鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回のメニューは秋の味覚の一つ、栗御飯としました。そして主役となる艦娘ですが、秘書艦とは違いますが任務娘として昔からお馴染みの大淀さんにしてみました。個人的には大淀さんは結構お気に入りの艦娘でして…やはり食事が美味しい秋に登場させないと…という事で今回登場してもらうことに…。


第六七話 大淀と栗御飯

「鳳翔さん、この間の栗はどうだった?今日も栗が大量に入荷してるけど、買っていくかい?」

 

「あら八百屋さん。先日はどうもありがとうございます。おかげで艦娘達に美味しい栗の茶巾絞りを食べさせる事が出来ました。…そうですね、今回も栗をいただきましょうかね…。」

 

「流石鳳翔さん。そうこなくっちゃ。それで…今日はどれくらい買っていくんだい?また栗の茶巾絞りを作るとなると、それなりの量がいると思うんだが…。」

 

そうですね…先日は矢矧さんを始めとした天一号組に食べさせる栗の茶巾絞りを作るため、八百屋さんには大変お世話になりました。今日も栗が入荷しているようですが、流石に続けて栗の茶巾絞りというわけにはいきませんし…何か違う料理を考えた方が良さそうですね。栗を使ったお菓子ですと、栗かのこや、栗きんとんという選択肢もありますが、折角の旬の食材ですから料理にも使ってみたいですね。…そうですね、栗御飯というのも良いかもしれません。

 

以前、芋御飯を作ったときは、多くの艦娘達が喜びましたし、作った芋御飯もあっという間になくなってしまった経験があります。芋御飯で喜んでもらえた訳ですから、栗御飯でも喜んでくれそうですね。栗御飯を作るとなりますと、御飯の中にある程度の量の栗がゴロゴロしていた方が良さそうですし…折角ですから今日この八百屋さんに置いてある栗は全部いただく事にしましょう。

 

「そうですね八百屋さん。栗の茶巾絞りは先日作ったばかりですから、今日は栗御飯を作ろうかと…。ですから、そこにある栗は全部いただけますか?」

 

「おっ、流石は鳳翔さん。話が分かるからこっちも遣り易いぜ。そういう事なら、こっちも値段の方で少し勉強させてもらうぜ。」

 

「まぁ、いつもありがとうございます。今後もよろしくお願いしますね。」

 

どうも上手に八百屋さんに乗せられてしまった感もありますが、この八百屋さんにはいつもお世話になっていますし、今日に限らずいつもおまけをしてもらったりもしています。まぁ、これだけの栗があったとしても栗御飯にするのでしたら今日中になくなるでしょうし、問題なさそうですね。それでは早速この栗を使って、今日は美味しい栗御飯を作らせてもらいましょうか。

 

 

 

小料理屋『鳳翔』  鳳翔

 

 

「鳳翔さん、今日も来たよ~。赤城先輩は今日は出撃中だから、今日の手伝いは瑞鶴だけだから。」

 

「瑞鶴さん。今日はちょっと面倒な作業がありますから、しっかり頑張ってくださいね。」

 

「え~っ、最近瑞鶴だけが手伝いの時に限って、大変な作業が多い感じがするんだよね~。」

 

えっと…瑞鶴さんが少し不満を口にしていますが、それ程大変な作業を任せていたでしょうか…。それに赤城さんは今日は任務として出撃している訳ですし…私も瑞鶴さんをこき使おうとして大変な作業をお願いしているわけでは…。

 

「瑞鶴さん?別にそのようなつもりはないのですが…たまたまそういう日が続いているだけではないでしょうか…。」

 

「あっ、その…別に鳳翔さんに文句があるわけではないんだけどさ。いつも美味しい賄い食食べさせてもらっているし。ま、そんな事はここまでにして、今日は何すればいいの?」

 

どうやら瑞鶴さんも少し機嫌を直してくれたようですね。今日は栗御飯を作るわけですから、栗の皮を剥くという大変な作業が待っています。これは…今日の瑞鶴さんの賄い食は少し奮発してあげないといけませんね。

 

「瑞鶴さん、今日は栗御飯を作ろうと思いまして…。たくさん栗を購入してきたのです。ですから…これを剥く作業、一緒に頑張ってもらいますよ。」

 

「はぁ~い…。これ…凄い量だよね…。鳳翔さん、賄い食期待してるから…。」

 

さて、それでは条件付ではありますが、瑞鶴さんも納得してくれたようですから、急いで栗御飯の準備をしてしまいましょう。まずは栗を少し茹でる事によって、柔らかくして皮を剥きやすくします。しかしあまり長く栗を茹ですぎますと、栗の実が柔らかくなりすぎてしまいますので、2-3分だけ茹でるといったところでしょうか。

 

 

そろそろ鍋から上げても大丈夫ですね。それではまだ少し熱いですが、急いで栗の皮を剥いてしまいましょう。

 

「瑞鶴さん、ここからはかなり大変な作業になりますが、ここできちんと皮を剥かなければ美味しい栗御飯は出来ません。一緒に頑張ってくださいね。それと、鬼皮だけではなく、渋皮の方もちゃんと剥いてくださいね。」

 

「はぁ~い、瑞鶴了解~。…頑張って一気にやっちゃうから、鳳翔さん任せて。」

 

 

はぁ…結構大変でしたが、ようやく栗の皮を剥き終えましたね。それにしても…ボールに山の様に積みあがった栗の実、この姿は壮観ですね。後はこの栗の実と御飯を一緒に炊くだけなのですが…。瑞鶴さん、隠れてつまみ食いをしようとしても、私から丸見えですよ…。まったく…まだ栗にそれ程火が入っていませんから、今つまみ食いをしても美味しくないと思うのですが…。…あぁ、やっぱりそうですね。瑞鶴さんは少しだけ齧って後悔しているようです。そんなところでつまみ食いをしなくても、ちゃんと栗御飯は食べさせますから、もう少しだけ我慢して欲しいものですね…。

 

そして今回の栗御飯ですが、剥き終わった栗と普通のお米、そしてモチッとした食感を楽しむためにモチ米も一緒に炊こうと思います。まずはお米とモチ米を急いでといでしまい、しばらく水に漬けて米にしっかり水分を吸わせましょう。…そうですね、一時間程このままにしておけば良いでしょうね。

 

 

それでは、そろそろ米が十分に水を吸い込んだと思いますので、ここに調味料として日本酒と塩を入れます。そして旨味が出るように、昆布も一枚入れて、通常よりも少し多めの水をお米と一緒にお釜に入れます。そして剥き終わった栗を入れたら、蓋をしていつも通りにお米を炊いてしまいましょう。

 

 

「鳳翔さん、そろそろいいよね?後は火を消して蒸らしておけば大丈夫だよね?」

 

…そろそろ大丈夫ですね。流石に瑞鶴さんも最近いつも私のお店でお釜でお米を炊いていますから、もう慣れたようで丁度良いタイミングで火を消しました。おそらくこの様子では、ほんの少しだけお釜の表面にお焦げが出来た、丁度良い栗御飯になっていると思います。後は開店まで蓋をしたまま蒸らしておけば、美味しい栗御飯を皆さんに出して上げる事が出来ると思います。頑張って栗の皮も剥きましたし…皆さん楽しんでくれると良いですね。

 

 

今日の営業ももう少しで終わりですね。今日も多くの艦娘の皆さんが私のお店にやってきてくれましたし、栗御飯についても喜んでもらえたようです。あと少しだけ栗御飯は余っていますが、これはそのまま家に持ち帰ってあの人に食べさせてあげても良さそうです。既にいつもの閉店時間を過ぎていますから、お手伝いに来ていた瑞鶴さんも帰りましたし、後は少し今日は深酒をしている長門さんと陸奥さんだけになりましたね。私もそろそろ暖簾をしまいましょうか。

 

ガラッ

 

あら?こんなに遅い時間に…あら、大淀さんですね。今日は珍しい子が最後にやってきました。大淀さんは、私がまだあの人の秘書艦を勤めていた頃から、鎮守府の事務業務を一手に引き受けていた非常に事務処理能力の高い艦娘です。流石に最近は、大淀さん一人では事務作業が追いつかない程に鎮守府の規模が大きくなってしまいましたので、大淀さんの下に主計科が編成され数多くの士官さん達が働いているようです。あの人に言わせると『大淀がくしゃみをすると、鎮守府が肺炎になる』との事で、現在の秘書艦をしている金剛さんと同じように重要なポジションに居るのですが…。今日は心底疲れきったような表情ですね。最近私のお店で大淀さんを見かけていなかったのですが、余程激務が続いていたのでしょうね。

 

「大淀さん、お久しぶりです。なんだか疲れきった様な表情ですが…大丈夫ですか?」

 

「…鳳翔さん。大淀、もうクタクタです。これから夕食を作るのは無理ですから、何か食べさせてもらいたいような…。」

 

これは相当疲れが貯まっている様子ですね。大淀さんは、入店と同時にカウンター席に崩れるように座りました。近くでまだお酒を飲んでいた長門さんや陸奥さんも、少し心配そうな顔で大淀さんを見ていますが、これは私も心配になってしまいます。たしかにこれだけ疲れているとなると、今から軽巡寮に戻って夕食を作って食べる…というのは大変そうですね。これは少しでも元気が出るように、夕食を急いで準備しなくてはいけません。

 

「大淀さん大丈夫ですよ。急いで食べられる物を準備しますから、少しだけ待ってくださいね。それと…今日は特別に栗御飯も作っていますから、これを食べて少しでも元気を出してください。」

 

「鳳翔さん、ありがとうございます。助かりました…。」

 

 

 

大淀

 

 

ここ最近、事務量が激増して大変な日々を送っていました。たしかに鳳翔さんが秘書艦をしていた頃と違って鎮守府も大きくなりましたから、その分事務処理も大変になる事は分かっています。しかしこれについては、提督が大淀の元に主計科を編成して、多くの士官さん達を配属してくれましたから、十分業務を遂行出来る体制になっていました。しかしここ数日、秘書艦の金剛さんからの連絡で、海軍省に提出する書類作りに追われて…。書類の内容を考えれば、提督のために頑張らなくてはいけない…というのは大淀も分かっていますが、これは流石に超過勤務のような…。今目の前に居る鳳翔さんが秘書艦をしていた、あののんびりした時代が懐かしく思えますね。

 

この時間では鎮守府食堂も閉まっていますから、自炊をせざるを得ないと思いつつ、疲れきっていましたから夕食抜きも覚悟を決めていた大淀ですが、まだ鳳翔さんのお店が開いていましたので、思い切って入ってみました。いつもであれば、大淀が寮に戻る時間には鳳翔さんのお店の暖簾はしまわれていますので、来店機会がこれまでほとんど無かったのですが、今日は運が良かったようですね。

 

「大淀さん、残り物しかありませんが、どうぞ食べて行って下さい。お酒も少し飲みますか?」

 

やっぱり鳳翔さんのお店は良いですね…。大淀は久しぶりに来店しましたが、以前に来店した時と変わらず、この時間でも美味しそうな料理がズラッと並びました。鳳翔さんは残り物と言っていましたが、それでも御飯やお味噌汁、漬物だけではなく、煮魚や野菜の煮物など、様々な料理が並んでいます。それにこの御飯…美味しそうな栗がゴロゴロ入っていて、とても美味しそうですね。お酒…折角ですから飲みたいような…明日を考えると飲まない方が良いような…。いいえ今日は久しぶりに少し飲みましょう。

 

「鳳翔さん、ありがとうございます。そうですね…折角ですから一杯だけお酒も出してもらえませんか?…男山の北の稲穂があったら、それをお願いします。」

 

一杯しか飲みませんし、こういう疲れた日には、キレのある辛口の日本酒が良いですね。たしか以前このお店に来た時に、このお酒を飲ませてもらいましたので、今日も一緒のお酒を頼もうと思います。さて、それでは早速夕食をご馳走になりましょうか。まずは…やはり鳳翔さんが最初に言っていた『今日特別に作った栗御飯』からいただきましょう。これだけ栗がゴロゴロ入っていると、見ごたえもありますね。お茶碗を口に近づけると、栗の少し甘い香りが大淀の鼻にスーッと入ってきます。これは本当に食欲を呼び覚ます香りですね。少しだけ目をつぶって、この香りだけを楽しみたいところです。

 

あらっ、御飯も普通の御飯ではありませんね。たぶん、もち米が混じっているのだと思いますが、普通の御飯の歯応えよりもモチッとした、おこわのような歯応えのある御飯ですし、御飯その物にも少しだけ塩味が利いたような、薄い味が入っています。なんといいますか、旨味が増えているような…。この御飯の部分だけでも十分に楽しめる一品ですが、やはり栗御飯と言うのは栗を食べてこその御飯。大淀、全力出撃、さぁ参りましょう。

 

あぁ…いいですね。栗のホクッとした歯応え、そしてかみ締める度に湧き出てくるほんのりとした甘み。これが御飯に混じっている僅かな塩味と旨味と合わさると、更に栗の甘さが引き立ちます。今は栗の旬ですから、栗そのものが美味しいという事は大淀も十分理解していますが、それでもこの料理の素晴らしさは…。このような美味しい料理を食べる事が出来ると、大淀の疲れも一気に消え去るような感じですね。これで明日からも頑張れそうです。

 

あっ、やられました…。あまりの美味しさに御飯だけを食べてしまい…おかずやお味噌汁が完全に残った状態で、栗御飯だけが無くなってしまいました。大淀…計算違いです…。どうしましょうか…。勿論、鳳翔さんのお店の料理ですから、御飯なしでもお酒だけで十分に美味しく食べられるとは思いますが、やはり御飯が…この美味しい栗御飯をもう一杯食べたいところです。

 

「大淀さん、もう少しだけ栗御飯余っていますから、おかわりどうですか?」

 

地獄に仏とはまさにこの事ですね。大淀のしくじった…という顔を見て、全てを理解した鳳翔さんが、大淀に栗御飯のお代わりを出してくれました。鳳翔さんは、栗御飯の残りを全て大淀のお椀に入れてくれたようですから、これが正真正銘最後の栗御飯。大淀、今度は失敗しません。

 

 

 

鳳翔

 

 

どうやら、今日は栗御飯をあの人に持って帰れなさそうですね。とはいえ、あの人の仕事を縁の下の力持ちとして支えている大淀さんを労うためですから、あの人も許してくれると思います。大淀さんも、今度は栗御飯だけを食べずに、おかずやお味噌汁も含めて食べています。少しだけ元気になったように見えるのは、私の気のせいでしょうか。

 

「大淀、酒もスッと飲んでしまったようだし、少し元気になったようだな。お前の仕事は私達では手伝えないような、特殊な仕事だから頑張ってくれよ。」

 

「そうね。でもあまり無理しないでね。ところで、最近あなたもえらく忙しそうだけれど、また何か大きな作戦が計画されているの?」

 

最後まで私のお店に残っていた長門さんと陸奥さんも大淀さんの事を心配していたようですね。そしてその大淀さんが、御飯を食べて少し元気になった姿を見て、大淀さんに話しかけました。それと…最近大淀さんが忙しいのは、やはり何か大きな作戦が近々発動されるという事のようですね…。あの人も最近は、帰宅しても難しい顔をして考え込んでいるようですから、おそらく私の予想は当たっていると思います。

 

「ありがとうございます、長門さん陸奥さん。大淀からはあまり大きな声では言えませんが…近々大きな作戦が発動されるかと…。金剛さん経由で、提督の指示がここ最近立て込んでいまして…。ですが、今日は本当に良い息抜きになりました。鳳翔さん、本当にありがとうございました。」

 

やはりそうですか…。最近、金剛さんも私のお店に邪魔をしに来ないですから、あちらも忙しい日々を送っているのでしょうね。今回はどのような作戦になるのかは分かりませんが、作戦に参加する艦娘の士気を高めるためにも、私も頑張らなくてはいけませんね。この鎮守府の事務部門を取り仕切っている大淀さんは、これから更に忙しくなるとは思いますが、あの人のためにもどうぞよろしくお願いします。

 




実は丁度今、仕事で北海道の中央部に近い旭川に来ています。そして先日、旭川近くの男山酒造の北の稲穂というお酒を飲ませてもらいまして…非常にすっきりした辛口に感動しました。値段はそれ程高い酒ではないのですが、この味は本当に良いですね。ということで、この感動を忘れない内にお話に反映させてみましたw。

この時期の栗、どのように食べても美味しいのですが、やはり栗御飯を外してはいけないわけでして…今回のメニューは栗御飯にしてみました。もち米を入れる事で、おこわのような食感も楽しめますし、米を炊くときに昆布などを入れる事で旨味を増やしたり…と、ちょっとした工夫で本当に美味しくなるんですよね。個人的には、この時期には絶対に外したくない料理の一つだったりします。

さて、そろそろ秋のイベントも近づいてきましたね。運営電文から推測すると、コロンバンガラ沖海戦を中心とした輸送作戦という事ですから、神通さん&寄せ集め二水戦の舞台かな…と思っています。我が鎮守府の水雷戦隊、史実の第二水雷戦隊はどの時代の二水戦でもそれなりのレベルがありますから、たぶん大丈夫ではないかと…と慢心しているわけですが、大体最初の予想は外されるんですよね^^;。まぁ今回のイベントも、自分の仕事の予定とにらめっこしながら、なんとかクリアーを目指したいと思っています。皆さん、お互いに頑張りましょう。

今回も読んでいただきありがとうございました。




栗御飯(ちょっと多めの四人分)

栗  :500gくらい
お米 :3合
餅米 :1合
塩  :10 g
日本酒:30 mL
昆布 :1枚(乾燥昆布)

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