元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
タキオンにケーキをあーんで食べさせられ、紅茶まで飲ませてもらうのはさながらお姫様扱いで、最初は気が引けたが途中からは結構楽しくなってきていた。
和気あいあいと完食し、今はタキオンは食器を片付け始めている。
いつもは私が洗ってタキオンがそれを見ているので、逆になるとなんとなくむず痒い気持ちになる。
「なんだい、じーっとこっちを見て」
「いや、やっぱりタキオンは綺麗だなと思って」
「トレーナー君も前はかっこよかったが今はかなり美人さんだよ」
「今はまだしも前はかっこよくなかっただろう」
「そんなことないよ」
最低限の身だしなみは考えていたが、とはいえどこにでもいそうなアラサーを越えつつあった男性だ。カッコいいとはとても言えないだろう。なので、そんなお世辞を言うタキオンに思わず苦笑してしまう。
それはさておき、私がタキオンを見過ぎなのはそうかもしれないが、タキオンもさっきからこちらをチラチラ見ている。
いったい何なのだろうか。何かおねだりしたいときのチラ見ではない。何か気になるが、じっと見るのは気恥ずかしいとか、そういう態度である。
「何か気になることがあるのかい? タキオン」
「あ、えーっとね、トレーナー君。さっきから、スカートの中が見えてるよ」
「!?」
慌ててスカートを抑える。
確かにタキオンの立ち位置は自分の真正面だ。
油断していたのは確かだが、スカートの中が見えているなんて想像もしていなかった。タキオンと過ごしていた間、スカートの中が見えたことなんて思い返してもほとんどないから、スカートの中というのは見えないものだと思い込んでいた。
「スカートの時は座り方にコツがあるんだよ。まあ、その服装だとスカートが短すぎるからどう頑張っても難しいかもしれないけどね」
そんなことを言いながら目線がこちらから離れなくなったタキオン。
そんなに元おっさんウマ娘のスカートの中が気になるか。
食器は洗いながらも視線はこちら向きで固定したタキオンに居心地の悪さを感じる。
「そんなに見ないでくれよ」
「トレーナー君はいつも私を見ているだろう? だからお返しだよ」
「ううう」
それを言われると返す言葉がない。
タキオンの姿を、しぐさを、表情を見るのが好きで、一緒にいるときは確かによく見ていた自覚がある。
「いやぁ、トレーナー君、本当に美人になったよねぇ」
「許してくれよ、タキオン」
「いつも誉められ続ける私の気持ちも味わうといいさ」
「うう、返す言葉もない」
お世辞などではなく本心ではあるが、タキオンのことはいつも誉めていた自覚はある。喜んでくれていたと思うが、それとは別に恥ずかしく思うところもタキオンにあったのかもしれない。
「まあかわいがるのはまた後にするとして、トレーナー君一つ聞きたいことが」
「なんだい?」
いきなり話が変わり、少しほっとしながら聞き返す。
「トレーナー君にはウマ娘としての名前はあるのかい?」
「そんなこと考えたことはないけど」
「ウマ娘の名前は魂の名前だ。だから、生きている限りいつでもわかるはずなんだ。だから、トレーナー君にもウマ娘の名前があると思うんだが」
ウマ娘の名前は異世界から来たといわれる魂から引き継ぐ名前だ。
それは、記憶喪失になろうと魂に刻まれているため、忘れることはない。
確かに、私もウマ娘になったのだから、そういう名前があるのかもしれない。
額に指をあてて、ムムム、と悩んでみる。
少し考えると、ふと名前が浮かんだ。
「ダイワスカーレット」
「ふむ?」
「ダイワスカーレット。それが私の名前だ」
「なるほど、トレーナー君改めスカーレット君だね」
何故か知らないが、ふと浮かんだ名前を口に出す。
それが、ダイワスカーレットだった。
全く聞いたことがない名前なのに、懐かしい感じがするのだから、ウマ娘の名前というのは面白いものである。
「まあ、どっちで呼んでも構わないけど」
「じゃあ慣れているから今まで通りにするよ。それでトレーナー君、まずしないといけないことが一つある」
「なんだい?」
洗い物を終えたタキオンは、手を拭うとそのまま隣に座る……ことはなく、ソファの横を通り入り口の扉へと向かう。
そして、チームルームの扉の鍵を閉めた。
理由のわからない唐突な行動に少し驚く。
「身体測定だ」
タキオンはなぜか嬉しそうにそう言った。
タキオンに手を引かれ、チームルームの奥の部屋へと連れ込まれる。
「なんでいきなり身体測定なんだ?」
「その恰好、いろいろ危ないから外を歩くのは難しいだろう。だから今から私が服を買ってこようと思うんだが、サイズがわからないからね」
「なるほど」
スカートのホックが外され、脱がされる。
そのまましゃがむとうまく結べなかった胸元のリボンが解かれる。万歳をすると、上着も脱がされた。
「全裸になっちゃうのはちょっと恥ずかしいね」
「下着も買わないといけないね」
見られるのがタキオンだとはいえ、少し恥ずかしい。
もっともサイズ測定は服を買うのに必須なのもわかるので、反対はしない。
今の体だと、単純にサイズがLなのか、LLなのか、Mで足りるのかすらもわからない。
万歳した態勢でいると、タキオンが胸に巻尺を巻く。
「バストは……ちょうど100、かな。かなり大きいね」
「そんなにあるのか、この胸」
三桁の大台はかなりビビる大きさだ。起きて初めに前に躓きそうになったのも納得である。
すぐにタキオンは私の胸の下に巻尺をあてる。
「アンダーバストは73だね。これでブラジャーを買ってくるよ。実際着てみないとフィットするかもわからないから、いくつか買ってくるから」
「手間をかけるね」
トレーナーとして、下着についても勉強はしているし自分で選べないこともないが、やはりタキオンの方が知識は多いだろう。
素直に任せることにした。
「ウエストは68と」
「結構太いな」
「身長もあるし、体格もいいからある程度ウエストがないと腰を痛めるよ」
「まあそうだな」
デビュー当時測定した時にはタキオンのウエストは50ぐらいしかなかった記憶がよみがえる。あまりに細すぎるのに驚いて、色々食べさせるのに苦労した。
それでも55cmぐらいまでしか増えなかったから、タキオンは本当に細かった。
それに比べると10cm以上太い自分のウエストは、どうしても太く感じていしまう。
ただ一般的な数字から言えば全く太くはないだろう。
「ヒップは…… 96と。本当に体格に恵まれてるねぇ」
「こんな体格のウマ娘いたらすぐにスカウトしたくなるね」
「間違いない」
立派な体格ほど鍛えがいがあるし、走る可能性も上がると一般的に考えられている。ここまでガタイのイイウマ娘などそうそう見ないし、見かけたら声を掛けたくなる話である。
「あとは太腿は…… 55cm…… 太いねぇ」
「タキオンのウエストより太くない?」
「さすがに今はそこまで細くないよ」
本当だろうか。試験明けなせいかいつもよりタキオンがやつれているように見えるし、現役時代よりも細くなってないだろうか。
多分引退後はほとんど測定なんかしていないだろうし、この際タキオンも測ってみよう。
「私の身体測定も終わったし、次はタキオンを測ってあげよう」
「いや、私は遠慮しておくよ」
「断ると、無理やりやるよ? 多分服ビリビリになるよ」
「ひどい脅しだ……」
タキオンはげんなりしながら服を脱ぎ、下着姿になっていく。
いつものスポーツ系の下着と違い、今日の下着は黒の大人っぽいものであった。ちょっとセクシーでタキオンの下着姿にも見慣れた私でも少しドキッとしてしまう。
担当ウマ娘の測定もトレーナーの仕事の一つだ。
だが、タキオンは研究好きなくせに測定というものが嫌いで、現役時代はよく逃げられていた。
速度でもパワーでも勝てないトレーナーにとって、逃げられたらどうしようもないのだ。
トレーナーとの相性で、トレーナーに測定されるのが嫌なら保健教諭などに頼むのだが、タキオンの場合単純に測定自体が嫌いだった。私以外が測定するのは断固拒否するし、かといって私が測定するのもなぜか逃げるし、なのでなかなか測らせてくれなかった記憶が浮かぶ。
ただ、こちらもウマ娘になった以上、力づくという選択肢が取れるようになったのは大きい。このまま無理やりやろうとしても、単純な経験の差でタキオンに勝てるとは思わない。だが力加減が苦手な私が事に及べば服がボロボロになるだろう。
それをタキオンが大人の判断で避けたということである。
閑話休題。ひとまず下着姿になったタキオンのウエストを測ろう。
脱ぐと余計に細さが目立つ。ちょっと不安になるレベルだ。
「最近あまり動いてないから太っていないか心配なんだ。そんなまじまじと見ないでくれ」
「いや…… まあひとまず測るよ」
太ったほうが健康的に良さそうに見えるぐらい細いのだが、タキオンは太ったことを心配しているようだ。
絶対太っていないと思う。
巻尺をタキオンの腰に巻くと……
「50…… ウソデショ」
「痩せてる……?」
あの、デビュー前のがりがり体型に戻っていたタキオンであった。
どうしてこれで太ったことを心配しているのか、私にはわからない。
ついでにタキオンのウエストが私の太腿よりも細いことが確定した。
「さて、タキオン、どんな食生活していたのかな?」
「いやー、最近試験で忙しくて、お菓子を摘んでいたんだが、そのせいで太ったと思い込んでいてね」
「タキオン? 普段のお食事は?」
「…… お菓子食べるとおなか一杯になって何も食べてないです」
不健康の極みだった。
「ひとまず他も測るよ。次はバストね。はい、ばんざーい」
「ばんざーい」
胸に巻尺を巻きつける。
「バスト、80。こっちも少し減ってるね」
「全体的にしぼんじゃったかなぁ……」
しょんぼりしているタキオン。かわいそうだが、不健康なのは良くないし、ちゃんと把握するために最後まで測定をする。
「ヒップは78か。デビュー前ほどではないけど、不摂生が過ぎない?」
「うう、気を付けるよ……」
デビュー前はバストもヒップもほとんどなくてぺたんこだったので、それに比べれば女性らしい凹凸が残っているのはかなりましだろう。
とはいえやっぱり細すぎるだろう。
「しばらく食事は私が作る…… のは無理か。じゃあ外食かなぁ」
「私が作ってもいいけど?」
現在の力加減ができない状況では料理は無理だ。やろうとしてもおそらくお玉をへし折って、包丁でまな板を切り、鍋に穴をあけるだろう。
だが、タキオンが料理するのもなかなか問題がある。
料理の腕自体は心配はしていない。トレーナー試験に料理の項目もあるので、私がちゃんと教え込んでいて、昔と違ってちゃんと料理を作れるようになっている。
そもそも料理は科学実験みたいなものなのだ。理論立てて実験するというのはタキオンの得意分野であり、今では私よりも腕がいいかもしれない。だが……
「トレーナーの初年度っていろいろやらされるから結構忙しいんだよ。料理するだけの気力残らないと思うよ」
「そこまでかい……」
「だから私が作ってあげられればいいけど、それもしばらくは無理そうだから外食か出前かなと。お金かかるけど」
「いや、お金なんて心配しなくても大丈夫だろう」
「どうしても貧乏性で……」
実際タキオンが活躍したおかげで、契約トレーナーである私の懐もかなり潤っている。
タキオン自身も賞金があるし、実家も名家だからお金には困っていない。
外食と言っても豪遊するわけでもないから、特に高い店に行くこともないし、その程度でお金に困ることはないのだが、どうしても作る方が安いという発想が抜けない私は外食があまり得意ではなかった。
「まあ、何にしろトレーナー君の服を買ってこないとろくに外出もできないし、ひとまず買ってくるよ。デザインの希望はあるかい?」
「タキオンに任せるよ。センスはタキオンの方がいいし」
「わかった。すぐに戻ってくるから」
そう言ってタキオンは出ていった。
すぐと言っても学園の外に出て、服屋に行くと考えると5分や10分では難しいだろう。
その間どうしようか。そもそも服はどうしようか。
タキオンの制服を着直すのも少し気が引けるし、面倒なので裸でいるか。
幸いチームルームに誰か来ることもないだろうし、カーテンを閉めていれば中を見られることもない。
部屋の鍵もタキオンも持っているから、鍵をかけておけばだれか入ってくることもないだろう。
裸のまま、ソファにゆっくり腰かけて、私はタキオンの帰りを待つのであった。