「わたしがお金やちやほやされるためにレースを走っていると思っているのかァ──────ッ!! その通りですすいません!!」
 根暗で陰気でネガティブなコミュ障ぼっちがみんなからチヤホヤされたくて日本ダービーを目指す、そんなお話。
 お試し用単発のため半端なところで終わります。続きません。
 某きらら系に影響されて書きました。ですがクロスオーバーではありません。タイトルだけ拝借してるので向こうのキャラは一切出てきません。

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某きらら系に触発されて書きました。
クロスオーバーではないので向こうのキャラクターが出ることはありません。


ぼっち・ざ・だーびー!

 

 わたしは孤独だ。

 ……いや、なにか悲劇的な事故や事件から天涯孤独になったというわけではない。

 優しいウマ娘のお母さんもいるし、そんなお母さんが大好きなお父さんもいる。生まれたばかりの弟もいるし、いつの間にか家に居着いた元野良ネコもいる。

 それでもわたしは孤独だ。

 限界集落に住んでいるというわけではない。都市部だし、人口は多い。電車もバスも長くても二十分間隔くらいで定刻通りやってくる。学校も一クラス三十人くらいで五クラスあって同世代の子供も多い。

 家は決して裕福とは言えないが、一般家庭の枠に収まっており、ひもじいと感じることはなかった。

 それでもやはりわたしは孤独……いえすいません白状します。ぼっちなんですわたし。

 

 人に話しかけるとか怖すぎるし。周りとズレたこと言って引かれたりしないか心配だし。本当に引かれたらもう立ち直れないし。

 人の顔色を窺い過ぎて逆にもう顔を碌に見て話せないし。常に下を向いて生きています。

 

 いつからこうなったのか。原因は分かっている。わたしの名前だ。

 わたしは自分の名前が嫌いだ。最初は響きがカッコいいと思っていたが、由来というか意味を知って絶望した。

 これが両親がつけた名前なら反発するか、開き直って親からの愛情の形だと受け入れることが出来ただろう。しかしわたしはウマ娘だ。この名前は異なる世界のなにかから受け継いだものだ。

 誰だよこんな名前を送ってきたやつ……神か? 神を滅ぼせば改名できる? いや無理でしょ。

 

 名前を聞かれ、答えて、「あーそれって○○って意味でしょ? 面白い名前だね!」 はい今わたしのメンタル砕けたー! そっちにそういう意図ないけどわたしの心に消えない傷がついたー! こんな感じでわたしはどんどん卑屈に、根暗になった。

 

 最初はマシなウマ娘になろうと頑張ったんですよ。

 でもやがて気づいたんです。気づいてしまった。わたしの変化なんて特に誰も求めていない。元気で明るくて陽でポジティブなわたしの需要なんてなかったのだ。

 わたしの瞳はアスファルトと家のフローリングだけを映して生きていくのだ。

 

 そう、思っていたのに。

 

 当時十歳だったわたしの決意は、お父さんが見ていたウマ娘レースの中継で覆された。

 

『ブルボン先頭! ブルボンが先頭! ミホノブルボン、見事日本ダービーを逃げ切った!』

 

 見てしまった。魅せられてしまった。

 星のような輝きにわたしは胸を撃ち抜かれ、魂レベルで魅了されてしまったのだ。

 

「お父さん……」

 

 気づけば声に出していた。

 

「わたし、日本ダービーに出たい……!」

 

 その(のろい)両親は心から応援してくれた。

 それからは柄にもなく頑張った。中央のトレセン学園に入るために勉強も、トレーニングも。

 お母さんもお祖母ちゃんもウマ娘だけど、レースになんて出たことないから家にはコネもノウハウもない。何もかもが手探りだった。

 一生分、いや六生分くらい頑張った。頑張って、頑張って、吐いて、削って、頑張って、そして───

 

「ごう……かく? わたしがトレセン学園に? 本当に?」

 

 嬉しかった。

 生まれて初めて自分の努力が実ったのだ。わたしは、やればできるウマ娘だったのだ。

 嬉しすぎて弟にキスしまくった。ネコが近寄ってこなくなるくらいウザがらみした。

 ハイテンションのままに外に飛び出した。久しぶりに見る空は透き通るような晴天で、見慣れたアスファルトすら宝石のように輝いて見えた。世界がわたしを祝福しているかのようだった。

 

「やった───やったんだわたし!」

 

 始まるのだ。日本ダービーを目指してトレセン学園に通う日々が。

 グッバイ陰キャな自分。アリーヴェデルチぼっちなわたし。

 これからわたしはトレセン学園で青春を送り、陽の者へと生まれ変わるのだ!

 

 

 

 そしてテンション上げ過ぎたわたしは体調を崩し、入学は三ヶ月ほど先延ばしになった。

 

 ふははははははは……! /(^o^)\ナンテコッタイ

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ふ、ふふふふふふ……わたしってほんとバカ……」

 

 あれほど願ったトレセン学園への入学だというのに、今わたしの胸中は後悔と絶望に満ちていた。

 わたしが立つのはトレセン学園の校門。この向こうでは全国どころか海外からも集まったウマ娘たちが、トゥインクルシリーズで活躍するために切磋琢磨しているのだ。

 あゝ無情、新入生を迎えるために植えられたであろう桜には桃色の花弁ではなく緑の葉が生い茂っていることが、既に春が終わった現実を突き付けてくる。

 世界中からウマ娘が集まるトレセン学園。故に入学に合わせて人間関係がリセットされる学生がほとんどだ。

 地元で友達皆無のわたしも、ここでは心機一転して頑張れば友達ができるはずだった。地元からトレセン学園を受けた子はいない。この学園に、陰キャぼっちのわたしを知っている子はいない。

 なのに、

 

「三ヶ月……他の同級生よりも三ヶ月遅れての入学……終わった、わたしの青春終わった……!」

 

 三ヶ月、いや入学して一週間もすればクラス内ないし同級生間でコミュニティが形成されるものだ。即ち、わたしが友達を作るためにはすでに出来上がったグループに飛び込んでいかなければならない。

 ……いや無理でしょ。無理ゲーだわ。難易度ルナティックだよ!

 ああ、中等部高等部通してのわたしの青春は暗黒で終わるのだ。

 ……帰ろうかな。帰りたい。いや無理か。お母さんたちすごい嬉しそうだったし。友達作る自信ないから入学やめて帰ってきましたとか子どもが言ったら親泣くよ。

 お母さんたちを悲しませたくはない。でも、わたしには一歩が出ない。

 だめだなあわたし……。

 

「ちょっと、そこのアンタ!」

「え、ええ!? わ、わたし……!?」

 

 突然声を掛けられ飛び上がるわたしの目には、校門の方からやってくる二人のウマ娘が見えた。

 片や今声を上げた褐色のウマ娘、片やその様に苦笑する短い黒髪のウマ娘。誰かは分からなかったが、先輩であることは間違いない。自然と背筋を正した。

 

「アンタだね、入学が遅れていた新入生ってのは!」

「は、はいい!!」

「ほらヒシアマ。そんな圧かけたら可哀そうだよ」

「む、そんなつもりはないんだけど……怖がらせたなら謝るよ、ゴメンな。アタシはヒシアマゾン。アンタが入ることになる美浦寮の寮長をしているから、困ったことがあったらアタシにいいな。

 それでこっちは───」

「栗東寮の寮長をしているフジキセキだよ。ようこそトレセン学園へ。歓迎するよ、ポニーちゃん」

「ポ!?」

 

 まさかの呼び方!

 綺麗な手が私の頬を撫でる。……あ、ええ臭い。

 わたしには分かる。このヒトは陽キャだ。光の世界に住み続けた、まさにわたしとは異なる世界の住人。わたしに対する超特攻持ちだ。

 さらにはマニッシュな顔立ちと甘く綺麗な声。相反するされど愛される要素が融合され放たれる陽キャオーラはまさしく極大消滅呪文(メドローア)……!

 

「ぐわあああああ──────ッ!!!」

「ど、どうした新入生!? 新入生───!!」

「ポニーちゃーん!?」

 

 先輩の前で絶叫の末に気絶というあり得ない惨状をぶちまけて、わたしのトレセン学園での生活は始まった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ふわぁ……」

 

 教官の退屈な話を聞いていたら欠伸が出かけた。隣にいたスカーレットが睨んできたので何とか嚙み殺す。……ったく、自分もつまんねーと思っているくせに相変わらず外面の良いウマ娘だ。

 俺たちがトレセン学園に入学して早三ヶ月。クラスメイトとは互いにしのぎを削り、学年を超えたライバルたちとは激闘を繰り広げる。そんな熱い学園生活を想像したが、思った以上にトレセン学園は平穏で退屈だった。

 考えてみれば仕方ない。トレセン学園は世間的に言えば歴史ある名門校だ。所属するウマ娘の多くは名家や旧家出のお嬢様。もしくは学園側が海の向こうでスカウトしてきた留学生だ。そりゃ品行方正、いい子ちゃんばかりなのも頷ける。

 当然俺みたいに一般家庭の出でも実力で入ってくるウマ娘もいる。が、俺のように熱い青春を求める奴は少数派だった。

 今日も教官が十把一絡げに組み上げたトレーニングメニューをこなした。地味で退屈な基礎トレだ。大切なのは理解できるけど、こんなの皆入学する前にやり飽きてんじゃねーの?

 締めに模擬レースがあるのが救いだった。まだデビュー前の俺たちだが、レースとなれば多少なりともトレーナーたちが見に来る。ここで一発大活躍して、トレーナーやチームにスカウトされてこんな退屈なトレーニングからおさらばしてやる!

 と意気込んでみたものの、教官が提示したコースは1,400mの短距離と1,600mのマイルの二択。まだ体が出来上がってない俺たちに長い距離は無理だという、これまた教科書通りの指示だった。

 俺だっていきなり長い距離をデビュー済みの先輩たち並に走れるとは思ってないさ。でも俺たちの夢は皆日本ダービーやオークス、天皇賞や有記念だろ? ここで一回走って

自分に何が足りないとか見極める時間にしてもいいんじゃねーのって思うんだよな。

 

「あ、あの……!」

 

 教官の話も終わり、希望コースに分かれようという時、怯えたように震えた声とともに手が上がった。

 手を上げたのは、栗毛の髪を首筋のあたりでバッサリ切った髪型のウマ娘。知らないウマ娘だ。いやクラス混合のトレーニングだから別クラスのやつがいたらまだ分からなくて仕方ないんだが。

 

「どうしましたか?」

「え、ええと……その……に……2,400m走ってみ、みたいんですけど……」

「……どうしてですか?」

「に……日本ダービー、で、でで出たいので……!」

 

 頭をぶっ叩かれた気分だった。

 日本ダービー、一生に一度しか出られない、いや出ることすら狭き門。レースを走るウマ娘が一度は夢見る優駿の舞台。このお行儀の良い集まりの学園に、それに出たいと臆することなく言い出すウマ娘がいるなんて……!

 

「……気持ちは分かります。ですが皆さんはまだデビュー前、2,000m以上の距離はまだ身体がついてこれないでしょう。慌てることなく本格化が進むのを……」

「待ったー! 教官つまんねえことは言いっこなしだぜ!」

「ちょ、ちょっとウオッカ!?」

 

 スカーレットが止めるのも聞かず、俺は立ち上がっていた。

 周りが注目する中、ズンズンと教官に歩み寄る。

 

「ウオッカさん……」

 

 教官は呆れ顔だ。俺が普段からトレーニングメニューに不満たらたらなのはお見通しなのだろう。

 

「俺も2,400m走るぜ! 今の実力を測るくらいいいじゃないっすか! せめて他に希望者がいないかくらい聞きましょうよ!」

 

 退屈なトレーニングを強要する教官だが最低限の敬語は忘れない。どんな時でも年上への礼儀を欠かすなというのは父ちゃん母ちゃんからの言葉だ。

 

「しかし……」

「私も走ってみたいです!」

 

 援護射撃が来た。スカーレットからだ。外面優等生のコイツは何かと学園側からの覚えがいい。普段はいけ好かないが、今だけは感謝しておく。

 

「……わかりました。では2,400mか2,000mを走ってみたい子は申し出てください。ただし、無理はしないこと。スタミナが持たないと思ったらすぐに走るのをやめてください。

 ウオッカさんも、いいですね?」

「おしっ! 分かりました!」

 

 教官がついに折れた。折角のチャンスを作ってくれた栗毛に礼でもと思ったが、すでにソイツは輪から外れて一人ストレッチしていた。

 ……愛想のないヤツだ。いや、ストイックってやつなのか?

 

 

 

 結局、2,400mを走るのは俺とスカーレットと言い出しっぺの栗毛を含めて八人になった。もしかしたら本番の日本ダービーもこのメンバーで走るかもしれない。……いや、スカーレットはオークス行くから違うか。

 レースとはいえまだデビュー前なのでゲートはない。ヒトの陸上競技と同じく引かれた白線の手前に立ってスタートの合図を待つ。

 

「へへ……!」

 

 思わず笑ってしまう。

 何と言ってもこの八人は教官の言いつけに逆らって、ダービーと同じ距離を走ろうなんて言うアウトローどもだ。退屈だって学園生活に花が咲いた気分だ。

 ……流石に俺だって今の実力で先輩たちみたいなレースができるなんて思ってない。でもそれはみんな同じだろう。だから条件はイーブン。ハンデ無しの、あとから文句なしの真剣勝負だ。

 スカーレットも、他の連中もそのつもりだろう。燃えてきた。その気概のある連中の中で、俺がトップに立ってやる!

 

「位置について、よーい……スタート!」

 

 振り下ろされるフラッグを合図に走り出す。真っ先に飛び出したのはやっぱりスカーレット……じゃない!? スカーレットよりも前を、あの栗毛が走っていた。

 しかもぐんぐんと前に行く。一人であっという間に1,000mの標識を超え、俺はもちろん、スカーレットとの差はなお広がっていく。

 正気か? 2,400mだぞ? そんなペースが最後まで持つわけない! サイレンススズカ先輩の真似でもする気か!?

 あり得ないと、もつわけがないと断言できる。しかし、どこか頭の片隅でもしかしたらと考える俺がいた。それはどうやら他の六人も同じようで、ジリジリとペースを上げている。このままでは俺もバ群に沈むので加速するしかない。

 

 ついに、あの栗毛は一人で最終コーナーに突っ込んでいく。ペースが落ちる様子はない。行くしかない。アイツのスタミナが最後まで保とうが保つまいが、ここで仕掛けないとこの十を超えるバ身差は差しきれない!

 

「負けるかああ!」

 

 バ群を抜け、スカーレットを抜き去り、残るはアイツだけ。

 最終コーナーを抜けて最後の直線。栗毛との距離は縮まってきてる。スタミナは大したもんだが、やはりトップスピードは俺の方が上だ。このまま一気に───

 

 一気に抜き去るには、最後の直線は短すぎた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 後ろで誰か叫んだ気がする。

 誰だろうと思って、すぐに誰でもいいかと思い直す。

 わたしの前には誰もいない。隣にも、おそらくすぐ後ろにも。

 自分で言うのも何だが、それなりのスピードを出せているのではないだろうか。

 風景は線となり、外界の音も置き去りにした。

 聞こえるのは心臓の鼓動、肺の収縮、息遣い、血の潮流。わたしの世界が、わたしだけで満たされていく。

 気持ちがいい。安心する。誰にも害されず、誰も害さない。

 やはり逃げは好きだ。

 転機となったダービーを勝ったのが逃げウマ娘だったのもある。適正の都合もある。それでも、わたしは逃げが好きだった。

 周りを気にしなくていい。位置取りも、ペース配分も、仕掛けどころも自分の思うがまま。それで勝てればみんなが拍手喝采だ。

 

 そうだ、逃げは孤独(ぼっち)を誇りに変えてくれる───!。

 

 そしてわたしはゴールした。確認するまでもない。わたしが一着だ。

 火照った身体を風で冷まし、落ち着いた頃にようやくみんながゴールした。

 膝を抱えて満身創痍な七人が、化け物をみるような目でわたしを見てくる。やめてほしい。みんなより早くゴールしたから息を整えられただけで限界ギリギリなのは同じなのだから。

 

「お……おまえ……」

 

 膝ガクガクの息たえだえのウマ娘がわたしを睨んでくる。やめてくれ、その視線はわたしに効く。

 よく見れば、2,400mを走りたいと言ったわたしに賛同してくれた子だ。ごめんなさい。名前知らなくて。

 位置的に二着だったのだろうか。となると終盤わたしの耳に届いた声は彼女のものだったのかもしれない。

 

「おまえ、なんて名前だ」

「え………」

 

 文句言われるよりも辛い質問が来た。

 

「俺は……ウオッカだ」

 

 黙っていたら向こうの方から名乗ってきた。そうか、ウオッカさんっていうのか。

 ……あれ、これわたしも名乗らないと超無礼な空気では? 言わなきゃダメ? ダメだよね。

 意を決し、口を開く。

 

「わ、わわわたしは……」

 

 声が上ずった。普段から他人と会話しないからだぞわたし。

 

「ド、ド、ドレーシュティフト……です」

 

 そう。

 わたしの名前はドレーシュティフト。ドイツ語でシャープペンシルなんて名を持つウマ娘。

 

 これは、どこからかそんなふざけた名前を受け継いでしまったぼっちで陰キャなわたしが日本ダービーを目指す物語。

 

 目下最大のライバルは───ウオッカ。

 多分。

 

 

 

 




オリ主がウオダスの間に挟まることに気づいたので続きません。

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