「うぅ...サムい」
今日は、年に何回かある食料調達の日。
ナッペ山の頂上とかいう、自分でもたまにどうかと思う立地にジムを構えているぼくは、定期的に食料の備蓄を補充しに下山する。近くのフリッジタウンに行けば食べ物くらいはあるが、いちいち行くのもメンドイし、今のような冬ともなると外に出るのもサムいからヤダ。
だからジムの中に冷凍倉庫を設けて、保存のきくものをこうして集めて山の頂上まで運んでもらっている。
「ここは、いつ来てもアツいな...サムい...」
今日来たのはマリナードタウン。お魚が欲しくて来たのだが、入り口の看板を過ぎて下り坂に入ったあたりから既にセリの声がやかましい。普段人のいないところに住んでいるからか、余計にうるさく感じる。
それに入り口の下り坂もキライだ。冬だし、少し滑りそうで、怖い。怖い。
「...チルタリス、お願い」
乗せて運んでもらうことにする。
無謀に、哀れに、滑り落ちたりしないように。
「ふぅ...終わった」
食料の選定が終わり、現地で待ち合わせしていた運送業者さんにお願いをして、今は積み込み中の待ち時間だ。今回はちょっと多めに頼んでしまったので、長そうだ。
「...サムい...うるさい...」
一人でいると、どうしても寒さを強く感じる。それにセリの声がうるさい。野太い男の声、おばあさんの高い声、若者の情熱に溢れた声、それと......
「っっっしゃああああああああ!! チリちゃん、勝利やッッ!!」
......知り合いの、ひと際大きな声。
「何してんの、サムいよ...」
「おっ、グルーシャやん。
まいど! チリちゃんやで」
「わかってるよ...」
左に全力で流した緑髪に、強烈なワインレッドの瞳。そしていつもの服の上からジャケットを羽織っている彼女は、ポケモンリーグ四天王のチリ、知り合いである。
「今日はあれか、食いモン集めにきた感じか。ここの魚はウマいからな!」
「そうだよ...そういうあんたはわかりやすいね...」
「おう、今日も大漁や! なはは!」
そういう知り合いの横には、大量の荷物を背中に乗せたバクーダがいる。セリでチリが落としたのだろう。鮮魚やら木の実やらジュースやら、とにかくたくさんある。
「ほれっ」
「あ、ちょ」
ポフッ
「飲みや。暇なんやろ? 話してこうや」
「ええ...そういうのサムいんだけど...」
ジュース、サイコソーダを投げ渡される。そのままチリはバクーダに背中を預ける。
彼女のこういう強引なところ、サムい。
でも確かにバクーダの背中はほのおタイプなだけあって暖かい。
積み込みはまだかかりそうだ。
「...ごめんね」
そう言ってバクーダの頭を撫でて、ぼくも背中を預ける。
そのまま、渡されたサイコソーダの栓を開け―――
ブシュッ!!
―――サムい...
「なっはっはっはっは!! すまんすまん、ちょいと強く投げすぎたわ! カンニンな」
顔にかかったソーダを、チリがハンカチかなにかで拭いてくる。
結構丁寧に拭いてくれたけど、気分は底冷えだ。サムい、サムい。
「ごめんて、この木の実もあげたるさかい、許してや」
「...もらう」
名前がわからないけど、木の実ももらう。バクーダで熱されたのか、ほんのりと暖かい。
かじってみる。
「...おいしい」
「おぉ、良かった。自分こんなのが好きかなと思ったけど、アタリみたいやな」
「...なんて木の実?」
「すまん、名前は忘れたわ」
「おい、四天王」
ポケモントレーナーの模範たる
「そういう自分も知らんやん、チリちゃんだけ攻めんといてや」
「ぼくはいいの。メンドイから」
「なはは! 変わらんなぁ自分!」
そうだよ、変わらないよ、ぼくは。
「...あんたも変わってない。相変わらずサムい」
「チリちゃんまだサムいか。自分のよう言うサムいってのはわからんわ~」
別に、わからなくていいよ。
「ま、知りたくなったら知ればいいんや。今は美味しいものがあればそれでいい。そうやろ?」
「...そうだね。アカデミーなら調べれば簡単にわかりそうだしね」
「おう、知りたくなってから知ればいいし、それに...」
ポスンッ、と。
頭に手が置かれた。
「変わりたくなったら変わればええんや。そやろ?」
不満げに横を見ると、笑顔の垂れ目と目が合った。
...サムい。
「せや、この前ポケモンリーグの屋上に、デッカいジバコイルが三体もおってなぁ!」
得意げに話を始めるチリを横目に、ぼくは積み込みを待ち続けた。
体は、まだほんのりと暖かい。
「それじゃあ、またな! 楽しかったで~」
豪快に手を振った後、彼女はいつも通りポケットに手を突っ込んで去っていった。
ぼくも、ポケットに手を突っ込んで、背中を向ける。
手はほんのりと暖かい。
「...ふぅ...」
口元がマフラーで覆われていて助かった。
その口元もほんのりと暖かい。
「...彼女、サムい...」
積み込みが済んだコンテナが運ばれていくのを見守る。
背中も、ほんのりと暖かい。
「...帰ろうか...」
ぼくもチルタリスに乗って、ジムへと帰る。
ジムに着いたら、積み荷を冷凍倉庫に運んでもらって、終わりだ。
そうしたら、また一人になれる。
「......雪山、サムいなあ......」
体は、まだほんのりと暖かい。