アドマイヤアナザー ~もう一つの一等星~   作:煎餅さん

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まぁあのメンツと知り合ってあの子が来ない訳ないよね。

それと誤字報告ありがとうございます。誤字脱字衍字は友達。

今回は前回から時間をすっ飛ばして五月に入った頃のお話。



アナザーベガのヒミツ⑥:じつは、新調した下着が思ってた以上に着け心地が良くて、後日普段着用に追加で購入した。

アドマイヤベガのヒミツ⑥:じつは、ザーガとクラスメイトで距離も近いナリタトップロードに、言い表せないもやもやした感情を覚え始めている。


出会いは突然に

 私達がカツラギエース先輩にミスターシービー、そしてナリタトップロードと知り合った入学式の日から早数週間。その後は正しく平穏無事と言ったもので、あのバタバタとした一日は何だったのか疑う程に静かな日々が続いていた。

 

 強いて言うならば、下着を新調した数日は浴場で少なからず目立った。私に至っては不慣れな事も相まって、同室ゆえに随伴していたマルゼンスキー先輩にホックを留めて貰ったのが拙かったのだが。

 そうでなくとも私達姉妹は大変そっくりで、それが衣服のみならず耳飾りまで外してしまえば両親ですら判別不可能な程だ。少なくとも過去に私が風呂に入ろうと脱いでる最中、不幸にも脱衣所兼洗面所にてニアミスした父は私をアヤベと呼び間違えた。後で知ったが父はその事で姉さんにこっぴどく怒られたらしい、理由は複雑だったから覚えていないが。

 少し話が逸れたが、要はそっくりな姉妹であるが故に目立つのだ。それが入学初日の夜、寮の大浴場で明らかにおろしたての下着を大先輩に手伝って貰って着用していれば更に目立つ。柄が少し違うだけで色も形状も同じ下着なのも相まって、妙な噂が追加で数日流れた。流石に先輩を巻き込んだ噂だった為に、方々で動きがあり直ぐ収まったが。

 

 ともあれ、逆に言えば最初の一週間前後はやや忙しなかった程度。二週間する頃には慣れた様子で、特にこれといった注目もされなくなった。そして時の流れとは早いもので、いつの間にか五月へと突入していったのだった。

 この時期にもなると流石に寮生活や学園での勉強、共同トレーニングといった環境に慣れ始める。そして学園側もそれを見越して、入学後最初の各種測定がこの時期に行われるのだ。

 

「アヤベさん、身体測定のお話はお聞きになりましたか?」

 

「ええ、私の方でも今朝あったわ。それにしても、入学前にも測定はしたのにこんなに短い期間でもう次の測定があるのね」

 

 さて、この場に居るのは私と姉さん、そしてナリタトップロード。あの日ミスターシービーと合流後、姉さんにとっては知らない子が妹の隣に居るといった状態だった為に紹介するに到った。

 今となっては良き友人関係になり、こうしてカフェテリアで食事を囲む仲でもある。そして普段は更に数名の私やナリタトップロード、もしくは姉さんのクラスメイトが混ざるのだが今日は私達だけだ。午後の測定に備えた説明と実習がある為、特に仲が良いとされる少人数で固まって緊張をほぐすのを推奨されているからである。

 

「入学前のテストと、今回のテストじゃ結果は変わるだろうから仕方ないわよ。早い子は本格化の兆候がこの時期から出始める、加えて来月からはメイクデビューが始まると考えればそういう子を分けて選択を迫るのも不思議じゃないし」

 

 私もまた姉の疑問に私見を交えて答えつつ、手元の食事を口へと運ぶ。宥める様に、諫める様にを心掛けて丁寧に発音した。どう捉えるかは彼女達次第だが、どちらも聡明である為にこれだけで理解はしてくれるだろう。

 

 本格化とメイクデビュー、この二つは切り離せない物だ。

 本格化はウマ娘の身体能力が飛躍的に上がる現象で、同時に人によっては外見的な成長も著しい。例えばこの場に居る私達はまだ本格化を迎えていないし、外見的成長も今後著しい物が起こるタイプ。前世知識で言えば、今後入学して来るであろうメイショウドトウなんかは逆に身体ばかりが成長して身体能力の最適化は後から来るタイプ。それを見極めるには定期的な測定が一番である。

 加えてメイクデビューは六月から始まり、デビュー時期によってはクラシック級へ挑むまでの準備期間にムラが出る。その為自分の本格化の時期を見極め、トレーナーを探し、早々にデビューするというのはクラシック路線を望むウマ娘にとっては重要となる。それを外部からサポートするのが今回の測定という訳だ。

 もちろん、あえてずらす事で手の内が知れるのを最小限に抑えた伏兵的な戦術もあるので一概には言えないが。

 

「今回の測定って、トレーナーさん達も見に来るの?」

 

「見に来ると思うわよ、というよりは見に来ないと有望株を他に取られる事になる。だから必然的に来る事を迫られる、が正しいかしらね」

 

「ザーガさん、そんな事まで分かるんですね。凄いです、尊敬します!」

 

「でしょう? 私のザーガは凄いでしょう、自慢の妹よ」

 

 至極当然な事を言った気がしたのだが、何故か滅茶苦茶持ち上げられる。姉さんはどうもシスコンブラコンの気があるらしいので分からなくも無いが、ナリタトップロードはそれでいいのだろうか。いやまぁ、たぶん彼女の性格的には間違ってはいないのだろうが。言われる側である私の中身は成熟している為、苦笑を浮かべるしか無いのがまた辛い。いっそ開き直って誇れれば楽な気がしてきた。恥ずかしいからやらないが。

 

「そんなにいう程じゃ無いでしょ。それより早く食べて着替えちゃいましょう? 今日はプルートーン先生も説明と実習トレーニングに参加するらしいし、早めに行動するに越した事はないわよ」

 

「ザーガのクラス担任だったかしら、厳しい方なの?」

 

「それなりに、でしょうか。厳格で気難しい人ではありますが、私は同じくらい生徒をよく見てくださる善い先生だと思っています」

 

「トップロードさんに同じ。ただ時間を守るとか、そういう基本的な部分には凄く厳しいのよね。連帯責任でお小言も貰うし、「嫌なら基本的な物ぐらいは守るか、守るよう周囲からも言って聞かせろ」って正論で殴ってくるのよ」

 

 うまい事話題が逸れて、クラス担任のプルートーン先生へと矛先が変わる。

 ちなみに彼女は元々サポート科の生徒で、卒業と同時に現理事長にスカウトを受けて教師になった経緯を持つ。元々目標や将来という物に頓着していなかったらしく、二つ返事で就任したらしい。

 話にも上がったようにやや気難しい性格をしており、大半の生徒からはあまり好かれていない。というよりはむしろ好かれようとしていない節があり、あくまで教える者と教わる者の立場を明確にしている気もする。実際の所がどうかは分からないが。

 しかし私やナリタトップロードの様に、精神的に既に成熟していたり勘が鋭い場合はその限りではない。彼女の不器用な優しさに一度気付いてしまえば、むしろ好きにもなってしまう。そんなウマ娘だ。

 

「でもそのお陰で、私達のクラスは一ヶ月にしてかなりの連帯感が生まれたと思います。言い方は少し厳しいですが、あの人の言葉はどれもためになる事ばかりですから、皆自然と言いつけを守る様になっていったんですよね」

 

「へぇ、どんな人かちょっと楽しみになって来た。それじゃ第一印象は良くしておかないとね、早く食べてしまいましょうか」

 

 そう言って、姉さん達も手早く食事を済ませて片付け始める。本格化を迎えていない為か、思っていたよりはあまり量を食べられないのでこういう時は少し楽だ。とはいえそれでも私と姉さんは、ナリタトップロードや他の子と比べてやや多めに食べているのだが。

 

 兎に角、食事が終えた以上は手早く移動してしまう。腹ごなしにもなるし、更衣室の混雑を防ぐ意味合いもある。

 その移動中、ナリタトップロードが口を開いた。

 

「それにしても、今はもう慣れてしまいましたがよく食べますよね。最初はビックリしました」

 

「私からすれば、皆そんなに食べないんだなって思ったぐらいよ。小学校の頃に私が走るって決めた時から、ザーガに言われて多く食べる様にしてたのだけど……変だったかしら」

 

「いえいえ、アスリートは身体が資本。そして身体は食べる事で育ちますから、何も間違ってはいませんよ。その頃から意識して食事量を増やしていたんですねぇ、通りで周りと比べて体格が確りしている印象があった筈です」

 

 姉さんが答え、彼女もまたそれに納得していた。理解力が早いと非常に助かる、余計な説明をする必要も無い。

 

 これまたちなみに、食事量を増やしたのは前世の知識から来ている。史実アドマイヤベガ号は菊花賞の後長期休養を取るも、翌年の夏に秋のオールカマーへ向けた調教中に左前脚繋靭帯炎を発症し引退している為だ。

 正直どこまで効果があるかは不明だが、何もしないよりはずっと良いだろう。下地となる肉体を確りと作り、その上で普段のトレーニングも余計な負荷をかけない様に行って柔軟運動も取り入れる。あとはこのまま、これまでの努力が結実してくれる事を祈るだけだ。

 

「当時は色々あったから。出来る事を全部試して今がある、ただそれだけよ」

 

「詳しく聞く野暮はしません、お二人がここに居るというだけで今は十分だと思っていますから」

 

 釘を刺すつもりで言った私の言葉に、ナリタトップロードからはそんな返答。どういう意図で言ったかは不明だが、もし私達に正しく配慮しての発言であれば中等部に上がって間もない少女が言うのかと驚愕する所だ。しかしある意味では走る事に対して真摯であるが故の言葉とも取れ、この学園に通う生徒たちの志の高さに感服するばかりである。

 なんであれ、私達のする事は変わらない。今はただ走るだけなのだから。

 

 

 

 少し真面目な空気になってしまったが、気疲れしては元も子もないのでサックリと切り替える。そうして他愛ない会話をしていればあっという間に更衣室へ辿り着き、別クラスの姉と一度別れて着替えを済ませにかかる。

 流石に入学して一月近くも経過すれば多少周りの子の下着やらが見えてしまうのも慣れ、着替えで気疲れするという事も無くなって来た。加えて利用する生徒もまだ少ない時間な事もあり、快適に着替える事が出来た。

 強いて言うならば、ブルマの着用だけはやや抵抗があるぐらいか。短パンは短パンで違和感が凄まじい為、今度は満足に走れなくなるので仕方がない事ではあるのだが。

 

「ま、ジャージを着るから関係無いんだけど……」

 

 しかし正式なレースを除き、模擬レースやトレーニング中は基本的にジャージ着用が一般的だ。万が一にも転倒した際、皮膚表面を保護する役割を果たしてくれるのだ。流石に夏場は任意で着脱はするが、大抵の場合最低でも上半身は着用する場合が多い。

 レースでも着た方が安全なのではないかと疑問にも思うが、それに関してはちゃんとした理由があった。その理由も極めてシンプルで、トレーニング中と本番で出るパワーは桁違いな為にジャージでは性能が不足しているのだ。その為に下手に着用するよりは、万が一転倒し外傷を負った際に怪我の位置がすぐわかる体操着姿の方が良いという理屈なのだ。

 

「ザーガさん、着替えが終わったなら早く行きましょう! アヤベさんも待ってますよ!」

 

「分かった、すぐに行くわね」

 

 幸い独り言は聞こえなかったらしいナリタトップロードに急かされ、着崩れの有無だけ確認してジャージを上から着用する。最後にドリンクボトルと粉末スポーツ飲料、タオルにその他諸々を入れたバッグを持って移動する。

 そうして更衣室から出れば彼女の言う通り、姉が微笑みながら手を振って迎えてくれた。

 

「お待たせしました、それでは向かいましょう!」

 

 ナリタトップロードの音頭に合わせ、私達姉妹もまたそれぞれに応答を返す。

 そうして意気揚々と集合場所であるコースへと向かい、そこで目にした人物に私は後悔するのだった。

 

 あの日以来、同室であるマルゼンスキー以外の名ウマ娘達とは顔を合わせてはいない。厳密にはLANEでのやり取りは偶にするが、その程度だ。

 そう、その程度で済んでいたのだ。この時までは。

 

 初めは誰か一人、私達以外に早く来た生徒が居るなと思った。しかしその認識はすぐに改められ、私達に気付いて振り返った彼女の揺らす鹿毛とその特徴的な流星はその正体を確信させた。

 

「君達がナリタトップロードにアドマイヤベガ、そしてアナザーベガか。焦心苦慮の末に早く来た様子でも無し、むしろ泰然自若といった処かな?」

 

 そう私達を見て声をかけて来たのは、この学園に居るならば誰もが知る人物。

 つい先日行われた春の天皇賞を制し、五つ目の冠を手にした偉大なる皇帝。

 

「初めまして、入学の挨拶で知っているだろうが私はシンボリルドルフ。この学園の生徒会長を務めさせて貰っている。マルゼンスキー達から話は聞いているよ、私とも仲良くして貰えると嬉しいね」

 

 無敗の三冠、現在五冠。そして未来の七冠ウマ娘がそこに居た。




ザーガ:女子校って噂広がるの早すぎて怖い。あとレジェンド級ウマ娘ラッシュ味わったしもう無いと思ってたんだけど。時間差かぁ……。アナザーベガのやる気が下がった。

アヤベ:私の妹は時に姉よりも優れた知識で私を支えてくれるのよ、布団乾燥機と並んで欠かせない存在だわ。

トプロ:アヤベさんはザーガさんの事信頼してるし、ザーガさんはアヤベさんの事をよく見ているし。……凄く凄い、とんでもない姉妹愛ですね!

マルゼン:後輩のそっくり姉妹を下着からコーデして侍らせているという噂が広まり、本人は楽しんでいたし本当に侍らせちゃうのも面白そうとか考えていた。なおトレーナーとルドルフにそれは拙いと早々に火消しされた模様。

ルドルフ:マルゼンの件から当の後輩の事も知っておこうと聞いて、彼女の私見もあって興味を持った。今回の身体測定の前日説明にはそんな下心もあって同席を申し出た。教師陣は頭を抱えかけた。

お父さん:お母さん一筋なのでザーガ達の小学生ちんちくりんボディを見ても別にどうも思わないが、年頃の女の子だしそれらしいリアクションは取っておいた方が良いだろうと行動。しかし当のザーガはそんなこったろうなと何とも思っておらず、むしろ名前を間違えた事を切っ掛けにアヤベに露呈。無事多感なお年頃真っ只中のアヤベに怒られた。ザーガの裸は自分の裸も同然という理屈であった。



 余談ですが、ウマ娘未実装の子はなるべく控えたい(性格とか口調考えるの大変)という事で今後ジュニア級以降に進んだ際はライバル枠としてのオリウマ娘がちょこちょこ出始めます。基本的に設定に凝り始めると止まらなくなる悪癖があるため、元ネタを基に簡単なキャラ付けを行った子となります。元ネタに気付いても特になにもありません。
 あと感想の返信ですが、基本的に来たら兎に角返信してぇなってスタンス。しかし薄々お気づきの方も居ると思われますが、私色々と余計な事も一緒にお答えしちゃう事があります。その時は笑ってスルーして貰えると助かります。
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