自室の明かりを消してベッドに寝そべり、じんわり渦を巻き出す天井を見つめた。昼に喰種の互助会で聞いたことを反芻する。
『旧24区に住んでいたある一族には定期的に⬛︎を食べる習慣があった。君の産みの両親はその一族の出身だった』
『君は⬛︎⬛︎と同じで⬛︎の力が凝縮された生来の⬛︎⬛︎なのかもしれない』
___だとしたら、俺の中にある⬛︎⬛︎は何だって言うんだ。
泥に伏すように寝返りを打ち、そのまま眠気に呑まれる。
「___リ、セリ‼︎
起きて」
鈍化していた感覚が一気に呼び覚まされ、芹杜は目を覚ました。うつ伏せていた体を両腕で起こし、すぐ横で顔を覗き込んでいた伊鶴を確認する。
「無事か」
「こっちの台詞よ。
まぁ、私らも起きたのはついさっきだけど」
隊服は床が溶解した赭色の液体で生臭く濡れていたが、思ったよりも染み込んでいない。周囲に溜まってもいないところを見るに、揮発したか再び肉に戻ったと考えられる。
「卵管の下、か?」
阿藤達の残る調査区域があるはずの天井を仰ぎ、赫子をパラボラアンテナのように展開しようとする芹杜に伊鶴が首を振った。
「上は何にもなかった。
少なくとも数十メートルは肉壁とコンクリート、土が積み重なってる」
「ただ落ちただけではない、ということだね。しかしカルマート‼︎
まずは全員が無事だったことを喜ぶとしよう」
「そーね」
場違いに明るいウィンクを繰り出す志選を適当にあしらった伊鶴がため息を吐く。べたべたと髪に絡まるRc溶液が不快以外の何物でもない。
「とにかく早く出よう。
長引けばここの壁を食べることになる」
抜群の感知能力を誇る伊鶴の赫子だが、やはり羽赫らしくバテるのが早いという欠点を持つ。ここが何処か分からない以上、探索を早く済ませなければならない。
食道楽らしく舌の肥えている志選は勿論、料理が趣味の芹杜も塩っぱい顔になった。
「コウモリ[1/3]も使いつつ行こう」
「賛成」
三人が歩き出してから一時間が過ぎ、最初に立ち止まったのは芹杜だった。既に二度とほど伊鶴と交代で赫子を使っており、三度目だったため疲労による勘違いだと思っていたが…
「おかしい。
40分ほど前に通ったのと完全に同じ肉壁だ」
「え、本当?」
ミミズを干したような色と濃淡しかない壁は見ただけでは何処も同じようなものだ。志選にはさっぱり違いが分からなかったが、伊鶴は「本当だ」と呟いてから展開した赫子を天井へ向けた。
「でも、この上の空間は前はなかったよ。かなり広い、最低でもビル三つ、もっと広いかも」
「イヅル、天井の肉の厚みは?」
「約3m。硬さは休眠中の壁くらい。上にコンクリあるからどっかのビル跡かも」
「ふむ…僕の甲赫に羽赫のブーストも使えば十分突破できるだろう。
ちょっと下がっていてくれ」
ぽつりと伊鶴が「ジェットドリル…」と呟いて芹杜の腹筋を試しにかかり頭をしばかれたこと以外は特に問題もなく、天井の肉に穴が空いた。うぞうぞと修復しにかかろうとする細胞を避けて跳躍し、素早くくぐり抜ける。
芹杜が伊鶴を引っ張り上げるのを待って、先に上がっていた志選は周囲を見渡した。
「僕らの地下室以外に、竜管にコンクリート舗装された場所なんてあったかな?」
壁と床は一面コンクリートで舗装され、下水道のような様相でどこまでも黒々とした闇へ続いていた。