あとちょっと構成的に発言や表現に今後支障が出る所があったので「入寮:前編」でのフジキセキの台詞と地の文(ザーガの思考)に修正かけてます。本当に微細な物なので見なくても良いです。
アナザーベガのヒミツ⑤:じつは、ヘア・テールカットが巧い。
アドマイヤベガのヒミツ⑤:じつは、『葦毛は走らない』等を始めとした『○○は走らない・大成しない』といった説が大嫌い。
結局、姉と先輩に引きずられてランジェリーショップへ入店する。
見渡せば所狭しと並べられた女性下着があり、中身に独身男性をインストールした私には酷な環境であった。
「何故こんな事に……」
自分の耳が萎びて倒れるのを感じながら、眼前で繰り広げられる姉と先輩が「あーでもない、こーでもない」と並べられた商品を手に取る様子を眺めて呟く。
私はといえば、今までの傾向からしてどうせ飾り気のない可愛くないのを選ぶからと後方待機。否定も出来なかったので一人寂しくお留守番、といった所だ。すぐ傍に居るけれども。
しかし手持無沙汰なのも考え物で、しかしウマホを出すのも気が引けた。大丈夫だと分かっていても、抵抗感を覚えてしまう。今後はこういった環境にも慣れなければいけないのかと思うと、少し憂鬱であった。
「そんな所で何してるんすか?」
ふいに声が掛けられ、片耳がそれに反応して立ち上がる。それに振り向けば、黒鹿毛のウマ娘が居た。
そして彼女は前世でこそ見覚えは無いが、去年のジャパンカップで日本初の勝利を挙げた事で私も知っている。
「えと、貴女は……カツラギエースさん?」
「応。ウマ娘達のエース、カツラギエースとはあたしの事さ! って、やっぱ流石に名前知られてるか。騒がれない分マシだけど、初対面で一方的に知られてるのも変な気分だなぁ」
「それは、確かに複雑かもしれませんね。私はアナザーベガといいます、ザーガとお呼びください。……それで最初の答えですが、先輩と姉の買い物を待っている最中ですね」
彼女もまた有名税に苦心する者らしく、一先ずは自分の名を明かして置く。そうして現状を簡潔に説明しつつ視線を姉たちに向ける。少し目を離した隙に店員を巻き込んで白熱し、どうやら試着するらしい幾つかのデザインがその手にあった。
やや先輩と店員の勢いに姉も引いてる気がしたが、しかしそれよりも楽しいという感情が勝っているらしく直ぐにその気配は消える。それを見て再び耳が萎びて倒れ、今度は尻尾も同じ様にぴたりと止まる。
「マルゼンが一緒なのか。そうか今朝に後輩と買い物行くって楽しそうに言ってたのは、この事だったんだな」
「ああ、ご存知でしたか。まぁそういう訳でして、私はついさっきこの服装が男物から女物にランクアップしたばかりのファッション壊滅勢なので……はい」
「ああ……そうか、ご愁傷様だな。いやさ、なんか下着売り場の端っこで気まずそうに立ってたから、大丈夫かなって思ったんだよ。その様子じゃ大丈夫とも言い難いが、問題がある訳でも無さそうで一安心だ」
うん、改めて説明すると凄く恥ずかしい。目の前のカツラギエースも苦笑気味の対応で、しかしあまり深入りしない優しさが余計に刺さる。今後は絶対に言わないようにしよう。
とりあえず話を逸らそう、そもそも何故彼女がここに居るのかも気になる。確か同期にミスターシービーや、スズカコバンにニホンピロウイナー。メジロモンスニーにダイナカールと挙げればキリがない名ウマ娘が居たはずだが、そんな彼女らと買い物にでも来ているのだろうか。
「そういえばカツラギエースさんは何故ここに? そちらも何方かとお出かけですか?」
「ああ、あたしはシービーの奴とな。マルゼンが後輩とこっちに買い物行くらしいって話したら、私も行くって言い出してな」
「……で、その肝心のシービーさんは何所へ?」
「うーん、それがここに着いて直ぐにフラフラ歩き始めたと思ったら、そのまま見失ってはぐれちまってな。それで探してたら、偶然ザーガの姿が見えたって事だな」
「噂に違わぬ自由人ですね……」
「んー、普段なら一緒に行動してるんだけどな。今日は何か気になる物でもあったのかねぇ」
予想はしていたが、とんでもないビッグネームに気が遠くなりながらも所在を伺うとそんな答え。やはり相当な自由人なのだなと思い感想を洩らせば、今度は思いがけない答えが飛んで来た。
「普段は一緒なんですか?」
「ん? ああ、シービーとどっか出かけたりする時はな。べつに暇な日は毎日って訳じゃないさ、偶然出先で会ったり今日みたいに共通の知り合い目当てに一緒に行く時って所さね」
思わぬ情報だった。確かミスターシービーのトレーナーですら、一緒に出かけると気付いたら何処かへ消えているとか以前テレビで見たインタビューでは言っていた。だが目の前のカツラギエースは、一緒に出掛けていてはぐれるのは珍しいみたいなモノ言いだった。
前世の嗜好が顔を覗かせ、もう少し踏み込んで話を聞きたい。そう思った所で、背後から気配が近づく。振り向けばそこにはマルゼンスキー先輩と姉の姿、そして姉の手には幾つかのデザインが違うブラ。
「あらエース、貴女も買い物?」
「いや、シービーと一緒にマルゼンが気にかけてる後輩たちを様子見にな。つっても、肝心のシービーがどっか行っちまったけど」
「あらあら、この子達は私が面倒をみるんだから横取りは嫌よ?」
どうやら気の知れた仲らしく、先輩達は軽く挨拶を交わす。姉はと言えば私の隣にいる相手がカツラギエースだと気付いた辺りで、手にしていたブラ達を身体の影に隠していた。同性な上に場所が場所だから隠す必要も無い気はするが、まぁ初対面相手に気にするなというのも無理な話か。今後の仕草の参考にしよう、こういう細やかな部分は見て学習するしかないし。
「そんな無粋な真似はしないって。でも何かあれば気軽に声をかけてくれよ? マルゼンの友人ならあたしの友人でもあるんだ、それこそ困った事があれば何でも言ってくれ」
「あ、ありがとうございます……」
社交辞令と分かっていても恐縮である。ただでさえ私生活の面倒を先輩が見てくれている状態で、更にジャパンカップで日本の英雄的活躍をした彼女にもそんな言葉を掛けられるのだから素直に緊張もする。
引きつった返答しか出来ないのは見逃して欲しい。
「にしても、お二人さんそっくりだな。姉妹か?」
「ええまぁ、こちらが姉のアドマイヤベガです。共々お願いします」
「よろしくお願いします、カツラギエースさん」
というか私ばかりサシで会話してて負担が大きい、この辺りで姉にパスを投げて置く。丁度カツラギエースが姉に興味を示した為、軽く紹介する。案の定緊張で顔が引きつり、しかし直ぐに表情を整えて確り挨拶をした。流石は我が姉だ。
「ああ、よろしくな。とりあえずあたしはシービーを探してくるよ、もしそっちで見かけたらウマホで連絡入れる様伝えてくれないか?」
「その程度お茶の子さいさい、余裕のよっちゃんよ。まぁどうしても連絡が取れなかったら、私達と学園に帰りましょう?」
「助かる、アイツが居ないと帰れないからな……。うん、それじゃ頼んだ、またな!」
そう言って颯爽と何処かへ行ってしまう。しかし何の事だろうとマルゼンスキーに視線を向ければ、彼女は苦笑して答えてくれた。
「エースは電車が苦手なのよ。一本で着くなら兎も角、複数路線があったりするともうダメダメでね」
「ああ、何となくわかりました」
その情報だけで察せてしまう。たぶん初手で別の路線に乗ったり、乗り換えを間違えたりを頻繁にやらかすのだろう。確かにそれは一人で電車に乗せられない、まして本人が苦手意識を持ってしまっていては一朝一夕で治る物でもない。
「まぁエースの事は兎も角、今は貴女たちの事よ。早く試着しちゃいましょう?」
「うん? 何で私の手を掴むんです?」
「当然貴女が着るからよザーガ、客観的に見た方が似合っているか分かりやすいからね」
「はぇ?」
「見た目が殆ど同じって、こういう時にイイかもね? その上片方がファッションに無頓着だから、少なくとも今は好みもハッキリしてないし好きに選べちゃうもの」
そう言われて、試着室にグイグイと押し込まれる。何故か姉さんの持っていた試着用の下着を先輩が預かり、私と共に試着室へと納まる。
少なくともここまでされれば、私は体のいい着せ替え人形として使われるのは分かった。絶不調通り越して直ぐに帰りたい気持ちで一杯だが、しかし先輩が一緒に居るのは理解できなかった。
「私が着せ替え人形にされるのは分かったんですが、何故先輩も一緒なんですか?」
「何でって、貴女一人で着けられるの? スポーツブラと違って丁寧に着けてあげないと、紐とか捻じれたら変に食い込んで痛いわよ?」
そういう物なのだろうか。そうかな、そうかも。確かに言われてみれば、留め具とか接合部なんかは着け方をミスれば痛そうだ。普段余計な刺激が無い部位の肌はそういった長時間の食い込みで容易に傷が付く、そして大抵暫く痛む。
「わかりました、そういう事ならお願いします」
私としても痛いのは嫌だ、中身が大人でも関係ない。一瞬の痛みなら耐えられるが、長期間に亘る痛みは老若男女平等に避けられるなら避けたい物の筈だ。
身近な例で言えば、予防接種や虫歯治療みたいな物である。その場での痛みを乗り越えれば、後に受けるか続くであろう苦痛を回避又は緩和出来るのだから。今回も一時の羞恥と引き換えに、今後受けるかもしれない羞恥と着用法の誤りからくる負傷の回避を取るだけなのだ。そう自分に言い聞かせる。
「素直でよろしい。先ずは服を脱いで、裸になってちょうだい?」
兎に角、ここは大人しく彼女の指示に従うとしよう。そう思い、シャツとその下の透け防止に買わされたキャミソールを脱ぐ。そのままスポブラを外して、試着室内に用意されているハンガーにそれぞれ掛けていく。
ふと思ったが、ここは同性相手でも隠したり恥じるべきなのだろうか。ちらりと覗き見れば、先輩は変わらずニコニコと笑みを浮かべてこちらを見ている。少々気恥ずかしいし、ついでに気まずい。どうせこの後に指摘されるついでに触られるのは、初めてスポブラを着けた時に母からされているので分かっている。だから今の所特に気にもせず脱いで仁王立ち、とまでは行かないが普通にしている心算だ。これが正解なのか、どっちなのだろうと心配にはなる。
「えっと、上は脱ぎはしましたけど。もしかして下もですか?」
「モチのロンよ、上下セットで着ないと似合ってるかとか確認しにくいでしょう?」
「思ったんですけど、別に誰かに見せるわけでもないのに似合ってるのは意味あるんですか?」
前世男性からすると少し理解が及ばない部分、どうせファッションに疎いキャラが既に定着してしまったので今更だと聞いてみる。
案の定困った様に、呆れた様に眉を下げて笑って彼女は言う。
「別に誰かに見せる事はしないけど、それはそれとして自分が好きなデザインを身に付けてると気分が上がる物よ。下着に限らず自分の好きな色、デザインの小物を持ち歩く事ぐらい経験はあるんじゃない? それでどうせ身に着けるなら、自分に似合ってる方がずっとテンションもアゲアゲになるってな訳なの!」
「ああ……なるほど、それは確かに納得出来ますね。お気に入りの色やデザインで気分を上げる、少し覚えがあります」
身近な物で言えば普段使いの食器、ウマホや文具だろうか。基本的に性能で選ぶが、それでも人によってはデザイン性やカラーリングで好みは出て来る。むしろそうでも無ければ全て単一色、同一形状で済んでしまうし。
みんな違ってみんな良いとはよく言った物だが、好きな物や色を始めとした個性があるからこそ何かしらの主張や意欲は湧く。
それこそ例え拘りが無くても、目に付いた中で他よりは良いと選ぶ。わざわざ嫌だと少しでも感じる物を選ぶのは少数だろう。
思考がだいぶ脱線したが、要は自己の認識から来るやる気の向上に近い気はする。誰だって好きな物はある、それが色であってもだ。
言ってしまえば今朝の朝食が自分の好物だった、今日の夕飯は豪華なステーキだみたいな物だ。いやかなり違うが、考えの方向性は概ね同じだと思う。
他者には一切関係無いが、本人としては気分が上がる要因足り得るという事だろう。些細な好きな物、好きな事の積み重ねがその日の精神的コンディションに影響を与えるのだ。個人的な解釈だけれど。
「でしょう? まあ勿論トレセン学園は要は女子校だし、そういうのを気にしておくと良いっていうのはあるけど」
「あ、やっぱりそういう所もあるんですね」
結局はそういう側面もあるらしい、とはいえ先ほどカツラギエースとのやり取りで幾らか身に染みているので重要性は理解している。
どうせ重要ならば、ちゃんと自分の好きな物を選んだ方がただ着せられるよりずっと良いかもしれない。
「……この後、時間まだ余裕ありますか? 私もちょっと選んでみたいな、なんて」
「勿論、自分からそう言ってくれてむしろ嬉しいぐらい! ケツカッチンにはまだ早いから安心して頼ってね!」
つい出てしまった提案だったが、帰って来た返事は快諾だった。それに安堵して、とりあえず今は姉の選んだ下着を試着していく。冷静に考えればこのやり取りの間、私はずっと半裸だったのだ。言い出すタイミングも今後は考えねばと少し反省。先輩もどうせなら指摘してくれても良かったのに。
兎に角、今は姉の選んだ物を着て見せよう。そして次は私が選んで着せてやるのだ。先輩達と違って姉の裸体は実質私の裸体、アナザーベガの裸体はアドマイヤベガの裸体も同然なのだ。もはや自分の身体として認識して長いこの身体の裸と、先輩達の裸ではだいぶ抱く感情は違う。
勿論初めの頃は、自分の身体を見ずに入浴するのを試みた。何を隠そう私の前世の推しはアドマイヤベガ、推しの裸体に等しい自分の身体をみるのもギルティである。
しかしそれは直ぐに諦める事になった。単純に無理だ、なんなら雑に身体を洗うなと叱られたし、似た理屈でいけばトイレもろくに行けない事にも繋がる。結果、今となっては罪悪感も抵抗感も何も感じない。いやそれはそれでどうなのかと思うが、なってしまった物は仕方がない。諦めて受け入れ、活用して行くしか無いのだ。
そして開き直った以上、姉の身体も少しは活用させてもらおう。客観的に見るのは大事らしいからね。
そういえばカツラギエース先輩はミスターシービーと無事に合流できたのだろうか。後で先輩に聞いて確認してみようと思う。
ザーガ:前世の時もなんか裏側にキャラ絵の入ったネクタイとかあったもんな、別に見せたり共有しなくても自己満足で気分は上がるしそういうもんだろうって認識。それはそれとして意気込んだは良いが、普通に姉さんが選んだ奴色もデザインも好みなんだよな……。
アヤベ:なんか試着室で小難しい話をしてる気がするけど、変に声をかけるのもなぁ……。今回はやや空気。
マルゼン:いつ半裸で話し込んでるのに気付くかしら……。
エース:シービーの奴どこ行っちゃったんだ……? LANEにも既読つかないし……。
シービー:マルゼンの後輩見に来たけどお腹空いちゃった。あ、美味しそうな匂いがする。……うん、ここで食べよう。すみませ~ん。
うんうん、匂いに違わぬ美味しさ。当たりだね。そういえばウマホ忘れちゃった、部屋に財布と一緒に置いてた気がしたなぁ。……都合よくエースが通りかからないかなぁ。