_____竜戦から四十二年が過ぎた東京
__________第一TSCアカデミー旧研究棟3-C号室
_______________12時15分 昼休み
部室棟として利用されている旧校舎に今日も放送が入る。
もっぱら呼び出しにしか使われないそれがジィコジィコと雑音混じりに鳴り響いた。
『今から名前を呼ぶ訓練生は至急校長室まで来るように。
研究室の床に直に布団を引き惰眠を貪っていた布饅頭がもぞりとねじれ、また沈静する。
『____
なお情報提供に褒賞はないが、訓体(*体術訓練)の教科担任である黒磐上等からは“三人のうち一人でも捕縛の上で校長室まで連れてきた者がいれば中間試験の一〇本組み手を免除する”とのお達しだ。
以上』
ブツリと旧式のスピーカーが落ちる音が響き、放送が終わった。
「報酬で釣った人海戦術とは汚ないぞ宇井コーチョー!」
「
「ウィ!万全だよ」
「もう11人こっち来てるし!みんな暇か!」
寝起きながら溌剌とした少女の声がリノリウムの床に反響する中で、蹴り飛ばされた掛け布団が宙を舞う。寝ぼけ眼の青年はタブレットから充電コードを引き抜いて薄手のポーチに素早く仕舞い込む。志選と呼ばれた見目麗しい少年が白衣のポケットに薄型の記録端子を詰めるのを確認するが早いか、ふんわりと床に落ちた布団が萎むよりも早く三人は部屋を飛び出した。
驚くほど身軽に棟内を駆け抜け、階段の吹き抜けに飛び込む。左右の手すりを交互に蹴って勢いを殺し、ガラス張りの昇降口から外を見れば11人からさらに増えた訓練生が詰めかけていた。
「回り込めー!」
「退路を塞ぐんだ!」
「中間実技回避‼︎」
「神妙にお縄につけ!」
「縄は古過ぎんだろ」
「なぁ31条って何だっけ?」
「バッカ、お前中間の対策法捨ててんのかよ。この前ニュースになってただろ、旧24区地下及び竜の卵管への侵入にはTSC上等保安官の同行が義務付けられんの。竜遺児の進化が著しくなってるから」
「だいぶヒトに近い見た目になってきたもんなぁ…流石に見間違うほどじゃないにしろ」
「つーかあの三人何したの。竜管に不法侵入?」
「それだけで校長があんだけブチ切れるかな?」
「いや、十分すぎるほどの問題行動だからなそれだけでも」
「あ、逃げた」
「フェンス越えやがった!」
当の三人といえばハチドリの如き勢いでフェンスをよじ登り逃走の真っ最中である。しかし、
「あっ」
軽快に重力に逆らった体躯が旧校を取り巻くフェンスを乗り越えて着地した瞬間、軽い爆発が足元で起こる。
「ぎゃ」
先陣切って逃げていた少女の着地点に埋められていたのは、彼らが改良した赫子の探知に引っかからないRc抑制噴霧式地雷であった。勢いよく踏み抜いた少女とそれに続いていた二人はもうもうと立ち込める薬剤の霧に包まれ脱力した。が、速度こそ人並みに落ちたがさらに走って逃走を図る。
「今ならいけるんじゃね」
「外行け外!」
「囲め囲め!」
「あっ校長」
一瞬沸き立った聴衆が鎮静化し始める。
雑木林に隠れていた校長_____
「調査結果を全て自白から一〇〇本組み手か、一〇〇本組み手をしてから白状させられるの、どっちがいい?」
なおこの校長、元CCG特等捜査官なだけあってやると言ったらその日のうちに一〇〇本取るまで終われませんを始めるので何も冗談では済まない。そして三人に手加減をする者もいない。いつも首席のあん畜生どもに合法的に組み合って運が良ければ勝ち星をもぎ取れるかもしれないラッキーチャンスなので。
「おすすめは合同稽古での一〇〇本だが」
「今すぐゲロりますので睡眠不足の今はご勘弁下さいませんでしょうか宇井コーチョー殿」
速やかにホールドアップ、からの全力で頭を下げながらタブレットとデータチップを差し出したものの、反省文一〇枚を申しつけられた。「うわぁ」と不満のため息を漏らした少女に巻き込まれて二〇枚増えた反省文用の紙を貰いに校長室まで出向き、びっしり埋めて提出したそれらが全て報告書だったため翌朝再び校長室まで呼び出されるのだった。
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人物紹介
名前:
家族:祖父が伊丙系半人間(故人)、祖母が人間、父親不明の天然半喰種
所属:第一TSCアカデミー3年一等訓練生
赫子:羽赫
赫眼:右目
名前:
家族:純喰種の孤児だが先天性赫包欠損であり三歳の時に伊鶴の赫包を移植されている
所属:第一TSCアカデミー3年一等訓練生
赫子:羽赫
赫眼:両目
名前:
家族:祖父が月山習、祖母はちえ、母は一花(旧姓金木)の天然の半喰種同士のハーフ
所属:第一TSCアカデミー2年二等訓練生
赫子:羽赫、甲赫
赫眼:左目