作戦開始から1時間18分経過。
作戦地点付近を徘徊する竜遺児を討伐し調査を開始できたのが30分ほど前で、全ての計器は正確に竜の胎動を感知している。
負傷者も無く順調に進んでいるかに思えた。竜の肉床に半分以上身を沈めていた元SSレート半赫者【オウル】と思われる遺体の細胞を採取し、侵入に成功した閉塞卵管の調査を行うべく機器の調整を始めた時にそれは起こった。
「なぁ、今揺れなかったか?」
「え?」
哨戒班の一つを率いている阿藤準特等が眉尻を跳ねさせた。保安官はそれぞれクインケを握り、調査員は計器を注意深く観察し、と警戒するも計器に異常はない。
「阿藤準特等、揺れは続いていますか?」
「…いや」
気のせいか、と阿藤が首を捻ったのを見て調査隊が探索を再開しようとした瞬間、天井が、床が、壁が、肉塊が蠢き始めた。口内の食べ物を咀嚼するような、腸の蠕動にも似た生々しい動きに足を取られながらも調査隊は指揮官と上官達の指示で動いた。
「退避しろ、‼︎」
「赫子とクインケで空間を確保しろ!」
「訓練通り四人ずつで抜けるんだ!」
狭い卵管の出入り口を抜けて竜管に逃れようとする。耐久力のない調査員を真っ先に放り出し、続けてまだ経験の浅い保安官を追い出し、中堅を逃した時には揺れは何かに掴まらなければ立つこともままならないほど激しくなっていた。
最奥で準特等達と花畑までの掘削計画について話し込んでいて逃げ遅れ、肉床に赫子を刺して体を支える三人を阿藤が叱咤する。
「ガキども、動けるならさっさと抜けろ!」
伊鶴が弁解の声を上げる。
「無理!です!壁にぶつからないのが精一杯!」
「くそ、いきなり何だってんだ。
ここまで揺れるのは初めてだ!」
「竜が活性化したんですかね⁈」
「知るか!」
揺れ方は地震体験車の最高震度に加えて床そのものが激しく縦揺れしていると考えたものが近い。いくら人間よりは身体能力に優れる喰種と言えど、甲赫の赫子を床に深く突き立てている志選はともかく、膂力のない羽赫の二人は思うように立つこともままならない。壁に片手と片膝をついただけで体を支えている阿藤が馬鹿みたいな体幹をしていることだけがよく分かった。
もう無理、と揺れすぎて膝の感覚が失われてきた伊鶴がしゃがみ込みを諦めて完全に床に伏せる。
が早いか、赫子を出して叫んだ。
「阿藤準特等!」
「起きろ!何だ香戸一等訓練生!」
訓練服の布を押し上げて展開された赫子は体を支えるためのものではない。感度を最大にして床___否、地下の竜体から発せられる異様な波長を感知していた。
「崩壊期に似た波長、一致指数は0.7以上!
足元から来ます!」
「戦闘用意ッ‼︎」
卵管に取り残された五人が各々の武器を構えた瞬間、足元が
ぼしゃり、と
融解した。
「あ」
伏せていた伊鶴が真っ先に液状化した床に飲み込まれ、床へ甲赫を突き立てていた志選も続けて沈む。
躊躇なく二人の隊服のフードを掴んだ芹杜も引き摺り込まれる。
「訓練生‼︎」
芹杜は壁にクインケを突き立てて宙吊りになりながらもう一人の保安官を壁に押し付けて支え、三人にまで手を伸ばそうとする阿藤を見た。
「生きて戻ります」
口をついた言葉が終わるよりも早く頭まで沈む。手元に感じる二人の重みだけをしっかりと握りしめ、殴りつけるようなRc細胞の濁流の中で芹杜は意識を失った。
そろそろ再開したい