元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
部屋を出てチームルームに向かうのだが、時間がないにもかかわらずあまり急ぐことができなかった。
まずスカートが短すぎる。
下手に動くと中が見えてしまいそうなぐらい短い。
現状ノーパンなのも考えると、本当に危険すぎる状況であった。
さらに言うと、スカートなんて生まれて初めて着たものだから、あまりに頼りなさすぎる。
下半身全裸で歩いているみたいな感覚にとらわれ、羞恥心が半端ない。
そんな状態なものだから、歩く速度は非常に遅い。
スカートが少しでも捲れないように、一歩が非常に小さくなるし、一歩の速度も非常に遅くなる。
ゆっくりと歩くさまはまさにお嬢様のようであろう、と謎の自己分析ができるぐらい非常に遅い歩みであった。
うん、遅いというとよくないし、優雅というべきか。
そんなことを考えながら家の前の廊下を抜けると、階段に差し掛かる。
人が一人すれ違える程度の幅しかない、あまり広くない金属製の安っぽい階段である。
そんな階段を一歩一歩ゆっくりと降りていくのだが、一つ気づいたことがある。
これ、向かいから人が来て、上を見られたら色々見えてしまうのではなかろうか。
誰も来ないことを祈りながら一歩ずつ階段を下りていくのだが、残念なことに祈りは三女神には届かなかったようだ。
向かいから人が来る。同期の男性トレーナーだ。
こっちを見るなよ、こっちを見るなよ、と願いながら、階段を下りていくが、この願いもやはり三女神に届かなかった。
「ん?」
奴がこちらを見上げた。
そして、すぐに驚いた表情をする。
「きゃああああ!」
見られたことに気づいた私は、その場から飛び上がり、奴の顔面に飛び蹴りをかました。
見られたからにはしょうがない、記憶を消してしまおう。そんな発想が浮かぶぐらい、現状の私には余裕がなかった。
飛び蹴りをした私の足の裏が完全に男の顔に突き刺さった。
そのまま、着した足の裏を起点に前に一回転して、私は一階の地面に着地する。
ウマ娘の身体能力凄い。体重は男性の時より軽くなっているのに、パワーもスピードも圧倒的に上なものだから、こういうアクロバティックな動きが簡単にできるな、と特に意味もなく感心していた。
周りを見回すと、他に人はいない。
アクロバティックな動き中を見られたら、スカートの中も見られて大変なことになっていただろうが、朝も早い時間だし人が少ないのは幸いだった。
倒れたこいつは…… まあ放置でいいだろう。
記憶がちゃんと飛んでいることを祈りながら、奴を放置した私は先へと優雅に進むのであった。
幸い、一度寮から出てしまえばあとは平坦な道のりだ。
人も少なく、時折朝練をしているウマ娘とすれ違う程度であまり他人の目は気にならなかった。
校門を抜け、校舎に続く道からそれて、塀沿いに進めばチームルームに到着である。最初の階段のような悲しい事故は発生しなかった。
チームルームにはすでに明かりがついているのは外からでもわかった。
タキオンはすでに先に到着しているようだ。
それを見て、私の胸の中に罪悪感でいっぱいになる。
短い時間でも待たせてしまってかわいそうだし、誰もいない朝のチームルームはきっと寒かっただろう。
本来30分は早めに来て、部屋を暖めてタキオンの好きな無茶苦茶甘いお菓子と紅茶でも準備しておきたかったのだが、残念ながらウマ娘になったという大変なトラブルのため実行できなかった。トレーナーとしての覚悟不足を痛感する。
だが、ここで悩んでさらに待たせるのは余計駄目だろう。私はすぐにチームルームの扉を開けるのであった。
「すまない、待たせたなタキオン」
「おーそーいー。キミの愛バは3分12秒もキミのことを待っていたんだ……ぞ……?」
タキオンが、文句を言いつつも笑顔でこちらを振り向き、そして、怪訝な顔をした。
しまった、よく考えたら今の私はウマ娘である。元の男性トレーナーとしての面影なんかない、全くのウマ娘だ。
タキオンから見たらタダの不審者だろう。
怪訝な顔をして近寄ってきたタキオン。
じろじろと私の周りをまわりながら、観察している。
「ふむ、この制服、私のものではないかい? キミが私のことが好きすぎるのは理解していたが、ちょっと変態プレイが過ぎるのではないかな? トレーナー君」
「私のこと分かるのか!?」
「ウマ娘になった程度でわからなくなるほど私の愛は浅くないのだよ、トレーナー君」
どういう理屈かはわからないが、タキオンは私がトレーナーだとすぐにわかったようだ。
怪訝な表情をしていたのはタキオンの制服を着ていたことに対してらしい。
「いや、別に変態プレイをしたいわけではなくて、朝起きたらウマ娘になっていたんだ」
「ふむふむ、理由に心当たりは?」
「なにもない」
「だろうね。だけど、ヒトが突然ウマ娘になる、なんて逸話は世界的にみると全くないわけではないし、原因は後々考えることにしよう。それで、どうして私の制服を着ているんだい?」
ニヤニヤと私を問い詰めるタキオン。
気持ち悪い、みたいな反応をされるのが一番ショックだったが、そういうわけではないらしい。
単に私を揶揄って楽しんでいるだけだ。すごい楽しそうに尻尾が揺れている。サディストの気が強すぎるウチの愛バはやはりかわいいが、自分以外にそういう態度をとると問題が多いから注意してほしいものである。
「いつもの服を着ようとしたら、太腿と胸が入らなくて破けた」
「ふむ……」
「ひゃっ!?」
そういうと、タキオンは急に私の胸を鷲摑みしてくる。
私に対するボディタッチはいつものことだが、さすがにウマ娘の胸を鷲摑みにするのは外聞が悪いので、外ではやらないでほしい。今度ちゃんと言っておかないと外でもやりそうだ。
私の胸を一通り撫でたタキオンはなぜか満足そうにうなづいた。
「確かに非常に大きいね」
「これのせいでシャツが入らないんだよ」
「で、トモの方は……」
「ちょ、タキオンストップ!?」
しゃがみこんで、私の太腿を触り始めたタキオンに、慌ててストップをかける。
触られるのが嫌なわけではない。だが、しゃがみこまれると、スカートの中が容易に見えてしまう。
そう思って止めたのだが、明らかに遅かった。私の声に反応したタキオンが、しゃがんだ状態のまま私を見上げる。当然スカートの中が見えてしまった。
「トレーナー君。ノーパンプレイは高度な変態すぎると思うのだが」
「好きでやってるんじゃないよ!! あとじろじろ見るなよ!?」
「見て減るものじゃないだろう? でも下着は着た方がいいと思うよ」
「持ってる男性モノのパンツはウエストが緩すぎて履けなかったんだよ」
スカートの中をのぞきながら、太腿を触るタキオンの方がよほど変態的だと思うが、そういうことを言うと涙目になってしまいそうなので飲み込む。ウチの愛バはサディスティックだが結構打たれ弱いのだ。
一通り私の太腿を揉んで満足したのか、タキオンは立ち上がった。
「たしかに、この立派な体だと、普通の服は入らないだろうなぁ……」
「で、家にあったタキオンの制服だけが入ったから、それを着てきたんだよ」
「なるほどね」
タキオンも納得してくれたならひとまず落ち着くためにもお茶でも入れるか。
そんなことを考えてと給湯スペースに行こうとしたが、一歩踏み出した時点でタキオンに「私が入れるからトレーナー君は座っていてくれ」と言われたのでお言葉に甘えてソファに腰掛ける。
鼻歌でwinning the soulを唄いながら、お茶を淹れ始めるタキオン。
尻尾もゆっくりと揺れているし、私がウマ娘になったという訳のわからないこの状況にも困惑するよりも楽しんでいるようだ。
「そう言えばタキオン」
「なんだい?」
「トレーナー試験合格おめでとう」
「ふふ、ありがとうトレーナー君。これで私もトレーナー君になれるね」
笑みを浮かべながら、ゆっくりとポットにお湯を注いでいくタキオン。
美人のウマ娘がお湯を注ぐだけで絵になるから得だ。
そしてこんな名画のような光景を自分一人で独占していることになんとなく嬉しさを感じてしまう。
「お祝いのケーキが冷蔵庫に入っているから、一緒に食べよう」
「ふむ、これだね」
冷蔵庫を開けてケーキを取り出すタキオン。昨日のうちに、お祝い用にと思って買っておいた小さいホールケーキだ。
二人で食べるには少し多いかもしれないが、甘党のタキオンなら1ホールでも喜んで食べるだろうと思って多めに用意したものであった。
紅茶のポットとティーカップ、そしてケーキをお盆に乗せて、タキオンがこちらに向かってくる。
「トレーナー君、嬉しそうだね」
「そうかい?」
「尻尾が犬みたいにブンブンしてるよ」
そういわれて自分の尻の方を振り返ると、尻尾がちぎれんばかりに振られていた。
ちょっと自分でもビビるぐらいの勢いだ。尻尾について動いているなんて全然そんな感覚はなかったのに……
ふん、と下腹に力を入れると、ぴたりと尻尾が止まる。
しかし、少しでも気を抜くとまたブンブンと振れるのが再開される。
ウマ娘たちが尻尾での感情表現を押さえるのが大変と言っている意味がよく分かった。
「何がそんなに嬉しいんだい? 私に会えたことかな?」
「それもあるけど、今、タキオンが紅茶入れてた姿があまりに美しくてね」
「そ、そうかい」
「そんな名画みたいな姿を独り占めしてると思うと思わず、かな」
「トレーナー君は私のこと大好きすぎるだろう」
「いやまあ大好きだからね」
タキオンのことは、非常に好ましく思っているのは疑いようもない。
確かにずぼらで自分勝手なところがあるし結構サディストだが、努力家で何事にも一生懸命で他人に優しい子である。
あと見た目もよい。好きにならない理由がない。
照れているのか、タキオンがそっぽを向いてしまった。
その姿勢のまま、お盆をテーブルに置くと、タキオンは私の横にぴったりくっつくように座った。
時々発生する甘えん坊タキオンモードだ。
そうしてタキオンは、尻尾をするすると私の尻尾に絡めてきた。
「なんで尻尾を絡めてくるんだい?」
「あまりにキミの尻尾がブンブンしているからね、抑えるなら手で押さえるよりこの方法がいいだろう?」
「まあ、タキオンが嫌じゃないなら構わないよ」
現状、私自身は自分の尻尾なんて頑張って止めるか、感情のまま勝手に動かすかしかできない。
今タキオンがしたように、器用に動かして相手の尻尾に絡ませる、なんて全くできなさそうである。
これが練度の差だろうか。
尻尾を絡ませる尻尾ハグ自体は、親しい間だと親愛を伝えるために行うものである。タキオンがわざわざそんなことをしてくれるのは私としても嬉しいので、特に拒否もせずにされるがままに任せた。
「じゃあ、まずケーキを食べさせてあげよう」
「いや、自分で食べるよ」
「多分うまく食べられないんじゃないかな、と思うんだけどね」
「どうして?」
「力加減、上手くいかないんじゃないかなと思って」
「そうかな?」
力加減、なんてケーキを食べるのに必要なものではない気がするが、タキオンは何を気にしているのだろう。
不思議に思っていると、タキオンは「やってみればわかるよ」といいながらフォークを渡してきた。
受け取って握ると、フォークがゆがんだ。
「……」
「ふふ、フォークって脆いだろう。まだ幼いウマ娘なんかだとよく力加減を間違うんだ」
「これは知らなかったな」
実際なってみてわかるが、ヒトと比べてウマ娘はパワーが強すぎる。
もちろん他のウマ娘達が何の問題もなく日常を送れていることを考えれば慣れれば問題はないのだろうが、ウマ娘歴数時間の私ではとても力の調整ができなかった。
「家でも服を着るときに破ったって言っただろう? ウマ娘の力が強いといっても普通は服を破るまではいかないからね」
「たしかにそうか」
当然のようにズボンを破いてしまったが、普通スラックスなんてそうそう力だけで破けるものではない。
この時点ですでに力加減を間違っていたのか。
「しかし、それだと生活が困るな。何にもできそうにない」
「大丈夫さ、私が全部やってあげるから」
「いや、それはタキオンに悪いよ」
「なんでだい? 私とトレーナー君との仲じゃないか。困ったときは助け合うのは当然だよ」
そんなことを言いながら、タキオンはケーキをフォークで一口分切り取り、私の方に突き付けてくる。
「ほら、あーん」
「あーん」
少し恥ずかしいが、素直に食べる。
タキオンは、私が食べた後のクリームが少しついたフォークをなめとった。
「タキオン、はしたないよ」
「私とトレーナー君の仲じゃないか。間接キスぐらいなんてことないさ」
ニヤっと笑うタキオンはそれはそれでまた可愛らしかった。