元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
トレーニングとそのあとの検討が終わったので帰りがけに買い物に寄ることにした。
まだお昼前なので、今から買い物をして帰ればお昼を作る時間もあるだろう。
学園を出てすぐ、府中駅近くにあるウマ娘向けのスーパーに向かう。
「こういう店に来るのは初めてだね」
「タキオン、ここ最近どんな食生活してたの?」
「……」
タキオンは目をそらした。
まあ先日の測定で体重も減っていれば体格も一回り小さくなっていたのだから、そこそこ不摂生していたのではないかと思う。
大学に通学中は週6回ぐらいは食事を作りに行ってあげていたし、最低限食べていたはずだが、試験前は集中したいということで全く会いに行かなかったのだ。
学園で知り合ってからあそこまで長時間会わなかったのは初めてだろう。
スレンダーなタキオンの今の体型は正直かなり好みだが、それはそれであり、タキオンにはもう少し太ってもらいたいところであった。
ウマ娘向けスーパーと言えども普通のスーパーとそう大きくは変わらない。
ただ、売っている一つ一つの単位がすごい大きいだけである。
なので、人数が多い家族だとヒトでもよく利用する場所であった。
「今日はどれくらい買う予定だい?」
「大体一週間分かな。鮮度が必要なものはまた追加で買うけど」
大体の食材は1週間程度は持つし、それくらいの期間は見てもいいだろう。それ以上の量を買おうとすると家での置き場に若干困りそうだし……
この体になってから予想以上に食欲がわくし、タキオンもウマ娘にしては食が細いが一般人と比べたら十分食べる方なので、かなりの量になると思う。
学園出てからタキオンが離してくれないので二人して恋人つなぎで手をつなぎ、スーパーに入る。
籠を乗せたカートを片手に移動し始めると、人参コーナーがさっそく登場する。
「タキオン、好みのニンジンとかある?」
「ニンジンの違いなんて分からないよ…… 普通のでいいんじゃないかい?」
栄養面に関しては非常に興味を持つタキオンだったが、味に関してはいまだあまり興味がないようだ。
ニンジン自体はウマ娘にとって必要な栄養素が多いので、必須に近い食べ物だから買うのは確定だが……
幸い試食コーナーがあるので、味の違いを試してみるのもできそうだ。
「ほら、試食してみればいいじゃないか」
「えー、めんどくさい。この金時とか言うのがいいんじゃないかい?」
「それ、甘そうだから選んだだろタキオン……」
金時芋とか宇治金時とかそういうものの連想から選んだんだろうと思われる。
甘党のタキオンらしい選択だが……
「金時は坂田金時、金太郎からとってるだけだから、甘いとは限らないぞ」
「ふむ、ならどうしてこれもサツマイモも金太郎からとってるんだい?」
「坂田金時はいつも顔が赤いっていう所からとってるんだろう。このニンジンだって真っ赤だし、金時芋は紅赤っていう名前の品種で皮が真っ赤だからね。餡の金時も赤インゲン豆からきているはずだし」
「トレーナー君はいろいろよく知ってるよね」
「雑学に詳しいだけだよ」
「しかし、トレーナー君にそこまで語らせたんだし、やはりこのニンジンにしよう」
普通のニンジンは、10kgで2000円もしないが、このニンジン、和野菜だけあってその倍以上、10kgで5000円もする。ちょっとビビる価格なのだが、タキオンは躊躇無く10kgの箱を持ち上げるとカートの下に置いた。
さすが根がご令嬢のタキオンである。いやまあ、私もタキオンも自分の資産だけで一生食っていけるだけあるし、トレーナーの仕事だってそこそこ給料がいいので、タキオンの方が正しいのかもしれないが…… 貧乏性はなかなか治らなかった。
「ほかの野菜は…… やっぱり体にいいものは買っておこう。まずはブロッコリーかな」
「タキオン、買ったら食べるんだよ?」
「……」
タキオンがブロッコリーを手に取り悩み始めた。
ブロッコリーは栄養価が高いのは間違いないが、タキオンはあまり好きじゃなかったはずだ。お弁当に入れても「トレーナー君、あれはパセリだから食べなくていいんだよ」という謎理論で残して帰ってくることが多かった。
栄養豊富だから食べるべきという理性と、嫌いという感情が戦っているのだろう。
「こっちのスプラウトにすれば? サンドイッチに入れれば食べられるでしょう」
「ふむ、トレーナー君が言うなら」
ブロッコリースプラウトを差し出すと、タキオンはそちらに飛びついた。
カイワレ大根的な見た目だが、こっちならばタキオンもあまり苦労なく食べられるだろう。
「あとはリンゴだね。1日1個のリンゴは医者いらず、なんていうし」
「リンゴかぁ……」
「おや、おやおやおや、トレーナー君も嫌いなものがあるんだね」
「そりゃ多少はあるよ。まあリンゴは嫌いじゃないんだけど、シャキシャキ感がないものは駄目なんだよね……」
大量に買うと最後の方はフカフカなリンゴになるだろう。それが個人的にはあまり好きではなかった。
まあ甘く煮ればいいのだろうが……
「なるほど、まあひとまず1箱は買おう。余ったらアップルパイにしておくれ」
「タキオンが食べたいだけじゃん…… 後アップルパイはカロリー高いからあんまり作らないからね」
パイはバターと砂糖の暴虐なのでおいそれと作れるメニューではなかった。
まあ甘煮でもいいだろう。おいておけばタキオンが食べるだろうし。
パイを一から作るのは大変なので、あとで冷凍のパイシートも買っておこう。
「あとはモヤシかな」
「タキオン、モヤシは1日しか持たないから大量に買っちゃだめだよ」
「ふむ、そうなのか。確かに賞味期限が短いね」
「ナムルとかにすれば数日は持つけどね…… ひとまず今日はいらないかな」
「じゃあこれだ、ホウレンソウ」
「ホウレンソウは嫌でなければ冷凍を買おうよ。日持ちするし栄養的にも冷凍の方がいいし」
「そうなのか。味は気にしないからどちらでもいいよ」
モヤシやホウレンソウを自分で冷凍してもいいのだが、正直結構手間である。
特にホウレンソウは冷凍食品があるので、そっちを買えばいいだろう。栄養的に見ても冷凍食品の方が適切に調理され早い時期に冷凍されているので高いといわれている。
「あとは日持ちするジャガイモと玉ねぎを買って……」
野菜コーナーを一通り回ったが、かなりの量になってしまった。
野菜だけで1箱とか買うものだから、野菜を見繕うだけでカートがいっぱいになってしまったのだ。
日持ちする物か、確実に食べられる量を買っただけなのだが…… まだまだ買うものがあるが、一体どうするか……
「うーん、結構な量になるね」
「さすがに二人で運ぶのは難しそうだね。実家からメイドでも呼ぶか」
「メイド!?」
「東京の方の屋敷には何人かいるはずだから、お願いすれば来てくれるはずだよ」
「ご実家に頼りっきりは良くないし、自分たちでどうにかしたいかなって思うんだけど」
驚愕、恋人の実家には何人もメイドがいる。
というか東京の方の屋敷って、屋敷が幾つもあるのか。アグネス家は拠点が大阪だった記憶があるし……
ちょっと経済的な感覚の差の大きさを感じてしまった。
ひとまずメイドを呼ばれる前に、どうにかしよう。
少し見回すと、サービスカウンターで配送サービスをやっているのを見つけた。
ウマ娘たちの食欲はすごいから、大量に買う人も多いのだろう。
自分で運ぶのは重さだけなら問題ないが、量が増えると体積の問題が出てくる。
そういうのもあって配送サービスをやっているのだろう。
ひとまず段ボール何箱にもなりつつあった野菜をカウンターに預け、私たちは次のコーナーに向かった。
「トレーナー君、納豆だよ納豆」
すでに健康オタクみたいな動きになっているタキオンが次に見つけたのは豆類のコーナーだった。
そこで納豆を見つけて楽しそうにしている。
だが、タキオン、大問題があるんだ。
「ごめんタキオン」
「? 何がだい?」
「私、納豆だけは駄目なんだ……」
隠してもしょうがないから白状するが、納豆だけは食べられない。
発酵食品とか、臭いがするとか、そういうのも基本平気なのだが納豆だけは克服ができなかった。
「えー、でも、納豆は体にいいんだよ」
「メンタルヘルス上非常に悪いので私にとっては毒と同等だ」
「そこまでいうかい!?」
「見るのも嫌っていうわけではないから、食べてみたいなら買ってもいいけど」
「むむむ」
タキオンは少し悩んだ後、納豆を置いた。
「スカーレット君が嫌いなら、納豆食べた後しばらくキスが難しそうだ。やめておくよ」
タキオンの発言に私はひどく赤面する羽目になるのだった。
「でも、スカーレット君は、大豆もいっぱい取ったほうがいいと思うんだ」
「大豆?」
「イソフラボンは女性ホルモン類似の働きをするからね。女性らしい体を作ってくれるし、ウマ娘にとっては体を作る重要な要素だよ」
「タキオンは私に女性らしい体になってほしいの?」
タキオンが結構前から、それこそ学生時代から自分のことを好いてくれていたのは最近やっとわかってきた。
だからこそ、男性からウマ娘になった現状、女性らしい体というのがいいのか少し疑問に思った。
「私の趣味的には是非お願いしたいね。豊満なボディが私の好みだ。だが、スカーレット君が嫌ならそうじゃなくて構わないよ。私が好きなのはスカーレット君であって、その体じゃないからね」
「いや、女性的なものが嫌とかはないから大丈夫だよ。ただ、自分としてこうなりたいっていうのもあまりイメージできないし、タキオンがそう言ってくれるならそうなりたいかな」
自発性がない自覚はあるが、自分の理想像、というのがあまり想像できていない。
女性らしい体つきになったとしても、タキオンがそれがいいと思ってくれるならむしろそうなりたいし、タキオンが別の姿がいいというならそうなりたい。
タキオン任せなのは申し訳なさも感じるが、正直なところだった。
何にしろタキオンが豊満ボディを望むなら、それを目指すようにしよう。
「ふむ、じゃあ大豆はいっぱい取らないとね」
「きな粉とはちみつ買って、きな粉棒でも作るかい」
「ああ、トレーナー君が何度か作ってくれたあれかい。私は好きだよ」
「あとは豆腐とかでいいかな…… タキオン豆腐は嫌いじゃないよね」
「大丈夫だよ」
豆腐は鮮度に影響されるから今日の分だけ購入する。
近くの豆腐屋さんから毎日届けてもらえたら便利だし、あとでそういうサービスがないか確認をしよう。
「あとはお肉と魚かな」
「動物性たんぱく質は、やはり光物と言われる青魚がいいといわれているね」
「私はそれでいいけど、タキオン、生臭いの苦手じゃない」
「そうなんだけど……」
若干暴走気味なタキオンをたしなめつつ、お肉を選ぶ。
魚は、生臭くないものをどこかから取り寄せた方がいいだろう。鮮度が良ければ大丈夫かもしれないし。
鶏肉、豚肉、牛肉…… まあこれくらいだろう。
これで大体メインどころは選んだのだが、タキオンのテンションの上がりっぷりは止まることがなかった。
「トレーナー君、オリーブの実だよ!!」
「そうだね」
「栄養価が高いがまずいと有名だろう? 欧州の話だと寄宿舎なんかでどうやって残すか、みたいな話が出てくるじゃないか」
「味はそこまで不味くはないと思うけど…… 一瓶買ってみても大丈夫だよ。そのまま食べてもいいし、あまり得意じゃなかったらサンドウィッチとかに入れるから」
「トレーナー君! キムチは発酵食品で体にいいんだよ!!」
「タキオン、辛いの苦手だろう?」
「大人になったから大丈夫だと思うんだ! 学生の時とは違うんだよ!!」
「まあ、私は好きだから一つ買ってみようか」
「トレーナー君、ブルーチーズがあるじゃないか。洞窟に置いてあったカビたチーズが発祥だって言われているものだね。最初の人は良く食べようとしたよね」
「試しに買って見るかい? ワインなんかにも合うよ」
「ワインか、そうだね、トレーナー君と二人きりで楽しみたいね。ワインも体にいいといわれているし」
終始タキオンのテンションが高い。
よく考えたら、昔から出無精な一方で道具の買い物に行くとテンションが上がっていたからこんなものかもしれない。
あれやこれや騒ぎながら買い物をしていたら、それなりに時間が経ってしまった。
食材関係は全部配送にお願いする。今日のお昼遅い時間には届くとのことだ。
金額としては正直結構驚くものになっていたが、止むをえまい。
タキオン希望のワインとおつまみ、そしてお昼のお弁当をもって私たちは家に帰るのであった。