東京喰種[滅]   作:スマート

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はい、スマートです、しばらく更新できずに申し訳ありませんでした。
すこし以前投稿した文章を読み直して修正、加筆修正を加えていたので時間がかかりました。
やはり、小説を書いていると、時系列やその辺りの矛盾が出てきてしまいます。
それらをなくす為に、これからも随時修正を加えていきますが、どうかご配慮ください。
ちなみに#002と#003を加筆した結果、あらたに話が増えてしまったことをお詫び申し上げます。



#011「珈琲」

 青く雲ひとつない海のような空模様が、どこまでも続いているかに思える晴天の景色、私はその暖かい太陽の日差しを受けて、ゆっくりとベッドから身体を起こしたのだった。

治安の比較的良い、20区にあるマンション。東京なら何処にでもあるごく普通のマンションの一室に私は一人で住み込んでいた。以前は弟と二人暮らしだったのだが、ほんの1年前に出て行ったきりまるきり消息がつかめない。

あの弟のことだから、きっとどこかで上手くやれているのだろうと思うがそれでも姉としては心配にならざるを得ないのだ。見知った親戚はもう弟しかいない、父は殺されたし、母も現在に至るまで消息さえわかっていない。だからこそ、私と弟は二人でこの暗い東京の闇を生き抜いてきたのだ。

ともに協力し合い、お互いに足りない力を補い合いながら戦ってきた。

だが、それも私がほんの少しの平凡を望んだ所為で、人間のような暮らしを望んだ所為で、弟は家を出て行ってしまった……

甘い奴だと思われたのかもしれない、心が弱いと思われたのかもしれない、いずれにしても私はともに戦い抜いてきた弟の気持ちを裏切ってしまったのだ。

朝、起きてすぐに窓の外を見れば、決まって思い出すことといえば、出て行った弟のこと、この広い東京のどこかにいるとは思うのだが、それがどこかは分からなかった。探してみようとは思った、思ったがもしそれで弟が見つかったとして、彼を裏切ってしまった私に対して、何を言われるのかが無性に怖くなってしまったのだ。

 

「いっつ……くそっ」

 目が覚めてからしばらくたってから遅れて鳴り響く、内臓が飛び出したウサギをデフォルメしたピンク色の目覚まし時計を止めてから、私は勢いよくベットから立ち上がった。

するとお腹に、電撃が走ったかのような鋭い痛みが来て、私はお腹を押さえて床にうずくまってしまう。あまりの自分のふがいなさに、床を叩こうとしてここがマンションだったことを思い出しかろうじて踏みとどまる。近所の人たちとの余計な争いごとはもうごめんだった。

あの思い出したくもない凄惨な一夜から、今日でざっと5日。光沢のある黒い虫のようなマスクを顔に貼り付け、同じく真っ黒なレインコートを着込んでいた男に傷を負わされてから、それだけの時間が経過していた。

私が喰種ということもあって、傷の治りは人間に比べ早いが、それも事故や人為的以外の要因によって付けられたものに限る。同じ喰種によって付けられた傷は、自分の中にある再生機能を低下させて、切り口の再生が未だに遅れていたのだ。

まだ私のお腹には何針も縫われた糸が入り、それを覆うように包帯でしっかりと締め付けている状態だった。無理をしたり少しでも息が上がる運動をすれば、傷口が開いてしまいかねないのだ。

何度か喰種とも戦ったこともある私だったが、ここまで傷の治りが遅いと何か毒でも盛られていたのかと勘ぐってしまう。もっとも喰種にはよほどの毒でない限り効きはしないのだが。

まあ、おおむねあの赫子に貫かれて切り開かれた傷や、食べられた内蔵の所為で再生に予想以上に負荷が掛かっていたのだろう。

「……はぁっ」

 

 ほんの少しでも自分の身体に付けられた傷に目が行くと、嫌でもあのときの光景を思い出して肩が震えてしまう。私は自分の体を腕で抱きしめて、再びベッドに突っ伏してしまった。

恐ろしい、男だった。マスクを被っていた所為であまり素顔を見る機会はなかったが、あの人を食ったような口調、語ること全てが自分の存在を揺さぶってきたのだ。

あの男は言った、私のことをこの世界に存在するすべての喰種を指して「悪」だと。自らが喰種であるに関わらず、それを言ってのける感性は私には分からなかったが、余程の事でもない限りああは、ならないだろう。男がどれだけ喰種という種に対して恨みを抱いているかが伝わってくるようだった。

多分だが、あの男は自分のことでさえ嫌っている。

私も、少なからず喰種という存在に対して、凄まじい悪感情を抱いている人間を数多く見てきていた。それを私は今まで、さして気にせず、人間はそういうものなのだと割り切って、「自分が生きるために仕方がない」とそんな人々の命を奪ってきた。安易な理由を定めて自身を肯定していたのが私なら、あの男は端から自分のことを否定しながら生きているのか。そこに自分との明確な違いがあり、きっとそれは本人でさえ気がついていないことなのだろう、闇がある。

それが私にはどうにも恐ろしかった。あの時に見せた、まさに蟋蟀のような姿もそうだ。

自分を含めた喰種を喰らい尽くすという意思がにじみ出んばかりの異形な、共食いをする昆虫を模した姿……赤黒く虫の外骨格にもにた赫子を鎧のようにまとう男。

あれはもう、化け物と言わずして何だというのだろうか。

治安の悪く喰種同士で争いあう13区に突如現れた超新星、そういう噂が5年前に流れたきり、「蟋蟀」の話はめっきりと聞かなくなっていた。だがそれは違ったのだ。

聞かなかったのではなく、もうあの男が13区において当たり前の存在になってしまったと言うだけのこと、珍しければ噂にもなるが在り来たりな光景ならば、話題にも上らない。

だからこそ、私は蟋蟀の恐ろしさについて失念してしまっていたのだろう。だから私は逃げることが遅れ、今こうして痛みを抱えている。

 

「……でも、男の言い分も正しいんだよな」

 まるきり間違いならば、私も否定することが出来ただろう、だが男の言葉は本当に鋭くいままで、自分を騙し騙し生きてきた私の心を勢いよく貫いたのだ。

 

 今日は休日、学校は休みなので芳村さんが営んでいる喫茶店でバイトをする日だ。芳村さんはしばらく身体を直すために来なくても良いと言ってくれていたが、流石に私が今日抜けてしまうと経営的に今日と明日は立ち行かなくなってしまう。新しくバイトを雇うという手も考えられるが、数日後には復帰できそうな私の代わりを入れたとしても、すぐに任期が終わりというわけには雇うほうも、雇われるほうもいかないだろう。

さっそく着ていた寝巻きを取り、肌を露出させると痛々しいまでの戦闘の痕跡が残っていた。

擦り傷や浅い切り傷は流石に治ってはいるが、首の付け根や、お腹に入った真一文字の傷は今も残り続け私の気分を鎮めていた。

少なくともしばらくの間は、学校で体育は出来ないだろう。勉強べたな私としては、喰種としての能力もあいまって、体育においては、かなり成績上位な方だったので、少し残念に思ってしまう。

頭部を思い切り打ち付けられたときに出来た顔の傷が、比較的見えなくなるくらいには直ったので、よしとしよう。頭に包帯を巻いて学校に行った日には学校中の質問の的になるに違いないのだから。

 

「4日も学校休んじゃったから、依子にはどやされるだろうけどね……」

 私の人間としての親友、いつも私のことを小食だと心配してくれる彼女は、きっと何も言わず私が学校を休んでしまったことを心配している、そして自分に何も教えてくれなかったことを起こっているはずだ……あの子は、とても優しくて良い友人なのだが、怒ったりするとなかなか口を利いてくれなかったりする。

いろいろな事を想像し、あまり良くはない未来像にますますブルーになりながらも、私は手短にTシャツとGパンに着替え、マンションを出たところで後ろから声をかけられたのだった。

「すいません、ちょっと良いですか?」

「…っ!?」

5日前にあんなことがあったからだろうか、私は急にかけられた声に対して敏感に反応してしまっていた。それに後ろから漂う気配からは、仄かに喰種の血の匂いが染み付いていたのだ。

肩を震わせてしまってから、しまったと後悔する。相手に不自然な動作を見せてしまったと。

この手の輩とは、出来ることならば戦うことは避けたいと思っていた。

「はい、なんですか?」

顔の強張りを無理やり治して、あまり違和感を感じさせないようにと努力しながら、声の主の下へ振り返ると、案の定……その人物は全身を真っ白に包み込む白衣を身にまといながら、右手に銀色のセラミックケースを持った出で立ちで立っていたのだ。胸ポケットに付けられたワッペン状の刺繍には、大きく「CCG」という文字が浮かんでいた。喰種を狩り、人間から喰種という脅威を打ち払うことを目的としている集団、俗に「白鳩」と呼ばれる、黒い長髪を後ろで結んだ髪型をした人間が、薄く微笑みながら、私の前に立ちはだかっていたのだった。

 

「ここに『あんていく』というお店はあるかしら?」

 

 瞬間、私の目の前は真っ暗になった。

 

 

 この長く黒い長髪を後ろで結んだ実に動きやすい格好をしている白衣の女は、一体何を言っているのだろうと、私の意識は一瞬別の事を考えていた。いわば、これが俗にいう現実逃避という奴なのかもしれない。本当に5日前に立て続いてこうも自分の身に不幸が降りかかってくるものだ。

先日の不幸ではある意味では身から出た錆、自業自得なのかもしれないが、今回は違う。私が喰種に生まれたのは私が望んだことではないので、ここで退治されてしまうとしても、わたしは「悪」…ではないと思いたい。

兎に角、今の現状としては、何故か私の目の前にCCGの捜査官が立っている、という非常に不可解な問題について解決しなければならない。まずは、私の聞き間違いかもしれないこの女の言葉の確認から進めよう。もしかすると本当に馬鹿な私の耳が、何か別の単語を聞き違えたという可能性もなくにはない…

 

「えっと、あんたい…ななんでしたっけ?」

「…あんていくよお嬢ちゃん?」

 はい、確認終了…私は自分の肩にのっかたプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。まさか、私がバイトに行く時間を見計らって来たという可能性はないとおもいたいけれど、その可能性もCCGの捜査官が従業員である「私」に「あんていく」の場所を尋ねるという時点で非常に高くなっている。考えたくはないが、もしかすると私の正体や「あんていく」について、とうとうCCGが感づいてしまったのかもしれない。

そしてこの状況が、本当に偶然によって引き起こされた状況なのか、それともこの女が全て知っているうえであえて、私を試しているのか見分けがつかないという所が、最大の難点だった。捜査官一人に居場所がばれたくらい、本当ならよほど強い相手ではない限り、私一人ででもなんとかなる。「あんていく」の場所を知っているにしろ、知らないにしろ殺してしまえば、丸く収まる話だった。

だが、問題は今私がマスクをかぶっていない、素顔をよりにもよってCCGの捜査官にさらしてしまっているという所にある。

喰種といえど、その攻撃力、潜在能力は強いと言えど所詮個としての強さしかない、素顔をばらされて指名手配書等が出回ってしまえば、私は毎日捜査官に追い立てられ、二度と陽の目に出れない生活を送らなければならない。

 

 口封じのために一瞬で女を殺害するに越したことは無いのだが、そこはCCGの捜査官だ、簡単には息の根を止めさせてはくれないだろう。まだ喰種の血の匂いが漂っていることから、この捜査官が少なくとも一等捜査官以上の実力を持っていると判断する。

だとすると、最悪の場合として、攻撃しようとした私がそのまま返り討ちに会う事も考えられるのだ。私も強い捜査官と戦った経験はそう何度もない。それにいつも背後から赫子をつかって不意打ちするのが基本だったので、正面きっての戦いは皆無と言ってよかった。

喰種との戦いならば少ないが、正面切っての戦いがあるが、今それをするにしても、私の身体は切り傷を直すためにかなりのエネルギーが使われてしまっている。赫子も出したところでいつまで維持が出来るかわからないのだ。

羽赫を展開して距離をとりつつ撤退するという作戦もあるにはあるが、それをするのは先に言った「素顔露出の危険」と羽赫のエネルギー消費から出来るだけ避けたい。

私の持つ羽赫は、羽のような赫子を発生させて、遠距離からの攻撃が可能になるが、それは逆に私自身の身を削っての攻撃になる。弾数が限られた攻撃だと相手に読まれれば、その瞬間に私の敗北が決定してしまう。

 

 どうすればいい?私はここでどういう判断をすればいい?こんな時、芳村さんや四方さんならどう考えてどういう風に動くのだろう。人生経験が浅い分、そういう所に差が出てしまうのは仕方がないが、彼らの気持ちを少しでも思い浮かべられない私自身に少し腹が立った。

「あ、あんていく…ですか、中古のリサイクルショップですかね?そ、それでしたらきっと20区にはないと思いますけど」

こういう時、自分の嘘をつけない体質というか顔に出る性質にはうんざりする。多分、女は私の明らかに動揺した言葉に疑いを持ってしまったのだろう。ギラリと光るまなざしが、鋭く私の心臓を射抜いた気がした。

この感覚はどこかで感じたことがあった、そう忘れもしない5前の夜、「蟋蟀」に出会った時に感じたドロドロと渦巻くような恐怖だった。恐ろしく鋭い研ぎ澄まされた気配、それを向けられただけで、私は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。トラウマとも言える、どうしてもその気配を受けると、あの時受けた痛みや恐怖を思い出して、何も考えることが出来なくなってしまうのだ。

 

「そう、仕方ないわね、なら自分で探すわ…じゃぁね、手間取らせちゃったわねお嬢ちゃん?」

 

 だが…不幸中の幸いだったのか、私の言葉を信用してくれたようで、女は銀色のセラミックケースを肩にかけて、踵を返してまた来た道を歩いて行ってしまったのだった。

「あ…あああ…っ」

女が視界から消え、気配や匂いも完全にしなくなると、私は途端に緊張が抜けてしまい、地面に内またで座り込んでしまったのだった。CCGの捜査官に相対しただけで、ここまで精神的に追い詰められてしまうなんて無様だと笑うしかない。しかし、私の足は力を入れようにもまったく動いてくれず、腰が抜けてしまったようで全く動くことが出来なかったのだ。

偶に通りかかる通行人に変な目で見られるが、それは此処が東京の市街地ということもあって、皆われ関せずといった風に通り過ぎていってしまう。世知辛い世の中だとは思ったが、今この瞬間においてはそれは有り難かった。

腰が抜けて歩けなくなった女子中学生など、もし知り合いにでもバレてしまったら終わりだ。喰種だとバレる以前に私は社会的に死んでしまう……

「ん…くっ!」

必死に力を入れて何度も試してみるが、神経が通っていないかのように下半身はまるで動こうとしてくれない。喰種の肉体というのも、あるいみ精神的な面では人間とあまり変わらないのかもしれなかった。

「ううっ…」

情けない、本当に情けなかった。弟の気持ちを不本意だったとはいえ裏切り、芳村さんに人間の事を学んで学校まで通わせてもらって、蟋蟀に喰種の本質を見せつけられ……挙句の果てにだらしなく道の端にうずくまってしまったのだ…。弱い、私は何もかもが弱い。

喰種という存在にかこつけて、自分は強いと思い込んできてしまっていた、だけど実際ふたを開けてみると、私は何も手に入れることが出来なかったじゃないか。

両親も、弟も、本当の友人も、なにもかも!!

泣き叫びたい気持ちだった、ないてこの心に渦巻く気持ちが消えて無くなってしまうのなら、私は何時間でも泣き続けてやりたかった、人目を気にせず、泣きたかった。

 

「うん?こんなところでどうしたんだい?何か困ったことがあるのなら僕に言ってみるといい、出来る範囲の事でなら協力するよ?」

 今にも泣きそうな私に声をかけてくれたのは、20代半ばのような線の細い、笑顔が素敵な男の人だった。混乱した気持ちの中、私はなんとも今思い出しても恥ずかしいことを、たまたま通りかかっただけの人にしてしまう。人間とも喰種ともつかない変な匂いを漂わせる人だったが、それゆえに私の警戒心を解いてしまったのかもしれない。人間も危険、同じ喰種どうしでも赤の他人なら襲われるかもしれない、それが私たちの抱えるジレンマだ。

だからこそ、声をかけてきた男の人に、私はそのどちらの警戒を捨ててしまい、思わず抱き付いてしまったのだ、この気持ちを癒してくれなくてもいい、ただほんの少しだけ、支えを……

 

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけ…泣かせて」

 

不思議なことに、男の人の手は優しく私を抱きしめ返してくれたのだった。

 




今日も最後まで読んでくださりありがとうございます。この二次創作もUAが10000を越えることが出来、非常にうれしい思い出いっぱいです。
これからもアニメ東京喰種を見たり、原作を読んだりと奮闘しながら誠心誠意書いていくつもりなので、よろしくお願いします。

さて…アニメの方、とうとうヒナミちゃん出てきましたね、大人しい系の役こそ花澤さんでは?と思っていた私には新鮮なアニメ、予想以上にクォリティが高くて驚きました。
所々にアニメオリジナルを挟んでいるのもまた味ですね。

2015/4/1  合併修正

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