元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
全裸でソファに体を沈めながら、ゆっくりとする。
本当にできることがない。こういう時、いつもなら掃除とかをするのだが、今の状態でホウキなんて持ったらすぐへし折りそうだ。
それに、昨日タキオンが来るからとチームルーム自体磨き上げているから、そういう意味でも掃除する場所がない。
そうするとソファでのんびりするしかすることがない。
朝からドタバタしていたせいで、なんか疲れた気もするし、少し休むか。
そんなことを考えてソファに寝転がる。タキオンの座っていた場所から、タキオンの体温の残りを感じる。
ぬくもりを感じながら、私の意識は暗闇に落ちていくのであった。
「トレーナー君、トレーナー君」
「んあ、ああ、お帰りタキオン」
「まったく、なんで裸で寝てたんだい?」
いつの間にかタキオンが帰ってきていたが、熟睡していて全く気付かなかった。
呆れたように見下ろすタキオンを見上げながら、起き上がる。
「いつまでもタキオンの制服を着ているのも悪い気がして。あと、胸とかきつかったし」
「まったく、そんな無防備なのは感心しないよ」
そんなことを言いながらタキオンが手鏡を渡してくる。
ソファの跡でもついているのだろうか、と思って鏡を覗き込むが特に変わったところは見当たらない。
タキオンを見上げ直すと、自分の首のあたりをとんとん、と指でたたいている。
もう一度鏡を見直して首元を確認すると…… 赤い跡がついていた。
「トレーナー君があまりに無防備だからね。いたずらしてしまったよ」
「これ目立つ奴じゃない」
キスマークという奴だろう。寝ている間につけられたようだ。
こういうとんでもないいたずらを突然しでかすのがタキオンというウマ娘である。
まあ黙っていれば誰がキスかなんてわからないだろうし、何か聞かれたら虫刺されとごまかしておこう。バレバレの言い訳だがこれ以上下がって困る名誉なんてない。
「で、どんな服を買ってきてくれたんだい?」
「ああ、まずは下着だね。パンツはこれで」
そう言ってタキオンは、床に置いてあった大きいビニールの袋をあさる。
中にはいろいろ服が入っているようだ。
タキオンがまず取り出したのは、黒い布だった。
布に紐がついているそれは、私の知っているパンツと形状が違いすぎる。
「……なにこれ」
「紐パンツといわれる奴さ。サイズの微調整も容易だし着心地もいいんだよ」
「本当? タキオンの趣味じゃなくて?」
「私の趣味でもあるが、着心地も本当だよ」
タキオンが自分の性癖をぶちまけてきた。
まあ、タキオンの趣味100%でも文句は言わないが……
「じゃあ、タキオンはどうしてこういう下着じゃないんだ?」
「……正直着るのが結構めんどくさい。紐の長さ調整しないといけないし」
「あー。なるほど」
普通の下着だと、履いて終わりだが、これだと紐を結んで微調整が必須だ。
緩すぎたら落ちちゃうしバランスが悪いと着心地が悪いだろうし、その調整が大変そうな服である。
ずぼらなタキオンが苦手にしそうな服なのはわかるが……
「でも、タキオン。今は私、自分で着れないから、タキオンに調整してもらわないといけないんだけど」
自分でやれというなら面倒だがまあやるだろう。
だが、現状私自身がやると力加減を間違ってすぐにボロ布にしてしまいそうだ。
なのでタキオンに着せてもらうしかないのだが…… それこそ面倒そうに思える。
「そうだね。大丈夫だよ、トレーナー君に着せるなら喜んでやるから」
「自分の服にももうちょっと気を使ってくれよ」
相当面倒だと思うが、私に着せるということになったら俄然張り切り始めるタキオン。
その辺の彼女の感覚は長い付き合いだがいまだわからないところがあった。
股の下に布を通して、タキオンがサイドの紐を結び始める。
何が楽しいのかわからないがかなりご機嫌である。
「かなり股下が短いね」
「尻尾があるからね。尻尾を穴に通す形の下着もあるけど、着るのに慣れがいるから、今回は尻尾の邪魔にならないのにしたんだ」
「あー、なるほどね」
確かにこれだけローライズならば尻尾には干渉しない。
そこまで考えてくれたかと感心したのだが……
「まあ、本当はローライズも私の趣味なんだが」
「タキオンがいいと思ってるならいいよ」
結局全部タキオンの趣味のようだ。
そんなやり取りをしていると、タキオンがサイドの紐を結んだ。
履き心地は悪くない。変に締め付ける感じがないので、今までの男性用の下着よりもいいぐらいかもしれない。
試しに足踏みしてみたが、問題はなさそうだ。
「履き心地はどうだい?」
「すごくいいね」
「じゃあ次はこっちだね」
そういってタキオンが取り出したのはブラジャーだった。
黒いレースのブラジャーで、薔薇だろうか、レースで花の模様があしらわれている。
俗にいう勝負下着と言えるようなものだろう。タキオンの下着よりもデザイン性が良さそうに見える。
まあ、サイズが大きいと種類がないという話を聞く。バスト三桁はそうそう聞かない大きさだし、単に選択肢がなくてこれになってしまったのかもしれない。
ちょっと派手過ぎて個人的には躊躇があるが、ひとまずつけてみることにしよう。
肩ひもに腕を通す。
後ろ側は今回はタキオンに止めてもらうことになるが、普通の女性はこの見えない状態から止めるのか、と思うと素直に感心する。
硬い人とか、止められないのではないだろうか。
「トレーナー君、ちょっと前にかがんでくれ」
「こう?」
「そうそう。これくらいでどうかな」
「ひとまずきついという感じはしないかな」
初めての感覚にかなり戸惑いを覚えるが、アンダーバストのラインにしっかりとフィットして、きつすぎる感じもしない。長時間つけていると違和感があるかどうかはまだわからないので、その辺は考える必要があるだろうが現状は特に問題がなかった。
「じゃあトレーナー君。かがんだままこっちを向いてくれ」
「? はい」
「さて、と」
「っ!?」
いきなりタキオンが、ブラジャーの中に手を突っ込んできた。
突然の事態に慌ててしまう。
「タ、タキオン!? いったい何を!?」
「ブラジャーのカップの中に、バスト全部を納めないといけないからね。ワイヤーやストラップの部分に当たったら痛いからね」
「そ、そうなんだ」
いきなり胸を理由なく揉まれるのかと思って身構えてしまったが、そんなことはなくまだブラジャーの装着手順の一部だったらしい。
バストの周りの肉を寄せて、カップの中に入れないといけないとか、ブラジャーの装着自体知らないことばかりである。
ただ、当然ながら胸のお肉をこねくり回されることになるので、相手がタキオンとはいえちょっと恥ずかしい。
まあ第三者だったら絶対やってもらいたくないし、タキオンが相手でよかったと思おう。
「これで、最後にストラップを調整すれば、完了だね」
「結構手順が多いね……」
ベルトみたいに長さを調整できるところがあるので、そこで肩ひもの長さを調整し、やっとブラジャーがつけ終わった。
ブラジャーをつけるだけでも作業量が半端ない。
女性の身だしなみに時間がかかる理由の一端を垣間見たのであった。
「で、あとは服だね。はい、これ」
続いてタキオンが袋から服を取り出した。
取り出したのだが……
「ねえ、下着とほとんど大きさ変わらなくない?」
「そんなことないさ。まずはこれを着てみてくれ」
そうして渡されたのは、デニム地のパンツ状のズボンであった。俗にいうホットパンツ、という奴だろう。
「あの、タキオン?」
「なんだい?」
「なにこれ?」
「ホットパンツ。いいだろう?」
「いや、なんでこれ?」
「私の趣味だが?」
「…… タキオンがそういうならしょうがないか」
かなり恥ずかしい部類の服だが、タキオンが私に着せたいというならしょうがない。
これを履くぐらいならどうにかなるだろう、と脚を通した。
「ふむ、素晴らしいね」
前のフックをタキオンが止め、満足そうにつぶやく。
パンツのひもが見えてるし、かなり恥ずかしいのだが、タキオンが満足しているならまあいいかな、と思えてくる。
「で、上着はこっちだ。着せてあげるよ」
「……もう何も言うまい」
そういってタキオンが取り出したのは白いタンクトップだ。
露出が多すぎる。そう思うがタキオンが期待した目で見てくる以上、拒否する選択肢は取れなかった。
しゃがんで万歳をしたところに、タキオンが着せてくれる。
「ほら、トレーナー君も確認したまえ、マーベラスだよ」
タキオンが若干興奮気味に、姿見を持ってきて私の姿を写す。
何というか、すごい恰好であった。
ちょっと外を歩くのは躊躇するレベルの露出である。
「というか、ブラジャー透けてるじゃん」
「だから透けてもいいように柄の綺麗なものを選んでるんだよ」
どうやらあれは魅せブラだったらしい。
おしゃれの難しさと、タキオンとの感性の違いを強く感じるのであった。
「まあ、ひとまずありがとう、タキオン。でも、かなり恥ずかしいんだが」
「私は満足だが?」
「でも、この格好で隣を歩かれるの、タキオンは恥ずかしくないの?」
「私のトレーナー君はこんなにきれいでかわいいんだぞってアピールできるからすごく楽しいが?」
「いや、それならいいんだけど」
しばらくの間、一緒に行動することになるわけだし、こんな格好のウマ娘が隣にいたら嫌かと思ったのだが、タキオンはむしろ楽しそうである。
それならそれで構わないが……
「でも、さすがに春先でこの格好は寒そうなんだけど」
「まあ確かに見た目は寒そうだけど、実際寒くないだろう? さっき裸で寝てた時も寒かったかい?」
「そういえば寒くなかったね」
春先の今の時期だと、寒く感じるかと思ったが、そういえば寒さを全く感じない。
さっき寝ていた時も寒いとは全く思わなかった。
部屋の暖房はつけていないし、少し不思議である。
「ウマ娘は代謝が高いのは知っているだろう? そのせいで、熱の発生が非常に大きくて寒さに強いんだよ。特に今のトレーナー君の体は体格がいいから、代謝がすごいんだろうし、だから薄着でも寒くないんだよ」
「でも、学園生は結構冬はコートとか着てるよね」
「あれは完全なファッションだよ。季節感がある格好の方が可愛いだろう? 実際何も考えなければ、今の君ぐらいの格好で雪空の下走ることも難しくない」
「あれ、ファッションだったんだ……」
まあ、冬服とかサイハイソックスだが太ももが見えてるし寒くないのかなーと思っていたのは確かだが…… トレーナー歴が長いにもかかわらず、今初めて知った事実であった。
「それに、その格好は私の趣味が9割だが「ほとんど趣味じゃん」ちゃんと実用的な理由もあるんだよ」
「どんな?」
「幼稚園児ぐらいのウマ娘達がどんな格好をしているか、見たことあるだろう?」
「まあ、ないわけではないけど…… いまいち印象にないよ」
「だいたいみんなタンクトップみたいな袖なしへそ出しの上着と、一分丈の短パンかレギンスを着ているんだよ」
「そういわれるとそうかも……?」
ウマ娘はヒトに比べれば人数は少ないし、子供というのをそう多く見るわけではない。それに、そうまじまじと見たこともないから、あまり記憶に残っていなかった。
だが、記憶を探してみると、確かにそんな恰好をしていた気がする。
「あれくらいの年齢の子たちは力加減がまだ苦手だからね。長い袖だと何かの時に破けかねないし、ひらひらした裾も何かに引っかかったときに破れてしまいかねない。長いズボンも同様に走ったり跳んだりしたときに破れかねない。だからだいたい腕出し、へそ出し、脚出しの格好をしているのさ」
「なるほど」
「スカートなんて論外だよ」
「じゃあタキオンも小さい頃はそんな恰好をしてたんだ」
「そうだね」
「ちょっと見てみたいかも」
ちっちゃいタキオンが露出の多い恰好をしているのはきっとかわいらしいだろう。
少し興味があった。
「じゃあ今度見せてあげよう。私のかわいさに絶句するがいいさ」
「楽しみにしてるよ」
「で、話は戻して、キミの格好はそういう幼稚園児と同じってことさ」
「まあ、言いたいことはよくわかったよ」
体格は立派で中身はおっさんでも、ウマ娘としての経験は正直幼稚園児に劣る状態だ。だから、幼稚園児と同じ格好を選んだということだ。
確かに非常に合理的でタキオンらしい判断だ。
まあ、ほとんどは趣味のようだが。
「ということで服はひとまず最低限そろったが…… どうしようか」
一応外には出れる、出れるよな? 出れると信じよう。出れる格好になったが、では次にどうするかである。
タキオンが少しテンションが高い程度でいつもと同じように対応してくれているから少し落ち着いたが、いきなりウマ娘になったという衝撃的な事実は何も変わらない。
「ひとまず、学園に報告に行った方がいいと思うね」
「じゃあたづなさんのところか」
ウマ娘という存在は結構神秘的なもので、時々フィクションのようなことが突発的に起きる。
そういったことについての情報は、URAや学園が集積しているので、意外な解決法がわかったりすることも多いのだ。
そもそも今後の自分のポジションもどうなるかわからない。男性トレーナーと同一性が認められなければ、今日から私は無職家なしである。
「あ、もしかして、失業ホームレス一直線?」
「ああ、トレーナー君がトレーナー君だと証明できないかもしれないね」
「橋の下生活は嫌だなぁ」
「なんでホームレス生活に思いをはせているんだい。そうなったらキミは私のヒモになるに決まってるじゃないか」
「ホームレスよりはましだけどプライド的にはよりやばい選択肢に思えるんだけど……」
タキオンが、当然のように私をヒモとして養うと言い出して少しビビる。
プライド的な問題で、それはできるだけ避けたいところだが……
「選択肢? ハハハ、トレーナー君は察しが悪いね。こんなことになったら、同居は確定。あとはトレーナー君がお仕事を続けられるか続けられないかだけだよ。選ぶ権利は君にはないからね」
「……」
「今の状態で、生活なんてできないだろう?」
「たしかに」
「それとも、キミは私が見捨てる薄情なウマ娘だと思っているのかい?」
「そんなことは少しも思ってないよ」
いつの間にか、私がタキオンと同居することは必然になっていた。
タキオンと一緒に暮らすのが嫌なわけではないし、まあ問題ない、のだろうか?
そんなことをもやもや考えながら、私たちはたづなさんのもとへと向かうのであった。