元モルモット君ダイワスカーレットと、モルモット君が大好きすぎるアグネスタキオントレーナー 作:雅媛
1 新生活の朝
ウマ娘になってみると、結構メリットが多い。
一番のメリットは朝早く起きても寒さがつらくないことだろう。
お布団があまり恋しくないというのはありがたいことだった。
「んっ♡」
いや、やっぱりそれなりに恋しいかもしれない。
今まで隣で私に抱き着いて寝ていたタキオンが、私が離れたせいか小さく声を上げる。
まだ起きるまで暫くありそうな雰囲気だ。
だが、愛バに抱き着かれて寝るのは心地よく、名残惜しい気持ちになるのは否めなかった。
このままタキオンをギューッとしたくなる気持ちを抑え、私は服を着る。
ブラジャーの付け方も案外すぐに慣れた。
後ろでホックを止め、カップにバストを入れていく。
まだ数日しか経っていないが、こういう動作も慣れ始めていた。
それにしても、そろそろ寝巻が欲しい。
タキオンが買ってくれたのは下着と露出度の非常に高い上下だけなので、寝巻が一切なく現状裸で寝るハメになっている。
タキオンが抱き着いてくるのもあって寒いわけではないのだが、そろそろちょっと文明的な姿で寝たいな、と思っているところであった。
パンツの紐を結び、タンクトップとホットパンツを履けば着替えは完了である。
まずは朝食の準備にキッチンに出て、エプロンを着る。
エプロンをするのはあまり習慣ではなかったのだが、タキオンが「トレーナー君のエプロン姿が見たいよぉ!!」と駄々をこねるので、ここ数日は料理時に着るようにしている。
このエプロンもタキオンが用意してくれたフリルが多くてファッション性重視なものだ。おそらく私用に準備したのだろう。
だが、これを準備した時にタキオンは私がウマ娘になるということは予想していなかったはずだ。
さすがにアラサーおじさんにこのデザインのエプロンはきついと思うのだが……
タキオンの好みは時々よくわからなかった。
冷蔵庫の中を漁るが、食材があまり残っていない。
ここに住み始めてから数日、私は力加減の訓練が忙しかった。
とにかく割り箸を割りまくったり、割った割りばしで豆を摘む練習をしたり、地味で時間のかかる作業を延々としていたのだ。
そのおかげで入居翌日ぐらいからは意識すれば力加減をある程度できるようになったし、最近は意識しなくても物を壊すことはなくなった。
私がそんな練習をしている間タキオンは私を見守る…… なんてことはなく、見ているのに飽きたらしく部屋で実験をしていた。まあ見られててもやりにくいし良いんだけど、タキオンはタキオンであった。とはいえなんだかんだで日常に必要なことについて世話を焼いてくれるので感謝をしていた。
何にしろ、そんな生活を送っていたせいで買い物にも行っておらず食材がピンチである。
食事は最悪出前などを取ってもいいのだが、一時しのぎだし、買い物に行った方がいいだろう。
ひとまず冷蔵庫から卵と手作りの食パンを取り出す。
目玉焼きを作ろうかと一瞬思ったが、卵を潰してしまい断念する。
卵のような繊細なものはもうちょっと要修行のようだ。
仕方がないので指で殻を取り除き、他の卵も全部ボウルに入れる。そこにさらに牛乳と砂糖を入れる。菜箸で混ぜ続ければ、卵液の完成である。
あとは薄く切った食パンをこれに浸けておく。少し経ってから焼けばフレンチトーストになる。これでメインは十分だろう。
ただこれだと野菜がないな。野菜の備蓄スペースを覗くが、玉ねぎとジャガイモぐらいしか残っていない。
ひとまず玉ねぎでスープでも作るか。
玉ねぎを輪切りにして、バターとともにフライパンに入れる。
モノを切るのもまだうまくいかないので、若干厚さが均一ではないが、どうせ炒めて煮るのだから問題はない。
さらに追加で切ったベーコンを入れて、少し炒める。
玉ねぎが透き通ったら、水と固形ブイヨンを入れて、煮込んで完成である。
ちなみにこの食パンも力加減の訓練の時に作ったものだ。
ひたすらパン生地をこね続けたのだが、ウマ娘のパワーだとすぐに生地が捏ねあがるのは少し感動ものであった。
おかげでモチモチな食パンが完成しており、タキオンからの評判も良い。
スープを煮ている間に、フレンチトーストが十分浸ったので、フライパンにたっぷりのバターを引いて焼き始める。
弱火でじっくり両面を焼けば完成である。
1枚、2枚、3枚…… タキオンはウマ娘にしては少食だが、放置するとどんどん小さく痩せていくので、頑張って食べさせないといけない。
一方私の方は燃費が悪すぎていつも腹ペコである。
1斤分の食パンを10枚のフレンチトーストに変身させてから、スープがぐつぐつ煮えるのを置いて、私はタキオンを起こしに向かった。
ベッドルームに戻ると、タキオンがもぞもぞしていた。
起きる直前といったところだろうか。匂いで朝食ができたことを察したのかもしれない。
「タキオン、朝だよ」
「ん~にゅ~♪」
なんだその寝言、可愛すぎか。
うつ伏せになりながらもぞもぞと毛虫のように動くタキオン。
ずっと見ていられるぐらいかわいいが、あまりに時間が空くとフレンチトーストが冷めそうである。
「タキオン、朝ご飯出来たよ」
「にゅ~♪」
目をつぶった状態のままだが、起きようとしているのだろう。タキオンが一層もぞもぞし始めた。
よくわからない可愛らしい生き物である。
そんなタキオンを観察していたら、もう少し活動できるようになったらしく、上半身が少しだけ起きあがった。
「タキオン? 起きよ?」
「ちゅーしてぇ」
寝ぼけているのだろうか、そんなこと言うタキオン。
少し迷ったが、キスしてしまおう。
タキオンの唇に、私は自分の唇を落とした。
――――
―――
――
―
「はい、あーん」
「あーん」
タキオンがフォークで差し出してきたフレンチトーストにぱくりと食いつく。
そんなことをするタキオンはすごく楽しそうである。
すでに自分で食べられる程度には力加減を覚えたのでほとんど自分で食べているが、タキオンはこうして毎回あーんを迫ってくる。
嫌でも何でもないので、毎回ありがたくいただいている。
何なら食事全部でも構わないぐらいだが、この体になってから食欲がやばいので、満足するまで食べてると日が暮れかねない。というか、初日の残りの時間はほとんど食事で潰れた。
仕方がないので、数口だけにさせてもらっている。
そんな風にゆっくり朝食を食べているとタキオンが話し始める。
「トレーナー君、今日から少しずつトレーニングを始めたいんだがいいかな」
「はむ?」
「トレーナー君は、夏から走ることになるだろう。少しずつ今のウマ娘の体にも慣れてきたみたいだから、トレーニングを始めようかと思って」
「なるほど、そうだね」
確かに力加減もそう間違えなくなりつつある。
そして、デビューまでの時間はあまりなく、トレーニングは重要だ。タキオンの言う通り、早めにトレーニングは始めた方がいいだろう。
正直この体でどこまで走れるかは全くわからないが、出来るだけ頑張ってみたい。
タキオンの知識と自分の知識、そしてこの体でどこまでたどり着けるか。
もしかしたら、あの時見えたその先にたどり着けるのではないか。
そう思うと、ワクワクした。
「トレーニング場所とかトレーニング内容とかはもう決まってる?」
「最初だから軽く走って様子見からだね。無理して怪我したら元も子もないから。春休みだし、当日でもトラックとかは使えるでしょう」
「了解。あ、そんなに時間かからないなら、帰りに買い物に寄りたいな。食べ物が結構尽きてきてる」
「わかったよ。じゃあ8時半ぐらいに家を出るのでいいかな」
「大丈夫だと思う」
初回だし、どこまで走れるか試す、トレーニングというよりもテストに近いメニューになるだろう。トラックを何周かして、タイムを取るだけならそこまで時間はかからない。9時ぐらいに学校につけば午前中で終わるだろう。
春休み中である今の時期ならばそこまで人も多くないと思われる。
終わってから買い物に行く余裕もあるはずだ。
のんびり話しながら今日の予定を立てていく。
こんな感じに今日のこの後の相談をしていると、タキオンがフレンチトーストの最後の一切れを差し出してきた。
ぱくっ、と食べる。砂糖の甘さと、はちみつのねっとりした甘さが口の中に広がるのであった。
2022年12月15日13時 総合日間ランキング68位
新作日間ランキング10位
ありがとうございます。
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不如法おじさん様、シエラ様、BuddPioneer様 誤字報告ありがとうございます。
誤字はなくならねえからよ……