元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
タキオンに連れてこられた場所は、分倍河原駅近くの三階建てのマンションであった。
学園からも近く、学園内にある寮ほどではないにしろ通勤にも困らなそうな距離の場所である。
「ずいぶんきれいなマンションだね」
「二人で暮らせて、学園から近い場所、さらにセキュリティもいい物件さ」
「ん? 二人暮らし?」
「……」
いろいろ察してしまう単語が出たが、タキオンは笑顔で黙った。
ウマ娘になったから、という理由で同居することになったが、そもそもこれは突発的なことであり、物件探しの段階ではそんなことはわからなかったはずだ。
タキオンが他の人と暮らす、なんてことも考えにくい。
いろいろ察してしまうところはあるが、ひとまずこれ以上聞くのはやめよう。
考えるべきはどう答えるかであり、タキオンのペースに合わせてもいいだろう。
オートロックの入り口から2階に上がった一室が、新居のようだ。
玄関を開けると正面と右に部屋が、左には洗面所とトイレがある。
家具も最低限運び込まれていて、今日から生活できそうな程度には整っていた。
入って右手の部屋をのぞくと、机が三つ置かれている。
一つにはパソコンや書類などが置いてあり、もう一つには薬やらよくわからない薬草やらが置いてある。最後の一つは何もない。
「その空いている机はトレーナー君の机だよ」
「ん、ありがとう」
「本棚のそっち側は全部使ってもいいから」
部屋自体は広く、余裕があるため自分の仕事スペースとしても十分使えるだろう。まあトレーナー室もあるし、こちらで仕事することは多くなさそうだが……
タキオンが指した壁一面の本棚の反対側もまた壁一面本棚であり、本がぎっしり詰まっていた。おそらくタキオンの本だろう。
左の扉はトイレとお風呂である。
トイレは普通の温水トイレであり、お風呂はかなり広いお風呂だった。
「二人でも入れる広さがあるから、今晩から私が洗ってあげるからね」
「一人で入れるよ」
「ウマ娘の身だしなみは面倒だからね。慣れるまでは私がやってあげるから」
一応最低限のやり方はトレーナーとして知ってはいるが、タキオンがそういうならお願いしよう。
ついでにタキオンの身だしなみも確認できるし。結構ずぼらなのだ。
正面はリビングダイニングキッチンである。
「おお、いいキッチンじゃないか」
「ちゃんとコンロは三ツ口だよ」
「いいねえ」
寮のコンロは一つしかないから料理をするときにいろいろ不便だったのだ。
三ツ口ならばかなりいろいろ作りやすい。
調理器具も何があるか調べたいが、今の状況で扉を開けるといろいろ壊してしまいそうだし、もうちょっと我慢である。
リビング側にはテーブルと椅子が二脚置いてある。ちょっと高級そうなテーブルと椅子である。
他には二人掛けのソファとテレビがあり、テレビを見ながらくつろぐこともできそうだ。
「こっちがベッドルームだよ」
そういってタキオンが案内してくれた部屋は、リビングのさらに奥にあった。
大きなキングサイズのベッドが置いてある寝室だ。
結構高級そうなベッドに見えるが、正直高級な家具についてはよくわからない。
うちの安物のマットレスに比べれば絶対高級だろうが……
さらに奥にはウォークインクローゼットがあり、全体で2LDKというところか。
部屋の一つ一つが広いので、全体的に結構広い物件だった。二人で暮らすにもかなり余裕がある。
「いい部屋だろう」
「そうだね。タキオンが頑張って選んだんだね」
「ふふ、かなり頑張ったよ。さて、何か他に見たいことはあるかい?」
「今のところはないかな。下手に触ると何か壊しそうだし、もうちょっと力加減を覚えたらゆっくりいろいろ探すよ」
「そうだね。じゃあひとまずお茶でも飲もう」
リビングに戻り、私はソファに座り、タキオンはキッチンに立つ。
冷蔵庫に入れてあったらしいアイスティーを持って、タキオンは私の隣に座った。
私に渡されたのは、プラスチック製のコップに入った、ストロー付きのものである。
「これなら、壊しにくいだろう」
「たしかに」
ストローでチューチュー吸うのはちょっと幼いかもしれないが、安心して飲むことができる。
この体になって、いろいろ緊張していたのをこのタイミングで自覚した。
ゆっくりとした時間が流れる。
腕にタキオンの体温を感じる。とても暖かくて、非常に落ち着く。
アイスティーが少しずつ減っていく。予想以上にのども乾いていた。
「ねえ、トレーナー君」
「なに?」
「こんな時に言うのはだめかもしれないけど……」
「……」
「私、トレーナー君のこと、好きなんだ」
予想できていた告白だった。
「もう、わかっていただろう?」
「うん」
「本当は、チームルームでタイミングを見て言うつもりだったんだ」
「うん」
「でもいろいろあって、言い出せなくて、でも、我慢できなくて」
顔を伏せて、涙をためてそういうタキオン。
現状確かに私はかなり大変な状態だ。
そんな状態で告白したことに罪悪感があるらしい。あと緊張だろうか。
そんな姿も不謹慎ながら非常に美しく感じてしまった。
「タキオン」
「なに?」
「私も、タキオンのことが大好きだよ。愛してる」
「……」
当然予想できていた以上、ちゃんと答えるのが礼儀である。
正直に言えば、タキオンにそういう意味で好かれているという自覚がまるでなかったし、タキオンをあまりそういう意味で見ていなかった。
だが、あらかじめわかっていた以上、告白までに自分の考えをまとめるべきだろうと思い、今まで考えていた。
結論から言えば、自分はタキオンが大好きなのだ。何でもしてあげたいし、悲しませたくない。
それを愛と名付けるのに躊躇はなかった。
まだまとまりきっていない気持ちもあるが、恋人になったり夫婦になったり、そういうことには一切拒否感はない。
である以上、しっかりと愛していると答えるべきだと思った。
確かに絶対恋人になりたいとか夫婦になりたいとか、そこまで強い気持ちはまだない。
おそらくタキオンはもっと熱量を持った気持ちを抱いているだろうことを考えると、気持ちが釣り合わないことに少し、いや、かなり申し訳なく思う。
だが、それを理由に断るのは自分としてはなかった。
「トレーナー君」
「なんだい?」
「私も、トレーナー君のことが大好き。愛してる」
「ありがとう」
タキオンが私を見つめる。そして、顔が少しづつ近づいてくる。
私も少し首を傾け、タキオンにゆっくり顔を近づけるのであった。
初めての口づけは涙の味がした。