元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
さっさとジャージブルマに着替えてトレーニングコースに出ると、すでにクラスの半分以上の人数が揃っていた。
自分のトレーナーのところに行った子が減っているが、それでもかなりの人数が残っていた。
この子らは皆、担当のトレーナーはいるがレースからはすでに引退した子ばかりだ。
トゥインクルシリーズを引退した後は、ドリームトロフィーシリーズで走る子も居るが、大体はレース以外の道へと進む。
URAの職員を目指したり、家業を継いだり、それこそ色々である。
そうなると、それまではトレーニングに充てられていた午後の時間は、自由時間になる。彼女らは自分が目指す新しい夢のために勉学に励んでいるのである。
だからこそ、引退後は運動不足になる子も多い。
そういう子たちの気晴らしのためにも、こうやって一緒に走るのも悪くないかもしれない。
「ひとまず準備運動するよー」
「はーい」
「どんな準備運動だろう」
「GⅠウマ娘の準備運動だしきっとすごいのだよ」
タキオンの掛け声を聞いて他のウマ娘たちの期待が高まっていく。
GⅠに勝つウマ娘は、クラスに1人いるかいないかぐらいの数しかいない。
ましてや、タキオンのように何勝もするウマ娘など、1学年に1人いればいいほうだ。
おそらく現役時代を見ていただろう彼女らにとって、タキオンは憧れの相手であり、だからこそ期待が高いのだろう。
だが、すまない、そんな特別な何かはないんだ……
いつもはチームルームでやっているように、私は柔軟体操を始める。
まずは開脚前屈からである。
脚を180度に開き、そのまま前に倒れて地面に体をつける。
「うわ、スカーレット教官やわらかい……」
「柔軟性あげれば怪我しにくくなるからね。タキオンも現役時代はこれくらいできたよ。とはいえ最初から無理する話じゃないから、出来る範囲でやるといいよ」
タキオンにやれという以上、ウマ娘じゃないと無理なことでなければ自分もできないとと考えて、当時から二人で柔軟体操は繰り返してきた。
タキオン引退後もやってきたので、この体になってからも柔軟性は変わらず…… 今やってみると、むしろウマ娘になってからの方が柔らかくなった気がする。
タキオンの方は大学4年間サボり続けてただろうからそこそこ硬くなってそうだが……
「前屈もかなりいけます?」
「もう顔が膝にべったりくっつくまで行けるよ」
次に前後180度開脚を左右交互にしていると、生徒の一人が長座前屈の測定器を持ってきた。
段ボール製の簡易なものだがちゃんと測定できるし、良い記録が出ると学園の記録として掲示されたりするのだ。今の歴代トップは、ずいぶん前の卒業のトウカイテイオーだったか。
早速地面で長座の姿勢を取り、測定器を太腿をまたぐように置く。
うん、置いたのだが……
「太腿がつっかえる……」
「教官、トモに耕し君3号でも乗っけてます?」
「この測定器が小さいだけだよ……」
うん、トモが立派なのはそうだが、そのせいでツカえたとは信じたくない。
他の子が、笑いながら違う測定器を持ってきてくれた。
幅が広くなって今度は太腿がつっかえずに済んだ。
「トラブルはありましたが、今から記録更新しますよ」
「「「おー」」」
「てりゃー!」
生徒たちが見る前で、前屈を始める。
どんどん前に測定器が進んでいき……
ピタッとある点で止まった。
「ぐぬぬ……」
「教官?」
「もうちょっと…… もうちょっと……」
「教官、胸がツカえてますよね」
「うぐぐぐぐ」
予想よりも手が前に行かない。その理由は胸がつかえたからであった。
というか、この胸でかすぎんだろ。自分の体にキレたくなる。
どうにか気合で胸を押しつぶすが、やはり限度があった。
悪い記録ではないが、予想よりも全く結果は出ず、歴代記録には全然及ばない結果に終わった。
生徒たちは大爆笑であった。
「どうせだから各種測定をしよう」
タキオンの提案で、突発的な体力測定を行うことになった。
まずは各自軽く準備運動をしてから、長座前屈を和気あいあいと測定している。
3年生にもなると、かなり慣れているので、各自放置しても準備体操をちゃんとやってくれるのは助かる。
その次は、握力の測定である。
「ふぬぬぬ」
顔を真っ赤にして頑張る姿は可愛いが、その数値は全く可愛らしくない。
大体どの子も100kg前後はいく。リンゴが搾れるレベルである。
「あー、さぼってたから100kg行かなかった」とか言っている子に交じり、私も計測したが、残念ながら70kg代どまりだった。
ヒトの頃と比べてもそんなに変わっていない。
鍛え方が足りないか、まだ体が出来上がっていないか…… おそらく両方だろう。
「あら教官、お可愛らしいこと」
「なんだよそのキャラ付け」
「悪役令嬢? とかいうやつ。可愛いでしょ」
「変なキャラ付けしなくてもお前たちはかわいいよ」
謎のノリの生徒たちを適当にあしらいながら、次は上体起こしである。
1分間に何回腹筋ができるかというものであるが、100回できるとなかなか尊敬されるレベルの記録である。
タキオンに脚を押さえてもらい、早速始める。
1,2,3,4,5,6
体幹は強くなっているようで、繰り返してもそう苦しくはない。
とはいえ100回なんてとてもできず、50回止まりである。
単純な能力不足もあるが、なんというか体がまだうまく使えていない気がする。
ヒュンヒュンと、肩で風を切りながら上体起こしをしている子らに比べ、自分の体としての理解が足りていないのだろう。
まだ体への慣れが必要だな、と思いながら、私は次の測定に向かうのであった。
ハンドボール投げ、反復横跳び、立ち幅跳び
体力測定の項目を一つずつこなしていく。
生徒たちは皆ウマ娘のアスリートだから、誰もかれも記録がすごい。
ヒトではとても太刀打ちできないレベルである。
これが学園に入学したての子らだったら違うのだろうが、なんせ高校3年にもなると、ピークが過ぎ、体は安定してきている一方、レースを何度も経験することで体の使い方もかなり高いレベルになってきている時期である。
ヒトとしてはそれなりに鍛えており、ウマ娘としての体格が良くなった今の状態でも、やはりウマ娘としての力の使い方には慣れていないためだろう。私の記録はヒトの頃よりはいいが、彼女らには全く及ばなかった。
「ざぁ〜こ♥ ざぁ〜こ♥」
「今度はどんなキャラ付けだよ」
「えっと、メスガキさんとかいう感じ? ざぁ〜こ♥」
「ざーこ、しか語彙ないの? もうちょっとキャラ付けするにも語彙増やそうよ」
明らかに雑過ぎるキャラ付けをしている生徒をあしらう。
もうちょっと小馬鹿にしたようなキャラ付けなのだろうとは推測できるが、根がお嬢様でいい子ばかりのトレセン学園の子らには少し難易度が高いだろう。
何にしろ体力測定もほとんど終わり、最後の一項目、レースが始まろうとしていた。
トレセン学園のトレーニングコース芝2000mのレースにより、順位とタイムを計るのだ。
ゲートを使い、本格的にやるものであるのだが、参加者が多く33人にもなってしまった。古い時代のダービーのような状況である。
ゲートは並べれば足りるが、大外枠とかどれだけ不利なんだか。
まあ、正式な測定ではないしみんな楽しそうだからいいのだろうか。
「教官は多分一番遅いから一番内側ね」といわれ、1番のゲートをもらった私はさっそくゲートの中に入る。
狭いこの空間が苦手なウマ娘も多いが、別段なんてことはない場所だ。
ゲートに入り、スタートしたことは実は今まで何度もある。
タキオンにスタートを教える時にも実際に見本を見せたこともあるし、教官としてレース技術を教える際に実演したこともかなりの回数があったりする。
実際ヒト時代でも普通のウマ娘よりよほどスタート練習をしたことがあると思う。
若干嫌がる子も出つつ、まあ皆レースに慣れている子ばかりだ。
ゲートインにはそこまで時間がかからなかったようである。
スタート係のタキオンが旗を振り…… それを振り下ろした瞬間、ゲートが開いた。
ベストのタイミングで飛び出した私は、内ラチに沿ってまっすぐ走り、先頭を取る。
正直、生徒らに比べると今の私は実力不足だ。なんせ高校3年生。未勝利レベルで終わった子ですらかなり鍛え上げられ、極まっている。
現役の子らに比べれば衰えているのは疑いようもないが、まだデビュー前レベルの私と比べれば圧倒的に格上である。
競ったりしてもまったく勝負にならないのはわかっているので、先頭を切ってとにかく逃げる作戦をとることにしたのだ。
これなら最低限、自分の実力を出し切ることができる。そんな想定だったが…… とても考えが甘かった。
先頭争いをしてくる生徒はおらず、先頭を走りながら第一コーナーに入る。
その瞬間、圧力を感じ、思わず振り向く。
32人が後ろから迫ってくる。その迫力はすごく、思わず慌ててしまう。
振り向いちゃだめだ、と思いながらコーナーを回り、第二コーナーを抜ける。
しかし、振り向かなくても、圧力はかかり続ける。気持ちは焦り疲れがたまっていく。
逃げたくて逃げたくてしょうがない気持ちが高まっていき、どんどん速度が上がっていく。
そのせいで体力がどんどん消費され、息がどんどん荒くなっていく。
「タキオンさんが見てますよ」そんなささやきがすぐ後ろにつけている子から飛んでくる。一瞬コースの外に気を取られ、集中力がそがれる。
もう気持ちがぐちゃぐちゃになりながら、第三コーナーに入る。ここまでギリギリ先頭を保っていたが、かなり限界に近かった。
そんな状態でもどうにかラストスパートをしようとした瞬間、ぞくり、と背中に悪寒が走った。振り向く体力的、精神的余裕もななかったが、ラストスパートをしようと姿勢を前のめりにしようとしたタイミングのこれに、完全に調子を狂わされてしまう。
結局ラストスパートにも入れず、第三コーナーからずるずると失速してしまう。
私の横を、すごい勢いで生徒たちが駆け抜けていく。
そんなみんなについていく体力も気力も、もう尽きていた。
結局順位は最下位であり、タイムもボロボロで終わるのであった。
2022年12月21日13時 総合日間ランキング52位
新作日間ランキング28位
ありがとうございます。
評価・お気に入り・感想お待ちしております。
シエラ様、FMR1021様、BuddPioneer様、SERIO様 誤字報告ありがとうございます。
スキル表示をちょっとやってみましたが、不評ならやめます。
さて、次はスカーレット君に何を着せようか
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バニーガール
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お揃い勝負服(白衣)
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振袖
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ゴスロリ
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サンタ
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巫女
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ドレス
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誰かの勝負服