この二人が来ると面倒だなぁと思った人たちがまさか同時に来るとは思ってもいなかった。そして今は右に宝鐘さんが座っていて、左には白銀さんが座っていて、二人から僕の腕を抱きしめられている状態。身動きが取れない状態に陥っているということ。
そしてそれだけじゃなくて――
「マリン!!社員さんが困ってるじゃん」
「ノエルの方こそ、社員さんが苦しそう」
「お二人共、一回落ち着いて下さい。僕はどこにも逃げないですし」
「で、でも…」
「大丈夫。ノエルさんもマリンさんも大切なお客さんですから、どこにも行きませんし。今日はお二人から離れないので」
僕を指名するお客さんが来るのはある程度、規則性があって覚えている。それだと今日は多分、誰も来ないと思うし。
それでも、白銀さんと宝鐘さんが離してくれなくて、逆に抱きしめる力が強まっていると感じるのは気の所為かな。
「あ、あの…二人とも」
「ノエルが先に放したらマリンも放す」
「ううん。マリンの方が先に放してよ」
「絶対、マリンが放してもノエルは放さないから嫌だ!」
「こっちだってマリンが放さないって言うなら」
なんでこの二人はそんなくだらないことで言い合いをしているのだろうか。毎度のことだけど、僕はそこまで良い男でもなければ、人に好かれるような人柄でもない。でも、そんな僕のことを気に入っているのか、冷やかしで来ているのか分からないけど、ホロメンの方々はほぼ絶え間なく来る。
そしてその中でもこのお二人は一週間に一度ぐらいの頻度で通っている。自分としてはそんな頻度で来る場所でもなければ、事務所にバレる可能性が上がるので来ないで欲しい。でも、いくら言ったところで聞く耳も持たずに来てしまうんですよね。
「一旦、落ち着きましょう」
「…だけど…ノエ」
「だめです。どちらも放してください」
「ま、まりんが」
「放してくれないならもうノエルさんとマリンさんのご指名は受けないよ」
そうするとさすがに二人は僕の腕を解放してくれた。
それからまずはドリンクを用意して、二人が頭を冷やす時間を作ることにした。さすがにこのままだと白銀さんも宝鐘さんもさっきと同じことを繰り返してしまう気がしますしね。
「どうですか、落ち着きましたか?」
「うん、ごめんなさい。社員さんに迷惑を掛けちゃって」
「マリンも頭に血が上っていたみたい。社員さんもノエルもごめん」
どうやら時間を取ったことが良いように作用してくれたかな。
「良かったです。二人が落ち着いてくれたようで」
二人はドリンクを飲みながら…お互いの言動を遡っているようで謝り合っている。白銀さんと宝鐘さんはかなり仲のいいイメージが合ったのでこんな風に言い合いをしているのは初めてみたかもしれない。
「それにしてもなんで二人は来たんですか?」
「それはもちろん、社員さんに甘やかしてもらうために決まっているじゃないですか!」
「そうだ、そうだ~~」
いや、それしかないじゃない見たいな顔を二人はしていますが…僕には理解できない。
「それで具体的にどのようなことをして欲しいとかがあれば教えてくださると有難いんです」
普通のホストはこんなことを聞くことはない。だけど、僕に関しては『甘えさせて欲しい』と言われても具体的に何をして欲しいのか分からない。それにお客さんはお金を払ってくれているわけだから、なるべくお客さんには満足して帰って欲しい。だからこそ、僕は何をして欲しいのかを聞くことが多い。
「だ、だんちょうは…ひざまくら…してほしいなぁ…って」
「え、ずるいって!!じゃあ、マリンはね、あたまをなでてください…」
「そうですか。じゃあ、まずノエルさんの方から行きましょうか」
「え、き、きゅうに!?」
「だ、だめですか…。それならマリンさんの方から…」
もしかして順番とかもあるのかなぁ…。宝鐘さんの方からの方がいい感じ…?
「じゃあ、マリンさんの方から大丈夫ですか?」
「ま、まりんから!?」
「はい。ノエルさんは後の方がいいみたいなので」
「いいですよ。どんとこい!」
「それじゃあ、マリンさんから」
僕はなるべく心地よいように優しく割れ物を触るかのように宝鐘さんの頭を撫でる。ホストという職業に就き始めてから『撫でて』と言われることが多くなったので、日に日に上手くなっているとは思うんですよね。頭を撫でるのが上手くなるってなんだよと思うかもしれないけど、頭を撫でるという行為も案外奥が深いんです。相手にどれだけ癒しを与えられるか。
「どうですか?」
「…………」
宝鐘さんは問いかけには答えてくれず、ずっと目を瞑っている。でも、嫌だったらさすがに宝鐘さんも言ってくれると思いますし、このまま続けますか。
それから一分間ぐらい撫で続けた。その間は宝鐘さんも何も喋らず、隣の白銀さんも何も喋らず、僕も何も話さなかったので本当に無言だった。周りのお客さんがちょっとこっちに目を向けるぐらいに異様な光景だったと思う。
「そろそろいいですか?」
「…え…も、もうちょっと…だめですか?」
宝鐘さんは子供がお母さんにおもちゃを取り上げられた後みたいな顔をしている。さすがにそんな顔をされるとこのまま終えるわけにはいかないですね。
「いいですよ。マリンさんが満足するまでしてあげますよ」
「あ、ありがとう…」
「いいえ」
そしてそれから僕は宝鐘さんの頭を優しく撫でる。
「マリンさんの髪ってとてもサラサラですね」
「え?」
「いや、撫でていて思ったんです。とってもサラサラですよ」
「…ありがとう…///」
「僕にお礼を言われても…。マリンさんの日頃の手入れが良いんだと思いますよ。あんまりこんなにサラサラで綺麗な髪の人はいませんから」
言い終わった後に気持ち悪かったかなぁと思って宝鐘さんの顔を見てみると…顔を俯かせてしまっているので表情は分からない。もしかしたら嫌われたかも。
「そして次はノエルさんの番ですね」
「あ、はい!!団長がんばります!!」
「いや、ノエルさんは何も頑張らなくて大丈夫ですよ。ただのんびりとしてくれていれば」
白銀さんには靴を脱いでもらって…横になってもらう。
そして白銀さんの頭を慎重に僕の膝にのせる。
「痛くないですか?」
「は、はい!!だいじょうぶです!」
「もうちょっと力を抜いて下さい」
「はい!」
どうやら白銀さんは言葉の意味を理解できていない感じですね。でも、誰かに膝枕をされていると落ち着かないというのは分からない訳でもないんですよね。
「ノエルさんはいつも頑張っていますから、こういう時ぐらいは楽にしてください」
「うん」
白銀さんの性格的に包み込んであげた方が休みやすいはず。それに楽にして、癒されてもらわないと僕が膝枕をした意味がないですしね。
「僕はスタッフとしてノエルさんが頑張っているところをたくさん見てきました。後輩に気を遣わせないような心遣いとか、ちょっとのことでも全力なノエルさんはすごいと思いますよ。僕も見習わなくちゃいけないところもありますしね」
「そ、そんなこと…」
僕は白銀さんの頭を優しく撫でる。
「そんなことありますよ。でも、ノエルさんはちょっと頑張り過ぎてしまうところがあるので、少しでもこの膝枕でノエルさんの心も体も癒されてくれると有難いです」
それから白銀さんは静かになってしまった。
三分ぐらいその状態が続いて、そろそろいいかなぁと思って白銀さんに視線を向けると眠っていた。ほとんど寝息も聞こえなくて、ちょっと心配になっちゃったぐらい。
「寝ちゃったみたいですね」
「ちょっとノエルは色々とあって疲れていたんです。だから、ここに連れてきたっていうのもあるんですよ」
「いや、ここに来るよりも早く家に帰って休んだ方がいいんじゃないですか?」
「ううん。ノエルにとっては社員さんといることが一番の癒しなんですよ。それにマリンも社員さんに会いたかったし!」
宝鐘さんが言っているだけなので審議の程は分からないですが、もし本当にことで白銀さんが僕といることで少しでも疲れが取れているのだとしたらそれはとても嬉しいこと。それぐらいに白銀さんの中で僕は心を許せる人になっているということだろうし。
そしてその後は宝鐘さんのことを撫でたりしたけど、閉店時間になっても白銀さんが起きることはなかったので白銀さんと宝鐘さんにタクシー代を渡して送ってもらうことにした。さすがに僕が送っていくわけにはいかないですしね
感想があればお願いします
ホロメンが社員を接待するというシチュエーションだったら誰がいいですか?
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天音かなた
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夜空メル
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常闇トワ
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猫又おかゆ
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潤羽るしあ