鎮守府の片隅で   作:ariel

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土用丑の日の話を月曜日に投稿していましたので今日投稿していますが、今回の話は土用丑の日の翌々日の話という形で読んでいただけたらと思います。

蟹美味しくていいですよね・・・高いけど・・・。また、前回のあとがきで書きましたように、今回の話を正規空母の激励会にしてしまいますと、五航戦終了ルートになってしまいそうなので、生存ルートにするためにも今回の話を入れています。


第七話 青葉と茹で蟹

「ども~、恐縮です、鳳翔さん。それで・・・本当の所は、どうなんですか?鳳翔さん。そこが、私も是非知りたい所なのですが!一言だけでもいいので、お願いしますよ~。」

 

・・・一体どうしてこんな事になったのでしょうか。昨日ちょっと臨時休業をして、今日お店を開店したのと同時に、鎮守府のパパラッ・・・ではなく、青葉新聞の記者さんでもある重巡の青葉さんがお店に押しかけてきました。なんでも、土用丑の日の騒動を聞きつけたらしく、それと絡めて私のお店が昨日臨時休業した事、そして昨日はあの人が急遽半ドンで鎮守府を午後から休んだ事・・・これらの事が、一部の艦娘の間で噂が噂を呼び、ついに青葉さんが直接取材に乗り出したという事らしいです。

 

「ですから、先程から何度も言っていますが、たまたまそのような事が重なっただけで、特に何かあった訳ではありませんよ。それに私も時には休みたい時がありますから・・・。」

 

「鳳翔さん!そうは言っても、うちの新聞の読者の艦娘達は、本当の所を知りたがっているんですよ!この鎮守府の影の支配者である鳳翔さんと提督がどちらも一緒にお休みするなんて、おかしいではないですか。それに、先日の出来事を勘案すれば、提督と鳳翔さんの間で・・・」

 

「『ピキッ』・・・影の支配者ですか?」

 

・・・あら?青葉さんも流石にご自分が失言したと理解してくれたようで、下を向いて黙りましたね・・・何故か知りませんが少し震えているようですが・・・。しかし、このままでは青葉さんの追求は終わらなさそうですね。別に本当の事を話しても良いのですが、一応私にもプライバシーという物があります。これは、早いところ青葉さんにはお引き取り願った方が良さそうです。私も痛くもない腹をこれ以上探られたくないですから。

 

「青葉さん?特に何も注文しないのでしたら、今日はお引き取りください。そろそろ他のお客さん達が来る頃ですから。」

 

「あっ、大丈夫です。青葉もお客さんとして来ていますから。という事で、あまり高い物は駄目ですけど、何でも良いので食べられる物お願いします。・・・これでお客さんですよね?それでは、鳳翔さんが料理している間に色々聞かせてもらいますが、まずは・・・」

 

・・・ふぅ。これはちょっとやそっとでは、帰ってくれなさそうですね。とりあえず何でもいいから料理を出せと言っていますが・・・少しでも青葉さんを黙らせられる料理・・・ちょっと考えた方が良さそうですね。・・・あっ・・・そうです。先日木曾さんが北方遠征で持って帰って来てくれたアレなら・・・。そろそろ使い切らないといけない為、解凍中のあれがありました。そう、花咲ガニです。

 

花咲ガニはこの時期に旬を迎える中型の蟹です。茹でると真っ赤になり、表面にトゲトゲがついているため、まるで花が咲いたように見えるのでこのような名前がついていますが、北海道でも特定の場所でしか捕れないため、かなり珍しい蟹です。これは木曾さんのお手柄ですね。一般的に蟹を食べ始めると、人は静かになると言います。この蟹であれば、私のお店でいつも出しているタラバガニよりもはるかに濃厚な味ですから、たとえパパラッチの青葉さんと言えども、食べている間は静かになるでしょう。

 

解凍は粗方終わっていますし、後は茹でるだけですから、大鍋でお湯を準備して・・・

 

「鳳翔さん!料理中ですけど、少し青葉の質問にも答えてくださいよ~。昨日は提督と一緒だったのでしょう?何処かにお出かけだったのですか?提督、今朝の出勤は少しいつもよりも遅かったですし、どこかで外泊ですか??」

 

「ですから、そういう個人的な質問は、私からは答えられません。それに、私や提督が外泊したとしても、鎮守府の活動に関係ないと思いますよ?」

 

まったく青葉さんには困ったものです。さて気を取り直して・・・お湯に塩を入れるのですが、この濃度が蟹を茹でる時は重要です。海水より少しだけ濃い目の塩分・・・絶妙なさじ加減が必要ですが、味見をしながら慎重に塩味を調整します。大丈夫ですね。後は、蟹の背中を下にして茹でるだけですが、全体がきちんと茹でられるように、今回は落し蓋をしておきます。さて、ここから20分程茹でるわけですが・・・この20分が青葉さんとの勝負になりそうですね。

 

「いいえ、鳳翔さん。この件は、鎮守府に影響が出ているのですよ!」

 

「えっ?そうなのですか?」

 

私と提督が外泊をすると何故鎮守府に影響が出るのでしょう・・・。現在は大作戦の発動前のため、資材貯蓄期間に入っているこの鎮守府では、潜水艦隊の資源回収作戦や駆逐艦主体の遠征任務がほとんどです。提督が半日休んだくらいで影響が出るとは思えないのですが・・・。

 

「赤城さんに影響が出ているのですよ、鳳翔さん。昨日、鳳翔さんのお店が臨時休業になりましたが、その臨時休業の紙が貼られたお店の前で、赤城さんが呆然としていたのが目撃されています。それに今日の演習で、赤城さんはボーッとしていたようで大破判定を受けたそうです。演習とはいえ、これ大問題ですよね?この原因は、間違いなく鳳翔さんのお店が休みだった事ですよ。ですから、この件は鎮守府に大きな影響が出ていると言って過言ではありません。ですから、是非本当のところを!」

 

あっ・・・赤城さんに臨時休業にする事を言い忘れていました。最近時間があったため、赤城さんは連日のように私のお店でお手伝いをしており、その結果毎日のように私のお店の賄い食を食べていました。おそらく、昨日も賄い食を当てにしていて・・・あぁ、申し訳ないことをしてしまいましたね。

 

「あっ!鳳翔さん、心辺りがありましたね!さぁ、ここは正直に全部話してくださいよ!さぁ、さぁ!」

 

あぁ・・・どうしましょう。青葉さんが勢いづいてしまいました。しかし、蟹が茹で上がるまでもう少し時間が・・・困りました。

 

「青葉、うるさい。『フンッ』・・・よし、いっちょあがり~」・・・バサッ

 

あら?青葉さんの首元に、いつのまにか来店していた加古さんの一撃が決まり、青葉さんノックダウンです。青葉さんには悪いのですが、おかげで助かりました。

 

「鳳翔さん、青葉を黙らせるんだったら、私に言ってくれれば、いつでも加古スペシャルで黙らせるから。・・・で、その蟹、私も食べたいんだけど。」

 

なる程、加古さんのお目当ては蟹でしたか。まぁ、助けてもらったわけですから、急いでもう一匹茹でてしまいましょう。その頃には、青葉さんも復活するでしょうし・・・。

 

 

「あら、青葉さん起きましたか?お料理出来ていますよ。お友達の加古さんも来ていますし、折角なので一緒にどうですか?」

 

「あれ?・・・あれ??青葉、どうしたんでしょうかねぇ・・・。お・・・おぉ、これは美味しそうな蟹ではないですか!きょーしゅくです!」

 

「あ、青葉起きたか?・・・先に・・・ホジホジ・・・いただいてるぜ・・・モグモグ」

 

どうやら、まだ少し青葉さんはボーッとしているようですが、今のうちに蟹を出してしまって、質問をしていた事を思い出す前に、蟹を食べてもらいましょう。少し小ぶりの花咲蟹とはいえ、殻から身をホジッたり、殻を開けたりしている間は、何もしゃべらない筈ですから、しばらくは静かになる事を期待しています。

 

「青葉、それでは早速蟹の分解に入ります!お・・・おぉ?これは、外子がしっかりついていますね。まずここから味見をしなくてはいけません!前かけをまずは取り外して・・・おぉ!外子で一杯です。これは食べがいが・・・おぉ!プチプチした食感が最高です!さぁ、続いて内子に行きましょう。甲羅をはがして・・・出てきました、出てきましたよ、内子が。・・・ウ~ン、これは濃厚です!蟹味噌の味が染み込んで非常に濃厚な味が・・・。」

 

・・・普通の人は蟹を食べる時は静かになると思っていたのですが・・・青葉さんは例外のようです。一人で実況を始めてしまいました。まぁ、これについては少しうるさいだけで、誰にも大きな迷惑はかけていないですから、良いのですが・・・隣の加古さんは、少し迷惑そうですね。・・・あら?急に黙りましたね。・・・あぁ、蟹の身を殻からほじり出すのに専念し始めたようです。ようやく静かになりました。

 

 

 

重巡洋艦『青葉』

 

 

気付いたら蟹が盛られた皿が目の前に置かれていました。意識が飛ぶ前に何かあったと思うのですが、思い出せません・・・。とはいえ、目の前に蟹の置かれた皿があるという事は、たぶん私が頼んだのでしょう。あれ??気づくと友達の加古も蟹と格闘中です。加古と一緒に蟹を食べに来た??ま、食べている間に思い出すでしょう。まずは目の前の蟹です!

 

たしか、蟹の旬ってこの時期ではなかったような・・・ですが、あの鳳翔さんのお店で出た食べ物でハズレはありません。たぶん何か理由があるのでしょう。まずは、甲羅を裏返して・・・前かけを取り外して・・・お!おぉぉぉ!外子が一杯ついています。外子のプチプチした食感、青葉これ大好きなんですよね。ですが、外子がこれだけついているという事は・・・内子も期待出来そうです。あの蟹味噌のなんとも言えない甘さと混じった濃厚な味の内子・・・これを急いで確認しなければいけません。甲羅を急いではがして・・・おぉぉぉ、出てきました、出てきましたよ、内子が。・・・これは濃厚な・・・素晴らしい味です!よく見てみるとこの形の蟹、青葉初めてです。たぶん、今が旬の蟹なんでしょうね。流石は鳳翔さんのお店。これは明日の青葉新聞に記事を載せなければいけません!だとしたら、まずはこの蟹を堪能して隅々まで味を確認する必要があります・・・これは・・・ゴクッ、取材活動です。

 

次、いよいよ蟹の身です。蟹の身、特に足の部分は慎重に慎重を期して取り出さなければいけません。途中で蟹の身がちぎれてしまいますと、殻から全ての蟹の身をホジッて取り出さなければいけませんし、あの蟹の身の塊を一気に食べることこそが正義なのです!ん?んん?隣では加古が一生懸命足の部分からカニの身をホジり出していますね。どうやら、取り出す事に失敗して途中でちぎれたようです・・・ざまぁ!大体、あの大雑把な加古がこんな作業に成功するはずがないのです。ですが、この青葉は・・・さぁ、行きますよ・・・。

 

ググググ・・・プチッ・・・あ・・・あぁぁぁぁ・・・途中でちぎれました・・・この青葉とした事が・・・。ん?加古がこちらを見てニヤッと笑っています。何故か知りませんが無性に腹が立ってきました。まずはちぎれてしまいましたが、この蟹の身を食べて・・・おぉぉぉ、これは身がしまっていてとても甘くて美味しいです。噛むごとに蟹の濃厚なエキスが・・・こんな蟹青葉はこれまで食べたことがありません。これは是が非でも大きな塊で取り出さなければ・・・。いえ、まずは加古の態度に覚えた怒りを鎮めるためにも、残りの蟹の身を殻からホジって食べて冷静になりましょう。焦りは禁物。足はまだ7本もありますからね。あぁぁ・・・いいですね。殻からほじくり返していますから、少しずつしか食べられませんが、少しずつでも蟹の甘味が十二分に楽しめます。

 

・・・よしっ・・・青葉落ち着け・・・落ち着け・・・二回目のトライです。次こそは、全ての蟹の身を足から一気に取り出しますよ。ググググ・・・グググ・・・スポッ。!!キ・・・キター!青葉やりました!完全な形で蟹の身を足の殻から取り出す事に成功です。とりあえず隣の加古は・・・プッ、凄く悔しそうな顔をしてこちらを睨んでいます。溜飲が下がりました。さて、とりあえず加古に一度この大きな蟹の身を見せつけてから、一気に口の中に入れますよ。さっきのちぎれた蟹の身でも、あれだけの甘さと濃厚な蟹のエキスが口の中に広がったのですから、この大きな蟹の身なら、どれだけの感動が得られる事か・・・

 

「お!青葉、それ加古にくれるんだね、ありがとな! ・・・パクッ」

 

???青葉の蟹の身が視界から突然消えました・・・。私の視線の先には、加古が満面の笑で・・・そ・・・そんな・・・。加古ぉぉぉぉ・・・絶対に許せません。青葉の絶対許せない人リストのトップに加古の名前が刻み込まれました。鳳翔さんが目の前に居なかったら、加古に掴みかかっているところですが、ここは鳳翔さんのお店・・・暴れたらしばらく出入り禁止になってしまいます。とりあえず加古の皿から、一番大きな蟹の足を取り上げて・・・。さぁ、もう一度挑戦ですよ。

 

あれ?私、何のためにこのお店に来ていたんですかね?まぁ、いいでしょう。今日はこの美味しい蟹を食べて、明日からまた取材を頑張りましょう!

 

 

 

鳳翔

 

 

どうやら、青葉さんは蟹に専念しているようですね。加古さんが青葉さんの蟹を食べてしまった時は少し緊張が走りましたが、特に問題なく解決したようです。これだけ蟹と格闘していれば、青葉さんも最初の目的を完全に忘れてしまうでしょう。まずは一安心と言った・・・。

 

「鳳翔さん!赤城、昨日はお店が臨時休業で絶望しました!今日はいつもの倍の賄い食をお願いします!あっ!その蟹が今日の赤城の賄い食ですね!さすがに気分が高揚・・・(ポカッ)」

 

「鳳翔さん、その蟹『三つ』注文します。赤城さん、あなたはしっかり働いてツケを早く返す事ね。」

 

今日も赤城さんをはじめ、一航戦と二航戦の四人が来店です。加賀さんは相変わらずですし、赤城さんも相変わらずですね。何故か知りませんが、加賀さんが少し嬉しそうな顔をしていますが、何か良い事でもあったのでしょうか。昨日の臨時休業で、赤城さんは結局お腹を空かせた状態で寝たようですし・・・今日くらいは、賄い食を奮発しましょうか。いずれにせよ、あっという間に、残っていた蟹がなくなってしまいそうですが、また木曾さんにお願いして持って帰ってきてもらいましょう。

 

私も今日は気分が良いですし・・・今日も鎮守府は平和です。

 

 

 

 

真相

土用丑の日 閉店後  提督宅

 

 

「あなた、只今戻りました。鰻の蒲焼を持ち帰りましたので、よろしかったら少しいかがですか?」

 

・・・・・

 

「分かりました、すぐにお酒も準備しますね。」

 

 

 

・・・・・

 

「あら、喜んでもらえて嬉しいです。鎮守府の他の艦娘達も、とても喜んでいましたので、私も頑張って練習した甲斐がありました。・・・ところで、今日金剛さん達も私のお店に来店したのですが・・・。あなた?また若い子にちょっかいをかけているようですね。『なんとかと畳は新しい方が・・・』なんて言っていますけど、あまり火遊びが過ぎると・・・分かっていますね?それに、五航戦の子達はまだ純真で素直なお年頃ですから、冗談では済まなくなっても知りませんよ。」

 

・・・・・・

 

「えっ、そうだったのですか。それでは金剛さんの誤解だったのですね?・・・そうだったのですか。しかしあなた、練習の面倒を見たり、空母寮での生活の相談にのる事は良いですけど、周りから変な誤解をされる事もありますから、気をつけてくださいね。特に金剛さん辺りはあなたの行動をよく見ているのですから・・・はぁ・・・変な心配をして少し疲れてしまいました。」

 

・・・・・・

 

「いえ、許しません。そういえば、最近鎮守府の近くに評判の良い温泉宿があるそうですよ。今でしたら作戦直前であなたも少し時間があるでしょうから、明日は半ドンで私と一緒にその宿に行きませんか?私もお店は臨時休業しますから。」

 

・・・・・・

 

「あら、私もかつてはあなたの秘書艦でしたから、作戦直前は意外と空いている時間がある事を知っていますよ。それに・・・別にいいのですよ。あなたが一緒に行ってくれないのでしたら、私、今回の件は誤解したままで、今度五航戦隊の子達に意地悪をしてしまうかもしれませんねぇ・・・。ひょっとしたら、五航戦の二人が次の作戦に出られなくなってしまうかも・・・正規空母の1/3が作戦行動不能になってしまったら、あなたも困るのではないですか?」

 

・・・・・・

 

「えぇ、あなたも賛成してくれて良かったです。それでは、私が予約はしておきますから、明日の午後に一緒に行きましょうね。」

 

 

 




真相の部分の提督の言葉は、各自の想像で補完してくれたらと思いますw。一応、五航戦生存ルートになりました。

蟹・・・食べるのは面倒ですが、美味しくていいですね。私も普段はタラバ蟹しか食べていないですが、以前ちょっとした機会があり花咲蟹を食べることが出来ました。これ、春先から初夏にかけての蟹のようで、丁度この時期に美味しい蟹との事です。タラバ蟹よりは少し小ぶりなのですが、味はこちらの方が濃厚で個人的にはこちらの方が好きだな・・・と思いました。ただ・・・北海道でも道東の方でしか取れないようで、こちらではなかなか見かけ無いのが・・・。

蟹の食べ方色々ありますが、個人的には自分で殻から取り出さなくても食べられる食べ方が・・・w。いえ、茹で蟹や焼き蟹も美味しいから好きなのですが、私は殻から上手に取り出すのが苦手でして、大体の場合、今回の話の加古のように途中でちぎれてしまい、殻から頑張って残りを取り出すハメになります。まぁ、別にそれでも良いのですが、殻から蟹の身を取り出している時って、大体の場合は無口になりますよねw。ですから、間違っても接待では使えない料理だったりしますw。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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