東京喰種[滅]   作:スマート

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最近、よく夜更かしをしてしまいます。身体が夜型になっているのか、それとも朝が低血圧なのかは分かりませんが兎に角小説の投稿がこんな時間になってしまう事をお許しください。
原作コミックスの「隻眼の梟」の正体…ヤンジャン最新話も合わせて一体誰なんでしょう、予想外の既存キャラが出てくる気がして今もドキドキしてします。

そういえば皆さんは石田スイ先生が東京喰種を描く前に書いていたネット限定漫画を知っていますか?
シュールなギャグマンガだと思いきや、シリアスな展開もあってまさに東京喰種のがあそこから生まれたのかもというキャラクターも登場する良作です。
機会があればぜひ検索してみてください、諸事情からタイトル名は出せませんご了承ください。

ご意見ご感想、些細な事でもいいので是非お書きください、お待ちしています!!


#018「表裏」

 ―常識とは、人間が18歳になるまでに持った偏見のコレクションだ―

                       アルベルト・アインシュタイン

 

 

 喰種でありながら人間を愛することを選んだ喰種は数多くいる、死んでいるか生きているかは別にしても、少なくともそういう存在がこの地球上に存在していたという事実は揺らがない。

だが、この蟋蟀の思想はそのどの人間を愛する喰種達の思想とは食い違っていると、此処で述べなければならない。

人間を愛する喰種とは一般的に見て、常識から外れている異端に分類される。いわば人間が食べるために育てている牛や豚などの家畜動物を自分の命よりも大事に思っている事と同じ事なのだ。

まあ、どちらも知的生命体である以上、その邂逅はある程度自然に起こりうる軌跡なのかもしれないが、蟋蟀…13区を恐怖のどん底に陥れた閻魔蟋蟀はそのどの思想にも当てはまらない。

人間を愛することが?いや、それはそれほど異端の喰種達とは変わらない、一線を隔しているのはその同族に対する喰種への執拗な残虐性にあった。

本来、異端の思想を持った喰種とは喫茶店を営む「梟」のように喰種という自分を「人間」の世界という枠組みに入れようと考える「共存」系を志すものなのだ。自己の肯定とも言える、喰種と人間が手を取り合えれば良いと考える極めて理想論に近い思想がそれらの喰種のほとんどを占めている。

しかし、蟋蟀の脳内で展開されている思考は、あくまで自分の愛する人間を護る事であり、そこに自分という存在を認めていない。自分を含めた全ての人間への外敵であり、命を軽々しく奪う喰種の絶滅を最終目的に据えている蟋蟀の思考は、一体どこから生み出されたものなのだろうか。

 

 人間に人間として育てられてきたからか、それとも育ての親だった人間の両親を喰種によって殺されたからだろうか、愛すべき義妹を傷つけ人生を歪めてしまった起点となった喰種への恨みなのか。

恐らくそのすべてが当てはまり、だがそれだけではまだ蟋蟀のその喰種に対しての凶暴性が説明できていないのだ……

目と目が合っただけで喰種を拷問し、死ぬ寸前まで死んだ良いと思わせるような悪魔も逃げる拷問を何度も繰り返し行って来た蟋蟀の歪んだ行動を作り出したものが、まだ足りない。

人間の世界で育ち、人の心を持ったのであれば、自分の両親を殺したその個人としての喰種は憎くても、まだ罪を犯していない赤子の喰種や無知で何もわからない幼子の喰種までも「拷問」しようという発想には思い至らないだろう。そもそも捕食行為を行わずに喰種をただ悪戯に切り刻むこともあるのだ。幼子の流す涙を見ながら心底嬉しそうに身体を震わせる蟋蟀の姿も、また13区で名を轟かせた理由の一つであろう。

まともなCCGの捜査官でさえ、そういう脆弱な喰種と戦うときは余り痛みを与えずに殺す事が多いというのに……彼は喰種を恨んでいる、憎しみ囚われている……義妹の意思と共にある様に喰種を殺しているようにも見える彼は、その実何かから逃げていたのかもしれない。

喰種を狩る時に口走る言葉「悪」それは、喰種に告げる断罪の言葉ではなく……自らへと告げる自白の杭。

 

 自らをそうやって戒め続けることで、喰種である自分の存在を肯定してしまう事を避け続けてきた、自分は悪だと…生まれてはならなかったのだと。喰種を執拗に痛めつけることで、彼らの醜悪で粗雑な悲鳴から蟋蟀はそれを実感していたのだろう。そうしなければ、彼は……自分の中に生まれたたった一つの欲求に飲み込まれてしまうからだ。

「人の肉が食べたい」

喰種を食べいくら飢えを凌いできたところで、喰種として生まれたからには本能が、遺伝子が人間を食べることを望んでしまう。人間が産まれてすぐに母の母乳にありつくように、喰種は生まれてすぐに死体の血液を啜るのだ。

欲求を理性で塗り固めた生物が人間だとすれば、喰種は理性を欲求が制御しているとも言っていい、彼らにとって食事とは採らなければ即、死に繋がる危機……

本当に無意識の中で彼は自分を戒めるその行為を行っていた、だからこそ彼は今まで自分という存在を保ってこれていたのだ、だがそれも過去の話…梟と出会い、喰種の存在を深く知り過ぎてしまった蟋蟀はほんの少しだけ喰種を「肯定」してしまった。それが途方もない飢餓へとつながりリゼとの戦闘に始まり、赫者状態を長く維持できず力尽きるという状況になるまで追い詰められてしまっている。

 

 弱まる意識、薄くなっていく執念……だがそれは蟋蟀が何年も誤魔化し続けてきた欲求が目覚めるという合図でもあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おなかへった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 たったそれだけの言葉、それだけでこの場に集まった喰種も人間も一瞬足が止まってしまった。

余りにも場違いな、どこにでもいる子供が両親にふと漏らしたような言葉が、この場ではひどく印象的で……不気味だった。

「ひ…うあっ…」

殺気とも闘気でもない、言いようのない恐怖が迫ってくるような気配に、髑髏のマスクを被った集団の全ての肌に鳥肌が立つ。空気が先ほどまでの戦闘による張りつめたものとは違い、重くそれでいてありとあらゆる方向から自分に向けて刃物を向けられているかのように痛いのだ。

誰かが唾を飲み込む音が狭い路地に響いた、恐る恐るその全員が恐怖の声の主の方へと顔を向ければ、そこに立っていたのはボロボロになって膝をついていた蟋蟀の姿ではなく……

口元が割れてしまった蟋蟀のマスクから出た、サメの歯の様に幾重にも重なった朱く鋭い牙を生えそろえた大きな赤い顎を持つ「化け物」だった。

「な…なんだよ、アレ」

驚きは動揺へと変わり、喰種達は目の前に現れた異形の物体へと恐怖の視線を向ける。それもそうだろう、彼らは赫者など禄に見たことが無かったのだから、蟋蟀の今までの鎧を纏った騎士にも似た姿を見てあああれが赫者か、と漠然と思っていただけなのだから。

今まで戦っていた蟋蟀の鎧を纏った身体は、二つに分かれそこからあの「化け物」がまるで昆虫の脱皮の様に顔を出しているのだ。ひび割れていた外皮も艶々とした光沢を取り戻し、筋肉質に一回り大きくなった蟋蟀の身体は、人間というよりは異世界ファンタジーに登場しそうな亜人に近い、昆虫と人間を足してしまったかのような異形を誇っていた。

脚の節々に生えた棘に、頭部から顔を出した触覚は昆虫にも似ていたが、その蟋蟀の基盤となるべき羽が背には生えていなかった……

 

 

『ああ、こんなにごはんがたくっさん』

その瞬間、喰種達は悟った、自分たちが狩る側から狩られる側に回ったのだという事を。

自分たちは、なんというモノを敵に回してしまったのだと絶望した。13区の蟋蟀…自分たちのリーダーが警戒するネームバリューの相手が出てきた時点で逃げるべきだったのかもしれない。

SS級の幹部がいるからと、さっきまで人間の肉を食べたからと強気になって油断していたのかもしれない。だがその後悔ほど無駄なことは無く、運命はすでに決まってしまったのだろう。

しかし、変わり果てた喰種であるかどうかすらも疑わしいソレに対して……怯えることは決して恥ではない。

恐怖とは、人間喰種問わず動物…いや生物であるならば何であろうと持ち合わせている本能だ、危機回避能力の一部であるとも言えるそれを無くしてしまう事は、ぐっと生物を死に近づける。

それが今回は自らの動きを止めてしまうという真逆の方向へと働いてしまっただけ……彼らは何も悪い要因を作ってはいない、本当に運が悪かっただけなのだから。

解放された欲望はまず目の前に広がるご馳走の山に狙いを定める、幼く舌足らずな言葉を発する「化け物」は、一回り大きくなった身体をゆすり鋭利な口を開いたのだった……

 

 

『いただきます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来、昆虫としての蟋蟀は同種・同性であっても羽の長い姿を持つ成虫と、短い羽を持つ成虫がいる。これは個体の大きさつまり環境への順応によって起こるものでも、カブトムシの角形のように栄養の不足などから引き起こされるものでもない。

それは幼少期に受けた肉体的な外傷などのストレスが起因し、蟋蟀の肉体は特殊なホルモンを分泌することで羽というエネルギーを余計に消費する器官を退化させ、自らの体力を温存しようという方向に働くのだとされている。

羽のない羽化というのも変な話だが、現在人の殻を破り捨てて誕生した喰種の「蟋蟀」は不思議な事にその蟋蟀の特性を備えているようだった。極度な飢餓状態において必要なのは、羽という長距離移動・小細工をする器官ではなく、ただ「食べる」ための力。

羽を形成させるだけの余力を全て、肉体の進化に注ぎ込んだ彼の様相は、捕食者(プレデター)を連想させる。

 

 だが、何故蟋蟀は動けているのか、それが路地にいる彼以外の喰種にとって疑問であり、不気味な事でもあった。赫者となり赫子を身に纏った蟋蟀は髑髏マスクの喰種集団を数人吹き飛ばした辺りで、肉体に抱える負荷が許容量をオーバーして倒れたはずではなかったか。

喰種の集団もそれを視界に捉えていたからこそ、蟋蟀の脅威がなくなったことに安堵し、余念なく本来の目的である特等捜査官殺しに専念できると思っていた時の出来事だった。

何事も無かったかのように平然と姿を変化させて起き上がるソレを見た時、喰種の集団は「有りえない」と思ってしまった。それは、この蟋蟀が赫者とはいえ恐ろしく異形な姿をしている事と、エネルギーが尽きたはずの喰種が何故まだ立ち上がれるのかという疑問から……

これは現実だ、当然漫画の物語の様に瀕死になった主人公が仲間の声に応じて新たな力を獲得するという奇跡は起こっていない。何もない所から力は生まれない。

蟋蟀が今まさに現在進行形で作り出しているエネルギーにも、しっかりとした源がある。喰種が欲するエネルギーとは、簡単に言えば人の肉に含まれる細胞の事、そしてそれは喰種の体の中にも必然的に存在している。だからこそ蟋蟀は喰種を襲う事で飢えを凌いできていたのだ。

……そう、「喰種にも存在している」ならば彼自身にもRc細胞はある、これが蟋蟀を今も動かし続けている力の答えだった。

頑強な外皮に守られた蟋蟀は自らの既存の肉体を融解しながら含まれるRc細胞まで自身の強化のために使っていたのだ。言わば自分で自分を食べている状態、常識的にRc細胞が行ったり来たりするだけの無駄な行為に思える事も即席という面だけにおいては、かなり頭のいい作戦になる。

エネルギーとしてのRc細胞を使うのではなく、自分の肉を喰らってエネルギーとしてRc細胞を抽出する事は瞬間的にだが莫大な力を生むことが出来るのだ。

 

「ぎゃぁ…ぐぇっ」

 そのおかげで蟋蟀は自分の内から作り出されるエネルギーを使い、人型だった時よりもより獣の近い野性的で素早い動きを実現させていた。足を使い跳躍してはその勢いのまま強靭な大顎で喰種の身体の各所を引きちぎっていくのだ。

絶望の鐘はもう鳴らされた、タンというコンクリートの壁を蹴る音が聞こえると同時に、黒い影が喰種の側を通り過ぎる。するとその喰種は白目を剥いて地面に崩れ落ちる。仲間の喰種がその方向を向くと先ほどまで生きていた喰種の腹には野獣に食い荒らされたかのような大きな歯型が残っていた。

カチカチと何度も大顎を鳴らせ、地面に着地した黒い影……蟋蟀の口には、食いちぎられた喰種の肉塊がゆっくりと噛み潰され嚥下されていく様が展開されていたのだった。

人間の何倍も固い皮膚を持つ喰種の肉を、豆腐のように切り裂いてナイフなどの刃物では傷一つつくことのない骨をキュウリのように折ってしまう生物をもう「喰種」と呼んでいいのだろうか?

「ひ、ひいいいいいいぃぃ!!」

無残にも仲間が喰い千切られていく光景を目にした喰種の集団の一人が、「もう嫌だ、こんな奴と戦っていられるか」と路地の道を逃走した、人間も喰種もその恐慌状態に耐えられなくなってしまった可哀想な一人を止めようとはしなかった、なぜならその者の末路をもう知ってしまっていたからだ。

 

『ごはん、にげちゃ…だめだよ?』

「い、いやああああああああああああああああだああああああああああ……あっ」

軽快な足捌きで空へと跳躍した蟋蟀は、逃げ出した喰種の進行方向に降り立ち、とうせんぼする様に両手を広げ、何故そんな事をするのと問いかけるように首をかしげたのだ。

美味しいご飯は自分の口に入る為に集まっているんでしょうと説いたげな仕草に、喰種も人間も騒然となる……大柄の捜査官も、特等を殺すために集められた喰種のメンバーも、ここまで歪み捻くれたのにも関わらず純粋な思考を持つモノに出会ったことはない。

いくら赫者が本人の正気を奪うとはいえ、これでは丸で人格が変わったようではないか。特等捜査官の篠原はそう考え、いつ何時その牙が自分に向いた時の為に静かにクインケを構えていた。

今の蟋蟀にとって、喰種は大皿に盛り付けられた豪華なディナーに過ぎない、彼がした行為は箸から滑り落ちた料理を手で受け止めただけの事……

大事なご馳走は美味しく食べないとお母さんに怒られちゃう……悲鳴をあげ続ける喰種の前に立った蟋蟀は喰種の鮮血がしたたり落ちる大きな顎を開いて、ギロチンの刃の様に頭部を齧り取った。

噴水のように頭が無い身体から吹き上がる血液をジュースのように飲み干した蟋蟀は、腕、脚、胴と四肢を顎で骨ごと齧り、すり潰す様に捕食していったのだった。

 

『うまうまぁ』

 

 これはもう戦いとは呼べないものだった、蟋蟀単騎による一方的な蹂躙……戦意を喪失した喰種達を何の情け容赦なく狩っていく姿は、まさに喰種そのものともいえるのだろう。

人間を食べるために生まれてきた喰種は、か弱い人間を殺人という罪の意識なく殺してしまう。だが、それは生きるために必要な糧であり、人間もそれと同じだけの事をしてきている。

生物は生きているだけで周りの生命を殺してしまう、植物も動物も、菌にいたるまでそれは変わらない。間接的にしろ直接的にしろ、生物は何かしらの命を奪って生きているのだ。

そう捉えればむしろ、人間1人を長期にわたって食べる喰種の方が、殺してきた生き物の命の数という面では人間よりも少ないのかもしれない。

そう考えればこれは、人間という飽和した人口に対する何らかの処置なのではないのか、増えすぎた人間の数を減らす為の天敵動物の登場が喰種ではないのか?真相は闇の中だが、これだけは言えるその理論が間違ってはいないのならば、次はその増えすぎた喰種を間引くために生まれた天敵こそ、この「蟋蟀」なのだと……

生物には天敵が必ず存在する、「喰うモノと喰われるモノ」それが生態系であってこの世の理、弱肉強食とは弱者が強者に虐げられるという意味ではなく、命が食べられるというサイクルを通じて回っていることを指しているのだ。

 

 喰種の持つ抑えられてきた本能が目覚めた蟋蟀は、もう恨みではなく純粋な食欲を満たすためだけのご飯として喰種を殺し続けていた。獣の様に…いや無機質で遺伝子にのみ従う昆虫のようにそこに感情が介入することは無いのだろう。喰種の天敵動物「閻魔蟋蟀」は、動き出す。

そこに有るご馳走を平らげるまで空腹な蟋蟀の惨殺劇は止まることを知らない。

 




はいスマートです、お陰様で閲覧数が50000となりました。目標は1万だったのでそれを大幅に超えてしまう形となって自分でも驚いています。
これからもこの調子で、閲覧数を少しでも多くするように取り組んでいきたいので応援のほどをよろしくお願いします。

ご意見ご感想を些細な事でもいいので待っています!!




最近、BLEACHのマユリ様が、東京喰種の世界に来たら…という妄想をしていました。
2015/4/1  合併修正

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