でも無駄に真面目な話を書いた気がするからそれで長くなってるだけな気もする。てか会長、一人で生徒会切り盛りしてた時期があったと思うとほんまに学生でござるかぁ~?ってなるよね。
予想外の展開に困惑していたのも束の間、諸々の準備を終えたらしい我らが担任が顔を出す。それに合わせてシンボリルドルフも動き、こちらに「また後で」と短く声をかけて去って行く。時間で言えばほんの一瞬顔を合わせた程度だが、去り際の一言のせいでこの後を考えてしまい気が重くなる。
しかしそうしている間にも時間は過ぎ去り、あっという間に翌日の身体測定についての説明が始まるのだった。
「さて、既に各クラスで話はあったと思うが改めて言う。明日、入学後最初の身体測定が行われる」
普段は姦しいという字も言葉も似合うウマ娘達も、どうやら私達のクラス担任であるプルートーン先生の噂は知れ渡っていたらしく粛々と話が進んでいく。むしろ先生を除く合同トレーニングを監修する教官たちの「普段もこう静かで素直ならな」という苦言が目立つ程度には、普段とは全く違う空気がこの場を支配していた。
「……これは説明とは関係のない余談だが、その場凌ぎで態度を繕っても必ず何処かでボロが出る。必要な時、相応しいタイミングで確実に相応の態度が取れる様に普段から意識をする様に」
そして当然の様に、我らが担任はそんな教官たちの苦言を正しく拾う。これで彼女がただの厳しい教師であれば話は別だが、残念ながら私達と同じウマ娘だ。ウマ娘の耳の良さは私達が身に染みて良く知っているし、息を呑む気配もちらほらと周囲から感じる。これで今後のトレーニング態度が少しでも改められることを期待しよう。
とはいえ、主題はそこではない。あくまでも明日から行われる身体測定が今回の主題だ。
当然無駄な話にリソースを割く人物でもない、多少のお小言として口にはしたが既に手元の資料へと視線は向いている。今朝私達にも配られた資料だが、あくまで口頭で重要な部分を言って聞かせる為の物なので今この場で持ち込んでいる生徒は居ない。そもそも、良くも悪くも文章量が多い書類であった事もあってキチンと読む生徒がどれほど居るだろうかという話でもあるが。
兎も角、内容としてはそう難しいものではない。変に格式張った書類にするから子どもは読まないのであって、こういうのは口頭で説明すると殆どは理解される場合が多い。もちろん偶におつむが緩い子も居るが、それに関しては根気強く付き合っていくほかに無いだろう。生徒間での支え合いも重要になる程度には大事だが。
説明の内容は大別して、主に三つ。
一つ目に一般的な身長と体重の測定と、スリーサイズの測定。
これは主に入学時に測定した結果との成長曲線などの推移から、本格化の兆しを読み取る為の物だ。
二つ目に、初等部でヒトと共学であった者には馴染み深い各種能力測定。
私も前世では馴染み深いモノで、要は握力や瞬間的なパワー測定の類。こちらも一つ目と組み合わせ、筋力面での発達具合を見る為の物だ。特に本格化は筋力に影響を与え易い、その為にこれも兆しを確認する為の測定。単純に普段のトレーニング強度が入学前の物より上がった結果、急激な成長を見せる例もあるが。
最後の三つ目だが、これは極めて単純。競争能力の測定だ。
不思議な事に筋力面が多少劣っていても、速い者は兎に角速い。身体への負担を考え、ダート700mの直線コースを走って計測される。二つ目と同じ様にトレーニング内容で急激に成長を遂げている場合もあるが、その場合は大抵が走法に問題があるタイプな事が多い。そしてその場合は出鱈目な走法でも入学が出来る程度の競争能力を保持した逸材として、トレーナー達から目を付けられる要因にもなる。
纏めてしまえば用紙一枚で済んでしまうが、流石にそこは体制もあって数枚に亘って用紙に書き記されている。むしろそのせいで、こうしてわざわざ口頭での説明が行われる等の弊害があるのだがこればかりは仕方がない。なにせ測定内容には乙女にとっては最重要機密みたいな物も含まれる、必然的に格式張った物になってしまうのだ。主に個人情報といった機密保持の側面で。
「基本的な説明は以上だ。気になる者は今朝配られた資料に詳細が記載されている、それを確認する様に。先ほどの説明でもよく分からなかった者は、とりあえずそれぞれ全力で事に当たればいい。どの道こちらで逐一指示を出す、測定前に疲れる様な事がなければ十分だ」
そうして説明は終わり、後は通常通りに午後の合同トレーニングが行われる。しかし今回はその前にもう一つ話す事があると言って、プルートーン先生は一拍置いて口を開く。
「今日この後のトレーニングには、シンボリルドルフ生徒会長が視察に来るそうだ。また明日の測定、最後の競争能力の測定も同様に視察に来るという話だ。だからといって過度な緊張をしない様に、するとしても今日中に慣れておけ」
そう、半ばやけくそ気味に言う。視界の端で誰かが手を振ったように見え、そちらを向けば当の本人。何人かが気付いたらしく、あっという間に騒ぎが全体に広がる。視線を先生方に戻せば、知ってたと言いたげに苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべてゲンナリとしている様子であった。
「……お疲れ様です、先生方……心中お察しします……」
そして私はそんな教員達に胸中で合掌して、なまじ生徒会が力を持っているとこういう時に教師が苦労するんだなぁと同情するのであった。
とはいえだ、生憎私は今更そんなレジェンドに見られているからと緊張する玉ではない。むしろこちらは常日頃、あのマルゼンスキー先輩と寝食を共にする仲である。今更見られている程度でどうもしないし、ナリタトップロードもまた私達姉妹と関わる都合で同様の心境だろう。
「とりあえず普段通り柔軟から始めて、一通りの基礎トレーニングかしらね?」
「異議なし。強いて言うなら、最後に軽く明日と同じ条件で走りたいかな」
「私も問題ありません。明日と同条件といいますと、ダート700mの直線コースという事ですか?」
姉の提案から始まり、私の同意と追加の提案。そしてナリタトップロードの同意と、追加案への確認が並ぶ。
私達のルーティーン、あの日知り合ってから今まで三人で行っている合同トレーニング中の班内行動の初動。いくら合同と言っても、教官の人員が限られている以上は数名で固まった班行動が手っ取り早い。更に言えば、どの道大した指導を得られないならば独立した行動でも何ら問題は無いのだ。当然ある程度の内容を共有し、必要に応じて監督指導してもらう事もあるが。
「それじゃ決まりね、教官たちに普段のメニューと追加メニューの提出をしてくるわ」
「お願いね、姉さん。それじゃ、こっちは先に柔軟しちゃいましょうか」
「はい、よろしくお願いします!」
周りと比べれば人数の少ない班ではあるが、それ故にメニューの構築や微調整も容易なのが利点だ。仲良しこよしで集まっている事に変わりは無いが、周りと比べれば少しばかり熱の入り方が違うのもまた事実。
程無くして姉さんも戻り、三人での柔軟も終わろうかという時だった。
「やあ、先ほどぶりだね」
シンボリルドルフが再び、私達の前へと現れた。私達は普段から周りの子達と微妙に離れた距離に居るのだが、今回はそれが逆に悪目立ちした様だ。
「聞いた話の通りだね、お陰で真っ先に君たちの所へ向かってもお咎めも無く済みそうだ」
そう言って彼女は他の班が集まっている方向へ視線を向ける。私はわざわざ視線を向けずとも、そちらから注がれる無数の視線を感じているので注目されているのは理解出来た。
尤も彼女の言う通り、繰り返しになるが私達は普段からこうして離れた位置で行動している。良く言えば目的が明確であるが故に流されない様独立していると言えるが、逆に言えば孤立して普段から見ている者でなければかなり目立つ。つまりシンボリルドルフが興味を持つのも必然で、しかし他の子達は私達が普段からこうしているのを知っているから妙な勘ぐりを受けないのだ。
「話を聞いているなら、私達がやろうとしているトレーニングが見てて詰まらない事はご存知だと思いますが」
「これでも私だって先輩なのだけどね。知恵分別は心得ているし、それを詰まらないと軽視する愚か者でも無い。そも、べつに面白さを求めて見に来たわけでも無い」
マルゼンスキー先輩には、普段から私達が基礎トレーニングをメインに取り組んでいる事を教えている。きっとそれが目の前の彼女にも伝わっているのだろう。
そしてそれを改めて伝えても、シンボリルドルフは道理も解し判断も適切であれば事の重要性は明白と言い、私達のトレーニングへの興味は依然変わらない様子であった。
「会長さんが私達のトレーニングをご覧になりたいという気持ちは変わらない様ですし、諦めて普段通り始めてしまいましょうザーガさん。アヤベさんも私も、今更緊張する様な事でも無いと思っていますから」
ナリタトップロードの言葉に姉さんも頷いて、私を見る。こうして話している間も時間は過ぎていくので、早い所トレーニングを始めたいのは山々なのだが。
「緊張とか言うより、高名な先輩達に興味を持たれるのがストレスと言うか……」
しかしここらで本音を零しておくのも良いかと思い、そう思ってしまえばあっさりと私の口はそんな言葉を紡いでいた。彼女には悪いと思っているし、聡明な彼女の事なので今回の視察だって悪影響を少なからず出す事は理解しているだろう。
わざわざ言う必要も無かったとは思うが、それでもハッキリと言える者も少ない筈だ。自分で理解出来ていても、周囲から実際に言われるのとでは事の重みが変わって感じられる物だと思うし。
「本人を前にしてストレスか、これは手厳しいな。しかし私とて焦心苦慮の末ここに来ているのでね、言われたからと辞めるわけには行かないんだ」
「存じていますとも、ただ実際に言われる機会も少ないでしょうから」
現生徒会は、現状彼女一人。だからと言ってワンマンでどうにかなる仕事量、という訳では無い。彼女一人で従来の生徒会フルメンバーで当たる業務を全てこなしてしまえる、そしてそれに対しての畏怖が増員を阻害している。
まあ気持ちは分かる、なにせそれだけの事をして無敗の三冠を達成しているのだ。その後のジャパンカップ等での敗戦ですら、本人もトレーナーも生徒会の業務は一切関係ないと断言して学園への非難をシャットアウトしている。更に実際にその様子を去年の十二月にとあるエンタメ系番組が特集を組んで報道し、シンボリルドルフ生徒会長の驚異的な業務処理能力が世界的に広まるに至った。
それ故に、彼女に意見できるヒトもウマ娘も滅多に居ない。彼女のトレーナーも生徒会の仕事には口出しをせず、当然学園行事に関しても何も言わない。学園側もむしろ粗を咎められはすれど、彼女の不備は殆ど指摘できずにいる。結果として今回の様な視察もまかり通ってしまうし、通常発生するデメリットすらも口八丁手八丁で好転させてしまうのだから質が悪いという噂すらある。
しかしそれはそれ、これはこれ。噂は噂であり、彼女でも掬いきれない者は既に居るだろうし、今後もどうしたって出て来る。
そして周囲が成功していれば、落ち零れた子がただ能力不足だったと思われたって仕方がない。例え特別緊張に弱く、終始ぎこちない動きを余儀なくされていたとしても。それを知る術は、周囲に存在しないのだから。
だからこそ、言える時に言っておくのが大事なのだ。
「ザーガ、会長さん相手でも容赦ないわね……」
「そりゃね。クラスの緊張しいな子が馴染めずに本来出せた結果を出せず、本格化の兆しを見誤って行動が遅れたら大変だもの。言える時に言わないと」
あと逆に張り切り過ぎて、本格化を誤認されてデビューを焦る様な事例も怖い。単に結果を思うように出せず心が折れる可能性すらあるし、身体が出来上がり切っていない状態で高負荷なトレーニングを始めかねないという危険性もある。大怪我の原因にもなるので避けたい事例だ。
「全くもって君の言う通り、私の苦慮もそこにある。現場の声が聞ければ一番なのだが、遠慮されては意味が無くてね」
「遠慮を察して辞めると言う手もあったのでは?」
「それも勿論考えたが、熱心な子はどうしても声が大きくなる。そうするとやがて余計な諍いを避けたい子達が、逆に私を求めて来てしまうんだ。不利だと分かっていてもね」
それを聞いて、なるほど確かに苦慮もしようと同情する。悪手と分かっていても生徒側から求められ、更には彼女が見に来る事で不調をきたす子ですらクラス内の揉め事を避ける為に無理して求めに来る悪循環。
今回の様な新入生のタイミングで辞めれば良い気もするが、残念ながら去年の初等部生徒向けの見学イベントで彼女が視察する姿を見せてしまっている。当時は夏、その時点でも無敗の二冠ウマ娘が新入生のトレーニングを見に来るのかと初等部は期待を膨らませた。そして入学後はと言えば、先日五冠目を戴いたばかり。そろそろ見に来ないかとソワソワする子も居て、実は彼女が来たのもそういう熱心な子の歎願もあったらしい。
「確かに、それは何処かのタイミングで明確にデメリットを提示した上で行動を否定した上で辞めないと後腐れが出そうですね」
「その通り。そして私の処理能力の高さは良くも悪くも知れ渡ってしまった、今更誤魔化すのも難しい。マスコミを黙らせる苦肉の策がここに来て仇になるとは、私も焼きが回ったかな」
「平然と言ってますけど、普通はそこまで先を読んで行動できる方が少数だと思います。というか、ザーガは何か打開策とか無いの? 貴女、こういうの解決するの得意でしょう。結構雑だったり強引だけど、理屈で押し通すのとか」
そう言って姉が割り込み、その言葉にシンボリルドルフの視線が改めて私に向けられる。そんな私がお悩み相談窓口として機能しますよみたいな事をいうのは止めて欲しい、ましてその悩みを抱えている人物の前で。そも、私はそんなスキルは持ち合わせてない。
「ダメダメ、私のやり方じゃただでさえ絶賛記録更新中で畏怖されてる会長さんが更に敬遠されちゃうわよ。私のやり方は基本的にヒトの善意に漬け込んで甘い蜜を吸おうって奴にお灸をすえる物で、会長さんの場合は自分から配りに行った物が首を絞めてる自業自得に近い物だから性質も違うし……」
「確かに、その方法だと突き放しに近いかもですね。今回のケースでは自分から寄って行ってるので、いきなり突き放すのはどうかと思います……」
私の返答にナリタトップロードも同意し、それもそうかと姉さんも思い直してくれた。新入生にわりと好き勝手言われている当のシンボリルドルフは複雑そうな表情を浮かべているが、まぁこの場合は仕方がないと割り切って貰おう。
「まぁ、気の長い話にはなりますけど生徒会のメンバーを増やすのが早いと思いますよ? 新メンバーの教育とか、その新メンバーからの提案を加味して体制の見直しをした結果とか色々それらしい言い訳は使えるようになると思いますし」
正直言って、一番無難な回答はこれだろう。大人しく生徒会メンバーを増やして欲しい。
というか、前世知識ではあるが最終メンバーがシンボリルドルフとエアグルーヴ、ナリタブライアンの生徒会長一名と生徒会副会長二名の計三名というのはどうかと思う。実際には書記とか会計も居そうではあるが、それも含めてほぼシンボリルドルフ一人でも済みそうな気がするから恐ろしい。
そして現に対面している目の前のシンボリルドルフもまた、それが可能な能力を有している。どうなっているんだこの世界の学生は。
「やはりそれしか無いか。分かってはいた事だが、根気強く募集をしてみるとしよう……」
後は私達一部の事情を知るか、単に緊張しいな子を集めて先ほど苦い顔を浮かべていた教員陣営と結託するかだろうか。こちらは序盤は水面下で、かつ情報規制を徹底して行わなければならないのでやるとしても他人に任せるが。
「応援してますね」
とりあえず現状は他人事である。なってしまった、やってしまった事は他人ではどうしようもない。せめて私達がそういった近い役職に居たならば手を貸す事も出来ただろうが、生憎私達はただの新入生でそういった役職の話はまだ上がっていない。諦めて欲しい。
「はは、クールだねぇ君は。可能な限り最善を尽くすさ、君たちも可能なら不調そうな子には声をかけて貰えると助かるよ」
「ええ、その時はお任せください」
流石にアフターケアぐらいは手伝おう。というより同期になる可能性の高い子が、そんな事で不調になっては面白くない。別に私がレースでやり合いたいとかそういう意味での面白くないではなく、後味が悪いとかそういう意味での面白くないである。私は戦闘狂じゃないし、そもそも入学の理由だって姉に同行したというのが半分以上だ。
話も一区切り付いて、いい加減体を動かそうと肩を回す。それに同調して二人もまた動き始め、長話をして冷えた分を暖め直す。
「それじゃ、ちょっと遅くなったけどトレーニングを始めましょうか」
そう言って大事な明日の身体測定に備えて、フォームの最終確認を主な目的にして三人で順番に走って行く。一人は横から、一人は後ろから軽く流して追う事で左右へのブレが無いかのチェックを行う。というよりはそれが主目的で、フォームの確認とは名ばかりのブレの有無のチェックとも言える。
後は基本的な上半身と下半身を鍛えるトレーニングの後に、ある程度疲労が蓄積した状態で数回ほど本番形式で走る。
徹底して基本を鍛える。正直、私を除いてこの二人は天才だ。余計な事をしなくても十分に強い。
逆に私は基本を積み重ねてどうにか誤魔化しているが、たぶん模擬レースをする機会があれば底が露呈するだろう。それまでの時間稼ぎとも言えるかもしれない。
それにトレーナーがつく前に、二人が変な癖をつけても嫌だしね。
ザーガ:基本の積み重ねが私たちを強くすると信じて。アナザーベガの次の活躍をご期待ください。
アヤベ:私の妹、怖い物知らずなのか抜けてるのかよく分かんない……。
トプロ:たぶん感覚麻痺してるだけな気がします。後日マルゼンスキー先輩に会長さんにこう思われてたらしいわよって話をされてベッドに沈む未来が見えますよ。(慣れ)
ルドルフ:聞いていた通り面白い子だった。しかし妙な違和感がある、姉や友人と遜色ない競争能力は有しているようだが……。
プルート他教員s:ああ、厭だ厭だ。サービス精神が旺盛なのは結構だが、こちらの負担も考えてほしいものだ。士気が上がるのは確かなんだがなぁ。