元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
レースが終われば体力測定は終了である。終わった以上は片付けをしないといけない。
生徒の何人かが引っ張ってゲートを仕舞っているうちに、コースの片づけを行う。
左手には仕切りがされて、半分に砂が入ったバケツを、右手にはスコップをもって、コースを一周して簡易な整備をするのだ。
コースにゴミなどが落ちていないかを歩いて回って確認しつつ、芝が大きくめくれている場所には、剥げた芝を戻してから、砂をかけて平らにする。
芝は生き物だから、放置すれば生えて戻るが、それだけだと地面がデコボコになってしまうので、こうやって砂で埋める必要があるのだ。砂は粒子が粗いので、多少踏まれた程度では芝の根が押しつぶされないのもあり、埋めるのには砂が使われている。
ゴミは、細かいものが色々落ちていることがある。
蹄鉄のかけらなんかが典型的で、靴に止める釘が1本抜けて落ちているなんてことも少なくない。あとは耳飾りとか、そう言ったものが落ちていることもある。
ほんの小さな金属片だが、蹴とばして他のウマ娘に当たったら大けがでは済まないこともあるので、片付けは大切であった。
30人以上いる生徒たちの協力もあり、片付けは時間もかからずに終わった。
あとはクールダウンをして終わりである。
ひとまず寝転がって、脚を開いて太腿の裏のストレッチを始める。
「教官はクールダウンも柔軟体操なんですね」
「そうだね。まあ、ウォームアップはまだしも、クールダウンは柔軟体操が一番いいんじゃないかなと思ってるよ」
ウォームアップは体温を上げて血流をよくする必要があるから、柔軟体操では不十分な場合も多い。タキオンも私も結構代謝が良くていつもポカポカなので、あまり問題はないが、一般論化できるような話ではないだろう。
だが、クールダウンとしては、体をゆっくりと冷やしていくことができる柔軟体操は向いていると思う。
「スカーレット君、柔軟が終わったならチェックするよ」
「あ、お願いタキオン」
タキオンが寄ってきたので、確認をお願いする。
脚を投げ出して地面に座ると、タキオンが脚に触ってくる。
まず股関節の部分の確認として脚の付け根を触って確認する。
左右を確認したら、うつぶせになるので太腿の裏側から尻あたりも確認してもらう。
皆に見られている気がするが、怪我を避ける方が重要である。
「タキオン先輩、丁寧ですね」
「スカーレット君は現役時代、もっと丁寧にやってたよ。正直ちょっとうっとおしかった」
「必要なことだからね。怪我したら大変だし」
「仲がいいんですねぇ」
多分、当時怪我への五月蠅さでいったら学園トップクラスだったと思う。
こういう確認作業をいちいちやっているトレーナーは少ない。
そもそもウマ娘にとって脚は大事な部分であるため、触られるのを嫌がる子の方が圧倒的に多い。脚を触るという行為自体信頼関係がある証であり、仲が良いということになるのは確かだった。
脚を指先まで確認し、タキオンの確認はおわる。
「問題なし。レースは大変そうだったけど、少しの異常もなさそうだよ」
「人数多いのもあったけど、あそこまで牽制されるとは思わなかったよ」
さすがシニア卒業レベルの生徒の集まりである。
身体能力はピーク時に比べれば落ちていても、技術的には高いレベルであり、みんな牽制技術の一つや二つは持っている。
そんな生徒が30人以上集まれば、お互い牽制し合うレースになるのは間違いなかった。
私としても正直すごくいい経験になった。自分がまだまだだという自覚ができただけでも大きな収穫である。
「そう言えば、スカーレット教官はトレーニングしてますけど、レースは出るんですか?」
「今年デビューはする予定。どこまで走れるかはわからないけど、教えてきたことがどこまで有用か試してみたいんだよ」
「へー、デビュー戦の予定は?」
「9月最初の東京での予定だよ。私もスカーレット君も教官のお仕事があるから、遠方のレースはつらいんだ」
レースは北は北海道から南は九州まで、全国で行われる。
メイクデビューの中で一番早く開催されるのは北海道であり、そこでデビューする子は圧倒的に多い。
もっとも、遠方なので日帰りも難しく、通常宿泊付きでの参加だ。
日曜日に走って、月曜日は軽く観光にして、夜戻ってくる、なんてスケジュールが普通であり、レースの疲れも考えて学校に来るのは水曜日からということも少なくない。
学園もそれに合わせて余裕があるカリキュラムを組んでいるので、学業が遅れることはないが、なんせ私もタキオンも教官のお仕事があるので、平日に下手に休むことはできないのだ。
だから、しばらくは移動に時間がかからない東京か中山をメインに走るつもりであった。
「教官、お疲れさまでした。私たちが勝ったからご褒美ください」
「ご褒美? お菓子でいいか? 作って明後日持ってくるから」
「私チョコクッキーがいいです。バレンタインに前に配っていた奴」
「えー、フルーツケーキがいいよ。ドライフルーツいっぱい入ってるやつ」
「プリンがいい……」
「何にするかは明後日のお楽しみだ」
クールダウンが終わったらしい他の子たちも集まってきて、ワーワーと騒ぎ始める。
参加者全員に配るとなると、そこそこな数が必要だし、来ていないクラスメイトにも一応渡すことを考えるとかなりの数だ。
ただ、併走してくれたのだからお礼として何か作ってはこよう。買うと高くなるし。
「さて、解散するよ。あまり体が冷えてもよくないからね」
「そうだね。それじゃあみんな、明日は入学式だから明後日に」
あまりグダグダしているのもよくないので、解散を告げると皆散り散りになっていく。
「スカーレット君、私たちも一緒に帰ろう」
「そうだね。あ、帰りに買い物したいから一緒に行こう」
「何を買うんだい?」
「お菓子の材料」
差し出された手をしっかり握り、私もまた、タキオンと家に帰るのであった。
「初めてのレースはどうだった?」
「すごい圧力を感じた。肉食獣に追いかけられているみたいで、正直食べられるかと思ったよ」
「高等部3年生だからね。レース技術もいろいろ知ってるだろうから」
帰りがけに歩きながら、タキオンと先ほどの併走というか模擬レースを分析する。
実際にレースを走ってみないとわからないことは多かった。
今まですさまじい数のレースを見てきたが、ああいう情報はあくまで傍から見ているだけであり、実際参加者の目線で見るといろいろ見えてくることはある。
「そこまで気にする必要もないよ。シニアクラスになるとあれくらい普通になってくるけど、ジュニアクラスであそこまでやれる子はそう居ないし、居てもレースに一人ぐらいだからあんなしっちゃかめっちゃかにはならないよ」
「そうだよね」
皆引退済みでピークを越えた子ばかりだったし、重賞に勝ったことのない子しかいなかったから、若干実力を見誤っていた。
ピークを越えたといっても、身体能力的には全くピークに差し掛かる前のメイクデビュー頃のレベルはあるわけだし、レース技術にしてみれば雲泥の差である。
20戦、30戦と走っている子もおり、その中で培われた技術と、トレーニングを重ねてきた技術は圧倒的であった。
メイクデビュークラスの私で勝てるはずがない相手である。
安易に先頭を取った私が牽制されるのは当然の結果であった。
「タキオンがGⅠ走っていたときとかもっとすごかったんだよね」
「それはすごかったよ。特にジャパンカップの時なんかもう、世界各国の技術のパレードだったよ。まあ私もやり返しているからお互い様だが」
「全然知らなかったなぁ」
ここまで話して、自分が現状、すさまじくショックを受けていることに気づく。
負けたことに対してではない。実力に差があることは予想していたし、所詮模擬レースである。勝ち負けなど普通のことだし、頑張ろうという思いしか浮かばない。
ただ、レースが実際に参加してみるとあそこまで過酷だと思わなかった。
模擬レースでもああなのだ。実際の重賞になれば、もっと過酷だろう。
それに本当の意味で気づいていなかった自分を見つけてしまったのだ。
タキオンへの申し訳なさが募り、思わず手を離そうとしたが、タキオンが私の手をぎゅっと恋人握りで強く握りしめる。
「スカーレット君はかわいいなぁ」
「タキオン……」
「ヒトはウマ娘のように走ることはできない。だから、どうしてもわからないことがあるのはしょうがないと思うのだがね」
「でも……」
「知らないことを恥じるのではなく、知らないでいることを恥じるべきだよ。わかったのだからそれでいいじゃないか」
「……」
タキオンの言うことは最もである。
だが、何か心が晴れない。
もやもやしていると、タキオンが首に抱き着いてきて、唇を押し付けてきた。
「納得していない様だね。仕方ない。家に帰ったら、そんなこと考えられなくしてあげよう」
とんでもないことを言うタキオンに顔が真っ赤になる。
何をされてしまうのだろうか。ドキドキが止まらない。
「ふふ、そんなに尻尾を振って、期待しなくてもいいんだよ」
「ッ!?」
慌てて尻尾を押さえる。手で押さえても収まらないぐらい、尻尾がブンブンしている。
「ほら、スカーレット君。早く帰るよ」
「その前に買い物に行きたいんだけど」
「ダメだよ、スカーレット君をかわいがる方が先だ」
残念ながら、私は抱えられるように自宅へと強制連行されてしまうのであった。
さて、次はスカーレット君に何を着せようか
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バニーガール
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お揃い勝負服(白衣)
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振袖
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ゴスロリ
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サンタ
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巫女
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ドレス
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誰かの勝負服