元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
1 目覚めたらウマ娘
朝起きて、ウマ娘になっていたら、人はどんな反応をするだろうか。
私は
「なんじゃこりゃあああああ!!!」
思わず叫んだ。
朝起きたらウマ娘になっていた。
なぜウマ娘になったか、などということはまるで分らない。
わかることは、昨日までヒト男性だったはずが、何の前兆もなくウマ娘になっていたということだけである。
心当たりになるようなことは何もなかった。
目が覚めてすぐには自分の変化に気づかなかった。
なんとなく上半身が重いな、と感じた程度だ。
一度伸びをして、万年床から立上がろうとしたとき
「おっと?」
思わず前に転びそうになった時に違和感が強くなった。
最近仕事が激務であり、疲れが抜けてないのかな、そんなことを思いながら自分の体を見下ろすと……
そこにはでかい肌色の塊が二つあった。
寝起き直ぐの頭では、これが何か理解できなかった。
寝巻代わりのシャツの前側をビリビリにぶち破って飛び出る肌色の大きな塊である。
思わず両手で、下から救い上げてみる。
ぶにゅ、と柔らかい触感とともに、肌色の塊が揺れる。
手で持ち上げてみると、ずっしりとかなりの重量感がある。
頭が働かないまま、少しの間、その塊を持ち上げたり下げたりを繰り返す。
そして少しずつ頭が冴えてきて……
「なんじゃこりゃあああああ!!!」
太陽に向かって吠える勢いで思わず叫び声をあげてしまった。
自分の状況を確認するべく、慌てて洗面台に飛び込む。
鏡に映ったのは、いつもの冴えない中年男性ではなく……
「なに、これ……」
真っ赤な長い髪をした、ウマ娘であった。
思わず自分の顔をぺたぺたと触る。
全体的に柔らかく、ひげも何も生えていない。
鏡の中のウマ娘も、自分と同じように顔をぺたぺた触っていた。
夢だと信じたくて頬を思いっきりつねったが、とても痛い。夢ではない様だ。
認めたくないが、この鏡に写っているウマ娘が今の自分なのだろう。かなり衝撃的である。
ひとまず現状確認をしなければ。必死に冷静になるように自分に言い聞かせながら、鏡に映ったウマ娘を観察する。
顔は、ウマ娘であることを考えても非常に美人である。つり目で赤い瞳から気が強そうな印象を与えそうだが、それがまた美人な雰囲気を強めている。
髪の色は真っ赤だ。一応分類的には栗毛、に含まれるのだろうか。何にしろ既存の毛色にとらわれないといわんばかりの真っ赤な髪であり、それが腰を超える長さまで伸びている。起きてそのままなためかボサボサである。
体格は、非常に立派だ。腿あたりを触ったときに、思わず
「ふっといトモだな」
と思わず漏れるぐらい、立派な太ももである。
ほかにも張り出した立派な尻に、何もせずに下を見るとつま先すら見えなくなる立派な胸である。
腰は締まっているが細すぎることもなく、しっかり体幹を支えられるだけの太さがある。
端的に言えば、ボクの考えた最強のウマ娘、の体だった。
自分の体だから問題ないということを自分の言い訳しながら、思わず体中を撫でまわしてしまっても罪ではないだろう。
一通り自分の体を撫でまわして、満足し、ふぅ…… と息を吐く。
興奮しすぎて体中が火照っていた。
そうして何気なく、時計を見て……
「やばっ!!」
時間がないことに気づいた。
今日は朝から約束があった。
前に担当したウマ娘、アグネスタキオンがトレーナー試験に合格したので、チームルームに挨拶に来るのだ。
初めての担当であり、一番優秀だった担当であるタキオンとは、卒業後も交流が続いていたが、ここ数か月会っていない。だがきっと今日はご機嫌だろう。
せっかく合格して気分がいいところだろうに、自分のせいで待ちぼうけさせた上で悪い気分にさせてしまうのはかわいそうである。
本当は現状を確認するためにトレセン学園の運営に連絡したり、同僚に助けを求めた方がいいのかもしれないが、そんなことより愛バ優先である。
ひとまずさっさと着替えねば。
クローゼットを漁り、いつもの服を取り出した。
私の外出着は同じものを5着そろえている。おしゃれでも何でもなく、単に面倒なので組み合わせなどを考えなくていいように、である。年を取った中年男性など、サイズもほぼ変わらないから、同じものを5着も買えば大体済んでしまう。
濃い黄色のシャツに白いパーカー、黒いスラックスの組み合わせである。
タキオンの勝負服と同じようなカラーリングの服にしたらタキオンが喜んだので、それからはずっとこんな組み合わせの服を着ていた。
まずは黒いスラックスを履こう。おそらく男性もので似合っていないし、脚の長さも足りなさそうだが仕方がない。
そんなことを考えながら脚を通したのだが……
どうしても太腿で突っかかる。
もともと私は男性としても大柄であった。だからいくら体格が良くなったといってもそれはウマ娘としてのモノであり十分着られると思っていたのだが、予想以上にこの体の太腿は太かった。
太腿の真ん中あたりからズボンが上がらない。
「くおんのぉおおおお!!」
しかし、裸のままで外に出るわけにもいかない。
焦った私は脚をズボンに通そうと力を入れて引っ張ったら……
ビリっ!!!
ズボンの太腿部分が破けてしまった。
残ったのは無残に破けたズボンのみである。
「太腿、太すぎだろ……」
男性用でも入らない太腿とか、どんだけ太いんだ。
ウマ娘にとってトモが立派なことは恥じることではない。
実際自分がトレーナーとして、こんな立派なトモを持っているウマ娘を見つけたら、必死にスカウトするだろう。
だが、今この時点では、このぶっといトモのせいで、着る服がないという大ピンチに陥っていた。
他の服があればいいが、残念ながら私が持っている外出時に着れる服は、全く同じものが5着あるだけだ。
私生活で出かけるときもこの服だったし、何ならトレーナーとしての活動ばかりしていて、休日は家で寝ているだけなのでこれ以外の服がまるでない。
ズボンは駄目だと発覚したが、上の方はどうだろうか。
シャツを羽織り、前を閉じようとするが……
「こっちも全然閉まんねえ」
胸が大きすぎて胸のところのボタンを掛けられない。
圧倒的に大きな乳房が、シャツの中に納まってくれない。
もっとも、首元と胸の下はボタンを掛けることができる。
そこだけ止めれば、胸の谷間は見えても先は見えないしぎりぎりセーフだろうか……
そう思ってシャツを着た状態で鏡の前に立ってみたのだが…… 全く以って大丈夫じゃなかった。
色々シャツ越しに浮いている。
こんな格好で歩いたら警察を呼ばれる。自分だって、こんな服装のウマ娘がうろついていたら、事件を疑って警察を呼ぶ。
これに白いパーカーを羽織っても、裸パーカーに毛が生えたような格好にしからならず、やっぱり外に出れない服装であった。
これはどうしようもない。誰かに助けを呼ぼうかと思ってスマホを手に取り操作しようとして、ふと手が止まる。
誰を呼べばいいか。
同期のトレーナーのうち男性陣は論外だ。ほとんど全裸のこの格好を見せるわけにはいかない。
男性トレーナーなんて言うものは皆紳士的で鋼の意思を常備しているが、性欲などがないわけではないことはよく理解している。
こんなクソみたいな状況を見せても情緒が壊れるだけだし、持ってる服なども自分と似たり寄ったりだ。役に立つことはない。
じゃあ女性トレーナーならいいかと言われるとそれも微妙である。
そもそも同僚のトレーナーの部屋に半裸のウマ娘がいたら、どう思うか。
まず警察を呼ぶ。私でも呼ぶ。もしくはたづなさんを呼ぶ。どっちにしろ社会的に終わってしまう。
特にたづなさんを呼ばれた日には、おそらくもう、日の目を見ることはないだろう。警察を呼ばれた方がまだましである。刑期を終えれば出てこれるし……
そう考えると他人に助けを呼ぶということもできない。
自分一人で、時間以内に部屋の中にあるものでどうにか服を見繕って、チームルームに向かわないといけない。
ひとまず収納ボックスの引き出しを開ける。
男性用ボクサーパンツが出てくる。脚を通せば、伸縮性が高いのでどうにか着ることができた。
とはいえ、ウエストは両腕が入るぐらいぶかぶかで、太腿は ミチッ と音を立てそうなぐらい引き延ばされているが……
次に出てきた靴下もかなり緩いが履けないことはなかった。
だが、着れそうなものはそれだけだ。
次の棚には寝巻代わりに来ているインナーシャツが出てくる。
試しに着てみるが、胸でつっかえた。そもそもさっき起きた時に胸の部分がはじけ飛んでいたのを考えれば、着れるはずがない。
一番下のボックスには、防寒用の手袋や毛糸の帽子なんかが入っている。これで全部だ。
つまり、パンツと靴下と手袋とマフラー、そして毛糸の帽子のウマ娘が爆誕した。
一応、鏡で自分の姿を見てみたが、全く以って駄目である。というかパンツもウエストが緩すぎてずり下がっている。すべてがダメだった。
こうなったら、バスタオル体に巻くか、そんなことを考えながら、収納ボックスをひっくり返すと……
バサッとトレセン学園の冬の制服が出てきた。
もともとの持ち主はタキオンである。
どうしてこれを私が持っているかというと、少し前、タキオンが部屋に遊びに来た時の出来事に原因があった。
20歳を超えてお酒が解禁されたタキオンが、酒を飲んでみたいが失態を犯すのが怖いというので、私の家で酒を飲むことになったときの話である。
一口で真っ赤になって酔っぱらったタキオンが、なぜか持ってきていた制服に着替えて「ほら、まだまだ現役でも行けると思わないか?」などと言いながら引っ付いてきた挙句、飲もうとした酒を盛大に零して頭から被ったのだ。
その時はタキオン自身を風呂に入れて着替えさせて、制服の方は預かって洗濯したのだが、その制服を返し損ねていたものである。
これなら、着れるだろうか。
いろいろ問題があるのはわかっている。
そもそも新品ではなく教え子の制服である。洗濯済みとはいえ、着るのはいろいろやばそうだ。
サイズの問題もある。目測だがタキオンより今の体の方が身長が高い。体つきも一回り豊満そうだ。
だが、これでなければバスタオルマフラーで外に出るしか選択肢が無くなる。
意を決して私はタキオンの制服に袖を通すのであった。
意外なことに、タキオンの制服を着ることができた。
下半身はスカートのため、太腿の太さが問題にならない。ズボンの時のように太腿が通らない問題は発生しなかった。
もっとも、下着はないのでノーパンであり、かなり心もとない。制服はもともと膝上10cmのスカートだし、サイズの差のせいで実質膝上15cmぐらいになっている気がする。かなり慎重に動かないと見えちゃいけないものが見えてしまいそうだ。
サイハイソックスも、少しきつくて太腿のところが食い込んでいるが、行動に問題があるレベルではなかった。
上半身についてはかなりぎりぎりである。
タキオンよりも今の体の方が胸のサイズがあるらしく、ぱっつんぱっつんである。
もっともウマ娘のパワーに耐えられる制服のため、胸の圧力で服がはじけ飛んだりはしない。
ただ、胸のきつさに加えて丈の短さも相まって、へそ出し状態になっていた。
いろいろ問題はありそうな格好だが、まあ、外に出られなくはないレベルであろう。
実際入学後、成長してしまい制服がきつくなってしまったウマ娘は、ここまでひどくはないにしても時々いる。
タキオンに申し訳ない気持ちになりながら、時間を確認するともう約束の時間に間に合うか間に合わないか、という時間である。
部屋のカギと財布をもって、私は意を決して部屋から出てチームルームへと向かうのであった。