に引き摺って行く途中で、同じ第11駆逐隊の叢雲に遭遇。あそこで深雪が『この深雪様が、初雪の料理教室なんかに参加させられるとは…』と言った瞬間に、叢雲の顔が変わって…。何故か知らないけど、叢雲はノートや筆記具まで持参して張り切っている…勘弁して欲しい。…面倒事は…嫌。

 

「分かった。それじゃ始める。今日私がみんなに教えるのは、ラーメンライス。…とても美味しい。夜中に食べると、もっと美味しい。だからこれを作る。いい?」

 

「はぁ~?いい訳ないでしょ!あんたまさか、カップラーメンに電子レンジでチンしたご飯入れて、お茶を濁す訳じゃないでしょうね!そんな料理、あいつに持っていけないじゃない!もっとちゃんとした料理を教えなさいよ!」

 

叢雲…顔を近づけなくてもちゃんと聞いている…。鼻息が荒い…もっと落ち着く。この料理だって美味しいと思うし、私は好き。でもこのままじゃ、とてつもなく面倒な事になりそう…。叢雲の目が血走っているけど、なんでここまで…。友達と一緒にラーメンライスを食べれば私は美味しいと思う…たぶん。とりあえず、こんなに叢雲が興奮している状態では、私じゃ対処出来ない…初霜、早く私を助けて。

 

「あの…叢雲ちゃん?そんな風に初雪ちゃんに迫っても、初雪ちゃんは特に材料を準備していないようだから、無理だと思うわ。それに初霜も早く終わって帰り…じゃなくて、手軽な料理を勉強したいから、今日はこのラーメンライスでも良いと思うわ。」

 

流石は初霜。完璧な言い訳。そう…たしかに今はカップラーメンと電子レンジ用のご飯しか準備していない。だから他の料理は無理。…早く叢雲も諦めて私の言う通りに…。

 

「そんな理由で『はい、そうですか』と引き下がれる訳ないじゃない!私は切羽詰まっているんだから、なんとかしないさいよ!それに材料がないなら、これから買い物に行けばいいでしょ!…こ…今回くらい、私が材料費全部出してやってもいいんだから。」

 

…はぁ、面倒。叢雲…何をそんなに焦っている。焦っても良いことは何もない…果報は寝て待てとも言う。だから早く寝た方がいい…うん。でもこのままじゃ、叢雲は絶対に引き下がらない。…仕方ない、少しだけ本気出す。でも洗い物は面倒だから、調理器具やお皿を極力使わなくても良い料理…。!そう、良い料理があった。これなら何とかなる。

 

「分かった。それなら少しだけ料理する。これから必要な物を紙に書くから、買い物に行ってきて。私は今日は先生だから、ここで待っている。」

 

「は…早く、メモを書きなさいよ!今回は、私が買ってきてあげるわ!べ…別に、料理がどうしてもしたいって訳じゃないのよ!ちょっとそういう気分になっただけなんだから、感謝しなさいよね!ほら、あんた達も買い物に付き合いなさいよ!」

 

…はいはい。これ以上掻き回されるともっと面倒になりそうだから、早く買い物に行ってきて。私は面倒だから行かないけど。本当は簡単に罰則が終わる筈だったのに、いつのまにか本当の罰則になりそう…早く部屋に戻りたい…。

 

 

「とりあえずメモにあった物は、買ってきてやったわよ。ありがたく思いなさい!さぁ、いよいよ料理をするわよ!初雪、早く始めて頂戴。ん?初春も初霜も深雪も、何嫌そうな顔しているのよ、あんた達も早く準備しなさいよ、もっとやる気を見せなさい。」

 

叢雲に買い物まで付き合わされたから、あの三人が嫌そうな顔をしている理由は、物凄く分かる。私も早く帰りたいのに…。一人だけ張り切られると本当に困る…もっと空気を読んでほしい…うん。とりあえず、この料理は簡単だからチャッチャと料理して終わらせよ…。本当なら今頃部屋でゴロゴロしている筈なのに…予定が狂った…はぁ。

 

「分かった。始める。皆も急いで準備して。今日作るのは鱈のホイル蒸し。この料理は、調理器具をほとんど使わない素晴らしい料理。洗い物が凄く楽…。それじゃ、まずは鱈の切り身を一つ選んで、キッチンペーパーで軽く拭いて水気を取る。…叢雲、力入れ過ぎ。あまり力入れると、鱈の身がつぶれる…。」

 

「わ…分かっているわよ!ちょ…ちょっと気合いが入っているだけよ!」

 

鱈の身をキッチンペーパーで拭くだけの作業だから、わざわざメモを取る事もないと思う…。今日の叢雲はちょっとおかしい。それに、この料理は適当に作ればそれなりの味になる。わざわざメモを取る事もないと思う。まぁ、好きにすればいい…うん。

 

「次、舞茸を手で割いて一口分にする。これを二つか三つ作る。それとエノキも適当な大きさに割いてくれればいい。」

 

「ちょっと、初雪!『適当』ってどういう事よ!もっと正確に何cmにするのか、教えなさいよ!」

 

何cmにするか…って言われても…適当は適当。自分が食べたい大きさにすればいい。それに料理なんて本来は、自分が食べたい物を食べたい大きさに切って、適当に好きな味付けをすれば美味しく食べられる。だから、そんなに細かい事を聞かれても…私も分からない。

 

「叢雲、言いたい事はわらわも分かるのじゃが、こういう物は、自分が食べたい大きさに好きなように割けば良いと思うぞよ。あまりギチギチに測っても、料理は面白くないと思うのじゃが…」

 

「わ…分かったわよ、初春。と…とりあえず、あいつが一口で食べられるくらいの大きさ…っと。」

 

初春が上手に纏めてくれた。深雪は全く役に立たないけど、初春と初霜を呼んでいたのは正解…流石は初春型。叢雲が暴走しても、この二人が止めてくれそう。面倒事は少ない方がいい。

 

「次はキャベツや玉ねぎも適当な大きさに切る。叢雲…流石にその玉ねぎは厚すぎる。それじゃ、火が通り難いから、もう少し薄く切る…うん。全部切ったら、アルミホイルを広げて、その上に今切ったキャベツや玉ねぎを真ん中に乗せて、その上に鱈と舞茸、エノキを乗せる。」

 

とりあえずアルミホイルの上に適当に野菜と魚を乗せて、後は味付けをしてオーブンレンジでチンしたら完成…。ここまで頑張るつもりはなかったのに…今日はついていない…。まぁいい、とりあえず五月蠅い叢雲も静かに配置している…なんであんなにゆっくり丁寧に配置している…。適当に乗せればいいのに。

 

「最後は味付け。適当な大きさにバターを切って乗せたら、つゆの素と日本酒を適当にかけて完成。後はアルミホイルで包んだらオーブンに入れて終わり…はぁ、やっと終わった。」

 

「ちょっと、あんたね~。やる気あるの!さっきは切るだけだから、適当な大きさというのも仕方ないと思ったけど、味付けが適当って、どういう事よ!ちゃんと説明しなさいよね!まずバターは何gで、つゆの素は何mLよ!」

 

また叢雲が五月蠅い事を言い始めた。もう勘弁して欲しい。味付けなんて自分が食べたい味になるように適当に入れればいいだけ。別に悩む必要はない…筈。第一、私もいつも適当にやってるから、量った事なんてない…。

 

「なぁ、叢雲~。そんなにカリカリするなって。この深雪様のように、適当にバター切って、つゆの素も適当にバ~ッとかければ大丈夫だって。なっ?」

 

「な~にいい加減な事言ってるのよ、深雪。私は、あんたのように適当じゃないわよっ!第一、適当な味付けして、あいつに料理を持って行ったとして、『あまり美味しくないな…』と言われた日には、あんたどう責任とってくれるのよっ!」

 

「ん?なんだ、叢雲?あいつって誰の事だ?自分で食べるんじゃねーのかよ。」

 

「あっ…そ…その…何でもないし!と…とにかく、ちゃんとした味付けの分量教えなさいよ!」

 

叢雲…鼻息が荒すぎ…料理はもっと楽しくやるもの…の筈。でもこのままじゃ、叢雲の暴走が止まらない…困った。初春も初霜も呆れたような顔をしているけど…初霜、呆れる前に早く私を助けて…このままじゃ、私が困る。…とても困る。

 

「叢雲ちゃん、そんなにピリピリして料理をしても面白くないわ。でも…そうね、味付けだったら、これから初霜が味付けするから、その分量を量れば良いと思うわ。まず…バターはこれくらいかしら…えっと4.5 gね。次につゆの素と日本酒は…初雪ちゃん申し訳ないけど、計量スプーンを持って来て頂戴。こっちはそうね…つゆの素が小さじで二杯くらいだから約10 mLね、そして日本酒が小さじで四杯くらいだから約20 mLかしら。」

 

「ま…まぁ、別にあいつに持っていくなんて、ちっとも考えてないから、多少味がずれても関係ないし…完全に正確な分量ではなくてもいいわ!と…とりあえず、メモメモっと…。」

 

初霜…助かった、感謝。やっぱり、困った時は初霜に頼るのが一番楽…間違いない。それにしても叢雲がこんなに料理に五月蠅いとは思わなかった。いつも同じ駆逐隊で一緒に出撃する時は、そんな素振りも見せなかったけど、今度から要注意…うん、要注意。

 

「みんな準備が整ったら、このオーブンレンジに入れる。後は180℃くらいで20分くらい放置すれば完成。今日はこんなに頑張るつもりなかったのに…やっと終わった。」

 

 

「時間…そろそろオーブンを開ける。後は自分で作った物を食べて今日は解散。洗い物もほとんどないから完璧な料理だと思う…うん」

 

 

 

叢雲

 

 

まったく…なんとか初雪にまともな料理を教えさせる事に成功したけど、これで美味しくなかったら只じゃおかないんだから!大体、最初に言っていたラーメンライスって、どういう事よ。あんなカップラーメンとインスタントご飯を混ぜただけの物、あいつの所に持っていける訳ないじゃない!それに、あいつもあいつよ!もう完全に忘れたと思っていたのに、この間司令部で会った時に『そういえば叢雲、お前の料理楽しみに待っているぞ』って言われて…。こっちは切羽詰まっているのよ!

 

作り方や味付けは完全にノートに取ったから、この料理なら私でも作れそうね。…べ…別に、あいつに料理なんか持って行かなくてもいいんだけど、一応約束したから約束を守るだけよ!他意は無いんだからっ!後は、この料理が美味しければ…。とりあえずアルミホイルの包みを破って…あっ、良い香り。アルミホイルの包みを広げた瞬間に、バターの甘い香りと醤油のような香りが混ざって、私の鼻にフワッと入ってきたわ。初雪が先生だから、あまり期待してなかったけど、実はこの料理結構美味しいのかもしれないわね。私にもまだ運があったという事だわ!

 

味の方はどうかしら…。な…なにこれ?美味しい!舞茸とエノキか…どっちもキノコの一種だろうけど、なかなか美味しいじゃない。とくにこのエノキの、シャクシャクとした食感が残りながらも全体的には柔らかくなっている所が良いわね。それに舞茸もエノキとは違った少し固めの食感が最高。こういうキノコ類とバターや醤油は相性が良いみたいだし、噛んでいると段々旨みが染み出してきて本当にいいわねっ。こんな美味しい料理をこの私が作ったなんて信じられ…じゃなくて、これくらい私なら出来て当然よ!これだけ美味しければ、あいつのところに持って行っても問題なさそうねっ!実は、私って料理の才能があったのかもしれないわね。

 

さてと…次は魚ね。白身魚だからアッサリしていると思うけど…。うん…これは想像どおりだわ。あっさりして食べやすいけど、これにバターやつゆの素に入っている旨みが丁度良いくらいにマッチしてて…

 

「叢雲…あまりがっつかない。美味しいのは分かるけど、勢いよく食べるのは、行儀が悪い…。」

 

「はふゆひ、ううさい(初雪うるさい)!べふに、どうはへはっへ、いいへひょう(別にどう食べたっていいでしょ)!あはははいふひに、はへはいはは、いほいへ、はへへいふはへほ(温かい内に、食べたいから急いで食べてるだけよ)!」」

 

「叢雲…口に物が入った状態で話すのは…駄目。行儀が悪い…うん。」

 

ど…どうだっていいでしょ!どうせここには、駆逐艦しか居ないんだから、多少行儀が悪くったって問題ないわよっ!それに、私にしゃべらせたのは、あんたじゃない!私は暖かい内に食べたいから一気に食べているだけで、別に自分が作った料理の美味しさに感動して一気に食べているわけじゃないんだから!

 

初雪が変な事言うから、しっかり味わう前に、鱈が無くなっちゃったじゃない!どうしてくれるのよ。後残っているのは、玉ねぎにキャベツね。…ふぅ、結構落ち着く良い味じゃない。甘味の強い玉ねぎもバターの塩味と合わさると余計に甘く感じられるわね。つゆの素との相性もばっちりで、本当に食べやすい味になっているわ。それにキャベツもクタッとしているけど、少しだけ固い歯応えは残っていて…。

 

はぁ…一気に食べちゃったけど、美味しかったわ。そうね…料理なんて簡単じゃない。違うわね、私に料理の才能があったからこそ、こんなに美味しく作れたに違いないわ。これで、あいつの所に持って行く料理の目処がついたわねっ。私の作った美味しい料理をあいつが食べれば、少しはあいつも私の方を向いて…じゃなくて、そ…そんな事どうだっていいのよ!私は約束を守るために料理を持っていくだけよっ!

 

 

 

初霜

 

 

隣で叢雲ちゃんが、ニヤニヤしながら独り言を言っているけど、『この料理ならあいつの所に持って行っても…』とか『この私の料理の才能が…』とか、訳の分からない事ばかり言っていて、初霜は一刻も早くここから逃げたいわ。これだけ大きな声で独り言を言っていたら、隣に居る初霜じゃなくても、他の子もすぐに気づくわ。みんなあまり目を合わせないようにしているけど…。

 

どうやら叢雲ちゃんは、提督の所に自分の料理を持っていくつもりで、今日の料理教室に参加したようね。たしかに今回初雪ちゃんと一緒に作った鱈のホイル蒸しは美味しかったわ。初雪ちゃんらしく、なるべく手間がかからないように、最低限の作業だけで作ったこの料理は、初霜もとても美味しかったと思うの。

 

でもね?いつも鳳翔さんの料理を食べている提督の所に持っていくのは…。いいえ、たしかに叢雲ちゃんが作ったという事で、提督は美味しく食べてくれるのは間違いないと思うわ。…ただ、叢雲ちゃんが考えているような展開には絶対にならないと思うし、下手をすると毒見と称して秘書艦の金剛さんに全部食べられてしまう事だって考えられるわ。いずれにせよ、叢雲ちゃんをがっかりさせないためにも、この段階で叢雲ちゃんに釘を刺しておいた方が良さそうね。

 

それに、叢雲ちゃんも叢雲ちゃんだわ。本当に美味しい料理を勉強したいなら、面倒くさがり屋の初雪ちゃんじゃなくて、鳳翔さんの所に行けばいいと思うの。まぁ、それが出来なかったから、初雪ちゃんに頼ったのだろうけど…。さて、どうやって叢雲ちゃんに伝えるかが問題ね。直接叢雲ちゃんに言ったら、初霜が攻撃される可能性もあるし…。そうだわ!

 

「初雪ちゃん、この料理美味しいわね。初霜も感動したわ。初霜は毎日大和さんに連れられて鳳翔さんのお店に行っているから、流石にそれと比べてしまっては駄目だけど、こんな簡単な作り方で、これだけの味が作れるなんて凄いわ。」

 

「初霜…ありがと。それと、鳳翔さんの料理と比べたら駄目。あっちはプロで、こっちはアマチュア、勝てる訳がない…うん。なるべく手間をかけずに、それなりの美味しさにするのが大事…うん、間違いない。」

 

そうね、初雪ちゃんの言う通りだわ。なるべく手をかけずに、美味しく作れる事が重要なのよ。後は、初霜の想定どおりに叢雲ちゃんが気づいてくれれば良いのだけれど。…あっ、薬が効き過ぎた感じが…。

 

「ちょ…ちょっと、初雪!あんた手を抜いた料理を私に教えたわねっ!ちゃんと、鳳翔さんの料理に勝てる料理を私に教えなさいよ!そうしないと、あいつに食べさせても、感動して私の方を向いてくれないじゃないっ!」

 

「えっ…そ…それは無理。これ以上面倒は嫌…。叢雲、苦しい…離して。つ…次は本気出すから。」

 

…叢雲ちゃん、本音がダダ漏れだわ。初春ちゃんも深雪ちゃんも、ドン引きよ…。それに初雪ちゃんを締め上げているけど、流石にそれは無理だと思うの。初霜は毎日のように鳳翔さんの店でご飯を食べているから、あれに勝てる料理はそう簡単に出来ない事はよく分かるわ。初雪ちゃんも今日は災難ね。結局、また叢雲ちゃんに料理を教える事を約束させられているわ。それじゃ、初霜はこれ以上捕まらない内に、ソーッとこの場を離れましょう。

 

「初霜…待つ。早く私を…助けて。叢雲、今日はもう料理教室はお終い。次回開催する時はまた呼ぶから、今日はお終い。」

 

初雪ちゃん…そんなすがるような顔で初霜を見ないでちょうだい。今日はもう何度か同じような視線を初霜に向けて来たから、十分助けたと思うわ。…仕方ないわね。初雪ちゃんも凄く困っているようだし、ここはポイントを稼ぐためにも、初霜が一肌脱ごうかしら。それにしても、初雪ちゃんは『もう二度と料理教室は開かない』と思っているに違いないわね。

 

「叢雲ちゃん、あまり初雪ちゃんを苛めたら駄目よ?それに今日は、色々あったにせよ、普段食べられる美味しい料理の作り方を教えてくれたのだから、初雪ちゃんに感謝しないといけないわ。それと…料理を勉強したいなら、初霜の伝手で、軽巡洋艦で料理が得意な阿武隈さんを紹介してあげるわ。だから初雪ちゃんを離してあげて。」

 

「…ま、まぁ、別に私は料理なんて本当はどうでもいいんだけど、初霜がそこまで言うなら、阿武隈さんを紹介してもらってもいいわっ!…で、いつ紹介してくれるの!?」

 

「初霜、感謝する…。今日は本当にひどい目に合った…早く部屋に戻りたい…。」

 

…なんとか初雪ちゃんも叢雲ちゃんから解放されたようね。…また仕事が増えてしまったけれど、ここは世話好きな初霜のイメージ維持のためにも、阿武隈さんにお願いに行かないと。一水戦旗艦の阿武隈さんは料理が得意だし、先の大戦で一緒に戦った初霜が頼めば、これくらいのお願いなら引き受けてくれると思うの。初雪ちゃん、一応初霜に感謝してくれているみたいだけど…今回は一つ貸しよ。




ここ最近、連続で出張が入っており思うように物語も書けなくなってしまいました。来週も北に南に飛び回る事になっていますし…もう勘弁して欲しい…部屋に帰りたい…初雪さんの心情が非常によく分かる今日この頃ですw。このように出張が連続しますと、当然の事ながら外食も増えるわけでして…時々帰宅した時は、今回の物語で書いたような、シンプルな物が食べたくなるんですよね。

ホイル蒸しは、後片付けが楽な事から(ここが重要w)うちの家内も好きな料理のようですし、今度作ってもらおうかな…と考えていたりします。ホイル蒸しの中身、今回は一般的な鱈やキノコ類、野菜としましたが、勿論様々な物が合います。魚の部分を鮭にしても美味しいですし、葱などを入れてもOK。味付けも昆布を入れたり、ポン酢を使っても良しと、万能な料理だったりします。外食時ですと、牛肉が入ったり雲丹が入る様な豪華版もありますが、個人的には鱈のようなあっさりしたホイル蒸しが好きですね…。

駆逐艦の料理の先生…誰にしようかとちょっと迷いました。磯風はまだ赴任していませんから、磯風先生の危険な香り漂う料理教室…とは行きませんし、今回は料理が決まっていましたから、ここは面倒くさがり屋の初雪か望月か?と考えた結果、作者の好みで初雪に決定w。ついでに同部屋の深雪といつもの面子を付け加えたところ、可もなく不可もない組み合わせが完成しました。しかし、この四人だと初霜臭が強くなりそうだな…と自重した結果…爆弾を投下する事になり、えらい目にあったというのが今回の話しの誕生話だったりします。

叢雲さん、個人的に良いキャラ過ぎて(性格が良いのではなく、物語を動かしてくれるキャラという意味で)、勝手に暴走してしまうんですよね…。最後は初霜とぶつけて中和しましたが、ここまで大変な事になるとは思ってもいませんでした。艦これの駆逐艦娘、結構キャラが立っている子が多いので、書いていて楽しいのですが、毎回苦労していたりします(鳳翔さんと絡める時は今回以上に)。

さて、いよいよ秋本番となり、食べ物が美味しい季節になってきましたが、次の話、どんな料理で書こうかな…と逆に非常に迷っていたりします。流石に『大鳳と焼き芋』という訳には行きませんしw、秋刀魚ネタも公式になってしまいましたからね…。

今回も読んでいただきありがとうございました。



鱈のホイル蒸し(一人分)

鱈      一切れ(切り身)
舞茸     1/4パックくらい
エノキ    1/4パック
キャベツ   2枚
玉ねぎ    1/4個
バター    4-5 g
日本酒    20 mL
つゆの素   10 mL
叢雲の愛   一欠片(隠し味)

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