アドマイヤベガのヒミツ①:じつは、過去にふわふわを追い求めて妹を揉みくちゃにした事があり、現在も週一の頻度で妹でふわふわを得ている。
家を出てからは交わす言葉も程々に、姉と共に駅へ向かう。着いたらそのまま電車に乗り込み、背後で扉が閉まるのを感じながら周囲を見渡せば、前世では考えられない程に空いている。
この光景も初めてではないが、毎度の事ながら違和感が拭えない。まして前世と同じ様に、自発的な行動が取れる様になってからは特にだ。とはいえ今の私達からすればこの空き具合はありがたく、一先ずは席へ座る。流石のウマ娘といえど、そこそこの量がある荷物を抱えて一時間半を電車で揺られるのは堪える物があるのだ。
「トレセン学園までの推定所要時間は端数切り上げで2時間として、それでも現地に着いたら1時間は余るね。どうする、どこかに寄って食事にする?」
さて、腰を落ち着けた所で時間を見る。気合を入れて早朝から行動していた為に時間は余る予定で、それもやや過剰な為にそんな提案を姉に向けてみる。
彼女は数秒だけ考える仕草をして、頷きながら笑って答えた。
「そうね、早く着いても向こうで食べられるらしいけど……折角だしどこかに寄りましょうか。何か希望はある?」
「珈琲が飲めれば何処でも」
「殆ど絞られるじゃないの、それ。じゃあ何処かパン屋かカフェを探しましょうか、駅中なら良い所もあるでしょうし」
彼女に聞かれ、素直に答えれば呆れた様子で笑われる。我ながらその反応も当然とは思うが、今朝は家で淹れる事が出来なかった。なので求めてしまうのは仕方がない、身体が珈琲を求めているのだ。
そんな他愛の無い事から始まりあれやこれやと話すうちに、私達はこれといった問題も無く乗り換え予定の中継駅へと到着する。流石に都会付近の各種路線への乗り換えが出来る大型のプラットホームだ、ここまでくればヒトもかなりの人数が居る。それでも少し人の流れがある程度で、広さに対して人数は多いと言えない程度ではあるが。
何にせよ食事を取る店を探そうと、姉と共に周囲を見渡す。流石に使う人の多さに比例して、食事処や様々な店が各所に立ち並ぶので目移りするが目的は珈琲だ。目的が定まっているから、探すべき店は自然と絞られる。
「ザーガ、あのパン屋さんとかどうかしら。自家焙煎の珈琲ですって」
「へぇ、期待させてくれる謳い文句だね。そこにしよっか」
そう言って姉の指差す先を見て、彼女の言う通りの文言を視界に捉えてそれに頷きながら答える。
歩いて近づいて、営業時間を確認すれば問題なし。むしろモーニングメニューの揃えも良く、早朝の客を狙った店にも思えた。前世では中々強気な店だと思えるが、ウマ娘の世界ではこれでも食べていける程度に人足は集まるらしい。現に時間に対してこの店の席はそれなりに埋まっていて、視界の端に幾つか空席が見える程度しか無い。
後方からこの店目当てらしい足音を耳が捉え、邪魔になる前に早々に店に入る事にした。
鼻腔を擽る珈琲の香りに、食欲をそそる小麦の焼けた香りで溢れた店内にスタッフの案内で歩いて行く。壁際奥の二人用の向かい合った席に通され、二人で共にメニューを眺める。
内容は何処にでもあるパン屋のモーニングと言って差支え無いが、珈琲に関しては謳い文句にするだけあって種類が多い。むしろ専用メニューがある程度には多いので、パン屋というよりは喫茶店ではと考えてしまうが気にするのも無粋か。
何にせよさっさと目的を済ませてしまおう、この手の店はパンを適当に選んでも美味いので手早く決める。本題の珈琲は、種類が多く少し悩む。
「思ってたより多い、というか自家製ブレンドと他に幾つかって思ってたんだけど」
「そうね、私もそう考えてた。……焙煎所も兼ねてたみたいね、メニューにも書いてあるし」
その言葉と共に、指先が動く。それを追って見れば、丁度他の客が会計を済ませる所らしかった。支払いが終わり、最後に珈琲豆の入っているらしい物を店員が渡していたので間違いは無いだろう。
「……何か買って行こうかな」
「せめて入学式を終えてからにして。まして入寮日に、私物の嗜好品を買って行くなんてあまり良くないわよ。そうでなくても、貴女先月も月末には金欠になってたじゃない」
「ぐうの音も出ない正論……耳が痛い」
焙煎所とわかると、私の性分としては欲しくなる。なるのだが、残念ながら姉の言う通りに学園側の心象はあまり好くないだろう。ここは一先ず我慢だ。
今後姉と別行動を取る事も増えるだろう、前世から続く自分の衝動買いの癖はいい加減に治さねば金欠は免れない。
自分の耳が萎れるのを感じつつ、結局無難にブラジル豆をチョイスした。とりあえず気持ちを満足させる事を優先させ、さっさと誘惑の魔の手から抜け出そうという魂胆であった。
結果として思惑通りに気は紛れたし、味も良かったしで大満足である。また機会があれば来るとしよう、学園の近場に良い焙煎所が無ければだが。ここはトレセン学園からだと距離があり過ぎる。
朝食を終えて一息ついて、再度府中へ向けて行動を開始する。と言ってもここまでくれば後は府中方面行きに乗って、電車に揺られ続けるだけだ。あわよくば誰か他のトレセンの生徒と出くわさないかと思ったが、そううまい話も無い。
これといってトラブルも無ければ、特筆すべき事も無くトレセン学園へ到着するのであった。
さて、トレセン学園に到着した事で本日の目的は殆ど達成したと言っていい。
今日はあくまで入寮日であり、寮で生活をする生徒が先んじて学生寮に集まる日だ。基本的に殆どの生徒が寮生活になるので、この入寮日に同い年のお隣さんとは顔見知りになる。
また同室相手はその時々で変わるが、一般的には年上の先輩ウマ娘と同室になる。偶に諸々の理由で空き部屋になった場所へ割り振られ、同室が同い年だったりする事ももちろんある。一人部屋になり、翌年以降に後輩が同室相手になる事も当然あり得る。
少なくともカレンチャンの事もあるので姉の同室相手は居ないか、居ても翌年以降には卒業か引退だろう。前世持ち故に姉の同室相手の知識がある以上、後者だった場合気持ちの良い事では無いので最初から居ない方がありがたい。
ちなみに栗東寮と美浦寮のどちらかまでは事前に通知が来る。そもそも先にそれぐらいは分からないと荷物すら送れないので当然ではあるが。
「二人とも栗東寮で良かったわ。同室は流石に無理でしょうけど、あんまりザーガと離れ離れなのも変な感じだし」
「そうかな、私としてはいっそ別の寮の方が良かったんじゃないかと思うけど。主に見た目的な意味でさ」
そんな姉の言葉に、しかし意地悪で否定の言葉を返してみる。
私の返答に困ったような顔を浮かべて、それも一瞬で直ぐに苦笑に変わる。彼女も何が言いたいか気付いたらしい。
「ああ、確かに同じ寮内だと間違える人が多そうよね。でもたぶん、別々の寮だったら今度は本人確認が必要になりそうじゃない?」
「ははっ、確かに。同じ寮内で入れ替わりの悪戯ならまだ可愛い方かもね」
改めて、私達はとんでもなくそっくりな姉妹だ。
容姿は瓜二つで、本格化を向かえていない現状では身体的特徴も殆ど同じ。髪色も髪型も、尻尾すらも長さ含め全て一緒なのでメンコが無ければ見分けが付かない。
とはいえ当然ながら筋肉の質や毛の手入れによる質、性格の細部には明確な差がある。だが共に走るか、もしくは付き合いが長ければ分かる程度の違いだ。現状ではきっと誰も判別がつかないだろう。
要はそんな状態で別々の寮に振り分けて、もし仮に私達が悪戯好きの問題児だったらどうなるかという話であった。入れ替わりで、本来所属していない寮に入り浸るという事態になる可能性も学園は考慮しなければならないだろう。
寮対抗の催し事が無い訳でもない以上は警戒されて当然な気はする。無論、そんな事はしないのだが。
「おや、随分早い到着だね。そんなに楽しみだったのかな、可愛いポニーちゃん達」
さて、そんな事を話しながら歩いて居ればいつの間にか栗東寮の前に来ていたらしい。そして私にとっては聞き覚えのある声と、呼び方にそちらを向く。
「初めまして、私はフジキセキ。そうだね、年は君たちより一つ上の先輩で、この栗東寮の寮長補佐をしているよ」
そして予想通りの名前を名乗ったウマ娘が、そう笑顔で挨拶をしてきた。
「初めまして、アドマイヤベガです。隣が妹のアナザーベガ。これからお世話になります、フジキセキ先輩」
「あはは、フジで良いよ。それにしても姉妹とは聞いてたけど、本当にそっくりだね? メンコやリボンの色が同じだったら、もう一人が鏡の世界から飛び出して来ましたって言われても信じたかもね」
丁寧に返す姉と、気さくに振舞うフジキセキ。アプリやアニメと違い、どうやら今の彼女は生粋の寮長という訳では無いらしい。そもそもアプリでのアドマイヤベガやフジキセキは高等部、私達が今こうして中等部から入学して居る以上はこの程度の差異は当然ではある。
何にせよ、姉にばかり話させているのも体裁が悪い。この辺りで私も会話に参加して置こう。
「ならば私の事も気軽にザーガ、姉はアヤベと呼んでください。家族や親しい者達からはそう呼ばれていますし」
「へぇ、声もそっくりなんだ。わかった、アヤベさんにザーガさんだね? これからよろしく頼むよ! それで早速、寮での部屋割りについてなんだけど────」
第一印象はそんなに悪くは無いと思う、やたらとそっくりな点に驚いていたので興味は持たれたかもしれない。
そうでなくとも、姉とは史実で異母兄弟の様な関係なので必然的に私もその括りに入るだろう。そういった感覚的な物があっても可笑しくは無いし、実を言えば現にそんな感じはしている。妙に親近感を感じるというか、そんな程度だが。
何にせよ今は部屋割りだ。寮長補佐である彼女曰く、どうやら姉と彼女は同室らしい。内心で驚きはしたが、しかしすぐに「正式に寮長に就任したら、専用の部屋に移動しちゃうんだけどね」と残念そうに笑う彼女の言葉で納得した。確かにそれなら時期にも依るだろうが、ちょうどカレンチャンと入れ替わりになるのだろう。
そして私はといえば、姉やフジキセキの部屋からは少し離れた場所との事だ。同室相手は会ってからのお楽しみと言うが、正直全く予想がつかないので正しく会ってからのお楽しみな点が不安である。仲良く出来るとよいのだが。
そうしている内に、別のウマ娘達もちらほらと見え始めた。手早く説明を切り上げ、寮内の詳細は夜にでも同室の子に聞くようにと厳命された。細かいルールがあるらしいので、必ず二人以上で確認し合うように徹底しているらしい。
そんなこんなで姉とも一度別れ、私は自分が割り振られた部屋へと向かっていた。道中では寮を利用する新入生達の荷物が各部屋の前に置かれており、それを見て皆荷物が多いなと考えていれば見覚えのある段ボール箱が視界に入る。
「……少ないとはよく言われるけど、こうも同年代の子の荷物に囲まれると際立つなぁ」
そしてそれを見てから困ったように後頭部をかき、そんな事をぼやいて、こぢんまりとした私が自宅から送った荷物を見る。箱数で言えば、姉や周りの子の荷物の半分以下。そして箱の大きさもその殆どが、周囲にある箱の平均サイズよりやや小さい。
例えるなら、平均的なシングルベッドの上に殆どの子の荷物は乗りきらない中で、私の荷物はベッドの上に置き切れてしまう程度に。
ハッキリ言って同室相手に妙な心配や誤解をされかねない、こればかりは少し反省をする。姉を含め、他の家族からも常々心配されていた理由をこういう所で痛感するとは。なまじ前世があると、変なところで無欲になってしまうのは良くなかった。加えて前世ではこういった寮生活の経験も無かった上、荷物の少なさに違和感を持っていなかったのが拍車をかけたか。
とはいえやってしまった物は仕方がない、時間が戻る訳でも無いので意を決して扉に向き合う。そしてそのまま勢いに任せてノックをし、扉を開けた。私の同室相手は誰だろうかと少しの不安と期待を胸にして。
ザーガ:自室の荷物が少ない。代わりに珈琲等の趣味の品は衝動買いしがち。でもそんなに大きくないのでやっぱり大した荷物にはならない模様。
???:同室予定の子の荷物が少なすぎてビックリ、案の定ちょっと心配してる。
アヤベ:平均的な荷物量+ふわふわ。ふわふわ職人は場所も相手も選ばない。
フジ:まだ寮長見習い、その内寮長になる。実は荷物の件でちょっと警戒してたけどバレてない。なおこの日の夜、彼女は布団乾燥機の購入を決意する事になる。
ちなみに本作では史実アドマイヤベガが二卵性双生児(馬は殆どの場合二卵性らしいという雑なリサーチにより仮定)とし、ウマ娘世界ではボディ自体は一卵性双生児として生まれています。その為見た目で殆ど見分けが付かず、しかし耳飾りの位置は……といった具合になっております。
左耳属性なのは煎餅さんの趣味ですが、それとは別にただの色違いだと面白みが無いとか、冷静に考えて視覚的に考えるとマジでパッと見で判断付け難いな?という理由でそうなっています。
なので別にアレコレ理由を付けて合法的に実質アヤベさんのブルマ姿をやましい理由で無く想像出来るという算段ではなく、作中登場キャラ達が視覚的にアヤベとザーガの区別をつけやすく出来る為の処置です。
あとアヤベさんがザーガで得ているふわふわはたわわなふわふわと大きなおみみのふわふわです。