そろそろこのホストという副業にも…慣れてきた。どんなお客さんが来たとしても接待ができて、しっかりと固定客という人も付いてくれている。自分でも自分のどんなところが良いのかは分からないが、気に入ってくださっているのは素直に有難い。もし、スタッフを首になったとしてもこっちでもどうにか出来そうかも。
正直、いつバレたとしてもおかしくないですし。
「ねぇ…シオンのことってどうでもいいの…?」
「そんなことないですよ」
「じゃあ、なんですぐに連絡を返してくれなかったの?」
「…え、返しましたよ」
「1分以内に連絡返してくれないと嫌なの。シオンはキミに大切に扱われていないんじゃないかって思っちゃうし」
紫咲シオンさんは僕がホロメンの中でもかなり関わりが深い方で…それなりに知っている方だと思っていた。でも、紫咲さんがホストに来るようになって知らなかった一面を何度か垣間見える機会があった。それは…嫉妬深いというか、メンヘラ的な感じ。もちろん、お客さんと連絡先の交換をすることはホストであればある。スタッフとキャストという関係性であれば連絡先の交換はNG。もし、それをして付き合い始めたりして週刊誌に撮られでもしたらかなり問題だからね。
でも、僕はホストでもあり、スタッフでもある。この境界線がとても難しい。連絡先を知っていた方が営業とかを掛けやすいとおい利点はあるものの、バレた時は一瞬で終わりなんだよな。
「大丈夫ですよ。シオンさんのことを大切だと思ってますよ」
「ほんと~?」
紫咲さんを安心させるために手を握る。
「本当ですよ。大切じゃない人の手を握ったりしませんから」
「…シオンは信じてるよ」
「はい、信じてください。僕にとってシオンさんは特別な人ですからね。どんな人にも代えられない人で唯一無二の存在」
誰もが唯一無二の存在だけど、今の紫咲さんは僕への依存度が高まりつつある。それは紫咲さんの店に来る頻度とか、態度とかを見れば分かってしまう。そしてこれ以上、先に進んでしまうと後々大きな問題になりかねないと感じてしまうほど。
だけど、ホストとしてはお客さんを自分に依存させるのは営業の手法としてないわけではないんですよね。
「じゃあ、シオンと結婚してくれる?」
「…え…」
「シオンと結婚してよ。だってキミはシオンのことが大切なんだよね。それだったらシオンのことを結婚してシオンを幸せにしてよ」
そう懇願してくる、紫咲さんの目は嘘を言っているようには見えなかった。
「…えっと…」
ここで返答を間違えれば紫咲さんも僕も終わりを迎える。もちろん、ホストという職業ではこういう風に迫られることは少なからずある。僕もこれが初めてじゃないですし。だけど、今回に限っては見知った人であることが一番の問題なんですよね。
抉れれば色々とマズイことになるのは目に見えている。
「ねぇ、答えてよ!シオンと結婚してよ」
「……僕はシオンさんのことを大切に想っていますよ。でも、それが恋愛的なものなのかは分かりません。それに僕とシオンさんはお客さんとホストである以前にタレントとスタッフという関係性なので、恋心を抱くわけにはいかないので」
これが一番いいんじゃないかな。足りない頭を急いで回転させた結果、一番穏便に事が済むのはこの答えという結論だった。
「じゃあ、シオンがタレントじゃなくなった結婚してくれるの?」
「え…?」
「それならシオンは事務所を辞めるよ。そしたらキミと一緒に過ごせるんだよね」
僕が考えていたよりも紫咲さんの依存度は高かったかもしれない。紫咲さんの目は嘘を言っているようには見えない。
「…い、いや…そういうことじゃなくて…」
「違うの。だってシオンとキミを邪魔しているのは事務所なんだよね。それだったら事務所を辞めたら一緒になれるんじゃないの?」
もう紫咲さんは僕の知っている紫咲さんではないと考えた方が良いかも。こういうお客さんだっていないわけじゃない。対処ができないわけじゃないけど…。でも、ここで紫咲さんをやんわりと拒絶したとしても問題を先送りするだけで根本の解決にはならない。
「これから僕の言うことをよく聞いて下さいね」
「うん」
「さっきも言いましたが、僕は紫咲さんのことを大切に想っています。これだけはどんなことがあったとしても嘘じゃありません。でも、僕は紫咲さんを愛していないです」
「そっかぁ…それならシオンはキミの心を手に入れればいいんだよね」
「…え…」
「今はシオンに夢中じゃなくてもこれからシオンに夢中にさせればいいだけの話じゃん」
普通はこういうことを言うとキレ出したりするもんなんですが。
「そ、そうですかね…」
「そうだよ!絶対に夢中にさせてやる!」
そんな風にちょっとカッコいいセリフを言っていた、紫咲さんは数時間後。
「…し、しおん…かわいいもん!!」
もう顔を赤らめてしまっていて完全に酔っちゃっている。なんでこんな状態になってしまっているのかというとそれは……お酒を流し込むように飲んだから。とても簡単な理由。
「はい、シオンさんはとっても可愛いですよ」
「そぅだよねぇ~~しおんはかわいい~」
「そうですよ…」
「しおんのほっぺ、つねって」
「わかりました」
なんでそんなことをお願いしてくるのか分からないですが、お酒を飲んでしまった人は意味のないようなことを言ってくることも多いですしね。
僕は紫先さんの言う通りにほっぺをつねった。
「いたぁい~」
「あ、すいません。ちょっと強くつねり過ぎましたか?」
なぜか、紫先さんは痛がる素振りは見せずに子供のような満面の笑みでこちらを見て来る。
「ううん~~しおんはうれしい~」
「嬉しいですか?」
「うん~~だって…しおんはきみのことがすきだもん」
それって理由になっていますかと聞いてしまいそうになったけど、今の紫咲さんに平常な判断が出来る状態だとは思えないですしね。
そしてこの感じはホストの閉店時間まで続き、僕は紫咲さんを他のホロメンの方に託すことにしたのだった。
感想があれば
ホロメンが社員を接待するというシチュエーションだったら誰がいいですか?
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天音かなた
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常闇トワ
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猫又おかゆ
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潤羽るしあ