アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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66. ミオリネ・レンブランの帰還

「あ゛ーーーーーっ! つっかれたぁあああ!!」

 

 持ち前の美貌とはかけ離れた濁点のついた声を出しながら、ミオリネはふかふかなシートへと体を沈めた。

 

 見る者が見れば百年の恋も覚めようという仕草であるが、幸いにも周りにはそのような者は誰もいない。補佐役として連れてきたティル・ネイスはいつも通り冷静かつミオリネに変な幻想を抱いてもいないので『しょうがないなぁ』程度の微笑ましい気持ちになるだけだった。

 

 ミオリネが身をよじらせて頬をシートに押し付けると、新品の化学繊維の匂いがする。いい匂いとは言えないが、不快感があるわけもなし。大きな出費となったが、中古でなく新品の航宙艦を買っただけあったとミオリネは思う。汗やらの匂いがついていたら、今のストレス過多なミオリネには耐えられなかっただろう。

 

 ミオリネは目を閉じながら、この二か月間の出張という名のあいさつ回りを思い返す。

 

 そう、わざわざアスティカシアの授業を休み、会社を仲間たちに任せて旅立ったのも、全ては方々に頭を下げるためのもの。

 

 競合になりうる医療機器メーカーには技術提携や販路について協力をしてもらえないかと頭を下げに行き、GUNDに対して偏見をもっているグループ企業にはプレゼンをして理解を求めて頭を下げ、そして顧客となりうる一般市民へもテレビ出演やインタビューをいくつも受けては頭を下げて。

 

 女帝ミオリネの学園での振る舞いを知る者からは意外なほど、コメツキバッタのようにぺこぺことしなければいけなかった。

 

 しかしそれは新興企業にとっては大事なこと。

 

 世間一般では社長と言うと、高い椅子にふんぞり返っているように思うかもしれないが、それは社長がイチイチ動く必要のなくなった成熟した企業での場合だ。

 

 株式会社ガンダムのようにスタートアップしたばかりの会社では社長こそが一番にビジョンを理解して、責任者として出資を求めなければいけない。文字通りの馬車馬のように働かなくてはならない立場なのである。

 

 ただ、その立場に不満はない。

 

 ミオリネにとって最初からわかり切ったことでもあったし、シャディクとあのバカと共に起業した際に一度経験したことでもある。先方の態度で言えば、もっと子供であったあのころと比べて名が売れた今の方が感触は良かった。

 

 これから飛躍するために必要な労力だから厭う必要はない。

 

 しかし、

 

「あのド級のバカ、ドバカのせいで私の評判はめちゃくちゃよぉ……」

 

 ミオリネは頭を抱えながら思い出す。

 

『ああ、株式会社ガンダムさんでしょ? よく存じ上げてますよ、あの合体したロボットとか!』

 

『天使とかロケットパンチとか面白いことやってますねえ!』

 

『例のCM、見ましたよミオリネ社長。いやいや、ご自身がヒロインのアニメを作るとは……なかなか愉快なお方ですね』

 

 企業に訪問するたび、異口同音に同じようなことを言われるのだけは堪えるのだ。

 

 曲がりなりにも経営者としてロマンバカのやりたかったことは分かる。

 

 とにもかくにもGUNDのイメージ払しょく。

 

 人を呪い殺すなどと言う医療器具にあってはならない風評をなくし、会社に親しみを持ってもらうためには何か別のインパクトのあることで上書きするのが一番。

 

 なのだが、一言いいたい。

 

(他にやり方があるでしょうが……!!)

 

 おかげで一般家庭におけるミオリネと言えばアニメ調でガンダムに救われるお姫様である。

 

 仕事で訪れたとあるフロントでは、ミオリネを一目見ようと小さな子供たちが集まっているほどだった。

 

 そんなものなので、出資者たちにも株式会社ガンダムの理念や義肢の話がどれだけ通じたものか。

 

 しかもCMの話をミオリネは知らなかった。知っていたらボツにしていたに決まっているというのに。

 

「あのバカ……! うぐぁあああああああ……!」

 

 ミオリネは羞恥に悶える。

 

 ミオリネの目標は変わらず、会社で実績を残してデリングという糞親父に対して下剋上をかますことと、その糞親父がガンダムを放り込んできた意図を知ることだ。そしてそこに医療で人を救うことや、スレッタとエアリアルの無事を確保すること、なにより自分もGUNDという技術に可能性を感じてることなどの諸々が付随する。

 

 だというのに初手からトンチキ決闘が起こり、トンチキCMが流されては、糞親父に下剋上どころかグループ内でもネタ企業一直線である。

 

 とはいえ、

 

(まあ、でもわかっていたことよ……アイツを中に入れたらこうなることは)

 

 羞恥とは別に、冷静なミオリネもいる。

 

 ミオリネがバカに求めるのは推進力だ。

 

 論理的なミオリネと対照的に、あのバカは情熱と非合理で動いている。だが、その度を越えた非合理と情熱が人を惹きつけるのも事実。

 

 癪なことではあるが、バカはミオリネとは別分野でのトップの器があるのだ。

 

 特に人々を扇動する力。

 

 あのロングロンド社のように社員を一丸にして、目標までデスマーチさせるような真似をできる経営者がどれだけいるか。それだけの信任を集めるのはミオリネでは無理なこと。やるとしたら父親に倣って社員を締め上げるという手しかない。

 

 だがそれはあくまで無理矢理であり、仕事への情熱が失われるマイナスを考えると取りたくない手段。

 

 だからあのバカが自分から首を突っ込んできたのはミオリネにとっては渡りに船でもあったし、今回のあいさつ回りでバカを学園に残したのも、ミオリネがとやかく指示を出さなくても社員の皆に適切……かどうかはともかく情熱の灯をともすことを期待したからである。

 

 ミオリネは心の底からバカをバカとしか思っていないが、バカはミオリネを一方的に幼馴染や友達だと思っているのもちょうどよい。

 

 共に手を携える上では相性がいいのだ。

 

 これで向こうが邪なことを考える輩ならクーデター一直線だが、バカに限ってはそれはない。いい意味でその信頼感はある。

 

 悪い意味でロマンにまみれた奇行をするという信頼もあるのだが。

 

「ま、ともかく……」

 

 ミオリネは窓の外の宇宙を見ながら、息を吐く。

 

 長い長い出張はひとまず終わり。

 

「ようやくアスティカシアに帰れるわね」

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 そして数時間後、アスティカシアの宇宙港にて。

 

「ミオリネ、おかえりー!」

 

「ふんっ!」

 

「ぬらばっ!?」

 

 タラップを降りたミオリネが最初にしたことは、出迎えたドバカの腹に全力で正拳を叩きこむことだった。それは女帝だけが持つ覇気が纏われ、アスティカシアの天が割れそうな迫力をもった一撃だったという。

 

 そしてギラギラと七色に輝く笑顔でミオリネを迎えたドバカが奇声をあげながら転がることになったのだが、ミオリネはまだ収まらない。

 

 バカの首根っこを掴むと、ぶんぶん振り回しながらミオリネは言う。

 

「このバカっ! アンタなにやってくれてんのよ!!」

 

「うごぉおお……! ど、どれのことかわかんねえ」

 

「はぁあああ!? どれのことって、アンタいったい何回バカをやったの!? バカ!!」

 

 自分の受けた仕打ちが氷山の一角だと知りミオリネは青筋を浮かべる。

 

「ようやくアスティカシアに戻ってこれたと思って、宇宙船から窓の外を見たらなによアレは!?」

 

「ほらミオリネ社長の帰還は社員にとって一大事だから!」

 

「宇宙から見えるほどのデカい文字で『オカエリミオリネ』じゃないわよ!? 入港するときだって変なBGMを流して……!」

 

「メカの入退場にはワンダバ流すもんだろうが!!」

 

「どこの世界の常識よ!? 光の国に帰れ!! それからこの空港中に流れているアニメな私のCMもいますぐ止めなさい!!」

 

 しかしミオリネが憤怒に染め上がるも遅きに失している。

 

 プリンセスミオリネのCMが流れる中で共同経営者をフルボッコにしているミオリネの映像は『株式会社ガンダムって愉快ですねー』な感想とともに学園中を駆け巡るのだった。

 

 しばいてもしばいても某ゲームの神のようにコンティニューしてくるバカとの追いかけっこにつかれたミオリネは、もうどうにでもなれと言う気持ちになるしかない。

 

 はぁ……と大きな息を吐くと、ティルが運んでくれたスーツケースをバカにぶつけながら言うのだ。

 

「帰ってきて早々にコレとかほんと悪夢だわ。ほら、さっさと荷物を運びなさい。早く会社に戻るわよ。アンタがバカやった結果を確認しないといけないから」

 

「イエス、ユアハイネス!!」

 

「だから、いきなり立ち上がって変なポーズするんじゃないって!?」

 

「殴ったのはお前だろ!?」

 

「殴ったのとポーズは関係ないでしょう!?」

 

 まったく、とミオリネは頭を押さえながら、どたどたとミオリネの私物トランクを抱えるバカを従えて歩き出す。

 

 その行動を見て周りの学生たちは「やっぱりあのバカを従えるミオリネやべえ」と誤解ではなく事実が広がっていくのだが、ミオリネも疲労がマックスになっていたことで気づかなかったりした。

 

 ちなみにミオリネの足取りは、タラップを降りた時は異なり生き生きとしたものだったという。

 

 そうしてミオリネは株式会社ガンダムの社屋となった地球寮へとたどり着いたのだが、

 

「…………ちゃんとしてるわね」

 

 ミオリネは意外という感情を顔に張り付けながらつぶやいた。

 

「そうだろぉ♪」

 

「誉めてないわよ。ただ、てっきり二、三体は巨大ロボットがいてもおかしくないと思っていたから安心したわ。アンタにも辛うじて常識ってものがあったのね」

 

 そう言うミオリネが見る先にはミオリネが出発する前と大きくは変わらない地球寮の作業スペースがある。時々、奥の方からガッチャーンコなどと言う音が聞こえている気がするが、きっとただの作業音だろう。

 

 取り急ぎ目立った変化と言えば、コンテナの中できれいに整列されているプロトタイプの義足と義手。それも喜ばしいことに、起動試験を行ったと報告を受けたものより格段に見た目が洗練されている。

 

 その場にいたリリッケとアリヤに頼んで動きのデモンストレーションをしてもらったが、動きにしてもかなり人体に近い動きができるようになっているのだ。

 

 これはミオリネの誤算であるが、嬉しい誤算である。

 

(元々のGUND義肢の技術の完成度のせいもあるけれど、想定していたものよりも進捗が早いわね。もしかしたらすぐにテスターを募集して実施試験から販売までこぎつけられるんじゃないかしら? その場合は市場の基準試験にも提出して……)

 

 表に出せるモノがあるというのは強い。

 

 今すぐにシェアを奪うというのは現実的ではないが、モノを出せるのと出せないのとでは追加融資の可否に大きく影響する。初期投資でモノが作れなかった会社に、追加で融資しようというのは出資者にとってリスクだからだ。

 

 思いがけない成果に興奮しながら、頭の中でこれからの道筋を修正していくミオリネ。

 

 だが、そこで隣のバカがミオリネをこつんと肘でこづいた。

 

「な、なによ?」

 

「ミオリネ社長? 頭の中でごちゃごちゃ考える前に言うことあるんじゃねえの?」

 

「言うことって…………あっ」

 

 ミオリネもバカに言われてすぐに気づく。

 

 試作品の説明をしてくれたリリッケがミオリネを見ながら期待と不安の両立したような表情をしているのを。

 

 アリヤはと言えば、バカと同じように『しっかりしてよ社長』とでも言いたげな達観した顔をしていた。

 

 ふぅ、とミオリネは息を吐いて落ち着きを取り戻すと、リリッケに笑いかけながら言う。

 

「すごい出来栄えじゃない。私の想像以上よ。あなたたちにこの仕事を任せて良かったわ」

 

「わぁ……! ありがとうございます、ミオリネ先輩! 他のみんなにも伝えてこないと!!」

 

 まだ一年のリリッケにとって、ミオリネからの誉め言葉は想像以上に嬉しいものだったのか、リリッケはかわいらしい走り方で奥へと向かう。

 

 部下の成果を認めてモチベーションを上げるのも上司の仕事。その点でミオリネには経験が少なく、バカにはその経験が有り余るほどあった。

 

 それをさりげなく教えてくれたのだから、ミオリネ自身は隣のバカにも感謝するべきとは思う。この短時間でこの完成度まで高めたこと。それを成し遂げた社員のモチベーションを引き出したのはバカの手腕だからだ。

 

 ただそのバカがあまりにもにやにやと笑っているので、

 

「調子に乗んな」

 

 と、ミオリネはいつもよりトーンを控えめにして、口先をとがらせながら言うのだった。

 

 その後、

 

「ところで……さっきからこっちをチラチラ見ているあの大男は誰よ?」

 

「ボブです」

 

「…………は?」

 

「ドーモ、ミオリネ=サン。ボブデス」

 

「ちょっ、その声、グエ……ど、どうなってんのよ!?」

 

「「ボブデス」」

 

「だからどうなってんのよ!?」

 

 みたいな一幕があったりしたのだが、おおむね株式会社ガンダムは平和。

 

 ちなみにミオリネには「見せられないよ!」なアレヤコレヤが格納されている地下スペースが生まれているとかいないとか……真実はバカしか知らない。

 

 

 

 そんな形で社内の状況やら、ミオリネも出張した成果を簡単に報告し終えること小一時間。紅茶とちょっとした菓子をつまんで一息入れたミオリネは、大きく伸びをしながらバカへと尋ねた。

 

 会社に戻ってから今まで、すぐに聞こえるだろうと予想していた子の声がしていないからだ。

 

「ところで、スレッタはどこに行ったの? あの子、私がいない間に寂しがっていなかった?」

 

「ミオリネがいよいよお母さんムーブしはじめた!?」

 

「誰がお母さんよ、誰が」

 

 まだそこまで人生を早送りしているつもりはない。

 

 だが、出張中のミオリネがスレッタのことを気がかりに思っていたのは確かだ。

 

 学園にいたころは四六時中とまでは言わないが、かなりの頻度で一緒に行動していたスレッタとミオリネである。それはホルダーとしての体裁もあるし、ミオリネから見たスレッタはまだまだ危なっかしい子でもあったからだ。

 

 それがいきなり二か月もの間、一人で学園に残してしまった。

 

 エアリアルのパイロットとして、スレッタもあいさつ回りに連れていくのは選択としてありだったのだが、まだ学業を優先するべきスレッタを長期間学外に連れまわすのはやめておいたのだ。

 

 だがミオリネもスレッタとは毎日のようにメールのやり取りはしていたが、『今日も元気に過ごしました』みたいな子供の夏休みの日記みたいな情報しかスレッタは返してこないので、本当に元気でやっていたのかは友達として心配なのである。

 

 そしてそれをミオリネから聞いたロマンバカはきょとんとすると、苦笑いしながらスレッタの居場所を教える。

 

「ありがと、じゃあ行ってみるわね」

 

 会社を出てミオリネが向かったのは、学園の中にある喫茶スペースだった。

 

 恰好は制服に戻っている。スレッタと会うのに着の身着のままというのもなんだか気恥ずかしく、ひとまず身の回りの荷物を部屋に運ぶついでに、身支度も整えたのだ。

 

 形だけの婚約者で、別に恋愛感情があるわけではない。

 

 だが、スレッタのことは大切な友人だと思っている。

 

 そんなミオリネはストレスの多かった出張の疲れを、スレッタとのんびりお茶をしながら解消したかったのだ。

 

 しかし、喫茶スペースにたどり着いたミオリネはスレッタに声をかけることなく立ち尽くすことになる。

 

「それでね、キープ君13号ったらおっきな薔薇の花束を持ってきててぇ♪」

 

「えーっ、薔薇の花束って重くない? 私だったら食事とかで充分なんだけど」

 

「いいじゃん♪ 愛の大きさってやつだよ!」

 

「やっぱレネの感覚はわっかんないなぁ」

 

「ねえねえ、スレッタはどう? 彼氏からプレゼントとかもらえるなら何が欲しい?」

 

「私ですか? えーっと、私はのんびり過ごせる時間とかもらえたらいいなーって思います」

 

「うんうん、水星ちゃんらしい♪ イリーシャは?」

 

「あっ、私もスレッタちゃんとおんなじ……。静かなところとかに行きたいかも」

 

「へー、スレッタもイリーシャもえっちだねぇ♪」

 

「え、えっちってなんですか、レネちゃん!? イリーシャちゃんも私も、普通のこと言っただけですよぉ!」

 

「いや、だってさぁ……」

 

「「レ・ネ?」」

 

「うぅ、わかったって! なんでもないわよっ!」

 

 顔を真っ赤にしたイリーシャとスレッタの抗議に言いつのろうとしたレネは、なにやら『二人に余計なこと言うなよ』と圧を強めたメイジーとフェルシーによって口をつぐんだ。

 

 それは恋バナに花を咲かせる年頃の学生らしい姿。

 

 だが、

 

「…………なにこれ」

 

 ミオリネはその光景を見ながら石化していた。

 

 スレッタを呼びかけようと上げかけた手は中途半端な形で固定化されている。

 

 彼女達が語っている内容が分からないわけじゃない。

 

 だが、それを語っている中に自然とスレッタがいるという事実を脳が受け入れられずにいた。

 

 ほんの二か月前は誰と話すのもおどおどしていたスレッタ。

 

 耳年増というか、人の恋愛ごとには興味深々なのに自分のこととなると照れてかわいかった純朴少女が、あのレネたちと仲良く話をする関係に進化している。

 

 それは数段飛ばしのワープ進化、いやミオリネにとっては暗黒進化そのもの。

 

 ミオリネは父親や他の経済界の重鎮と出会った時にもなかったほど混乱していた。頭の中はぐるぐるとカオスに融合され、

 

『わ、私のスレッタがギャルに……!』

 

 なんていう混迷を極めた叫び声を上げそうになったその時、そんなミオリネに気づいたフェルシーが肩をびくりと跳ね上げて叫んだ。

 

「うえっ!? み、ミオリネ!?」

 

 すると当然、スレッタ達もミオリネの方へと振り返る。

 

「あっ、そっかぁ。今日が出張帰りだったっけ。おかえりー、ミオリネ」

 

「お、おかえりなさい」

 

「おーっす、ちゃんと会社の宣伝できた?」

 

 などなどグラスレーの二年組三人からは三者三様の挨拶。

 

 そしてスレッタも、

 

「ミオリネさん、おかえりなさい!」

 

 と元気な返事を返しながら、ミオリネのところへ駆け寄ってくる。

 

「出張、お疲れさまです。もう会社の方には行ったんですか?」

 

「え、ええ……その、試作品とか見て来たわ」

 

「そうですか! ミオリネさんが帰ってくるまでに完成させて驚かせようって、みんなで頑張ったんです♪ 驚いてくれましたか?」

 

「そ、そうね……。すごくしっかりしてて、よかったと思う。それで、その……」

 

「ミオリネさん、どうしたんですか?」

 

 スレッタが首をかしげる。

 

 ミオリネの様子がおかしいのはスレッタにも明らかだった。

 

 なにせ目を合わせない、それになんだか自信がなさそうに肩も縮こまっている。

 

 そんなミオリネに困惑するスレッタだが、自分自身のことに混乱しているのはミオリネも同じだった。

 

(な、なによこれ……なんでスレッタ相手にこんなおどおどしているのよ私は。こういうしゃべり方するのはスレッタの方で、私はいつもスレッタを引っ張って……)

 

 そんないつもの自分らしくない自覚のまま、ミオリネは無理矢理な笑顔を作ってスレッタへと言った。

 

「よ、よかったら、今日の夜とか食事どう? ひさしぶりに会えたんだもの、ゆっくりしない?」

 

「今日の夜ですか?」

 

「ええ、きっと地球寮に戻るだけでしょう? だったらお店にでも行って……」

 

 しかし、スレッタが即答したのはミオリネにとって意外な答えだった。

 

「ごめんなさい! 今日はフェルシーちゃんとペトラちゃんとお出かけする用事があって。その、ぐえ……じゃなくてボブさんの相談とか」

 

「あ、そ、そうなの……それじゃあ、明日は?」

 

「ごめんなさい、明日はレネちゃんとメイジーちゃんたちからお誘いされています」

 

「じゃあ、明後日は……?」

 

「それもごめんなさい! エナオさんとサビーナさんとお買い物にっ!」

 

「そ、そう……」

 

「えーっと、予定だと……あっ、四日後なら空いてますし、そこでどうですか?」

 

「…………うん、任せるわ」

 

「はい……!」

 

 学生証を見ながら、予定を書き込むスレッタ。

 

 そのスケジュール帳には二か月前にはなかった友達との外出の予定などがびっしりと書き込まれていた。

 

 それを、ミオリネはちらりとでも見てしまった。

 

(っ……!? な、なにやってるのよ! スレッタのプライベートをのぞき見するなんて、なんて下品な……!!)

 

 ミオリネは頭を押さえながら、数歩下がる。

 

 ぐるぐるとする感覚はもっとひどくなるばかり。

 

 だがスケジュール調整に夢中でスレッタは気づかず、

 

「これで大丈夫です! この間、先輩と一緒に行った美味しいお店を予約しておきました! ミオリネさんのお帰り会です♪」

 

 それは純粋にミオリネを慕う笑顔。

 

 二か月前と同じであった……はずなのに。

 

「う、うん……わたしも、たのしみにしてる」

 

 ミオリネはしなびた大根のようなオーラを発しながら、ふらふらと立ち去っていくしかなかった。




次回からクエタ編開幕です。
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