(2/22)そういえば史実改変的なタグを他所で見かけたのを思い出したので史実ともアプリとも違う路線のマルゼン出してるなら該当するのではと思い至り追加しました
アナザーベガのヒミツ②:じつは、前世の趣味で洋酒に少し明るい。父に振舞ったカクテルもそこから。シェーカーはノンアルのカクテルジュースにも使えるので、見た目のカッコよさからも弟達に人気だった。
アドマイヤベガのヒミツ②:じつは、小学二年生ぐらいまでは走るのが嫌いだった。
さて、ノックから数秒を置いて扉を開けた私の前に居たのは。
と思ったが、顔が見えない。近すぎて私の目の前には、それなりに豊満なバストがあった。
というか何でそんなに近くに居るのだろうか。確かにノックを聞いてから扉に近づくには十分な時間だったが、だからと言ってここまで近くに来る必要は無い。
扉が後ろで閉まる音がして、改めて確認するべく視線を上げて顔を確認する。
直後、私の顔の横を彼女の腕が通過した。背後にある扉に手を強く突いたのか、それなりに派手な音がする。形としては所謂壁ドンという奴だが、それ以上に私は彼女の顔を見て絶句する事となった。
「初めまして、私はマルゼンスキー。よろしくね」
たった今自己紹介をしていただいたが、確かにマルゼンスキーがそこに居た。前世での記憶もそうなのだが、それに加えて比較的最近テレビで見た顔だった事もあって思考がオーバーフローを起こす。辛うじて冷静な部分が、何故彼女が私にこんな事をと考える。しかし困ったことに、本当に困ったことに、今回に関しては心当たりがあり過ぎた。
だがそれはそれ、これはこれ。挨拶をされた以上、挨拶は返さねばならない。古事記にもそう書かれていると、どこかで見かけた気がする。
「ど、ドーモ、マルゼンスキーさん。アナザーベガです」
内心で直角九十度のお辞儀をしながら、そう挨拶を返す。実際には目の前の豊満にぶつからない様に頭を下げる程度だが。
何か微妙に間違っている気がしないでも無いが、そんな事にまで思考を回す余裕はこの時の私には無かったので良しとする。
ちなみに目の前に居るマルゼンスキーだが、今年からドリームトロフィーリーグに上がったスターウマ娘だ。諸々の戦績としてはジュニアの朝日杯FSを始めとして、クラシックでは幾つかのオープンレースと重賞では宝塚記念で勝利。シニアでも春秋の三冠路線を噂されたが、結局出走したのは大阪杯と天皇賞(秋)の2レース。有マ記念でも票を集めたが、クラシックの時もシニアの時も体調を崩した事を理由に辞退している。
生まれや国籍の問題でクラシックレースを走れなかったのはやや史実準拠だが、アプリの育成シナリオでも走っていた安田記念やスプリンターズSも走らなかった事は印象に残っている。
そして去年、私達姉妹がトレセン入学に向けて身体づくりの仕上げ段階に進み始めた頃ドリームトロフィーリーグに移籍を表明。どうやらこの世界ではトレセン入学後すぐにデビューしたらしく、現在も確か一般的な高校二年生と同程度の年齢だった筈だ。
兎に角、私の前に居るのは間違いなくトゥインクルシリーズで去年まで絶対的強者と呼ばれたウマ娘の一人だ。
画面越しではなく、直接の対面。その迫力に気圧されるのが分かる。精神面が成熟していても、中身は平和ボケした日本でのんびり生きていただけの大人だ。彼女程のウマ娘の迫力に耐えられる気概は持ち合わせていなかった。
挨拶を返してから既に一分ほど沈黙していた気がするが、正直よく分からない。ジッと見つめて来る彼女の迫力はそれだけ私に圧力をかけているのだ。
冷汗が出始めようかという所で、ようやく彼女が動いた。
扉に当てた手と反対の手を、私の頬に添えて微笑む。顔が良いから許されるような行為だと思うが、彼女の場合はそれに加えて迫力を備えているから困る。もはや脳が命の危機と錯覚し、吊り橋効果の様に妙な高鳴りすら覚え始めた。そんな私を前に、彼女は口をゆっくりと開く。
「早速で悪いのだけど。貴女の荷物について、説明して貰えるかしら?」
そう、マルゼンスキーは問いかけた。
そして、その問いが意味する事を正確に理解した私は、一気に冷静になる。
同時に逃げられない状況である事も把握して、ただ半ば茫然としながら首を縦に振るしか無かった。
強いて言うならば『アナザーベガのやる気が下がった』なんて、そんなメッセージが脳裏を過ぎった気持ちだった。
それでは、ここで私の荷物を公開する。誰も得しないが、マルゼンスキーの迫力に圧されてしまってはしない訳にはいかなかった。とりあえず彼女への説明をしながら荷物をバラしていく。
前提として衣類用洗剤は共用の物があり、拘りが無ければ持ち込まなくて済む事。私は拘らないので共用の物を使うつもりなので、持ち込んでいない。同様の理由で入浴時に使うボディソープやシャンプー、リンスやトリートメントの類も持ち込んでいない。他スキンケア用品や、ドライヤー等も貸出品があるらしいので、やはりこちらも持ち込んでいない。
その他にも細かい物があるが、列挙すればキリが無いのでこの程度に留めて置く。
さて、先ずは一箱目。私服としてYシャツとスラックスが数着分、下着としてスポーツブラとショーツが同じく数セット。後は学園で使うジャージが数着と、今着ているのと別の替えとなる制服が一着。
敷板の段ボールを挟んで下には、梱包材を詰め動かない様固定したシューズが二足に蹄鉄がトレーニング用と普段使い用で幾つか。更に敷板を挟んで一番下のスペースに教科書の類を敷き詰めている。
次に二箱目。正直必需品の大半は既に一箱目に集約されている為、こちらは殆ど趣味の物ばかりだ。〇リタ社製のハンドミルに、同社のドリッパー。〇リオ社製のフレンチプレス、サイフォン。ドリップケトルにサーバー、ペーパー含む各種フィルター。そして〇ップロックに入れられた珈琲豆数種と、後で詰め替える為のキャニスターが幾つか。あと保存用の脱酸素材。
それらを梱包材で敷き詰めて固定し、敷板を置いて冬用のテーラードジャケットと手袋、幾つかの防寒具。今付けている物の替えになる髪留めリボン、それと他幾つかの小物を複数。
最後の三箱目は寝具一式。真空圧縮した各種セットと、寝間着が替えを含め二着。あとはバスタオル等が数枚。こちらは嵩張る為、これらで一杯となるので以上で終わり。
「以上です」
「……これだけ?」
これだけである。正直私物を引けば二箱で足りると考えているし、何故みんなして五箱六箱と多くなるのかよく分かっていない。なんて考えていた時期が私にもあった。
何を隠そう今朝のやり取りで、お洒落の重要性を知った今となっては浅慮であったと痛感している。ましてウマ娘は髪のみならず尻尾だってあるし、必然的に毛髪ケアだけでも拘りが出て来る物だ。
もちろん出自に依ってはそんな余裕も無い場合だってあるが、少なくとも私の場合は比較対象として姉が居る。確か姉は七箱は送っていたはずだ、その荷物の半分以下となると確かに心配もされよう。それこそ送り状を間違えたのではないかと、他者は思うだろう。
「……趣味の道具もこんなに揃ってて、冷遇なんて事も無いか。うーん、これはまいっちんぐだわ……」
とはいえ私の荷物で唯一の救いとして、私物が充実していた事だった。まして珈琲関連の道具なんてのはそれなりに良いお値段がするし、珈琲豆も拘り始めたら100gで数千円なんて良くある事だ。
漏れた言葉からして、やはり私の荷物の少なさに何かしら誤解をしていた様だ。とはいえ実情を見て警戒心が薄れて来ただろうか、言動や纏っている空気が少し和らいだ気がする。何なら困った様な笑みを浮かべ始めた。
無論これは少し前までの私の考えの浅さが招いた事だ、謝罪をするのが筋という物だろう。
「ごめんなさい。私は姉と違ってお洒落に疎くて、特に拘りも無いからと共用の物を使うつもりで用意してたんですけど……心配をおかけしました」
「気にしないで、勝手にアレコレと考えちゃったのは私達。……うん、こちらこそごめんなさい! 勝手に勘違いして変な態度も取っちゃったし、お詫びに色々聞いちゃうわ! なんでもござれ、ってね!」
こちらから切り出し、彼女の思う事が杞憂であると示す。結果として無事に誤解は解け、口調も聞き覚えのある物に戻って来た。
流石に第一印象は最悪に尽きると自覚しているらしく、普段よりは言葉を選び大人しい印象を受ける。とはいえ私達はあくまで初対面だ、そしてこういう時は遠慮しつつも受け取るのが丸く収めるには早い。
「非はこちらにもあるので、少し気が引けますが……お時間を頂けるなら、寮の案内や規則の確認をさせて貰いたいです」
「余裕のよっちゃんよ! 本格的なお詫びはまた今度、改めて用意させてもらうわね」
両手で親指を立てて了承の意思を示すマルゼンスキー。そして笑みをそのままに、悪戯っぽく人差し指を顔の傍に寄せて後半の言葉を紡ぐので、これは諦めて受け入れるとしよう。
元々する予定とはいえ時間を取る事に変わりないので提示してみたが、残念ながらこれでチャラにはさせて貰えない様だった。
「お手柔らかにお願いします。とりあえず先に開けた荷物だけ整えちゃいますね、どうせ少ないですし」
些細な事とはいえ、レジェンド級ウマ娘のお詫びなんて規模が予想できない、怖い。そう畏怖を込めてそんな事を言いながら、自分の荷物を整えていく。
とはいえ説明がてら開封して取り出した物を、棚や机にと置いてとしていたのでそれらを整理したりするだけで済む。布団もシーツやカバーを現在の物と取り換えたりするだけなので時間も取らない、結果として一時間も掛からなかった。
さて、早く終わった所でお昼にはまだ早い。というか私達はかなり早い時間に来たので、まだ午前十時だ。姉の荷物はある意味平均的な量がある為、その荷解きに十分な時間をと来ているので当然ではある。
かといってこのままでは手持無沙汰な上、珈琲も来る途中で堪能している。どうしたものかと少し考えて、しかし直ぐに姉の荷解きを手伝いに行こうと思い至る。
ちなみに出向いた先で何故かマルゼンスキーも後を付いて来ているのに気付き、姉が荷解き処ではなくなる事態に陥りかけた。どうにか無事に終わったからいいものの、やり場のない興奮や何やらで姉から理不尽に怒られた。再び脳内にて『アナザーベガのやる気が下がった』と表示されたような気がした。
何はともあれ、良い時間だと昼食にしようかと姉と私、マルゼンスキーの三人でカフェテラスへ向かう頃。行き交うウマ娘達の数が増え、同時に視線を多く感じた。
なんだろうと思って周囲を見れば、どうやら他の入寮生らしいウマ娘達がこちらを見ていた。より正確に言うならば、私達姉妹と共に歩くマルゼンスキーを見ていた。
「あらあら、流石に目立っちゃうわね」
「当然です、マルゼンさんはスターウマ娘なんですから。私だって驚いたんですよ?」
驚きすぎてたっぷり数秒硬直していたとも言う。ちなみにその後、せめて事前に連絡を入れて欲しいと怒られたのが事の経緯。私も付いてくるならば、先に言って欲しかった。
しかしトレセン学園に来たからか、単に制服姿の姉を見たからか、前世でのアドマイヤベガの姿や態度が無視出来ない程度に私の中に根差していた。
私の知る彼女なら、著名人と対面したからと言って取り乱しただろうか。当然苦言こそ零すだろうが、恐らく多少驚きはすれども目立って浮足立つような事は無かったと思う。
「あはは、メンゴメンゴ。半分勝手に付いて来ちゃったから、ザーガちゃん達には悪い事したわね」
本当に今後は勘弁してほしい、理不尽に怒られるのは如何に姉と言えども納得しかねるのだ。
マルゼンスキーの言葉にそんな事を思いつつ、湧いてきた元々知っているアドマイヤベガの偶像を必死に脳の奥底へと追いやる。私が居る以上、生半可な事では私の知るアドマイヤベガにはならない。そう理解している、理解している心算だとも。
「……先が思いやられるなぁ」
今後も同じ様な事態に遭遇する事はあるのだろう。それこそシンボリルドルフやミスターシービーなんて最たる例だろうし、彼女達と遭遇しないというのはあり得ない筈だ。少なくともシンボリルドルフならば、私達姉妹の存在を最低限チェックするだろうから。
そんな事を思って、つい言葉が漏れた。しかし幸いにも話の流れから、マルゼンスキーが勘違いをしてくれる。
「も~、本当に悪いと思ってるのよ? 大丈夫、次からは事前に連絡を入れるわよ!」
「それ、暗に今後も付いてくるみたいに聞こえるんですが?」
「ダメ?」
そんな不思議そうな顔をして首を傾げないで欲しい、心臓に悪い。顔の良い女性の可愛らしい仕草は私に刺さる。
「……デビュー前の小ウマ娘相手じゃ、あんまり面白くないんじゃ?」
「デビュー前だからこそ良いんじゃない! 私は貴女たちは走れると見てるし、教えられそうな事は教えてあげたくなるのが先輩の性って物よ?」
やんわりと距離を置こうと思ったら更に詰められた。頼れる先輩ムーブをし始めたマルゼンスキーに、姉も目を輝かせ始めた。たしかに有名な強いウマ娘が目の前で、自分達が走れると見た上で簡単な手ほどきをすると言うのだ。普通は舞い上がるだろう。
「そう言って頂けると、私達も嬉しいです! 都合が付くなら是非お願いします!」
案の定、姉はそう言って大袈裟に尻尾を揺らす。良くも悪くも走れると言ってくれるヒト達は周りには多くなかったので、実を言えば私もそれなりに嬉しくは思う。というか実際、私の尻尾もそれなりに揺れているのだ。
だがそれはそれ、個人的には妙なやっかみを受けるのが怖いなとか思ったりしている。女子校とか初めての経験だし、女性は嫉妬深いとか前世から引き継いだ知識もある。ウマ娘に何処まで通用する知識かは分からないが、用心しておくに越した事は無いのだ。
「嬉しい申し出ですけど、サプライズで助っ人とか呼ばないでくださいね? 先輩の場合はその助っ人が負けず劣らずの有名人になりそうですし、心臓が持ちませんよ?」
「あら残念、ルドルフやシービーちゃんに可愛い後輩が出来たって自慢しようと思ったのに」
案の定である。未デビューウマ娘にそんなレジェンド達の指導なんて重圧以外の何物でもないだろう、勘弁してほしい。少なくとも彼女らの強さに憧れを持つ姉は兎も角、今の私にとって彼女たちの存在は劇物でしかないのだ。
夢や目標が希薄な私には、特に。
ザーガ:食事の後にまたあちこち案内を受け、良い時間になったのでお風呂へ行った。マルゼンと入るのにちょっと罪悪感を覚えたが、直後にアヤベからシャンプーは毛の質に合わせないと違和感が出ると指摘される。後日買い出しに出る事が確定した上に浅慮さがここでも悪さをした事にやる気が下がった。現在絶不調。
アヤベ:ザーガが各種洗剤を何一つ持参していない事に呆れつつ、それを口実にお風呂の時間を合わせてもう暫くは一緒に入れると内心ウキウキしている。
「ザーガはしっかり者だけど、こういう所は私が居ないとダメなのよね」
マルゼン:案の定ザーガがシャンプー周りで姉に指摘されているのを見て苦笑して、しかしブラシやコーム等はキチンと揃っているのでお洒落に疎いというより色々抜けてるだけなのではと感じている。
この世界のマルゼンさんはアプリ時空とも微妙に違うローテで走ってますが、特に深い理由はありません。単につらつらレース名並べるとくどいなと思ったので省いてるのと、ザーガが所々すっとぼけてるだけです。前世の記憶があるといってもこの世界で既に十数年過ごしてますから。しかし有馬を体調不良で辞退しているのは事実で、史実マルゼンスキー号の屈腱炎辺りの因子が作用した結果かもしれませんね。
こんな具合に今後も史実やアプリの展開を参考にランダムで原作と噛み合わない行動を取る子は出して行こうと思ってます。まぁ現状ですと捕らぬ狸の皮算用並みの信用できない予定ですが。
またデビュー時期や学年をバカ正直に年代ごとに管理するとベガ姉妹がデビューする頃にはマルゼンが二十代後半突入しちゃったりするので大幅に弄ってます。あんまり大筋には影響しませんが、デビューの順番すっ飛ばしてない?とか出て来ると思うので先んじて。