朝起きたら紅美鈴   作:白仮面

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シリアルにしたいのにシリアスが入ってきます。助けて。
歓迎回


4話

三枝さんから住み込みバイトに誘われて2日。

 

私は住み込みに必要な荷物を自分の部屋でまとめていた。布団などは三枝さんが貸してくれるそうなので本当に必要最低限のもの――洗面用具やスマホの充電器などの小物、着替え、そして紅美鈴自身の服をキャリーバッグへと詰め込んだ。

 

元の自分の部屋を見返して他に必要そうなものはないことを確認する。大学生の間はずっとこの部屋にお世話になるものだと思っていたのにまさか1年と少しで出ていくことになるとは思わなかった。

 

もしかすれば、朝起きれば元の自分にひょっこりと戻っていた、ということもあるかもしれない。元の自分との繋がりを消さないためにも部屋はこのまま残しておくつもりだ。

 

それと、机の上にわかりやすいように一枚の紙を置いておく。

 

これは私の踏ん切りがつくより前に両親が元の私がいないことに気づいてしまった時のために書いた「生きているが貴方達の前に姿を見せることができない」ということを記したものだ。両親が合鍵で部屋の中に入れば目に通すことになるだろう。

 

両親がこの紙を見ないに越したことはない。私が紅美鈴として生きていくことを受け入れることができれば――両親が今の私を私として見てくれなくても受け止める覚悟ができれば、私は両親に電話をかけるつもりだった。

 

だが私が紅美鈴となった日から2週間以上経った今でもまだ私は実家へ電話をかけることができていない。両親すら私が私であると分かってくれなかったら、きっと誰も私に気付いてくれる人はいない。その事実が無性に怖くて、どうしても実家に電話をかけることができなかった。

 

今日も私は電話をかけずにスマホをポケットにしまう。

 

私がいなくなったことに両親が気付くまではもう少し時間はあるだろう。それまでに覚悟を決めなければ、と思う反面でまだ現実から目を背ける自分がいる。もう後がないはずなのに逃げ出そうとしてしまっている。

 

憂鬱な気分のまま、私はバタンと玄関のドアを閉めてマンションを後にした。

 

 

カラカラとキャリーバッグを引きずりながら私は三枝さんの居酒屋へと向かう。

 

三枝さんが経営しているのは個人経営の居酒屋で7年くらい前に始めたらしい。なんでも料理が趣味で創作居酒屋を始めたとか。

 

ネットで評判を見れば、「安い!美味い!スリリング!」「美味いんだけど緊張感が抜けない」「子供連れでも楽しめる」というなんとも言えない口コミの数々。

 

読んでみたが結局どんな店なのかよくわからない。どんな店にせよここ以外選択肢はないのだから行ってみればいいかと私は理解することを諦めた。

 

「ここか」

 

創作居酒屋「童」――大きく童と達筆で書かれた大きな看板が掲げられている。今はまだ朝方なので準備中と書かれたプレートが下げられていた。三枝さんにはおおよその到着時間は伝えていたのだが入ってもいいのだろうか。

 

少し迷ったが私は意を決してカラカラカラ、と引き戸を開けた。中は明かりがついておらず薄暗い。

 

おそるおそる店の中に足を踏み入れて――扉のすぐそばに人の気配を察知した。薄暗くてよく見えないものの明らかに三枝さんの背格好ではなくガタイの大きい男。そしてその人物は私に何かを向けていた。

 

瞬間的に私の中でスイッチが切り替わる。

 

元の私であれば、常人であれば反応できなかったであろう。だが今の私は紅美鈴、妖怪にして武術の達人だ。

 

超人的な反射神経でその人物が私に向けていた何かを掠め取った。そして警戒を解かないまま私は掠め取ったものにチラリと目を向ける。

 

パーティ用のクラッカーであった。

 

人物の方に目を向ける。顔に傷が入った強面のお兄さんが中腰で固まっていた。どう見てもカタギには見えない。

 

そんな珍妙な強面お兄さんから顔を逸らすように正面をむくと奥の方に苦笑いしながらこちらに手を振る三枝さんがいた。そして「美鈴ちゃんいらっしゃい」と書かれた紙が壁に貼っていて、テーブルには美味しそうな料理が並んでいた。

 

これはもしかするとやってしまったかもしれない。非常に気まずい空気である。とりあえず中腰のままクラッカーを鳴らすポーズで固まっている強面お兄さんにクラッカーを返す。

 

「も、もう一回入り直しましょうか?」

 

「いえ、お気になさらず」

 

強面お兄さんも私もどうすればいいのか分からずお互い言葉に詰まっていた。そんな気まずい私達を救ってくれたのは三枝さんである。

 

あっはっはっは!とこちらに指を向けて爆笑していた。三枝さんはひとしきり笑うと、笑いを堪えながら私達に声をかける。

 

「ふっ、んふっ、と、とりあえず2人とも席に座りなさいな。ケンちゃんはいつまでそのポーズで固まってんのよ」

 

「うす、驚きすぎて固まってました」

 

三枝さんがパチッと店内の電気をつけて、ケンちゃんと呼ばれた強面お兄さんがようやくクラッカーの構えを解いて私を席に案内してくれる。豪勢な料理が並んだテーブルに私と三枝さんとケンちゃんが座った。三枝さんが笑いながら私に話しかけてくる。

 

「ほんと笑わせてもらったわ。まさかサプライズ返しされるとはね」

 

「すいません……」

 

「ふふ、いいのよ。戦いに負けたケンちゃんが悪いから」

 

「美鈴さん、参りました」

 

ケンちゃんさんは深々と私に頭を下げる。どう見てもヤクザが組長に頭を下げてるようにしか見えない。正直ちょっと怖い。

 

だがそんな見た目とは裏腹に礼儀正しい自己紹介をしてくれた。ケンイチロウことケンちゃんでバイトとしてこの店で働いているらしい。一応聞いてみたが健全たるカタギの方らしい。

 

「そういえば公園でやってた演武を見てた時から思ってたんだけどやっぱり美鈴ちゃん只者じゃないわね。もしかしてあなた……」

 

「っ!」

 

ドキリとする。

 

もしかしてゲームの中のキャラクター、紅美鈴であることがバレたか。確かに武術の達人であり、この紅色の髪は勘付かれても仕方がない。

 

だが「気を使う程度の能力」を使ってない以上偶然で誤魔化せるはず、と私は固唾を飲みながら三枝さんの言葉を待つ。

 

「梁山泊で活人拳として戦ってたり史上最強の弟子を育てたりしてないかしら?」

 

「はい?」

 

「うちのケンちゃんも鍛えたらいい線いけると思うのだけれど、どう?」

 

「どうと言われましても」

 

申し訳ないが今の私は東方project出身であって、決して史上最強の弟子ケンイチ出身ではない。困ったように答えると三枝さんはあちゃー、刃牙の方かぁ、と自分の頭をペチンと叩く。刃牙出身でもない。

 

「あの演武見てから私の少年心が蘇って格闘漫画読み漁っていたのよね」

 

「なるほど」

 

その話を聞いてようやく理解した。だが創作物の登場人物という考え方は遠からず当たっている。危なかった、と冷や汗が流れた。

 

「ケンちゃんにも動画見せたら自分も強くなりたいって筋トレ始めたのよ?」

 

「腹筋ローラー買いました」

 

筋トレなどせずともその体格の良さと顔の厳つささえあれば大抵の相手は逃げ出すのではなかろうか。しかし腹筋ローラーをケンちゃんさんが買ったという話はさておき、三枝さんの言葉には見過ごせない部分があった。

 

動画の件である。

 

「気を使う程度の能力」は使っていないはずだし、演武を披露したとはいえただの凄い達人くらいにしか見えないとは思うのだが万が一のこともある。無意識下で「気を使う程度の能力」を使っていたら現場では気のせいで終わるかもしれないが動画では証拠が残る。

 

「あの、三枝さん」

 

「なぁに?」

 

「公園で撮っていた動画のことなんですけど、あんまり人に見せないで欲しいんです。えっと、流派とかの関係もあって拡散とかはやめてほしいかなって」

 

公園では何故だか子供達を撮っていた三枝さん、偶然であろうと私のことは撮っていたはずだ。見知ったばかりの私にも手を差し伸べてくれた優しい彼女のことだ、まさか動画を拡散なんてするとは思っていないが彼女の知り合いがそうしないとも限らない。

 

「へ?え、あ、あー、そうなのね。わ、分かったわ、動画はちゃんと消しておくわね、うん」

 

「ええ、お願いします」

 

ふと三枝さんの顔を見ればなんだか汗がすごかった。そんなにも店内は暑いだろうか。私としてはあまり暑くはないのだが紅美鈴となってしまった今、温度差などにも鈍感になっているのかもしれない。

 

けどそれにしてはケンちゃんさんはあまり暑そうにはしてないよなぁ、と彼の方を見れば彼は眉を顰めながら口を開く。

 

「店長、あの動画って確か――」

 

「はーい!お話はほどほどにして料理が冷めないうちに美鈴ちゃんの歓迎会始めるわよー!!今日は腕によりをかけて料理を作ったから遠慮なく食べてちょうだいね!」

 

三枝さんは大きな声を出しながら手をパンと叩く。ケンちゃんさんは何かを言いかけたようだが私と三枝さんの顔を見比べて、うす、と返事をした。

 

確かに目の前の美味しそうな料理が冷めるのは勿体無い。創作居酒屋と言っていたがどんな料理なのか気になるところである。口コミを思い出せば少々不安も残るが一見どれもとても美味しそうだが変わったものはないようにみえる。

 

「そういえば三枝さん、創作居酒屋って聞いたんですがどういうものなんです?」

 

「それは食べてからのお楽しみよ。さぁさぁ、冷めないうちに召し上がれ!」

 

よほど自信があるのだろう。

私は三枝さんに促されるがままに目の前に並ぶ串カツに手を伸ばし口へと運んで――むせた。

 

「んんん!!?」

 

辛い。美味しそうな串カツの見た目をしてるのに食べてみたらとんでもなく辛かった。だが吐き出すわけにもいかず涙目になりながらなんとか飲み込み、ケンちゃんさんからどうぞと差し出された水で一気に流し込む。

 

三枝さんの方をみれば“まるでイタズラに成功した子供のように”してやったりといった笑みを浮かべていた。

 

「いきなりハズレひいちゃったわね」

 

「は、ハズレ?」

 

もしかして、と思い隣の串カツも口に運ぶ。そちらは至って普通の、否、とても美味しい串カツであった。ハズレのある串カツ、つまるところロシアンルーレット串といったところか。ようやくどういう創作居酒屋なのか察しがついた。

 

「子供受けが良いのよね、こういうの。遊び心あるでしょ?」

 

「こんなの子供が食べたら泣きますよ?」

 

「やぁね、子供がいる時はもっとマイルドなものにするわよ」

 

今目の前に並べられている豪勢な料理の至る所に"遊び心”が仕掛けられているのだろう。なるほど、口コミでスリリングだの緊張が抜けないだのと言われるわけである。

 

「子供も大人も楽しめる創作居酒屋『童』へようこそ、美鈴ちゃん」

 

そう言ってウィンクする三枝さんに私は苦笑しながらも、こちらこそよろしくお願いしますと頭を下げた。




三枝さん
好きなもの:ロリ&ショタ
趣味:盗撮

ケンちゃん
好きなもの:猫
趣味:ヲタ活

Q.恋愛要素は?
A.ありません
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